地域経済報告 —さくらレポート— (2008年1月)*
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2008年1月15日
日本銀行
全文の目次
- I.地域からみた景気情勢
- II.地域の視点
- 原材料価格上昇のもとでの企業の対応
── 最終消費者に近い「川下」段階にある地場企業を中心に
- 原材料価格上昇のもとでの企業の対応
- <参考1>地域別金融経済概況
- <参考2>2007年からの各地域の景気判断(総括)の推移
- <参考3>地域別主要指標
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照会先
調査統計局・地域経済担当
Tel.03-3277-2649
I.地域からみた景気情勢
各地域の取りまとめ店の報告によると、足もとの景気は、一部で弱めの動きがみられるものの、ほとんどの地域において拡大または回復方向の動きが続いており、地域差はあるものの、全体として緩やかな拡大基調にある。
すなわち、輸出や生産が増加を続けているほか、設備投資もすべての地域で増加傾向にある。個人消費については、雇用・所得環境の緩やかな改善傾向を背景に、全体として底堅く推移している。一方、住宅投資は、改正建築基準法施行に伴う着工の遅れ等から、すべての地域で大幅に減少している。こうしたもとで、企業の業況感は、原材料高の影響もあって、中小企業を中心にやや慎重さがうかがわれる。
こうした中、総括判断において、「拡大」としている関東甲信越、東海、近畿から「やや弱めの動き」とする北海道まで、依然、地域差がみられる。
なお、昨年10月の支店長会議時と比べると、総括判断は、全9地域のうち、5地域で現状維持としている。こうした中、東北では、個人消費の一部に弱めの動きがみられることから、やや下方修正した。また、北海道、北陸、関東甲信越では、住宅投資の減少に加え、雇用者所得に弱めの動きがみられること(北海道)、原材料高等の影響から企業収益が下振れていること(北陸)、あるいは設備投資の増勢がやや鈍化していること(関東甲信越)から、それぞれやや下方修正した。
07/10月判断 | 判断の変化 | 08/1月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 横ばい圏内の動きとなっている | ![]() |
やや弱めの動きとなっている |
東北 | 緩やかながら着実な回復を続けている | ![]() |
全体としてみれば、緩やかな回復を続けている |
北陸 | 緩やかに回復している | ![]() |
一部で弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している |
関東甲信越 | 緩やかに拡大している | ![]() |
緩やかな拡大基調にある |
東海 | 緩やかに拡大している | ![]() |
緩やかに拡大している |
近畿 | 緩やかに拡大している | ![]() |
緩やかに拡大している |
中国 | 全体として回復を続けている | ![]() |
全体として回復を続けている |
四国 | 緩やかながら持ち直しの動きが続いている | ![]() |
緩やかながら持ち直しの動きが続いている |
九州・沖縄 | 緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復を続けている |
個人消費は、関東甲信越、東海で緩やかな「増加」あるいは「回復」と判断しているほか、その他の地域では、「底堅く推移」、「持ち直し」あるいは「横ばい圏内」と判断している。
個別の動きをみると、大型小売店の売上については、衣料品で弱めの動きがみられる一方、食料品が堅調との報告が聞かれている。家電販売は、すべての地域で、薄型テレビ等のデジタル家電や高付加価値の白物家電を中心に、引き続き好調に推移している。乗用車販売は、軽自動車は減少しているものの、全体としては新車投入効果などから持ち直している。この間、旅行取扱高は、地域ごとのばらつきはあるものの、総じてみれば底堅く推移している。
前回報告との比較では、北陸がやや上方修正した一方、東北がやや下方修正した。
設備投資は、高水準の企業収益を背景に、すべての地域で、引き続き増加傾向にあり、製造業における能力増強投資を中心に増加している、との報告が目立っている。
前回報告との比較では、関東甲信越がやや下方修正した。
生産は、ほとんどの地域で、「増加している」ないしは「高水準を持続」と判断している。この間、北海道が「概ね横ばい」と判断している。
業種別の特徴をみると、加工業種では、電子部品・デバイスが、デジタル家電向けを中心に好調との報告が多くの地域から聞かれているほか、一般機械でも、半導体製造装置や工作機械等を中心に、また、輸送機械でも、輸出向けを中心に、高水準の生産を続けている。素材業種では、建設関連の窯業・土石や木材・木製品で弱めの動きがみられる一方、化学や紙・パルプが高操業を維持しているなど、引き続き業種間のばらつきがみられる。
前回報告との比較では、四国が上方修正、北陸、関東甲信越、九州・沖縄がやや上方修正した。
雇用・所得環境をみると、雇用情勢については、多くの地域で「改善を続けている」と判断している。もっとも、「有効求人倍率が高水準で推移」とする東海から、北海道の「横ばい圏内で推移」まで、地域差は依然として大きい。
所得面は、多くの地域で、緩やかな「増加」、「改善」、「回復」としているほか、近畿で「底堅く推移」していると判断しているが、中国では「概ね横ばい圏内で推移」としている。また、北海道では、企業の人件費抑制姿勢が続いていることもあって、「弱めの動き」と判断している。
前回報告との比較では、雇用情勢はすべての地域で判断を据え置いているが、所得面については、北海道、近畿が判断をやや下方修正した。
需要項目等
個人消費 | 設備投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|
北海道 | 横ばい圏内の動きが続いている | 増加している | 概ね横ばいとなっている | 雇用情勢は、横ばい圏内で推移している。雇用者所得は、弱めの動きとなっている |
東北 | 総じて底堅く推移している | 製造業を中心に増加している | 高水準を持続している | 雇用情勢をみると、改善が一服している。雇用者所得は、緩やかな改善を続けている |
北陸 | 一部に弱めの動きがみられるものの、持ち直しの動きが続いている | 製造業を中心に高水準の前年を1割強上回る増加を見込んでいる | 増加テンポを幾分強めている | 雇用情勢をみると、引き続き改善傾向をたどっている。雇用者所得は、緩やかながら増加している |
関東甲信越 | 緩やかな増加基調にある | 増加基調にある | 増加している | 雇用情勢は、改善を続けている。雇用者所得は、緩やかな増加を続けている |
東海 | 基調として緩やかに回復している | 増加を続けている | 増加している | 雇用情勢をみると、常用労働者数は増加している。この間、有効求人倍率は高水準で推移しているが、足もと幾分弱含んでいる。雇用者所得は、改善している |
近畿 | 底堅く推移している | 増加している | 増加している | 雇用情勢は、改善を続けている。雇用者所得は、基調としては底堅く推移している |
中国 | 一部に弱めの動きがみられるものの、概ね底堅さを保っている | 堅調に推移している | 増加基調にある | 雇用情勢をみると、有効求人倍率は引き続き高めの水準を保っている。雇用者所得は、概ね横ばい圏内で推移している |
四国 | 全体として底堅く推移している | 製造業を中心に増加している | 緩やかに増加している | 雇用情勢は、緩やかな改善の動きを続けている。雇用者所得は、全体として緩やかに回復しつつある |
九州・沖縄 | 底堅く推移している | 増加している | 増加傾向にある | 雇用情勢は、緩やかに改善している。雇用者所得は、緩やかに改善している |
II.地域の視点
原材料価格上昇のもとでの企業の対応
──最終消費者に近い「川下」段階にある地場企業を中心に
原油、穀物等の国際商品市況の上昇・高止まりを背景に、企業の原材料コストが大幅に上昇しているほか、燃料費や物流費の上昇も続いている。こうした状況下、これまで値上げに慎重であった最終消費者に近い「川下」企業(食品、紙・パルプ等の消費関連の製造業や小売、飲食・宿泊、サービス等)においても、価格交渉力やコスト吸収力の違い等による「ばらつき」はみられるが、ここにきて値上げに踏み切る動きが徐々に広がりつつある。
こうした動きの主な背景としては、まず、企業努力だけでは収益確保が難しくなっていることが挙げられる。さらに、(1)業界のプライス・リーダーが値上げに踏み切ったこと、(2)原材料価格上昇に対する消費者の認識が高まりつつあること、(3)企業や消費者において「食の安全・安心」志向が強まりつつあること等の環境の変化も影響しているとみられる。
具体的な値上げの方法としては、(1)新製品の投入やメニュー改定等を通じた値上げのほか、(2)内容量の減量や部材の変更、特売内容の見直し(対象品の削減や値引率の圧縮)等による「実質的な」値上げが広がりをみせている。さらに、ここにきて(3)仕入コストの上昇分を販売価格に上乗せする「単純な」値上げも広がりつつある。もっとも、企業では、これによる売上減少を回避するため、商品や商圏の特性(値上げに対する認知度、所得水準による売れ筋の違い)に応じたきめ細かな値上げ幅の設定、自主企画商品の投入、商品陳列方法の見直しによる目新しさの演出等にも注力している。
一方で、競合の激化や差別化の困難さ、需要の弱さ等を背景に、依然として、値上げに踏み切れない先や値上げの浸透が進まないとする先も少なくない。例えば、戦略的に価格を据え置いている総合スーパーとの競合に直面する地場スーパーや、価格以外に差別化が難しい中小のサービス業(ガソリンスタンド、クリーニング等)などでは、「コスト上昇分の販売価格への転嫁が十分でないほか、顧客を繋ぎ止めるため、場合によっては値下げせざるを得ない」との声も聞かれており、今後も、大手や他社の動向を眺めながらの受身の対応を余儀なくされるとみられる。こうしたもとで、中小企業の収益が一段と圧迫されるのではないかと懸念する向きも多い。
先行きも原材料価格の上昇が続くとの見方が多い中、企業は、改めて中長期的観点からの収益力強化の必要性を感じている。このため、例えば、代替エネルギーへの切り替え等、これまで以上に踏み込んだコスト削減に着手しているほか、既存のノウハウを活かしつつ、新しい事業分野へ経営資源をシフトする動きもみられている。また、仕入コスト抑制のため同業他社や異なる業態と事業連携する動きも活発化してきている。