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金融経済月報(基本的見解1)(2001年 9月)2

  1. 本「基本的見解」は、9月18日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、9月18日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2001年 9月20日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0109.pdf 687KB)から入手できます。


 わが国の景気をみると、輸出の落ち込みを起点とした生産の大幅減少の影響が雇用・所得面にも拡がり始めるなど、調整は厳しさを増している。

 最終需要面をみると、純輸出(実質輸出−実質輸入)は海外経済の減速、とりわけ情報関連財の需要低迷を背景に、減少が続いている。輸出環境の悪化が続く中で、設備投資の減少も明確化してきている。住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。この間、個人消費は、一部に弱めの指標もみられるが、総じてみれば横這いで推移している。

 こうした最終需要の動向に加え、電子部品や素材で在庫過剰感が強いこともあって、鉱工業生産は大幅な減少が続いている。企業の収益や業況感も製造業を中心に悪化している。こうした影響から、家計の所得形成も徐々に弱まりつつある。

 今後の経済情勢についてみると、公共投資は先行き、減少傾向を辿ると予想される。また、純輸出は、海外景気の減速や世界同時的な情報関連財の在庫調整が続く中で、当面、減少を続ける可能性が高い。設備投資についても、先行指標の動きや情報通信分野で投資計画の下方修正が相次いでいることからみて、減少傾向を辿るとみられる。個人消費も雇用・所得環境の悪化が続く中で、次第に弱まっていく可能性が高い。こうした最終需要の動きに加え、電子部品や素材における在庫調整の動きが当面継続することから、鉱工業生産は減少傾向が続くと見込まれる。

 情報関連財については、最終需要が世界的に低迷する中で在庫調整が遅れ気味であるものの、来春辺りまでには一巡するとの見方が多く、この分野での生産減少にはいずれ歯止めが掛かると思われる。しかし、世界経済の同時減速傾向が続くもとで、米国をはじめとする海外景気の回復見通しには、不透明感が一段と強まっている。また、国内においては、企業収益から雇用・賃金に向かう所得形成メカニズムがマイナス方向に働き始めている中で、政府支出も減少基調を続けると見込まれている。これらを踏まえると、生産活動が全体として下げ止まるまでには、ある程度の時間を要すると考えられる。

 以上を総合すると、わが国の景気は、輸出の減少を起点とする景気の調整が徐々に内需面に拡がり、それが調整を長期化させていく可能性が高まっている。また、景気の脆弱な地合いが続く中で、内外資本市場の動きが企業や家計の心理面などを通じて実体経済に悪影響を及ぼすリスクが一段と強まっている点にも、留意が必要である。

 物価面をみると、輸入物価は、国際商品市況の軟化などを反映して下落している。国内卸売物価は、電気機器や素材等の下落が続くもとで、既往の原油高や為替円安の影響が薄まっていることから、下落幅がやや拡大している。消費者物価は、輸入製品やその競合品の価格低下を主因に、弱含んでいる。企業向けサービス価格は、下落が続いている。

 物価を巡る環境をみると、景気の調整が続くもとで、国内需給バランス面から、物価に対する低下圧力が働きやすい状況にある。このほか、技術進歩を背景とする機械類の趨勢的な下落に加え、規制緩和や流通合理化に伴う財・サービスの価格低下が引き続き下落方向に作用するとみられる。これらを総じてみれば、当面、物価は緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。また、今後の景気動向には不透明な要素が多いだけに、需要の弱さに起因する物価低下圧力がさらに強まる可能性にも留意が必要である。

 金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利は、8月14日の金融政策決定会合で金融市場調節方針が変更され、日本銀行当座預金残高が6兆円程度に増額されたこと等を受けて一段と低下し、ゼロ近辺で推移している。

 ターム物金利は、日本銀行による金融緩和の実施等を受けて一段と低下している。ジャパン・プレミアムは、ほぼ解消された状態が続いている。

 長期国債流通利回りは、最近では1.3%台半ばで推移している。国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、概ね横這い圏内で推移している。

 株価は、米国株価の下落などを受けて大幅に下落している。

 円の対米ドル相場は、最近では116〜118円台で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、融資先の信用力を慎重に見きわめつつ、優良企業向けを中心に貸出を増加させようとする姿勢を続けているが、中小企業からみた金融機関の貸出態度は幾分慎重化している。一方、社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境は、金利の低下や投資家の信用リスク・テイク姿勢の強まりを背景に、良好な地合いが続いている。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が減少していることなどから、民間の資金需要はこのところ減少傾向を強めている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比マイナス幅が幾分拡大している。社債の発行残高は、前年比2%程度の伸びとなっている。一方、CPの発行残高は、良好な発行環境を反映して、前年を大幅に上回る高水準で推移している。

 8月のマネーサプライ(M2+CD)は、郵便貯金等からの資金シフトの動きを主因に、前月に比べて幾分伸びを高めた。

 企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。

 以上のように、最近のわが国の金融環境は、金融市場における緩和感の強まり、短期金利の一段の低下、マネー指標の伸長、市場を通じた企業の資金調達環境の改善などの点で、金融緩和の効果が浸透している。しかし、企業業績の悪化や金融機関の貸出態度の慎重化などを背景に、中小企業では、資金繰りの厳しさが強まる傾向も窺われており、今後の金融機関行動や企業金融の動向を注視していく必要がある。

 また、米国における同時多発テロ事件の発生が、内外の金融資本市場やひいては実体経済活動にどのような影響を与えるのかについても、十分注意して見守っていく必要がある。

以上