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金融政策決定会合における主な意見
(2022年3月17、18日開催分)1

2022年3月29日
日本銀行

1.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国の景気は、感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。個人消費は、持ち直しが一服している。
  • 先行きは、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、資源価格上昇の影響を受けつつも回復していくとみられる。
  • 輸入原材料価格の高騰等による家計や企業のマインド変化には注意が必要だが、わが国経済は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直していくとみられる。
  • 最近の資源価格上昇により、わが国の交易利得は、2008年頃と同様、悪化する可能性がある。ただし、今次局面は、感染症の影響による落ち込みからの回復過程にあるほか、いわゆる「強制貯蓄」が家計の実質所得減少のバッファーとして作用することも期待されるため、内需の耐性は2008年当時よりも高いとみられる。
  • 資源・穀物価格の高騰を受けた物価上昇に対する各国中銀の政策対応により、海外経済が下押しされる可能性がある。
  • ウクライナ情勢の帰趨は、不透明な部分が多く、その内外経済への影響は不確実性が高い。国内経済には下押し圧力がかかるリスクが懸念される。
  • ロシアによるウクライナ侵攻で不確実性はきわめて大きくなった。資源・食料価格の上昇、地政学的リスクの顕在化は経済に強い下押し圧力をもたらし得る。
  • ロシア等に対する経済制裁を受けて、現地に投資してきた本邦企業の活動が制約を受けているが、モノやお金の流れが滞ることによる影響は時間をかけて発現することから、今後、更に制限や負荷が増える可能性がある点には注意が必要である。
  • かつては保守的であった年金基金等も、低金利環境下で債券から株式などの高リスク資産に投資先を移してきた。ウクライナ情勢や欧米の金利上昇の影響によりリスク資産価格の大幅な調整が起こる場合には、そうした先にも大きな影響が及ぶおそれがある。
  • 女性や高齢者による労働供給の更なる増加は難しいため、経済の回復とともに中間層の賃金が上昇しやすい環境になっていくとみられる。

物価

  • 消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台半ばとなっている。
  • 先行きの消費者物価は、原油価格の動向や政府の対応次第ではあるが、エネルギー価格の上昇を主因に、4月以降、はっきりとプラス幅を拡大し、当分の間は2%程度の伸びが続く可能性がある。
  • 先行き、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調的な物価上昇圧力は高まっていくとみられる。
  • 消費者物価の前年比は、2022年度前半は資源価格の高騰等によって2%近傍で推移するとみられる。ただし、2022年度後半以降は、資源価格が反落した場合における下振れリスクにも注意が必要である。
  • 企業がコスト転嫁する品目が拡がっているように見受けられる。これは、企業が、同業他社の動向やエネルギー価格等の上昇といった消費者に理解されやすい事情の存在により、以前よりも値上げに対する消費者の納得感を得られるだろうと考えているためとみられる。
  • 企業物価が歴史的な伸びを続ける中、消費者物価についても基調的な上昇圧力が徐々に高まってきているように窺われる。わが国に根付いているとみられる値上げに否定的な同調圧力が薄れ、値上げ許容度の改善が拡がっていくか注目している。
  • エネルギー関連のほか、食料品等でも値上げが確認されるものの、企業物価の上昇に比べれば、小売価格への転嫁は現時点で限定的である。これは、内需の回復が十分ではなく、企業にとって製品価格へのコスト転嫁が難しいマクロ経済状況が依然として続いていることを表している。
  • 家計の予算制約や企業の競争環境を踏まえると、輸入原材料価格の高騰が消費者物価全体の持続的な上昇に繋がる可能性は低い。
  • 輸入物価の上昇による物価上昇は、家計の購買力が高まらないもとでは一時的なものに止まる。持続的な物価上昇には、賃上げによる家計の購買力の引上げが必要である。
  • 引き続き企業の価格設定行動や予想インフレ率に変化がみられるものの、需給ギャップや予想インフレ率の動向を踏まえると、2023年度末に「物価安定の目標」を達成するのは難しい。
  • 賃金と物価の持続的な上昇には、企業の生産性向上が欠かせず、人的資本投資等によるイノベーション力の強化や、スタートアップ育成等による新陳代謝の活発化と企業の構造改革を支援する地域金融機関の取り組みが重要である。

2.金融政策運営に関する意見

  • ウクライナ情勢を受けて、国際金融資本市場では、不安定な動きがみられている。もっとも、CP・社債市場を含め、わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にある。
  • わが国では、米国や英国とは異なり、インフレ期待と賃金の上昇を伴って、インフレ率が目標の2%を継続的に上回っていくような状況にはなく、金融緩和の継続によって、感染症からの回復を支えていくことが重要である。
  • わが国では、企業収益から賃上げ、設備投資増加への好循環の動きと負のショックが混在している。物価の基調が安定的・持続的に「物価安定の目標」に到達するまで金融緩和を持続し、好循環の動きを後押しするのが妥当である。
  • 感染症の影響に加え、ロシアによるウクライナ侵攻により先行き不透明感が高まる中、現在の金融緩和を継続し、経済・物価の動向を注視していく必要がある。
  • 金融政策運営にあたっては、資源価格や為替相場の変動そのものではなく、あくまでもそれらが経済・物価に及ぼす影響を考える必要があり、「物価安定の目標」を安定的に持続することを目指して緩和的なスタンスを継続することが重要である。
  • ウクライナ情勢を巡る地政学的リスクの高まりを背景としたエネルギー価格等の上昇は、消費者物価を上振れさせつつ、内需を下押しする。こうしたもとでは、労働需給を改善し、賃金上昇をより強く後押しする必要があり、現状の金融緩和を粘り強く継続することが一層大切である。
  • 資源価格等の上昇により、インフレ率が2%を超える可能性もあるが、今後、経済・物価への下押し圧力が強まれば、デフレ再燃の危険性すらある。「物価安定の目標」の達成が危ぶまれる場合は、躊躇なく機動的に対応すべきである。
  • 金融政策運営では、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要がある。
  • 最近の経済・物価情勢を巡る環境変化を踏まえ、様々な可能性を想定しつつ、金融政策上の対応について考えておくことが重要である。

3.政府の意見

財務省

  • ロシアのウクライナ侵略には、国際社会と連携して対応している。日本経済への影響を注視する必要があるが、政府として「原油価格高騰に対する緊急対策」を取り纏め、各種対策を講じている。
  • 令和4年度予算は、「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現を図るための予算としており、早期成立に尽力している。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、ウクライナ情勢や新型コロナを踏まえ適切な金融政策運営を期待する。

内閣府

  • 先般公表した2021年10から12月期GDPの2次速報を踏まえると、実質GDPの水準は概ねコロナ前の水準を回復した。
  • 他方で、ウクライナ情勢等を受けた原材料価格の高騰等による景気の下振れリスクには十分注意する必要があり、国民生活や企業活動への影響を最小限に抑えるべく、重層的な施策を迅速に実行する。
  • 日本銀行におかれても、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、適切な金融政策運営をお願いする。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。本文に戻る