このページの本文へ移動

金融経済月報(基本的見解1)(2002年 4月)2

  1. 本「基本的見解」は、4月10日、11日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、4月10日、11日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2002年 4月12日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0204.pdf 799KB)から入手できます。


 わが国の景気は、全体としてなお悪化を続けているが、そのテンポは幾分和らいできている。

 最終需要面をみると、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、海外景気の回復の動きがはっきりとする中で、増加に転じつつある。その一方、設備投資の減少が続いているほか、個人消費も引き続き弱めの動きとなっている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。

 このように最終需要は全体としてなお弱いが、生産への影響が大きい輸出については、このところ増加に転じつつある。また、在庫面では、多くの業種で調整がさらに進んでいる。これらを反映して、鉱工業生産は下げ止まりつつあり、企業の業況感も製造業を中心に悪化に歯止めが掛かりつつある。もっとも、雇用面をみると、依然として雇用過剰感が強いもとで、企業は人件費の削減姿勢を堅持している。このため、雇用者数の減少が続き、賃金の低下幅が拡大傾向にあるなど、家計の雇用・所得環境は引き続き悪化している。

 今後の経済情勢についてみると、まず輸出環境の面では、世界同時的な情報関連財の在庫調整は、ネットワーク機器などの一部を除き一巡しており、海外景気も、米国・東アジアを中心に回復過程を辿る可能性が高い。また、為替相場も昨年秋頃に比べて円安の水準にある。こうしたもとで、輸出は、当面、緩やかに回復していくと予想される。

 一方、国内需要の面では、設備投資は、先行指標や企業の投資計画などからみて、当面、減少傾向を辿るとみられる。個人消費も、雇用・所得環境の悪化等から、弱めの動きが続く可能性が高い。政府支出も、基調的には減少傾向を続けることが見込まれる。このように輸出の回復と内需の弱さが入り混じる中で、鉱工業生産は、当面、横這い圏内の動きが続くとみられる。さらにその先を展望すれば、輸出の順調な回復が続いていく限り、いずれ生産の増加や製造業を中心とする企業収益の持ち直しを通じて、景気が全体として下げ止まりに向かうと考えられる。

 以上を総合すると、今後わが国の経済は、輸出環境の改善を背景に生産が下げ止まりから回復に転じるにつれて、景気全体の悪化にも次第に歯止めが掛かっていくと予想される。ただ、輸出の回復は、当面緩やかなものにとどまるとみられるうえ、海外経済の回復テンポにも、なお不確実な要素が少なくない。加えて、内需の弱さが暫く続くことを踏まえると、景気全体が明確に下げ止まるまでには、かなりの時間を要する可能性が高い。このように景気が脆弱な地合いを続けるもとでは、内外の金融・資本市場が不安定な動きを示すような場合、実体経済にその悪影響が及びやすいという点には、引き続き留意が必要である。

 物価面をみると、輸入物価は、国際商品市況の上昇や昨年末頃からの円安を受けて、上昇している。国内卸売物価は、こうした輸入物価の上昇や在庫調整の進捗を背景に、下落幅が縮小している。消費者物価は、輸入製品やその競合品の価格低下が続く中で、昨年後半の原油安の影響も残っており、引き続き下落している。企業向けサービス価格は、下落が続いている。

 物価を取り巻く環境をみると、昨年末頃からの円安や、原油をはじめとする国際商品市況の上昇は、当面、物価の下支え要因として働くと考えられる。もっとも、国内需要の弱さが当面続くとみられるため、需給バランスの面からは、物価に対する低下圧力が掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も物価を押し下げる方向に作用するとみられる。加えて、賃金の低下幅が拡大傾向にあることも、その影響を受けやすいサービス価格を中心に、価格低下要因として働く可能性がある。これらを総じてみれば、当面、物価は緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。また、今後の景気動向には不透明な要素が多いだけに、需要の弱さに起因する物価低下圧力がさらに強まる可能性には引き続き留意が必要である。

 金融面をみると、短期金融市場では、日本銀行が資金需要の増大に応じ、年度末に向けて一段と潤沢な資金供給を行なった結果、3月末の日本銀行当座預金残高は27.6兆円となった。

 こうしたもとで、オーバーナイト物金利は、年度末越え取引を含め、ゼロ%近辺での落ち着いた動きとなっている。また、ターム物金利は、年度末越え資金に対する調達圧力が減退した3月下旬以降、低下している。

 長期国債流通利回りは、最近では概ね1.4%前後で推移している。この間、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、昨年秋以来の拡大傾向に歯止めが掛かっている。もっとも、低格付債については、依然としてスプレッドが大きい状態が続いている。

 株価は、総じてみれば横這い圏内で推移している。

 円の対米ドル相場は、最近では概ね130~132円台での推移となっている。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては貸出姿勢を慎重化させる傾向を強めている。企業からみた金融機関の貸出態度も厳しさを増している。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境は、高格付け企業では、概ね良好な地合いにあるが、低格付け企業の発行環境は総じて厳しい状況が続いている。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が減少していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%程度の減少が続いている。一方、社債の発行残高は、前年比2%台の伸びとなっている。CPの発行残高は、前年を大幅に上回っているものの、前年比伸び率は鈍化を続けている。

 3月のマネタリーベースは、年度末を控えた資金需要の高まりを背景に伸びをさらに高め、前年比3割を超える大幅増加となった。マネーサプライ(M2+CD)前年比は、3%台後半の伸びとなっている。

 企業の資金調達コストは、一部の市場調達金利が幾分上昇しているが、総じてみれば、きわめて低い水準で推移している。

 以上のように、最近のわが国の金融環境は、金融市場の状況を総じてみれば、きわめて緩和的な状況が続いている。しかし、投資家の信用リスク・テイク姿勢は依然として厳しいほか、民間銀行の貸出態度も引き続き慎重化しており、信用力の低い企業、とりわけ中小企業では資金調達環境が徐々に厳しさを増している。このため、金融機関行動や企業金融の動向には、引き続き十分注意していく必要がある。

以上