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金融政策決定会合における主な意見
(2022年12月19、20日開催分)1

2022年12月28日
日本銀行

1.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国経済は、持ち直している。先行きは、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。
  • 海外経済は回復ペースが鈍化しており、先行き、世界的なインフレ圧力や各国中央銀行による利上げに加え、ウクライナ情勢や中国における感染再拡大の影響を受けて、減速していくとみられる。
  • 海外経済は減速感が強まっているものの、わが国経済は、コロナ禍で抑制されてきた設備投資や個人消費の増加にも支えられて、持ち直しの動きが続いている。
  • わが国経済は、賃金引上げモメンタムの強まりや、「人への投資」、DX投資の活発化等により、潜在成長率を上回る成長が期待されるため、来春の賃金改定や各種投資の動向を注視している。
  • わが国経済の持続的成長には、輸出競争力向上の支援策等による中小企業の生産性向上が必要である。
  • 賃上げにかなり前向きな政労使のスタンス、総じて好調な企業収益、お互いに支えあう傾向の強いわが国の労使関係などを踏まえると、高めの賃上げが実現する可能性が相応にある。
  • 労働組合に物価上昇を踏まえた賃上げを求める動きがみられるほか、労働需給が引き締まる中で企業側にも前向きに応じる姿勢がみられている。このことは、持続的な物価の押上げにつながり得る。
  • 賃上げの持続性は企業の成長力によるため、2%の「物価安定の目標」には、企業の「稼ぐ力」を強化する供給サイドの変革も重要であり、そのバロメーターとして、一般サービスの物価上昇率に注目している。
  • 米国におけるサービス価格や賃金の上昇率の高止まりを受けたインフレ率の動向、中国における感染再拡大の影響など、海外経済・物価動向を巡るリスクは大きい。

物価

  • 生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、本年末にかけて上昇率を高めたあと、来年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくと予想される。
  • 原油価格を含むコモディティ価格はピーク時から下落に転じており、輸入物価の前年比プラス幅は、11月にはっきりと縮小した。
  • 消費者物価上昇率は、輸入物価の上昇圧力が減衰することや、電気料金に関する政府の支援策なども踏まえると、年明け以降、プラス幅を縮小していくと考えられる。
  • 物価は上昇し、インフレ予想も上昇しているが、足もとのサービス価格の上昇は原材料コスト高の影響によるところが大きく、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するにはまだ距離がある。
  • 消費者物価上昇率はコスト・プッシュ圧力の一巡後に2%を下回るとみている。その後再び2%に伸びを高め、それが継続するためには、名目賃金が十分に上昇し、サービスを中心とした消費者物価の粘着的な部分の伸びが高まることが必要である。
  • 企業の価格転嫁の動きが広がっており、これが物価上昇率の底上げに寄与する可能性や、企業業績の底上げを通じて前向きな循環につながる可能性がある。
  • 財だけではなく、サービス価格も次第に上昇率を高めているほか、刈込平均値や加重中央値も伸び率を一段と高めており、物価上昇のモメンタムが強くなってきている可能性がある。
  • わが国の消費者物価は、個別品目の価格上昇率の分布、及び、生鮮食品とエネルギーを除く指数の水準でみて、デフレ期以前の状態に近づきつつある。これはデフレに戻ることのない状況の実現に向けた動きと考えられる。
  • 物価の動向を点検するにあたっては、関連する様々な指標をみて基調を見極めるとともに、政府による総合経済対策の消費者物価に対する影響も勘案する必要がある。

2.金融政策運営に関する意見

  • 「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続すべきである。
  • 現在は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するうえで重要な局面であり、金融緩和の継続が必要である。
  • 企業業績は全体として高水準であり、労働需給はタイトで賃金上昇の動きがみられるなど、好循環の兆しが出てきているが、「物価安定の目標」が達成されたとは考えていないため、当面の金融政策に関しては、金融緩和の維持が適当である。
  • 現在は、賃金と物価の好循環が実現できるかの重要な局面にあり、金融緩和の継続によって経済をしっかりと支え、企業が賃上げしやすい環境を実現していくことが適当である。
  • わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にある。ただし、債券市場の機能度が低下しており、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼし、金融緩和の効果の波及を阻害する惧れがある。
  • 債券市場の機能度が低下する中で、投資家のセンチメントが慎重化し、社債金利のスプレッドは拡大している。発行金額・件数面を含めれば、社債の良好な発行環境は維持されているとみられるが、注意を要する状況にある。
  • わが国経済の持続的成長には長期金利を低位で安定させることが必要であるが、市場機能への悪影響も懸念されるため、長期金利の変動幅を拡大させつつ長短金利操作を継続することが適当である。
  • 長期金利の変動幅の拡大は、債券市場の機能度改善を通じ、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた現行の金融緩和を、世界的インフレのもとでより持続可能にするための政策対応であり、金融緩和の方向性を変更するものではない。
  • 市場機能の低下への対応のため、長期金利の変動幅の拡大が必要である。その場合でも、インフレ予想の上昇もあって、実質金利の低下を通じた強力な緩和効果が続くことは変わらない。
  • 国債のイールドカーブ上、10年債の価格形成に歪みが生じている。これによる悪影響を回避する観点では、長期金利の変動幅の拡大が必要と考えられる。ただし、これは金融緩和の出口に向けた変更ではなく、国債買入れを通じて現状の緩和姿勢は維持されるべきである。
  • 長期金利の変動幅の拡大は、イールドカーブ・コントロールの持続性強化に資する。また、イールドカーブを全体として低位に安定させるべく、全年限で国債購入額を増額したうえで、状況に応じて機動的な買入れを実施することも、金融緩和の持続性強化につながる。
  • イールドカーブ・コントロールの運用見直しは市場機能の改善に資する。マーケットがどこに、どのように落ち着き、市場機能がどれだけ改善するのか、謙虚にみていくことが大切である。
  • 持続的な賃金上昇に必要な経済・賃金構造変革の動きを後押しするうえでは、金利水準を低く抑えることが重要であり、そのために、イールドカーブ・コントロールの持続性を強化することが必要である。
  • 低金利の長期継続を前提とした資金運用・調達が続いてきただけに、将来の出口局面では、金利上昇に伴うリスクの所在や市場参加者の備えの確認が必要になると考えられる。
  • 現時点では、金融緩和の継続が適当であるが、いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要である。
  • 2%の「物価安定の目標」について、目標値を含めて点検・検証が必要との議論があるが、目標値の修正は、目標を曖昧にし、金融政策の対応を不十分なものにする惧れがあるため、適当でない。

3.政府の意見

財務省

  • 本日、ご議論いただいた内容は、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。
  • 政府としては、先日、総合経済対策を策定し、同対策を実行するための補正予算も成立した。来年度予算は、現在、大詰めの作業を進めているところである。
  • 来年度の税制改正は、16日に与党において取りまとめられたところで、税制改正大綱の内容を踏まえ、政府として適切に対応したい。
  • 日本銀行には、引き続き、政府との連携の下、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて努力されることを期待する。

内閣府

  • 政府としては、先般策定した総合経済対策及び補正予算について、進捗管理を徹底し、迅速かつ着実に実行してまいる。
  • 今回議論のあった事項は、物価安定目標を実現する観点から、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。その政策の趣旨について、対外的に丁寧に説明することが重要である。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。本文に戻る