2023年度の金融市場調節
2024年6月4日
日本銀行金融市場局
要旨
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指し、2023年度の大半の期間、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続した。すなわち、短期金利については、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用した。長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行うこととした。この間、2023年7月には、「長短金利操作の運用の柔軟化」を決定し、長期金利の変動幅は「±0.5%程度」を目途としつつ、指値オペで厳格にコントロールする水準が0.5%から1.0%に引き上げられた。その後、10月には、「長短金利操作の運用のさらなる柔軟化」を決定し、長期金利の上限は1.0%を目途としたうえで、それまで毎営業日実施していた指値オペによる厳格なコントロールは行わない運用に変更された。
こうした金融市場調節方針のもとでの各種のオペレーションの運営のポイントを整理すると、以下のとおりである。
短期金利については、マイナス金利政策の三層構造下で、無担保コールレートは、概ね-0.08~-0.01%程度で推移した。GCレポレートは、総じてみれば-0.10%程度で推移したが、2023年7月や2024年2月には、資金調達や資金放出のバランスの偏りから、レートが大きめに上昇する局面がみられた。こうした中、日本銀行は、短期金利を安定的にマイナス水準で推移させる観点から、国債買現先オペを機動的かつ柔軟にオファーし、市中へ潤沢な資金供給を行った。
長期国債の買入れについては、前述の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、臨時の国債買入れなどを機動的に実施した。2023年7月の「長短金利操作の運用の柔軟化」以降、夏場から秋口にかけては、米国金利の上昇や本邦の金利先高観から本邦長期金利に強い上昇圧力がかかったが(長期金利は、11月初には一時0.97%まで上昇)、こうした局面では、金利上昇のスピード調整を図るとの考え方のもと、(1)臨時の国債買入れ(買入れ日程の追加を含む)を計7回実施したほか、(2)5年物の共通担保資金供給オペを計3回実施した。その後、長期金利の上昇圧力が弱まった11月以降は、債券需給が引き締まったことなどを踏まえ、国債買入れ額を段階的に減額した。以上のような買入れ運営の結果、月間の国債買入れ額は、4~6月の7兆円程度から10月には9兆円程度まで増加したあと、年明け以降は6兆円程度となった。
この間、長期国債以外の資産の買入れについてみると、ETFは、年間12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う方針のもと、2023年10月に701億円の買入れを1回行った。J-REITは、年間1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う方針のもと、新規の買入れ額はゼロとなった。
CP等については、約2兆円の残高を維持するという資産買入れ方針に沿って、1回当たり4,000億円の買入れを月2回、計8,000億円オファーした。社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準である約3兆円へと徐々に戻していく資産買入れ方針に沿って、1回当たり1,000億円の買入れを月1回オファーした。
日本銀行は、2024年3月18~19日の金融政策決定会合において、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、「金融政策の枠組みの見直し」を決定した。すなわち、これまでの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みおよびマイナス金利政策は、その役割を果たしたと考え、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営することとした。そのうえで、(1)金融市場調節方針は、無担保コールレート(O/N物)を、0~0.1%程度で推移するよう促すこと、(2)長期国債の買入れは、これまでと概ね同程度の金額で継続すること、(3)長期国債以外の資産買入れは、ETFおよびJ-REITについて、新規の買入れを終了するほか、CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了すること、(4)貸出増加支援資金供給、被災地金融機関支援オペ、気候変動対応オペの新規実行分は、貸付金利を0.1%、貸付期間を1年として実施すること、を決定した。
「金融政策の枠組みの見直し」直後の短期金利の動きをみると、所要準備額相当部分を除く日銀当座預金(いわゆる超過準備)全額への+0.1%の付利が適用開始となった3月21日には、無担保コールレートは前営業日の-0.001%から+0.074%まで上昇し、2024年3月末にかけて概ね同程度の水準で安定的に推移した。GCレポレートは、-0.10%程度からプラス圏まで上昇し、2024年3月末にかけて小幅のプラスで推移した。この間、長期国債の買入れについては、新しい方針に沿って、これまでと概ね同程度の金額で買入れを継続した。
日本銀行から
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