2021年度の金融市場調節
2022年7月22日
日本銀行金融市場局
要旨
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現にむけて、2021年度を通じて、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもと、強力な金融緩和を推進した。そのもとで、新型コロナウイルス感染症が経済に及ぼす影響を踏まえ、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢かつ弾力的な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れを実施した。
金融市場調節を取り巻く環境を振り返ると、わが国の金融環境は、2021年度を通じて全体としては改善基調を辿ったものの、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響により一部の企業の資金繰りには厳しさが残った。国際金融市場では、新型コロナウイルス感染症の感染状況のほか、好調な企業決算や、2022年初以降の米欧の金融緩和縮小の動きといった強弱双方の要因が意識され、振れの大きい展開となった。日本銀行は、これらをはじめとする様々な環境変化を踏まえつつ、金融政策決定会合で決定した金融市場調節方針や資産買入れ方針に基づいて各種オペレーションを実施し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定およびそれらを通じた緩和的な金融環境の維持に努めた。
各種オペレーションの運営にかかるポイントは以下のとおりである。
上記(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムに関しては、CP等、社債等の買入れについて、合計で約20兆円の残高を上限に買入れを行うとする資産買入れ方針を受けて、2020年度から引き続き、積極的な買入れを行った。以上のような買入運営のもと、CP発行金利および、社債流通利回りの対国債スプレッドは低位で落ち着いて推移した。
新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(以下、「新型コロナ対応特別オペ」)については、主に民間債務の担保差入残高の増加を背景として、地方銀行・第二地方銀行(以下、「地銀」)を中心とした幅広い業態で利用がみられ、2022年3月末時点の貸付残高は86.8兆円と、年度を通じて、大きく増加した。
次に、(2)円貨および外貨の上限を設けない潤沢かつ弾力的な供給として、長期国債の買入れについては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、長期金利(10年物国債金利)がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを弾力的に運営し、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を実現した。2021年3月の金融政策決定会合での「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」(以下、「点検」)の結果を踏まえ、市場機能の一段の発揮を促すため、4月から利回り・価格入札方式の長期国債買入れについて、翌月の1回当たりの買入れ額を、従来のレンジ形式ではなく特定の金額で示すこととし、7月以降は、長期国債の買入れ予定について、四半期に一度、3か月分を公表する扱いに変更した。そのうえで、四半期毎の買入れ額やひと月当たりの買入れ頻度については、各ゾーンにおける国債の需給環境やオペの応札状況などを踏まえ、柔軟に調整した。2022年2月以降、米国の金融緩和縮小スタンスなどを受けて海外金利が上昇するなか、国内でも金利上昇圧力が強まり、長期金利が変動幅の上限である0.25%程度を超過する惧れが生じた。これを受けて、2022年2月には指値オペを実施、3月には連続指値オペを初めて実施したほか国債買入れのオファー追加・増額を行い、長期金利の過度な上昇を抑制した。こうしたオペ運営のもと、長期金利は、経済・物価情勢や海外金利の動向などに応じて上下しつつ、年度を通じてゼロ%程度で推移した。
国庫短期証券の買入れについては、2021年6月に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」で、発行減額などを背景とした良好な需給環境を踏まえつつ、引き続き柔軟にオファー額を調整する観点から、それまでの「1回当たりのオファー金額を5,000億円~3兆円程度をめど」との記述を削除した。そのうえで、市場の需給動向を踏まえつつ、毎回のオファー金額は柔軟に調整し、1回当たり1,000億円~2兆円のオファーを行った。こうしたオペ運営のもと、国庫短期証券の利回りは、概ね短期政策金利(-0.1%)付近で安定的に推移した。
外貨の供給に関し、ニューヨーク連邦準備銀行との為替スワップ取極に基づく米ドル資金供給オペについては、1週間物は、原則として週次でオファーした。3か月物は、米ドル資金調達環境の改善や米ドル資金供給における需要の低さに鑑み、7月1日以降はオファーを停止した。ドル調達プレミアムは、ウクライナ情勢が悪化した局面では上昇したが、各国中銀による米ドル資金供給オペがバックストップとして機能するもとで、小幅な上昇に止まった。
(3)ETF、J-REITの買入れについては、資産買入れ方針に沿って、それぞれ年間約12兆円、同約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行った。
この間、日銀当座預金は、日本銀行による一層潤沢な資金供給に加え、コロナ禍における政府による財政支出等もあって、増加を続けた。もっとも、2020年度と同様、その増加はマクロ加算残高の加算措置を伴う新型コロナ対応特別オペ等の利用増加によるところが大きかったなか、基準比率は、多くの積み期間で引き下げ方向での調整となった。マクロ加算残高の加算措置や基準比率の引き下げがマクロ加算残高の上限値に与える影響が業態毎で異なる結果、資金調達・資金放出の両サイドで短期金融市場での潜在的な取引ニーズが拡大し、日銀当座預金の三層構造を利用した裁定取引や、レポ市場とコール市場との間での裁定取引等が活発化したことから、レポ市場、無担保コール市場の取引残高は、年度を通じて高水準となった。こうしたもとで、国債買現先オペについては、「金融市場調節方針」のもとで、短期金利を安定的にマイナス水準で推移させる観点から、短期金融市場の動向などを踏まえ、機動的かつ柔軟にオファーし、市中へ潤沢な資金供給を行った。また、このような日銀当座預金の三層構造とオペの運営のもとで、GCレポレートは、総じてみれば短期政策金利を小幅に上回る水準で安定的に推移した。
日本銀行から
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