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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 6月25日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年8月9、10日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 8月13日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年6月25日(8:59〜11:19)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長  福井俊彦 (総裁)
  • 武藤敏郎 (副総裁)
  • 岩田一政 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 啓一 財務副大臣
  • 内閣府 大守  隆 大臣官房審議官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室調査役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(6月14、15日)で決定された方針 1 に従って運営した。この結果、当座預金残高は32〜34兆円台で推移した。こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、短期金利は総じて低位で安定的に推移している。

 長期金利は、景況感の改善などを背景に、一時1.9%台まで上昇する局面もみられたが、足許では前回会合時とほぼ同水準の1.8%台で推移している。この間、民間債利回りの対国債スプレッドは、横這い圏内で推移している。

 株価は、わが国経済の回復期待を背景に堅調に推移しており、足許では11千円台半ばとなっている。

 為替市場では、米国第1四半期の経常収支の赤字幅が既往最高額を更新したことや、地政学的リスクの高まりなどを受けて、ドル安・円高が進行しており、円の対ドル相場は107円台前半まで上昇している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、5月の小売売上高や鉱工業生産が大幅な増加となったほか、住宅着工も引き続き高水準で推移しており、バランスのとれた景気回復を続けている。この間、物価面については、5月の生産者物価指数・消費者物価指数ともに前年比上昇幅を拡大しているものの、食料品・エネルギーを除くコアの消費者物価指数でみると、インフレが加速する様子は窺われない。

 ユーロエリアでは、前回会合以降公表された経済指標は概ね景気回復を示すものであったが、家計部門の支出は総じてみれば引き続き低調であり、回復のモメンタムはなお弱い。

 東アジアでは、景気は順調に拡大している。もっとも、韓国については、過大な家計債務や原油高の影響などから、景気の減速リスクが懸念され始めている。

 米欧の金融市場をみると、米国では6月末に25bps、年末までの累計では1%ポイント超の利上げが既に織り込まれている。長期金利は、6月半ば以降、横這い圏内で推移している。ユーロエリアの長期金利は、米国と歩調を合わせた動きとなっている。この間、英国に続いてスイスでも政策金利が引き上げられた。

 エマージング金融市場では、株価、通貨、対米国債スプレッドとも総じて小動きであったが、インドネシアでは、政局の不透明感などから通貨(ルピア)が弱含んでいる。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、高い伸びを示した1〜3月に比べて増勢は鈍化しているものの、米国や東アジアを中心とした海外経済の拡大を背景に、着実に増加している。地域別には、自動車販売の好調を背景に米国向けが増加する一方、中国をはじめとする東アジア向けは、増勢が一服気味となっている。この間、輸入は、資本財・部品を中心に、4〜5月は若干の減少となった。

 設備投資については、中小企業金融公庫のアンケート調査をみると、中小製造業の設備投資は、2003年度が前年度比+16.2%の大幅な増加となったほか、2004年度計画も同+3.1%と、当初計画としては強い内容となった。また、今回、新たに開始された法人企業景気予測調査をみても、2004年度の設備投資計画は、製造業で前年比+19.8%、全産業でも+6.4%となっており、設備投資の堅調さが窺われる。

 物価動向については、5月の消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は−0.3%となり、4月(−0.2%)との対比でみてマイナス幅をわずかながら拡大した。内訳をみると、原油高の影響から石油製品のマイナス幅が縮小する一方、一般サービスの価格がプラス幅を縮小させている。

(2)金融環境

 CP・社債の発行環境は、総じて良好な状況が続いている。長期金利上昇の社債発行への影響は、現在までのところ、さほどみられていない。

 エクイティ・ファイナンスは、転換社債が引き続き堅調に推移しているほか、増資についても前月は株価が軟調に推移したことから減少したが、今月は再び増加している。

 マネタリーベースの伸び率は、前年比4%台となっている。銀行券発行残高の前年比伸び率は、前月に小幅上昇した後、6月入り後は再び低下している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、前回の会合以降明らかになった経済指標等は、わが国の景気が回復を続けていることを裏付けるものであったとの判断を共有した。

 海外経済に関して、委員は、米国や中国を中心に世界経済が順調に拡大している、との認識を共有した。

 まず、米国について、複数の委員は、5月の小売売上高や鉱工業生産が大幅な増加となったことなどを指摘し、景気は着実に回復している、と述べた。別のひとりの委員は、物価動向について、コアの消費者物価指数の上昇率は市場予想を下回っており、インフレ期待が加速する兆しは窺われない、との見方を示した。

 中国について、ひとりの委員は、当局による景気過熱抑制策の効果がみられ始めており、特に鉄鋼分野においては減速が顕著である、と指摘した。別のひとりの委員は、これまでの抑制策は主として行政指導的な手法によるものであったが、金利引上げの可能性も指摘されており、今後の動向を注意深くみて行きたい、と述べた。

 設備投資について、何人かの委員は、(1)中小企業金融公庫のアンケート調査において、本年度の設備投資が当初計画段階で前年度比プラスとなったこと、(2)法人企業景気予測調査でも、本年度の設備投資計画は、製造業を中心に大幅な増加が見込まれていることを指摘し、設備投資は堅調に推移しており、中小企業への広がりもみられる、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、設備投資の基調を判断するに当たっては、3月短観では弱めであった非製造業の設備投資が6月短観でどのような結果となるかを見極めたい、と述べた。

 雇用・所得面に関し、ひとりの委員は、労働需給について、法人企業景気予測調査において足許の従業員数判断が「不足気味」超となったことは、3月短観が依然として「過剰」超であったことと対照的であり、この点、6月短観の結果が注目される、と述べた。また、別のひとりの委員は、大企業の夏季賞与は、製造業で前年を上回っているほか、非製造業でも下げ止まり感が窺われており、今後の雇用者所得の改善を示唆するものとして期待できる、との見方を示した。

 個人消費に関し、ある委員は、2003年度の資金循環統計において家計部門が初めて資金不足主体となったことを指摘し、消費の先行きを占ううえでは、可処分所得における消費性向の動向がポイントとなる、との見解を示した。また、この委員は、資産価格の上昇が消費に与える影響についても注視していく必要がある、と述べた。

 物価面では、ひとりの委員は、(1)これまでのところGDPギャップの縮小が消費者物価に与える影響が明確でないこと、(2)今後、一時的な押上げ要因の剥落が続くことなどを指摘し、消費者物価指数の前年比上昇率が持続的にプラスとなるには、まだかなりの時間を要する、との見解を示した。複数の委員は、消費者物価指数の先行きを占ううえでは、労働生産性の伸びと賃金の改善度合いが重要である、と述べた。さらに別の委員は、原油高の影響に関して、最終財への転嫁の度合いや企業収益への影響について、注意深くみていく必要がある、と述べた。

2.金融面の動向

 最近の長期金利上昇について、多くの委員は、基本的には景況感の改善を反映した動きであり、市場も総じて落ち着いて推移している、との認識を示した。このうち、ひとりの委員は、前回会合以降の市場動向をみると、マーケットは最近の経済情勢の変化を次第に消化しつつあると考えてよいのではないか、と述べた。何人かの委員は、昨年夏の金利上昇においては、日本銀行の政策運営に対する思惑が少なからず影響したとみる向きが多いが、今回の長期金利の上昇は、これとは性格を異にする、との見方を示した。もっとも、複数の委員は、長期金利のボラティリティが足許若干上昇していることなどを指摘し、市場の一部にはやや不安定な動きもみられる、と述べた。さらに、何人かの委員は、今後、米国の連邦公開市場委員会(FOMC)や6月短観など主要なイベントや経済指標の公表等が予定されており、長期金利をはじめとする市場動向には十分な注意が必要である、との見方を示した。

 為替相場について、ひとりの委員は、地政学的なリスクの高まりや、米国の第1四半期の貿易収支が既往最大の赤字となったことなどを背景に、市場のセンチメントはドル安に傾いている、との見方を述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 長期金利の上昇に関連して、委員は、経済金融情勢が変化しつつある状況であるだけに、金融政策運営に関する情報発信が特に重要である、との認識を共有した。具体的には、(1)これまで通り、消費者物価指数に基づく現在の「約束」にしたがって量的緩和政策を継続していくことを必要に応じて説明するとともに、(2)経済金融情勢について、市場の見方を十分理解したうえで、日本銀行の判断をできるだけ正確に伝えることにより、市場と認識の共有を図ることが重要である、という点につき、意見の一致をみた。何人かの委員は、こうした対応は、量的緩和政策の解除に関する無用の憶測を避けるうえで有効である、との見方を示した。

 この間、ある委員は、市場における期待の安定化を図るためには、昨年10月に示した「約束」の内容のうち、「消費者物価が先行き再び下落しないと見込まれる」との部分につき、「ゼロ%を超える」という基準をさらに具体的に表現するため、より高めの数値を示すことを検討すべきではないかと発言した。別のひとりの委員も、その趣旨に同調したうえで、現行の「約束」の強化を意図するものではない、と付け加えた。これに対し、別のある委員は、先行きの経済・物価動向には不確実性が伴うことから、このような対応は政策運営の機動性を損なうリスクが大きい、と述べた。また、別の委員は、「約束」の内容を強化すれば、かえって市場が不安定化するおそれがあるほか、政策に対する信認の低下にもつながりかねない、と主張した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状を見ると、デフレは緩やかながらも依然として継続しており、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。
  •  日本銀行は、量的金融緩和政策継続のコミットメントを明確にし、それを堅持することとされているが、市場では金利が上昇するなどの動きも見られており、日本銀行におかれては、引き続き経済・市場動向を十分に注視し、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  •  加えて、市場において無用な混乱が生じることを未然に防止するために、緩和的な金融環境が当面維持されるという予想が揺らぐことのないよう、どのような新たな工夫が講じられるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は、企業部門の改善が進み、着実な回復を続けている。一方、原油価格や長期金利の動向等が内外経済に与える影響には留意する必要があると考えている。物価動向については、総合的に勘案すれば、デフレ克服は道半ばの状況にある。
  •  従って、日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服することと民需主導の持続的な成長を図ることである。このため、政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」を早期に具体化することとしている。本方針では、平成16年度には構造改革の取組みを加速・拡大し、さらに集中調整期間後の17年度および18年度の2年間を重点強化期間と位置付け、日本銀行と一体となった政策努力により、デフレからの脱却を確実なものとしつつ、新たな成長に向けた基盤の重点強化を図ることとしている。このような取組みの結果、平成18年度以降は名目成長率で概ね2%程度あるいはそれ以上の成長経路を辿ると見込んでいる。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示しているが、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたいと考えている。また、最近の長期金利の動向が注目を集めていることにも鑑み、金融・資本市場の期待の安定化にも配慮しつつ、デフレ克服までの道筋を含め、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努めて頂きたいと考えている。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、
    須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.議事要旨の承認

 前々回会合(5月19、20日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月30日に公表することとされた。

VII.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2004年7月〜12月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2004年 6月25日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。  日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)
2004年 6月25日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2004年7月〜12月)

表 金融政策決定会合等の日程(2004年7月〜12月)
会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2004年7月 7月12日(月)・13日(火) 7月13日(火) (8月13日(金))
8月 8月9日(月)・10日(火) 8月10日(火) (9月14日(火))
9月 9月8日(水)・9日(木) 9月9日(木) (10月18日(月))
10月 10月12日(火)・13日(水)
10月29日(金)
10月13日(水)
--
(11月24日(水))
(12月22日(水))
11月 11月17日(水)・18日(木) 11月18日(木) (12月22日(水))
12月 12月16日(木)・17日(金) 12月17日(金) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2004年10月)」の「基本的見解」は、10月29日(金) 15時(背景説明を含む全文は11月1日(月)14時)に公表の予定。

以上