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金融政策決定会合議事要旨

(2005年 2月16、17日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年 3月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年 3月22日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年 2月16日(14:00〜16:01)
2月17日( 8:59〜12:00)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(16日)
    上田 勇  財務副大臣(17日)
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(1月18、19日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円台で推移した。この間、金融システム不安の一段の後退などから市場で資金余剰感がさらに高まっているもとで、日々の金融市場調節において「札割れ」がしばしば発生しているが、3月上旬の大幅な資金不足も展望しながら、様々な調節面の工夫をこらしつつ資金供給を行った。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移した。

 長期金利は、景気の先行きに対する慎重な見方が続く中、2月初にかけて1.2%台まで低下した。その後、株価の上昇等を受けて金利は上昇に転じ、最近では1.4%程度で推移している。

 株価は、米国株価の下落やわが国IT関連企業の業績下振れ懸念から一旦弱含んだものの、その後、米国株価の反発等を受けて上昇し、足許は、日経平均株価は11千円台半ばで推移している。

 為替市場では、円の対米ドル相場は、人民元の早期切り上げを巡る思惑の後退や米国経常赤字に対する米国通貨当局者発言等を受けて下落し、最近では104〜105円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出と設備投資が共に増加を続けているほか、雇用者数など供給面の指標も改善傾向を辿るなど、景気は引き続き拡大している。この間、インフレ率は緩やかながらも着実に上昇している。先行きも、家計支出と設備投資を中心に景気拡大が持続する可能性が高い。

 ユーロエリアでは、生産や雇用面の停滞感が根強く、景気回復のモメンタムは弱い。

 東アジアをみると、中国は、内外需ともに力強い拡大が続いているほか、NIEs、ASEAN諸国・地域でも緩やかな景気拡大が持続している。

 米欧の金融資本市場では、長期金利は、米国、欧州とも、市場予想比弱めの経済指標などを材料に低下した。この間、米欧の株価は、企業の好決算が続いたことやFRBの利上げテンポが加速するとの見方が後退したことなどから上昇した。

 エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で良好なファンダメンタルズなどを好感して株価が上昇し、対米国債スプレッドが縮小した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、7〜9月に前期比+0.1%となった後、10〜12月は同+1.3%と若干増加した。デジタル家電などの消費財が、米国向けを中心に持ち直したが、IT関連財が弱い動きであることなどから、なお横這い圏内の動きを脱していない。先行きは、海外経済が米国、東アジアを中心に拡大を続けるほか、IT関連分野の調整圧力も和らぐと予想されることから、増加基調が続くとみられる。

 設備投資は、引き続き増加傾向にある。実質GDPベースの設備投資は、7〜9月、10〜12月と緩やかな増加をみせた。資本財出荷(除く輸送機械)も、7〜9月に前期比+1.4%と増加した後、10〜12月も+3.1%と増加が続いている。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、7〜9月に減少した後、10〜12月は前期比+6.0%となった。建設投資についても、建築着工床面積は、振れを伴いつつも、増加傾向を続けている。先行きについても、内外需要や企業収益の増加が見込まれるもとで、設備投資は増加が続くと予想される。

 個人消費についてみると、実質GDPベースの個人消費は、10〜12月前期比が−0.3%と、7〜9月に引き続きマイナスの伸びとなった。全国百貨店、スーパーの販売額やサービス関連の指標は、天候要因等の影響から総じて弱めの動きとなっている。一方、乗用車新車登録台数は引き続き堅調に推移しているほか、家電販売もデジタル家電を中心に順調な増加傾向を続けている。一方、先行きの個人消費については、雇用者所得が緩やかな増加に向かう可能性が高いとみられるもとで、緩やかに回復していくと予想される。

 生産は、7〜9月に小幅減少した後、10〜12月も、電子部品・デバイスを中心に、前期比−0.6%と減少を続けた。また、12月は、鋼材不足等の影響もあって輸送機械が減少した。先行きについては、当面はIT関連分野の在庫調整の影響が残るとみられるが、海外経済の成長が続き、内需の回復基盤もしっかりしていることを踏まえると、生産は次第に増加基調を取り戻していくと考えられる。もっとも、IT関連分野は、在庫調整の進展度合い、最終需要の動向の両面で不確実性が大きいため、これらの動向は注意深くみていく必要がある。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標や失業率は振れを伴いつつも改善傾向を続けており、雇用者数は増加傾向にある。一人当たり平均でみた賃金はなお減少傾向が続いているが、マイナス幅は縮小してきている。冬季賞与の大半を占める11〜12月の特別給与は、前年比+1.5%の増加となった。賞与は、企業収益の増加やリストラの一巡を背景に、概ね下げ止まったとみられる。雇用者数の増加とあわせて考えると、雇用者所得は下げ止まっている。先行きについても、企業の人件費抑制姿勢は継続するとみられるが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高い。

 物価動向をみると、国内企業物価は、昨年末にかけての原油価格の反落などから、弱含んでいる。消費者物価(除く生鮮食品)の12月の前年比は、11月と同じ−0.2%となった。先行きも、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くほか、公共料金引き下げの影響は、幾分拡大するとみられることから、消費者物価の前年比は、小幅のマイナスで推移すると予想される。

 以上の動きからみて、わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられているが、基調としては回復を続けていると考えられる。先行きについても、景気は回復を続けていくとみられる。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中、回復方向の動きに足許一服感がみられる。民間銀行の貸出姿勢は全体として緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き改善している。こうしたもとで、民間銀行貸出も、減少幅が緩やかに縮小している。

 資本市場調達については、CP・社債とも良好な発行環境が続いており、CP・社債の発行残高は前年を上回って推移している。

 マネタリーベースの伸び率は、前年比4%程度となっており、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比2%の伸びを続けている。銀行券発行残高は、前年比2%台の伸びで推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 足許の経済情勢について、委員は、わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられるなど、踊り場の局面が続いているが、基調としては回復を続けているとの認識を共有した。また、先行きについても、景気は回復を続けていくとの認識が共有された。

 海外経済に関して、委員は、一時期の不透明感が強い状態を脱して、米国や中国を中心に着実な拡大を続けているとの見方を共有した。

 米国経済について、多くの委員は、家計支出と設備投資に支えられ、景気は拡大を続けているとの認識を示した。これらの委員は、10〜12月の実質GDP成長率は年率+3.1%と、7〜9月に比べやや伸びを低下させたが、これは原油・消費財輸入の増加に加えアジア向け輸出が低調だったことが主因であり、家計支出・設備投資は引き続き増加しているほか、雇用も着実な改善傾向にあると述べた。複数の委員は、こうした経済情勢のもと、インフレ率が緩やかながらも着実に上昇しており、今後の金融政策運営が注目されると指摘した。また、ある委員は、「双子の赤字」に対する市場の関心はやや薄らいでいるが、その動向や市場への影響は引き続き注意する必要があると付け加えた。

 中国経済について、何人かの委員は、内外需とも力強い拡大を続けているとの見方を示した。また、複数の委員は、NIEs、ASEAN諸国・地域について、一部にIT関連分野の調整もみられるが、全体として緩やかな景気拡大が持続していると述べた。

 ユーロエリア経済については、複数の委員が引き続き景気回復のモメンタムが弱いとの認識を示した。

 この間、何人かの委員が原油価格について触れ、足許は、高水準ながら横這いで推移しているが、引き続き注意しておくべきリスク要因であると述べた。ある委員は、原油価格の上昇に関連して、財政収支の改善したOPEC諸国による石油関連施設等のインフラ整備が、先進工業国から産油国への資本財輸出の増加等を通じて、世界経済の押し上げに寄与していると指摘した。

 このように海外経済の拡大が続くとの見通しのもとで、わが国の輸出は、基調的には増加していくとの見方が共有された。ある委員は、IT関連分野の輸出は弱い動きをしていることから、今後の輸出の増加テンポについては、世界的なIT関連需要の回復状況を見極めていく必要があると指摘した。

 企業収益について、委員は、IT関連の一部に2004年度見通しを下方修正する企業がみられるが、好調な素材関連で上方修正する企業があることもあって、全体としては改善を続ける見通しにあるとの認識を共有した。設備投資について、多くの委員は、資本財出荷が好調であるほか、先行指標である機械受注や建築着工床面積も増加基調が維持されていることなどを挙げ、引き続き増加していると指摘した。先行きに関しても、企業収益が改善を続けるもとで、増加傾向が維持されるとの見方を述べた。ある委員は、好調が続く重厚長大産業で系列下請け企業を含め生産能力の不足感が強まっていることや、銀行の貸出姿勢が積極化していることは、中小企業の設備投資を促す要因になると付け加えた。

 個人消費について、多くの委員は、やや注意すべき動きとして、各種の販売統計や家計調査が弱めの動きとなっていること、GDP統計における10〜12月の個人消費がマイナスとなったことを指摘した。もっとも、これらの委員は、10〜12月は、自然災害や暖冬といった要因の影響が少なからずあったとみられると述べ、消費マインドが改善を続けている中、雇用者所得が緩やかな増加に向かうもとで、先行きの個人消費は緩やかに回復していくとみられるとの認識を述べた。

 生産について、委員は、IT関連分野の在庫調整の影響に加え鋼材不足や火災の影響を受けた輸送機械の減少もあって、足許弱めの動きが続いているとの認識を共有した。先行きについては、多くの委員が、IT関連分野の在庫調整にはいましばらく時間を要すると思われるが、海外経済が拡大を続ける中で、輸送機械等では増産が見込まれることなどから、全体としては次第に増加基調を取り戻していくとの見方を示した。

 その上で、多くの委員は、IT関連分野の調整に関して幾つかの見方を付け加えた。何人かの委員は、(1)半導体需要やIT関連業界の設備投資動向等をみる限り、2001年のITバブル崩壊時ほど大きな調整とはなっていないこと、(2)品目毎に、調整のピークにずれがあるが、全体としてみれば春から夏にかけて調整が終了するとみられること、(3)IT関連業界の設備投資スタンスには、事業戦略の成否によって企業間の格差がみられており、先行きについては特に事業再編を目指した前向きの投資意欲が強いことを指摘した。一人の委員は、今のところ顕著にはみられていないが、いわゆる負け組企業の設備投資や雇用に対する動向が、マクロ経済にどのような影響を与えるか注意深くみていく必要があると述べた。

 雇用・所得面では、多くの委員は、労働需給を反映する求人関連指標や失業率が改善を続けている中、雇用者数が増加傾向にあるほか、賃金も概ね下げ止まりつつあることから、雇用者所得の下げ止まりが明確になってきているとの認識を共有した。ある委員は、大卒等の新規採用に回復の兆しがあることや、企業が退職従業員の再雇用を検討していることも雇用環境改善の証左であると指摘した。

 この間、何人かの委員は、景気全般の動きについて、経済統計に表れる数字がやや弱めであることに比べ、企業経営者のマインドは比較的強気であり、調整感も強まっていないようであると述べた。この背景として、一人の委員は、(1)旺盛な需要を受けた素材関連等では、供給制約から数量が伸びない一方、収益は好調を続けていること、(2)財務面などの企業体力が強化されていること、(3)金融システムの健全化が進み、実体経済と金融面の連鎖による景気腰折れ懸念が後退したこと、を指摘した。

 物価面に関して、委員は、国内企業物価は昨年末にかけて原油価格が反落したことや、機械類等の最終財価格の下落幅が拡大したことを受けて、足許弱含んで推移していることを指摘した。その上で、先行きも内外商品市況次第ではあるが、当面、弱含みないし横這いで推移する可能性が高いとの認識を共有した。

 消費者物価については、多くの委員が、公共料金などを除いたベースでは、景気の回復基調を受けて前年比マイナス幅が縮小傾向にあるものの、企業部門における生産性の向上や人件費の抑制姿勢を背景に、その縮小テンポは緩やかなものに止まる状況が続いていると述べた。その上で、当面は、固定電話通信料引き下げの指数面への影響や、本年4月の電力自由化拡大を控えた電力会社の料金引き下げといった要因から、消費者物価指数の前年比は当面マイナス幅をやや拡大して推移する可能性が高いとの見方を述べた。

 複数の委員は、景気の踊り場局面がやや長く続いていることが需給バランスの改善テンポやその物価動向に与える影響について、注意深くみていく必要があると述べた。ある委員は、IT関連分野の調整終了後の景気回復力の強さが、今後の物価動向をみていく上で重要であると指摘した。また、何人かの委員は、GDPデフレーターのマイナス幅が縮小したことについて、特殊要因が影響している可能性もあるが、物価の基調を判断していく上では、注目しておきたい動きの一つと指摘した。

2.金融面の動向

 金融面に関して、何人かの委員は、金融市場は日本銀行の潤沢な資金供給を受けて、極めて落ち着いた状況が続いていると述べた。ある委員は、ペイオフ部分解禁を控えた2002年時点の市場の状況と比べても、足許の市場が落ち着いていることがはっきりしていると付け加えた。別の委員は、量的緩和の長期化によるやや長めの金利の低位安定が金融機関の収益等に与える影響には注意が必要であると述べた。

 何人かの委員は、株価、長期金利の動向について、このところ概ね安定的に推移しており、GDP統計の公表後も、市況は総じて小動きであると述べた。

 複数の委員は、世界的な長期金利の低位安定に触れ、基本的にインフレ期待の落ち着き等に支えられていると思うが、今後の動向や世界経済に与える影響は注視していく必要があると指摘した。また別の委員は、潤沢な流動性が供給されているもとで、グローバルな投資家の中にはリスクに関して相当に楽観的な見方がみられるようになっていると述べた。

 金融機関の貸出動向について、何人かの委員は、前年比減少幅が緩やかながら縮小していることが注目されると述べた。ある委員は、金融機関がリスクテイク能力を高める中で、中小企業向け・不動産業向けを始めとして資金需要の掘り起こしに積極的に取り組んでいると述べた。別の複数の委員は、不動産業向け貸出が小幅ながら前年比プラスとなったことを指摘し、今後の動向と経済面への影響を注視していきたいと付け加えた。

 一人の委員は、貸出動向にも関連する論点として、マネーサプライの動きに言及した。この委員は、マネーサプライの伸び率が高まるためには、経済活動がさらに活発化し資金需要が高まる中で、金融機関貸出が伸びていくことが不可欠であることから、今後の貸出動向に注目していきたいと述べた。また、金融情勢の安定化に伴って、より高いリターンを求めて預金からの資金シフトが生じることも考えられるため、マネーサプライの動きをみていく上では、広義流動性なども含め、幅広い指標を総合的に点検していくことが必要であると付け加えた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 委員は、金融システム不安の一段の後退などから市場で資金余剰感がさらに高まっているもとで、3月上旬にかけて大幅な資金不足が見込まれることから、資金供給面での難しさが一段と強まる可能性はあるが、調節運営面での工夫により現行の当座預金残高目標を維持していくことが適当であり、また維持可能ではないかとみられるとの認識を共有した。

 こうした認識のもと、何人かの委員は、資金需要が予想外に大きく振れるような場合には、当座預金残高が30兆円を幾分下回ることが起こらないとは言い切れないと述べ、万一そうした事態が起きた場合は、出来るだけ早期にこれを解消することが必要であると指摘した。その上で、こうした調節運営であれば、現在の金融市場調節方針が目標レンジを「程度」で示しているとおり上下に若干の糊代をもった枠組みであることから、金融市場調節方針に沿った運営と言って良いのではないか、との考えを示した。

 また、多くの委員は、先行きの調節運営の考え方について見解を述べた。

 ある委員は、量的緩和政策継続の3つの条件が満たされるまで量的緩和政策の枠組みを堅持しつつも、ペイオフ全面解禁を経て金融システムの安定が確認された際には、過去金融市場の安定確保を目的に当座預金残高目標を引き上げてきた経緯を踏まえ、市場の状況等を確認しながら慎重に減額していくことが適当であるとの意見を述べた。

 これに対し、ある委員は、当座預金残高目標の引き下げは、そのマイナスの影響と比べて、メリットがほとんどないとの見方を述べた。別の委員は、この問題は、政策というよりは技術的な問題と捉えるべきであると述べた。

 何人かの委員は、先行きについては様々な不確定要因があり、今の時点で言えることは、景気・物価情勢を的確に判断した上で、実際の金融市場の状況やオペの応札状況なども丁寧に確認するとともに、市場や国民の受け止め方、将来の政策運営への影響等も踏まえつつ、慎重に検討していくことが適当ではないかとの考えを示した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、全体の動きとしては国内民間需要を中心に景気は回復が続いているものと認識しているが、一部に上り坂が続く中での微調整とも言える動きもみられる。このような中、デフレは依然として継続している。昨日公表されたQEをみると、昨年10〜12月期の実質GDP成長率が前期比で−0.1%となるなど、こうした現状が示されていると考えている。
  •  このような経済状況のもと、民間需要主導の景気回復を持続的なものとするとともに、デフレから脱却することは、政府・日本銀行が一体となって取り組むべき重要課題であり、その達成のために最大限の努力を行わなければならない状況に変わりはないと考えている。
  •  日本銀行におかれても、このような基本スタンスのもと、平成13年3月以降、量的緩和政策を開始され、これまで順次日銀当座預金残高目標を引き上げ、これを維持することを通じて、こうした政策スタンスを対外的に示されてきたものと理解している。
  •  現状においても、民間主導の持続的な景気回復の達成およびデフレ克服に向けた最大限の努力が必要な状況に変わりはなく、日本銀行におかれては現在の政策内容を継続することにより、こうした日本銀行の断固たる姿勢を市場や国民に示して頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、一部に弱い動きが続いているものの、大局的にみると回復局面が続いているという、これまでの景気判断に基本的に沿ったものであると考えている。
  •  政府としては、平成17年度には、政府・日本銀行一体となった取り組みを進めることにより、デフレからの脱却に向けた進展を見込んでいる。また、18年度以降には、概ね名目2%程度、あるいはそれ以上の成長を実現するため、各分野の構造改革をより加速、拡大することとしているところである。
  •  日本銀行におかれても、政府との意思疎通を密にしつつ、デフレからの脱却を確実にすべく、思い切った金融緩和を続けられることを期待する。デフレ克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、当座預金残高の増減が最近注目を集めていることに鑑み、効果的な資金供給により、さらに実効性のある金融政策運営を行って頂きたいと考えている。また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、水野委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(2月17日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は2月18日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前回会合(1月18、19日)の議事要旨が全員一致で承認され、2月22日に公表することとされた。

以上


(別添)
2005年 2月17日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上