このページの本文へ移動

金融政策決定会合における主な意見
(2023年4月27、28日開催分)1

2023年5月11日
日本銀行

1.金融経済情勢に関する意見

経済情勢

  • わが国経済は、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直している。先行きは、ペントアップ需要の顕在化や高めの賃金上昇等が消費を下支えすることが期待される。また、積極的な設備投資の継続も見込まれる。わが国経済の先行きにとっては、こうした動きがどれだけ強くみられるかが重要である。
  • 国内経済は全体として底堅く推移している。企業の設備投資意欲は維持されているが、足もと個人消費は低めの伸びとなっている。この背景には、労働力不足によるボトルネックも影響していると考えられる。
  • 先行きのわが国経済について、海外経済の減速の影響を注視している。特に、米国における金融引き締めなどの影響および、中国における雇用・所得環境や不動産市場における調整の可能性などに注目している。
  • 企業の構造改革が進み、家計の将来への期待が高まれば、コロナ下で高まった貯蓄率は平時に戻り、個人消費の持続的な押し上げが期待される。
  • 足もと、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁や、企業による賃上げの進展がみられるものの、これが物価・賃金・需要の間の持続的な好循環に繋がっていくためには、転職市場のさらなる活発化、企業の事業改善・再編・ビジネスモデルの転換をはじめとして、経済に幅広い構造的な変化が生まれていくことが重要である。
  • 春季労使交渉は好調であるが、問題は来年以降も定着していくかどうかであり、物価対比で十分な賃金上昇が続くか、それが個人消費を支えていけるか、注視していきたい。
  • 人手不足が強まる中、来年も高い賃上げが期待できる。
  • 今年の賃上げ率には一時的な増加という面もあるとみられる。原材料高への対応として、価格転嫁が有力な選択肢として加わりつつあるが、物価上昇に負けない賃上げを持続するためには、長年の課題である事業・賃金構造の改革による企業の国際競争力と稼ぐ力の強化が必要であり、労働市場改革への企業の対応や構造改革の動向に注目している。

物価

  • 消費者物価上昇率は、既往の輸入価格上昇の転嫁により、当面は2%を超えて推移するものの、価格転嫁が一巡する中で、今年度半ばにかけて2%を下回るとみている。
  • マクロ的な需給ギャップが改善し、予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、2%の「物価安定の目標」に近づいていくとみているが、時間はかかるほか、先行きの不確実性も大きい。
  • 消費者物価の今後の展望について、家計の節約志向の高まりや低調な実質賃金などから、先行き、2%をかなり下回る水準まで低下し、そのまま2%に戻らなくなるというシナリオにも注意しておく必要がある。
  • 消費者物価は、既往の資源・原材料価格上昇がタイムラグを伴って転嫁される動きが継続していることに加えて、人手不足による人件費上昇や海外のインフレの影響もあって、当面、上昇を続けると考えられる。
  • 企業による販売価格引き上げの背景は、原材料価格の転嫁から、輸送費や電気代、さらには人件費の転嫁へと広がりをみせている。
  • 先行きの物価について、財価格は、輸入物価が低下していることを受けて今年度半ば以降伸び率が低下するとみている。一方、サービス価格は、賃金上昇などを背景に今後伸び率が高まる可能性がある。
  • ベアによる恒常的な所得上昇は、コスト・プッシュ要因に比べて消費者物価をより持続的に押し上げるほか、一時的な所得上昇に比べて消費性向の押し上げ効果が高いため、賃金と物価の持続的な好循環に繋がりやすい。
  • 想定以上のベアが実現したのは、労働市場の流動化の進展や人手不足の影響もさることながら、昨年来の海外発の大幅な価格ショックを背景に、企業の物価や賃金に対する「ノルム」の転換に向けた動きがみられていることが大きい。

2.金融政策運営に関する意見

  • 先行きの物価上昇率の低下が見込まれ、海外経済の不確実性の高まりもみられる中では、現在の金融緩和を継続すべきである。
  • 2%の「物価安定の目標」の持続的達成のためには、賃金上昇を伴う形で実現する必要がある。今年の春季労使交渉では想定以上の賃上げが進む見通しであるが、名目賃金上昇率が物価対比でみて十分に高まるよう、金融緩和を通じて賃上げのモメンタムをしっかりと支え続けることが必要である。
  • 物価見通しは幾分上振れているが、「2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク」より、「拙速な金融緩和の修正によって2%実現の機会を逸してしまうリスク」の方がずっと大きい。
  • 高い物価上昇率が続く可能性にも当面注意していく必要があるが、2%をかなり下回ったまま戻らなくなるシナリオの方が、中期的にはより重要と思われる。効果と副作用の両面に目配りしつつ、粘り強く金融緩和を続けていくべきである。
  • 2%の「物価安定の目標」の実現は視野に入ってきたと思うが、上下双方向にリスクがあり、当面は、金融緩和の継続が適当である。
  • 感染症の影響は低下したとはいえ、内外経済や金融市場を巡る不確実性はきわめて高く、「粘り強く緩和を続ける」、「必要に応じて追加緩和措置を講じる」という姿勢は不変であると強調すべきである。
  • 当面、現在の金融緩和継続が適当であり、フォワードガイダンスの修正が金利引き上げ容認ととられないように、慎重を期すべきである。
  • 2%の「物価安定の目標」の達成にはなお時間がかかる状況であり、目標達成まで金融緩和を続けるというフォワードガイダンスは、目標達成に対する強いコミットメントを示す観点で有用である。
  • 超低金利が経済主体の行動様式に組み込まれている状況下、金利の急変動は避ける必要があり、物価や賃金の動向を謙虚に見つめ、早すぎず遅すぎず対応することが必要である。
  • わが国経済には、賃金と物価の好循環の兆しが現れはじめており、政策対応が後手に回らないよう、基調判断を適切に行う必要がある。
  • 足もと、イールドカーブの歪みの解消が進んでおり、イールドカーブ・コントロールの運用を見直す必要はないと考える。
  • 国債金利の指標金利としての機能度など、市場機能は、依然低いままとの声が多い。イールドカーブ・コントロールは、円滑な金融を阻害している面も大きいと感じており、今後の債券市場サーベイ結果に注目している。
  • 短期金利の実効下限制約に直面し、非伝統的な金融政策手段に踏み込んでいった1990年代後半以降の25年間を対象に、多角的なレビューを行うことで、将来の政策運営に有益な知見を得られると考えられる。
  • 今後も効果的に金融緩和を継続していくうえでもレビューは有益であるが、客観的で納得性のあるものとするため、特定の政策変更を念頭に置かずに、多角的に行うべきである。
  • 金融緩和が長期化している原因としては、バブル崩壊以降、デフレ均衡が長く続いたことで物価や賃金が上がらない「ノルム」が形成された点が大きい。そのため、金融政策の検証に際しては、幅広く分析を行う必要がある。
  • 今後の政策運営に活かすため、十分に時間をかけて、「失われた30年」の構造変化や政策効果を整理・評価し、総括する必要がある。

3.政府の意見

財務省

  • 先日、植田総裁が総理と話された際、不確実性が極めて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的な政策運営を行っていくことや、共同声明を直ちに見直す必要はないことについて認識が共有された。
  • 日本銀行には、植田総裁の下、新体制においても、政府と密接に連携しつつ、物価安定目標の持続的・安定的な実現を目指して取り組むことを期待する。
  • 令和5年度予算は、先月28日に成立した。今後、本予算の迅速かつ着実な執行を進めてまいりたい。

内閣府

  • 政府は、国内投資拡大や研究開発の促進による生産性向上と価格転嫁を通じたマークアップ率の確保による賃上げを車の両輪で進める。
  • 金融政策運営の方針の記述の変更の趣旨については、対外的に丁寧に説明することが重要である。
  • 日本銀行には、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。

以上


  1. 「金融政策決定会合における主な意見」は、(1)各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、(2)議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。本文に戻る