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金融経済月報(基本的見解1)(2002年 9月)2

  1. 本「基本的見解」は、9月17日、18日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、9月17日、18日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2002年 9月19日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0209.pdf 763KB)から入手できます。


 わが国の経済情勢をみると、国内需要が依然弱く、世界経済を巡る不透明感は強いものの、輸出や生産は増加を続けており、全体としてほぼ下げ止まっている。

 最終需要面をみると、設備投資の減少テンポは緩やかになってきているが、個人消費は弱めの動きを続けている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。一方、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、海外における景気の回復を背景に、増加を続けている。

 こうした輸出の増加や在庫調整の一巡を反映して、鉱工業生産は引き続き増加している。そうしたもとで、企業収益が回復に転じているほか、雇用面でも、所定外労働時間やパートを中心とした新規求人など、限界的な部分での改善の動きが続いている。ただし、企業の人件費削減姿勢が根強い中で、夏季賞与が大幅に落ち込むなど、雇用者所得は明確な減少を続けており、家計の雇用・所得環境は、全体として引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢についてみると、輸出は、海外における在庫復元が一服しつつあることなどから、増勢がいったん鈍化するとみられるが、海外景気の緩やかな回復を背景に増加基調自体は続くと考えられる。そのもとで、鉱工業生産も、増勢が鈍化する局面を伴いつつ、基調的には緩やかな増加傾向を辿ると考えられる。

 一方、国内需要については、公共投資が減少を続けると見込まれるほか、個人消費も、厳しい雇用・所得環境のもとで、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。設備投資は、先行指標の動きなどからみて下げ止まりに向かうとみられるが、後述のとおり世界経済を巡る不透明感が強いことなどから、直ちにはっきりした回復に転じる可能性は低いと考えられる。ただ、輸出や生産の増加基調が維持されていけば、企業収益の回復傾向も持続し、その好影響が国内民間需要へも次第に及んでいくと期待される。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、海外景気の緩やかな回復が持続する中で、下げ止まりが次第に明確になっていくものと考えられる。ただし、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強い中で、輸出や生産の増加テンポがいったんは鈍化すると見込まれることなどを念頭に置くと、景気回復への動きがはっきりとしてくるまでには時間がかかると考えられる。また、米国をはじめとする世界の株価動向、情報関連需要の先行き、さらには国際政治情勢や原油価格の動きなど、輸出環境には強い不透明感が存在している。そうしたもとで、国内株価も軟調に推移しており、その影響が金融システムや実体経済に及ぶリスクについても、注意が必要である。

 物価面をみると、輸入物価は、春から夏にかけてのドル安・円高の影響等から下落しているが、原油をはじめ国際商品市況には上昇の動きが現われている。国内卸売物価は、これまでの輸入物価の下落を反映して、弱含みの動きとなっている。また、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にあり、企業向けサービス価格も下落が続いている。

 物価を取り巻く環境をみると、需給バランスの面では、在庫調整の一巡や稼働率の上昇がある程度下支え要因として働くものの、国内需要の弱さが当面続く中で、物価に対する低下圧力はなお掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も引き続き物価を押し下げる方向に作用するとみられる。こうした中で、国内卸売物価は、当面は弱含みの動きを続ける公算が大きい。消費者物価については、消費財輸入の増勢鈍化が、価格低下圧力をなにがしか緩和する要因として働くとみられる反面、賃金の低下幅の拡大傾向は、サービス価格を中心に価格低下を促す可能性もあり、当面、現状程度の緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。

 金融面をみると、短期金融市場では、日本銀行が潤沢な資金供給を続けるもとで、日本銀行当座預金残高は引き続き15兆円程度で推移している。

 こうしたもとで、市場では資金余剰感が一段と強まっており、オーバーナイト物金利が引き続きゼロ%近辺で推移しているほか、ターム物金利も低下している。

 長期国債流通利回りも、資金余剰感の一層の強まりに加えて、海外金利、内外株価の下落もあり、低下傾向を辿った。また、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドも、総じて横這い圏内で推移している。

 一方、株価は、買い手控え気分が強まる中、9月入り後、欧米株価の軟調につれるかたちで下落し、最近では概ね9千円台前半での動きとなっている。

 円の対米ドル相場は、9月上旬までは全体としてやや方向感に欠ける展開となったが、中旬に下落し、最近では122円~123円で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては、貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては、慎重な貸出姿勢を維持している。企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き厳しい。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境をみると、低格付け企業ではなお厳しいが、高格付け企業では緩和的な状況にある。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が減少していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。CP・社債の発行残高は、このところ前年並みの水準で推移している。

 マネタリーベースは、前年比2割台の大幅な伸びとなっている。マネーサプライは、前年比3%台半ばの伸びとなっている。

 企業の資金調達コストは、全体としてきわめて低い水準で推移している。

 以上のように、最近のわが国の金融環境は、金融市場の状況を総じてみれば、きわめて緩和的な状況が続いている。また、企業の資金繰りも、悪化傾向に歯止めが掛かっている。しかし、信用力の低い企業に対する投資家の姿勢は依然として厳しいほか、民間銀行も慎重な貸出姿勢を維持している。このため、金融機関行動や企業金融の動向には、引き続き十分注意していく必要がある。

以上