政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2025年7月30、31日開催分)
2025年9月25日
日本銀行
本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2025年9月18、19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
開催要領
- 1.開催日時:
- 2025年7月30日(14:00から15:51)
- 7月31日( 9:00から11:50)
- 2.場所:
- 日本銀行本店
- 3.出席委員:
- 議長 植田和男 (総裁)
- 氷見野良三(副総裁)
- 内田眞一 ( 副総裁 )
- 野口 旭 (審議委員)
- 中川順子 ( 審議委員 )
- 高田 創 ( 審議委員 )
- 田村直樹 ( 審議委員 )
- 小枝淳子 ( 審議委員 )
- 増 一行 ( 審議委員 )
- 4.政府からの出席者:
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- 財務省 前田 努 大臣官房総括審議官(30日)
- 斎藤洋明 財務副大臣(31日)
- 内閣府 林 幸宏 内閣府審議官(30日)
- 瀬戸隆一 内閣府副大臣(31日)
- (執行部からの報告者)
-
- 理事 清水誠一
- 理事 神山一成
- 理事 諏訪園健司
- 理事 中村康治
- 企画局長 奥野聡雄
- 企画局政策企画課長 井出穣治
- 金融機構局長 鈴木公一郎
- 金融市場局長 峯岸 誠
- 調査統計局長 川本卓司
- 調査統計局経済調査課長 須合智広
- 国際局長 近田 健
- (事務局)
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- 政策委員会室長 福田英司
- 政策委員会室企画役 三浦幸大
- 企画局企画役 八木智之
- 企画局企画役 北原 潤
- 企画局企画役 福島駿介
1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節については、前回会合(6月16、17日)で決定された金融市場調節方針(注)に従って運営し、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、0.476から0.479%のレンジで推移した。
この間、長期国債の買入れについては、2025年6月は月間4.1兆円程度の買入れを行った。2025年7月は、6月の会合で決定された減額計画に沿って、月間の買入れ額を4,000億円程度減額し、月間3.7兆円程度の買入れを行った。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場では、翌日物金利のうち、無担保コールレートは0.5%程度で推移した。GCレポレートは、無担保コールレート並みの水準で推移した。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなった。
わが国の株価(TOPIX)は、米国株価に連れつつ、米国との関税交渉の合意を受け、上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、概ね横ばいで推移したあと、足もとでは、米国との関税交渉の合意を受け、日本銀行の利上げや先行きの財政政策に対する思惑もあって、上昇した。国債市場の流動性指標をみると、総じて改善方向の動きが継続している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、FRBの利下げ織り込みが進展するもとで円高方向に動く場面もみられたが、期間を通じてみれば、市場センチメントが改善する中で円安方向の動きとなった。円の対ユーロ相場も、円安方向の動きとなった。
3.海外金融経済情勢
海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。米国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに成長している。欧州経済は、駆け込み輸出の反動もみられる中、総じてみれば弱めの動きが続いている。中国経済は、政策面の下支えはあるものの、関税引き上げや不動産市場の調整などによる下押しがみられるもとで、改善ペースは鈍化傾向にある。中国以外の新興国・資源国経済は、総じてみれば緩やかに改善している。
先行きの海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて減速するものの、その後は徐々に成長率を高め、緩やかな成長経路に復していくと考えられる。先行きの見通しを巡っては、各国の政策運営の帰趨のほか、中国経済の動向や地政学的緊張の展開などについて、不確実性が高い。
海外の金融市場をみると、世界経済の不確実性が引き続き意識されているものの、足もとにおける米国の堅調な経済指標や、通商政策の交渉の進展などから、市場センチメントは改善している。米国の長期金利は、FRBの利下げ織り込みが進展するもといったん低下したが、その後は堅調な経済指標が意識されて上昇し、期間を通じてみると概ね横ばいとなった。欧州の長期金利は、ドイツの防衛費増額を含む予算案の発表に合わせて国債増発が決定され、国債需給の緩和が意識されたことなどから、小幅に上昇した。米国の株価は、市場センチメントが改善するもと、大手ハイテク企業等の堅調な業績も好感されて、上昇した。欧州の株価は、中東情勢の緊迫化を受けて下落したあと、米国の株価に連れて上昇し、期間を通じてみると概ね横ばいとなった。この間、新興国通貨は、総じてみれば横ばい圏内で推移した。原油価格は、イラン・イスラエル間の停戦合意により中東における地政学的緊張が緩和したことを背景に、下落した。
4.国内金融経済情勢
(1)実体経済
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。
輸出や鉱工業生産は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みとその反動の動きがみられるが、基調としては横ばい圏内の動きを続けている。先行きは、米国の関税引き上げに伴う駆け込みの反動減がマイナスに作用するほか、海外経済減速による下押し圧力も徐々に強まっていくと見込まれる。
企業収益は、改善傾向にある。業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は、緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、受注残高解消の動きや人手不足対応の省力化投資が一定の下支えとなるものの、収益環境の悪化や不確実性の高まりが下押し要因となり、増勢が鈍化していく可能性が高い。
個人消費は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、1から3月にサービス消費の増加を主因に前期比増加したあと、4から5月の1から3月対比は、食料品価格上昇が下押しとなり横ばい圏内の動きにとどまっている。企業からの聞き取り調査や業界統計、高頻度データに基づくと、6月以降の個人消費は、米などの食料品価格の上昇もあって消費者の節約志向の強さを指摘する声は引き続き多いものの、前月から横ばい圏内の動きを続けているとみられる。消費者マインドは、足もとでは米価格の上昇一服もありやや持ち直しているが、依然として低水準で推移している。先行きの個人消費は、春季労使交渉を反映した所定内給与の上昇が一定の下支えとなるものの、最近の食料品価格上昇に加え、本年度後半にかけては企業収益の減少に伴う賞与の伸び鈍化も下押し要因となるため、横ばい圏内で推移すると予想される。
雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数は、正規雇用を中心に着実な増加を続けている。一人当たり名目賃金は、着実な上昇を続けている。先行きの雇用者所得は、本年の春季労使交渉を反映した名目賃金の上昇に支えられて、当面、着実な増加を続けると考えられる。その後は、企業収益の悪化による特別給与への下押し圧力が強まるのに伴い、雇用者所得の増加ペースは鈍化していくと見込まれる。
物価面について、商品市況をみると、原油価格と銅価格は、足もとでは上昇している。小麦は横ばい圏内で推移している。国内企業物価の前年比は、既往の原油価格下落や円高等の影響から上昇率が低下しており、足もとでは3%程度となっている。企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、人件費上昇等を背景に高めの伸びを続けており、このところ3%台半ばのプラスで推移している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、米などの食料品価格上昇の影響等から、足もとでは3%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価についてみると、米などの食料品価格上昇が一巡するもとで、既往の円高の影響も耐久消費財等を中心に下押しに作用することから、本年度末にかけてプラス幅を縮小していくと予想される。
(2)金融環境
わが国の金融環境は、緩和した状態にある。
実質金利は、マイナスで推移している。企業の資金調達コストは、上昇している。資金需要面をみると、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、3%程度となっている。CP・社債計の発行残高の前年比は、5%台前半となっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、増勢が鈍化している。
この間、マネーストックの前年比は、1%程度となっている。
(3)金融システム
わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。
大手行の収益は、貸出金利息を中心とする資金利益の増加や手数料収入などの非資金利益の増加などを背景に、増加している。この間、信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。
地域銀行の収益は、資金利益の増加などを背景に、増加している。この間、信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。
金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち12指標が、過熱でも停滞でもない状態となっている。金融ギャップは、ひと頃と比べてプラス幅が縮小した状態が続いており、全体として金融活動に過熱感はみられない。ただし、不動産価格の上昇ペースには引き続き留意が必要であり、今後も、金融活動が実体経済活動から大きく乖離することがないか、注視する必要がある。また、各国の通商政策等を巡る不確実性が高い状況が続いていることを踏まえると、それが様々な経路を通じて金融システムに及ぼす影響については丁寧にみていく必要がある。
2.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要
1.経済・物価情勢の現状
国際金融資本市場について、委員は、世界経済の不確実性が引き続き意識されているものの、足もとにおける米国の堅調な経済指標や、通商政策の交渉の進展などから、市場センチメントは改善しているとの見方を共有した。ある委員は、米国の株価が最高値を更新していることを指摘したうえで、その背景として、関税の米国経済への影響がこれまでのところ限定的であることや、米国企業の収益がITセクターを中心に改善していることを挙げた。別の一人の委員は、市場センチメントは相互関税発表前の状態に回復しているが、仮に楽観に振れ過ぎているとすれば、揺り戻しのリスクもあるため、注意してみていく必要があるとの認識を示した。
海外経済について、委員は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。ある委員は、足もとまでの状況をみると、米国経済と中国経済はともに底堅い動きをみせており、先行きも、ITセクターの成長や内需下支えを企図した各国の政策対応などから、減速リスクはさほど大きくないとの見方を示した。別の一人の委員は、世界経済が米国の関税政策の影響を吸収している力には、目をみはるものがあるとしつつも、世の中の捉え方がやや楽観的に過ぎないか、もう少し経過をみる必要があると指摘した。
米国経済について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに成長しているとの認識で一致した。そのうえで、何人かの委員は、関税政策の影響が顕在化してくるのはこれからと考えられ、とくに消費者物価や労働市場の動向を丁寧に確認していく必要があると述べた。このうちの一人の委員は、関税政策の基本的な内容が固まったことから、今後は、関税によるインフレがどの程度進んでいくのか、米国の消費者がそのインフレに直面して消費をどの程度減らしていくのか、様々な角度からの分析・調査が必要であると付け加えた。別の一人の委員は、6月の雇用統計は比較的強い内容であったが、政府部門の雇用者数の増加は季節調整の歪みのようにみえるほか、失業率の低下も移民政策による労働参加率の低下が寄与していることから、今後、雇用環境が急速に悪化するリスクも否定できないとの認識を示した。この間、複数の委員は、いわゆる最適関税理論が指摘するように、米国のような大国の場合、関税率をゼロにするより一定の関税を課す方が交易条件を改善させる可能性があるとの見解を示した。このほか、一人の委員は、米国では、関税を中心として経済成長にマイナスに働く政策が先行したが、減税法案の可決など局面が変化していると指摘したうえで、米国の家計・企業・金融機関のバランスシートは総じて健全であり、金融環境も安定していることから、信用収縮に伴う景気後退も考えにくいと指摘した。
欧州経済について、委員は、駆け込み輸出の反動もみられる中、総じてみれば弱めの動きが続いているとの見方を共有した。
中国経済について、委員は、政策面の下支えはあるものの、関税引き上げや不動産市場の調整による下押しがみられるもとで、改善ペースは鈍化傾向にあるとの見方を共有した。
中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。
わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。ある委員は、10年物国債利回りは足もと1%台半ばとなっているが、経済・物価動向などを踏まえると、金融環境は依然緩和的であると指摘した。
以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。
わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの認識を共有した。多くの委員は、米国の関税政策のマイナスの影響は、これまでのところ限定的なものにとどまっており、経済全体には広がっていないとの認識を示した。このうちのある委員は、6月短観は、業況感は横ばい、収益計画は企業部門全体で高水準を維持、設備投資計画は堅調と、市場予想よりも強めの内容であったとの見方を示した。これに関連して、別の一人の委員は、日本からの対米輸出が多い業種は輸送用機器や大型機械などであるが、短観等において関税の影響が大きく広がっていない理由としては、非製造業など関税の直接的な影響が少ない業種が調査対象として広くカバーされていることが影響している可能性があると指摘した。ある委員は、関税政策の影響は自動車産業などの一部に表れ始めているものの、非製造業の収益は好調であり、わが国経済は、全体としては持ちこたえているとの認識を示した。
輸出や鉱工業生産について、委員は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みとその反動の動きがみられるが、基調としては横ばい圏内の動きを続けているとの認識で一致した。
設備投資について、委員は、企業収益が改善傾向にあり、業況感が良好な水準を維持しているもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識を共有した。ある委員は、足もと、設備投資は底堅い動きとなっており、先行指標である機械受注についても、現時点で大幅な落ち込みはみられていないとの見方を示した。
個人消費について、委員は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移しているとの認識で一致した。ある委員は、節約志向の動きからマクロデータには弱さもみられるものの、雇用者所得が増加する中、いわゆるメリハリ消費などにも支えられ、個人消費は底堅さを維持しているとの見方を示した。一人の委員は、消費活動指数の内訳をみると、物価上昇の影響から非耐久財が弱い動きとなっているが、こうした統計には、Eコマース消費や海外サブスクリプションサービスの利用手数料などが十分に計上されていない可能性があるとして、様々なデータから消費の実態を把握することの必要性を指摘した。
雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。何人かの委員は、6月短観や企業ヒアリングを踏まえると、米国の関税政策にかかわらず、企業の前向きな賃金設定スタンスは維持されているとの認識を示した。このうちのある委員は、足もとの毎月勤労統計には、今年の春季労使交渉で実現された高い名目賃金の伸びがそれほど明確に表れていないが、今後、徐々に反映されていく可能性が高いとの見方を示した。
物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、米などの食料品価格上昇の影響等から、足もとでは3%台前半となっているとの認識で一致した。ある委員は、最近の食料品価格上昇は、基本的に食材価格の上昇を受けたコストプッシュによるものと考えられるが、消費者のインフレに対する考え方の変化によって、コスト上昇分の価格転嫁が容易になりつつあることの表れでもあるとの見解を示した。一人の委員は、過去1年の消費者物価の上振れ要因の大半は米とその他の食料品で説明できると指摘したうえで、賃金からサービス価格への波及は、底流としてゆっくり進んでいるものの、足もとで加速しているようにはみえないとの認識を示した。別の一人の委員は、デフレノルムの時代には一時的な物価下落要因の効き目が大きかったが、最近では輸入物価の下落などの下押し方向の要因の影響はあまり広がりがみられず、逆に、一時的な物価上昇要因が大きく効くようになっていると指摘した。そのうえで、この委員は、こうした変化の背景には、人手不足の高まり、賃金・価格の設定や価格転嫁に関する企業や消費者の考え方の変化、インフレ予想の上昇などがある可能性があるとの見解を示した。
この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの見方で一致した。ある委員は、予想物価上昇率の各指標は、まだ2%にアンカーされていないとはいえ、着実に2%に接近しているとの認識を示した。別のある委員は、2%を大きく上回る物価上昇が3年以上続く中、予想物価上昇率は2%程度に達しており、これが更に上昇しないか懸念されるとの見方を示した。これに対して、一人の委員は、物価上昇が続く中にあっても予想物価上昇率は比較的抑えられていると指摘したうえで、その背景には、過去のデフレ期の経験や政府の物価高対策に対する期待などが影響している可能性があるとの見解を示した。そのうえで、この委員は、米をはじめとする食料品やガソリンなどは、個人がその価格水準から値上がりを実感しやすく、予想物価上昇率の押し上げにつながる可能性がある点にも留意が必要との認識を示した。これに関連して、ある委員は、最近海外では物価の水準自体がインフレ予想に影響を与え得るとの研究もあり、今後、米価格の前年比上昇率が鈍化しても、人々のインフレ実感が低下しない可能性もあると指摘した。
2.経済・物価情勢の展望
2025年7月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、最初に、委員は、中心的な見通しの前提について議論した。委員は、通商政策等について、各国間の交渉や内外経済・物価に及ぼす影響を巡る不確実性が高く、様々な見方が存在する中にあっては、これまでの交渉状況を踏まえつつ、今後、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを共通の前提として中心的な見通しを作成することが、検討の結果を対外的にわかりやすく伝える観点からも望ましいとの認識で一致した。また、委員は、今後の各国の通商政策の帰趨や、それを受けた各国の企業・家計の対応次第では、経済・物価の見通しが大きく変化する可能性があるとの認識も共有した。
次に、委員は、これらの前提のもとで、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、わが国経済について、(1)各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化する、(2)その後は、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、わが国経済も成長率を高めていくと見込まれるとの認識を共有した。
委員は、日米を含む各国間の交渉状況を踏まえ、米国の関税政策のわが国経済への影響について議論した。多くの委員は、日米間の関税交渉が合意に至ったことは、大きな前進であり、日本経済にとって不確実性の低下につながるとの認識を示した。このうちのある委員は、とくに自動車関税がこれまでの予想よりも穏当な内容となったことから、関税政策を巡る不確実性ははっきりと低下し、わが国企業が行動しやすくなったと指摘した。何人かの委員は、米国による関税は日本以外の国・地域にも広く適用され、かつ、関税率の面でわが国の企業が他国に比べて不利になっている訳ではないことから、関税政策のわが国経済への直接的な影響はさほど大きくならない可能性があるとの見解を示した。このほか、一人の委員は、関税政策のわが国経済への影響を考える際には、わが国の自動車産業が、長期的に、米国向け輸出の比率を引き下げていることも認識しておく必要があると指摘した。こうした議論を踏まえ、複数の委員は、関税政策の影響により、今後、大手製造業の収益がどの程度減少するか、その影響が中小企業の経営にどの程度波及するか、それらにより来春の賃金改定がどうなるのか、といった点を企業の決算発表やヒアリング等を通じて丁寧に確認していくことが重要であるとの認識を示した。
わが国の輸出や鉱工業生産について、委員は、海外経済の減速を背景に、弱めの動きになると見込まれるものの、その後は、増加基調に復していくとの認識で一致した。ある委員は、これまで発生してきた駆け込み輸出の影響が今後剥落し、関税の負の影響が出てくる局面に入りつつあることに注意が必要であると述べた。
設備投資について、委員は、緩和的な金融環境が下支え要因として作用する中、人手不足対応やデジタル関連の投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資、サプライチェーンの強靱化に向けた投資は継続されるものの、海外経済減速の影響を受けて伸び率は鈍化すると見込まれるとの認識を共有した。また、その後は、企業収益が内外需要の増加から改善していくとみられる中、需要増に対応した能増投資もあって、増加傾向を続けるとの見方で一致した。
個人消費について、委員は、物価上昇の影響で、当面は横ばい圏内の動きとなるものの、雇用者所得の増加が続くもとで、次第に緩やかな増加基調に復していくとの見方で一致した。また、その後についても、雇用者所得の増加が続くもとで、個人消費は緩やかに増加していくとの認識を共有した。
雇用者所得について、委員は、本年の春季労使交渉を反映した名目賃金の上昇に支えられて、当面、着実な増加を続けるとみられるが、企業収益の悪化による特別給与への下押し圧力が強まるのに伴い、増加ペースは鈍化していくとの認識を共有した。また、その後は、企業収益の回復に伴い、名目賃金の上昇率が再び高まるもとで、雇用者所得の増勢も強まっていくとの見方を共有した。複数の委員は、日米関税交渉の合意によって、賃上げのパターンセッターである自動車メーカーの減益インパクトが抑えられれば、その分、来年の春季労使交渉において、これらを起点に賃上げ抑制の動きが広がる可能性が低下するとの見解を示した。この間、ある委員は、先行きの賃上げの動向については、春季労使交渉における賃金改定を重視しているが、それ以外にも、最低賃金の引き上げ幅や企業収益を踏まえた冬の賞与、転職を通じた賃金改善の状況などを多面的にみていく必要があると述べた。
こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、前回の展望レポート時点と比べると、概ね不変であり、先行きの景気展開に対する基本的な見方に変化はないとの認識を共有した。ある委員は、前回の展望レポートでは、「各国間の交渉がある程度進展すること」を前提としていたことから、今回の日米関税交渉の合意は見通しのメインシナリオを書き換えるものではないが、関税政策を巡る不確実性が低下した分、中心的な見通しが実現する確度は高まったとの認識を示した。
続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比について、2025年度に2%台後半となったあと、2026年度は1%台後半、2027年度は2%程度になるとの見方を共有した。委員は、こうした見通しを、前回の展望レポート時点と比べると、2025年度は食料品価格上昇の影響を主因に上振れているが、2026年度と2027年度は概ね不変であるとの認識を共有した。
こうした消費者物価の見通しについて、委員は、このところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくとの認識で一致した。この点に関し、ある委員は、最近の米価格の上昇については、天候要因に加え、生産コストの上昇分をこれまで価格転嫁してこなかったことの影響が数年分まとめて出たという特殊な面があると指摘したほか、米以外についても、穀物などの国際商品市況が落ち着きつつあるため、加工食品の価格上昇は今後落ち着いてくるのではないか、との見方を示した。
また、消費者物価の基調的な上昇率について、委員は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、基調的な物価上昇率は徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの見方を共有した。
基調的な物価上昇率について、多くの委員は、その評価にあたっては、各種の物価指標や予想物価上昇率に加え、経済・物価に関する様々な情報を丁寧にみたうえで総合的に判断していく必要があるとの認識を示した。ある委員は、基調的な物価上昇率は、特定の数値として示すことは難しいが、中央銀行が金融政策を運営するうえで大事な概念であるとの見解を示した。そのうえで、何人かの委員は、足もとまでの各種指標の動きを踏まえると、基調的な物価上昇率は2%に向けて緩やかに上昇しているものの、なお2%には至っていないとの見方を示した。一人の委員は、2025年度の物価見通しがこの段階で大きく上振れた理由は、前回の展望レポート時点では想定していなかった食料品価格の上昇が主因であり、ここにきて基調的な物価上昇率が加速している訳ではないことは、丁寧に説明していく必要があると指摘した。この間、ある委員は、基調的な物価上昇率は幅のある概念であり、感覚的には足もと1.5%から2.5%くらいのところにあるとの見方を示した。別のある委員は、様々な指標の誤差や推計の幅も踏まえると、基調的な物価上昇率の水準は、足もと2%ぐらいとみているが、物価の下振れリスクも相応にある中、今後この水準で定着していくかは、しっかりみていく必要があるとの認識を示した。この間、一人の委員は、過去と異なり、今回の局面では、企業業績の改善と賃金の上昇を伴う形で物価と予想物価上昇率の上昇が続いていることから、金融政策運営を考えるうえでは、基調的な物価上昇率の決定要因のうち、予想物価上昇率の動きが重要であるとの見解を示した。この点に関し、別の一人の委員は、わが国は景気後退期にディスインフレないしデフレに陥る状況を度々経験し、景気回復期でも基調的な物価上昇率が上がりにくい状況が続いてきたことを踏まえると、今後成長ペースが鈍化する局面がくる場合、予想物価上昇率がどのように反応するか、注意深くみていく必要があると指摘した。このほか、ある委員は、基調的な物価上昇率が2%を大きく下回っている間は、政策判断にあたって実際の物価上昇率よりも基調的な物価上昇率を重視することになるが、これが2%に近付くにつれ、実際の物価上昇率も重視する度合いが徐々に高まっていくとの見解を示した。別のある委員は、物価動向に関する対外コミュニケーションの中心を、「基調的な物価上昇率」から、「物価の実績と見通しやそこに含まれる特殊要因、需給ギャップや予想物価上昇率」に変えていくべき局面であるとの認識を示した。この間、一人の委員は、経済のグローバル化の巻き戻し、中国などの労働供給力の減少、気候変動対応のコスト増加など、グローバルなインフレ要因が連続して生じている中、これがわが国の物価に及ぼす影響を、外部ショックとして除外して考えるのか、基調的な変動要因として捉えるべきなのかは、難しい問題であると指摘した。
次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。委員は、リスク要因としては様々なものがあるが、とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性は高い状況が続いており、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要があるとの見方を共有した。ある委員は、日米間の関税交渉の合意は不確実性の低下につながる前向きの動きであるが、中国などとの交渉は現在も続いているほか、各国の交渉結果が内外の経済にどのような影響を及ぼすのかという点で、なお大きな不確実性が残っているとの認識を示した。
そのうえで、経済の主なリスク要因として、委員は、(1)各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向、(2)輸入物価の動向、(3)わが国を巡る様々な環境変化が企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率に与える影響、の3点を挙げた。ある委員は、足もとの世界経済はそれほど悪化していないが、各国間の関税率の決定が遅れ、輸出の駆け込みと反動が長引くことになれば、その分、海外経済の減速局面も後ずれする可能性には注意が必要との見方を示した。また、何人かの委員は、現時点ではっきりみえていないが、関税政策の影響が、今後、米国の雇用・所得環境や物価動向などにどう表れてくるかについては、丁寧に確認していく必要があるとの認識を示した。このうちの複数の委員は、米国経済が一定の停滞局面に入ることは想定しておくべきであるが、リセッションに陥るリスクは低いのではないか、との見方を示した。ある委員は、感染症拡大期と同様、今次局面でも世界的な危機意識から欧米・中国・新興国が揃って財政金融両面で緩和策に傾く中、経済押し上げ・インフレ圧力が生じ、世界経済が予想以上に上振れる可能性があると指摘した。
物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶほか、物価固有のリスク要因として、(1)企業の賃金・価格設定行動やそれらが予想物価上昇率に与える影響、(2)今後の為替相場の変動や国際商品市況を含む輸入物価の動向、およびその国内価格への波及には注意が必要であるとの見方で一致した。ある委員は、食料品は、消費者物価に占めるウエイトが大きく購入頻度も高い分、価格上昇が人々の物価観に影響しやすい一方、消費者マインドを悪化させることから、基調的な物価上昇率や予想物価上昇率への影響は上下両方向があり得ると指摘した。そのうえで、この委員は、米を巡る政府の対応などによって食料品の値上げの動きが落ち着くかどうか、そうした中でサービスを含むより広い品目の価格設定行動が変化するかどうかは、もう少し見極める必要があると指摘した。別の一人の委員は、米価格は引き続き高めで推移するとみているほか、その他の食料品についても、価格転嫁の広がりによって上昇圧力が続く可能性が高いとの認識を示したうえで、足もとの猛暑や水不足の影響については、食料品の供給制約となる一方、財・サービス需要の低下や生産性への影響なども考え得るため、物価に対して上下双方向に作用するリスクがあると指摘した。一人の委員は、1993年の米価格上昇局面では、米価格の下落後も米以外の食品価格は高止まりしており、その例を踏まえると、今回も同様に食品価格の高止まりが物価の上振れ要因になり得るとの認識を示した。ある委員は、(1)日米間の関税交渉の合意、(2)企業の前向きな賃金・価格設定行動の維持、(3)足もとの物価上振れを踏まえれば、見通し期間前半に物価安定目標実現と判断できる可能性も十分あり、4月時点対比で、その可能性は高まったとの見解を示した。一人の委員は、既に物価が上がらないノルムが転換し、中長期のインフレ期待も引き上がる中、物価上昇の二次的影響が出やすく、基調的な物価の上昇が生じていると述べた。そのうえで、この委員は、7月の生活意識アンケート調査では物価上昇に伴い家計の生活実感が下押しされており、物価上昇への意識が強まっていることから、物価の上振れリスクを重視せざるを得ない局面にある中、今や、物価目標の実現を見据えたコミュニケーションも念頭に置く段階に入ったとの考えを示した。また、複数の委員は、今後の財政政策が、物価押し上げにつながらないかどうか、十分注意する必要があると指摘した。この間、ある委員は、足もとの物価の上振れは、食料品価格の上昇という部門ショックの側面が強く、相対価格のキャッチアップが終われば落ち着くのではないかとみていると述べた。そのうえで、この委員は、関税政策による実体経済の下押しを通じた物価の下振れリスクを踏まえると物価面のリスクは下方に厚いとの見解を示した。複数の委員は、工業製品や素材などの分野では、先行き、供給過剰となっている中国から安価の製品が国内市場に流入し、これが物価の下押し要因になり得るとの認識を示した。
リスクバランスについて、委員は、各委員が示したリスク評価を全体として評価すると、(1)経済の見通しについては、2025年度と2026年度は下振れリスクの方が大きい、(2)物価の見通しについては、概ね上下にバランスしている、との認識を共有した。
3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要
以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。多くの委員は、日米関税交渉の合意により、先行きの不確実性は低下したと考えられるが、当面は関税政策の経済・物価への影響を見極める必要があるため、現状の金融政策運営を維持することが適当であるとの見方を示した。ある委員は、日米の関税合意によっても、わが国経済の成長ペースが鈍化し、基調的な物価上昇率の改善がいったんは足踏みするというメインシナリオは不変であると述べたうえで、通商政策やその影響を巡る不透明性が引き続き大きいことを踏まえると、今は、現在の金利水準で緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりと支えるべきであるとの見解を示した。別の一人の委員は、引き続き1月に決定した政策金利引き上げの影響を見守る局面であるとの認識を示した。
先行きの金融政策運営について、委員は、経済・物価の中心的な見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという考え方を共有した。そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性が高い状況が続いていることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要であるとの認識で一致した。ある委員は、通商政策の影響が具体的にどう出てくるのか、各国のデータでなお確認できていないほか、米国の消費者物価と労働市場の動向によって、米国の金融政策や為替相場の方向性が大きく変化する可能性があり、もう少しデータを得たうえで政策判断すべきであるとの見解を示した。一人の委員は、足もと、物価は強めで推移し、需給ギャップがゼロ近傍となっている中、政策金利は中立金利を下回っているが、こうした状況では、その時々の金融・経済環境に配慮しつつも、政策金利をなるべく中立金利に向けて戻していくことが、意図しない経済の歪みを抑制するうえでも、望ましい方向であるとの認識を示した。別のある委員も、米欧と異なってわが国の政策金利は中立金利を下回っているとみられるため、今後も可能なタイミングで利上げを進めていくべきであると述べた。そのうえで、この委員は、日米関税交渉の妥結に対して株式市場がポジティブな受け止め方をしている中、過度に慎重になって、利上げのタイミングを逸することにならないよう、留意する必要があると指摘した。一人の委員は、米国の関税政策による影響の見極めには、少なくとも今後2から3か月は必要であると指摘したうえで、仮に、米国経済が想像以上に持ちこたえるようであれば、日本経済への下押しの影響も軽微なものにとどまり、早ければ年内にも現状の様子見モードが解除できるかもしれないとの認識を示した。ある委員は、物価上振れへの対応が遅れて急速な利上げを余儀なくされると、わが国経済に大きなダメージを与えるため、適時に利上げを進めることが、中央銀行のリスク・マネジメント上、重要であると指摘した。この間、一人の委員は、先行き、インフレ率がいったん低下するという中心的な見通しを前提とすれば、利上げの判断は注意深く行う必要がある一方、需要の価格弾力性が低い必需品や、人手不足による供給制約の強い品目が価格上昇の主役となり、物価上昇率が2%を上回る状況が長引くようであれば、時機を失することなく緩和度合いの調整を進めることが適当であると指摘した。
以上のような議論を受けて、議長は、執行部に対し、「展望レポート」で、先行きの金融政策運営についてどのように記述することが考えられるか、案を示すよう指示した。執行部からは、(1)金融政策運営については、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、本日議論したような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている、(2)そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性が高い状況が続いていることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要と考えている、(3)日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく、と記述することが考えられると報告した。
執行部の説明に対し、委員は、執行部の示した案は適当であるとの見解を共有した。
委員は、日本銀行のバランスシートのあり方についても、議論した。ある委員は、短期金利のコントロールに支障をきたさないという観点から、日本銀行当座預金やバランスシート全体の最適な規模や、そこに至る経路などを、他の主要中央銀行の先行例なども参考にしながら、考えていく必要があると指摘した。そのうえで、この委員は、当座預金に利息を付す現在の仕組みを前提とすれば、将来、当座預金の残高をリーマンショック前のような水準まで戻してしまうと、物価安定に向けた短期金利のコントロールが困難になる可能性があるとの見解を示した。これに関連して、複数の委員は、将来的な課題としつつも、バランスシートの規模だけでなく、保有資産の構成についても考えていく必要があると述べた。そのうえで、一人の委員は、資産の構成を考える際には、なるべく市場に対する影響が中立的なものを保有するという視点が大事になるとの認識を示した。
4.政府からの出席者の発言
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 政府は、米国の関税措置に関する日米の合意内容やわが国への影響を十分に分析するとともに、中小企業・小規模事業者の資金繰り等への支援の相談にも丁寧に応じること等により、わが国産業や雇用への影響の緩和に万全を期する。
- 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、内外の経済情勢等を十分に注視し、市場とのコミュニケーションを図りつつ、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 日本経済は、米国の通商政策等による影響が一部にみられるものの、緩やかに回復している。ただし、物価上昇の継続等を通じたリスクには十分注意が必要である。
- 政府は、米国の関税措置について、関税より投資との考え方の下、合意を実現した。一方で、関税措置は残っており、引き続き必要な対応を行いながら、経済財政運営に万全を期す。
- 日本銀行には、政府と緊密に連携し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。
5.採決
1.金融市場調節方針
以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。
採決の結果、全員一致で決定された。
金融市場調節方針に関する議案(議長案)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
記
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。
採決の結果
- 賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員、小枝委員、増委員
- 反対:なし
2.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)
議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。
6.「経済・物価情勢の展望」の検討
続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、8月1日に公表することとされた。
7.議事要旨の承認
議事要旨(2025年6月16、17日開催分)が全員一致で承認され、8月5日に公表することとされた。
8.金融政策決定会合の開催予定日の承認
2026年の金融政策決定会合の開催予定日が全員一致で承認され、会合終了後、公表することとされた。
以上
- (注)「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。」本文に戻る
別紙
2025年7月31日
日本銀行
当面の金融政策運営について
日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。
以上
