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金融経済月報(基本的見解1)(2003年 9月)2

  1. 本「基本的見解」は、9月11日、12日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、9月11日、12日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2003年 9月16日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0309.pdf 735KB)から入手できます。


 わが国の景気は、輸出環境などに改善の兆しがみられるものの、全体としてなお横這い圏内の動きを続けている。

 最終需要面をみると、設備投資は緩やかに回復している。一方、個人消費は弱めの動きを続けているほか、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。また、純輸出は、横這い圏内で推移している。

 以上の最終需要の動向を反映して、鉱工業生産は、横這い圏内の動きを続けており、企業収益は緩やかな増加基調にある。雇用面では、常用労働者数は引き続き減少しているが、カバレッジの広い雇用者数は下げ止まっている。また、賃金の下落にも歯止めがかかってきているため、雇用者所得は徐々に下げ止まりつつある。ただし、失業率が依然として高止まるなど、家計の雇用・所得環境は、なお総じて厳しい状況にある。

 今後の経済情勢を考えると、まず海外経済については、米国の成長率が高まり、東アジア経済も全体としては成長軌道に復していくとの見方が、徐々に現実味を増していると考えられる。したがって、輸出や鉱工業生産は、次第に緩やかな増加に転じていく可能性が高い。

 国内需要については、公共投資が減少傾向をたどると見込まれるほか、個人消費も、雇用・所得環境に目立った改善が期待しにくいもとで、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。一方、設備投資は、収益改善にもかかわらず投資を大幅に抑制してきた製造業大企業を中心に、今後は回復傾向がより明確化していくと予想される。ただ、輸出や生産の増加テンポが緩やかな間は、設備投資の回復も力強さを欠くものにとどまる可能性が高い。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、海外経済の回復を背景に、次第に輸出や生産が増加基調を取り戻すことを通じて、前向きの循環が働き始めると考えられる。ただし、企業の過剰債務圧縮や人件費削減など構造的な調整圧力が根強いことを踏まえると、しばらくの間、国内需要の自律的な回復力が高まることは展望しにくい。また、輸出環境の先行きについては、米国の雇用面に引き続き弱さがみられるほか、東アジアでも韓国など一部諸国の回復が鈍く、全体としてなお不透明感が残っている。国内面でも、長期金利の不安定な動きなどに、引き続き注意が必要である。

 物価面をみると、輸入物価は、原油価格を中心に国際商品市況が上昇基調で推移してきたことを受けて、このところ下げ止まっている。そうしたもとで、国内企業物価も、たばこ税引き上げの影響もあって、横這い圏内の動きとなっている。一方、企業向けサービス価格は、前年比で1%強の下落が続いている。消費者物価も下落が続いているが、4月の医療費自己負担引き上げや7月のたばこ税引き上げなど特殊要因の影響を受けて、その前年比下落幅は0.2%にまで縮小している。

 物価を取り巻く環境をみると、輸入物価は、為替相場の動向次第という面があり、先行きの方向感が見きわめにくい。国内面では、マクロの需給バランス、技術進歩、流通合理化、企業の価格戦略、といった基本的な物価環境に当面大きな変化が生じるとは考えにくい。こうした中で、国内企業物価は、当面、横這い圏内で推移する可能性が高い。また、消費者物価については、今後の特殊要因次第で、前年比下落幅が一時的にさらに縮小する可能性も考えられるが、基調的には現状程度の小幅下落が続くと予想される。

 金融面をみると、日本銀行が潤沢な資金供給を行った結果、日本銀行当座預金は29兆円台で推移している。

 こうしたもとで、オーバーナイト物金利は、引き続きゼロ%近辺で推移している。ターム物金利も概ね落ち着いた地合いが続いているが、ユーロ円金利先物レートは8月下旬以降上昇が目立った後、最近は幾分低下している。

 長期国債流通利回りは、先行きのわが国経済に対する見方が改善するなかで、急上昇し、最近では1.4~1.5%台で推移している。こうした中、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、長期金利の再上昇を受けて、幾分拡大した。

 株価は、海外投資家の本邦株式投資の継続などから、大幅に上昇し、最近では日経平均株価は10千円台半ばまで回復している。

 円の対ドル相場は、海外投資家による対内株式投資の継続などから上昇し、最近では116~117円台で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対して貸出を増加させようとする一方で信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、条件設定などの面で貸出姿勢を幾分緩和する動きも窺われている。この間、企業からみた金融機関の貸出態度は幾分改善しているが、中小企業等ではなお厳しい状況にある。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境をみると、長期金利の上昇を眺めて社債発行市場で様子見姿勢が窺われるが、発行スプレッドは安定的に推移しており、高格付け企業を中心に総じて良好な状況に大きな変化はみられていない。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、キャッシュ・フローが設備投資を上回る状況が続いていることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向をたどっている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%前後の減少となっている。社債の発行残高は、前年並みの水準となっている。

 この間、企業の資金繰り判断は、中小企業等ではなお厳しい状況にあるが、幾分改善している。

 マネタリーベースは、前年比2割程度の伸びを続けている。マネーサプライは、伸びをやや高め、前年比2%程度となっている。

 企業の資金調達コストは、全体としてきわめて低い水準で推移している。

 以上を踏まえて、金融面の動きを総合的に判断すると、金融市場ではきわめて緩和的な状況が維持されている。この間、長期金利や株価は上昇している。マネーサプライやマネタリーベースは、経済活動との対比でみれば高めの伸びを維持している。企業金融面では、CP・社債の発行環境は高格付け企業を中心に総じて良好な状況に大きな変化はみられていない。もっとも、信用力の低い企業を中心に資金調達環境は総じて厳しいという基本的な状況に大きな変化はない。このため、金融資本市場の動向や金融機関行動、企業金融の状況については、引き続き十分注意してみていく必要がある。

以上