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地域経済報告 —さくらレポート— (2008年4月)*

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2008年4月18日
日本銀行

全文の目次

  • I.地域からみた景気情勢
  • II.地域の視点
    • 1.グローバル需要の取り込みに向けた企業の対応について
      ──中堅・中小製造業や非製造業の動きを中心に
    • 2.地域からみた最近の雇用・賃金情勢について
  • <参考1>地域別金融経済概況
  • <参考2>地域別主要指標

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局・地域経済担当

Tel.03-3277-2649

I.地域からみた景気情勢

 各地域の取りまとめ店の報告によると、足もとの景気は、地域差はあるものの、エネルギー・原材料価格高の影響などから、全体として減速している。

 すなわち、輸出は増加を続けている。もっとも、エネルギー・原材料価格高の影響などから、企業収益は、高水準ながら伸び悩んでおり、企業の業況感も慎重化している。そうしたもとで、設備投資は、多くの地域で増勢が鈍化している。個人消費については、一部に弱さがみられるものの、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、全体として底堅く推移している。一方、住宅投資は、回復の動きがみられるものの、なお低水準にとどまっている。こうしたもとで、生産は、足もと横ばい圏内で推移している。

 こうした中、総括判断において、減速しつつも緩やかな「拡大基調にある」とする東海、近畿から、「やや弱めの動きが続いている」とする北海道まで、依然、地域差がみられる。

 なお、1月の支店長会議時と比べると、総括判断は、全9地域のうち、北海道は現状維持としているが、その他の8地域は、生産や設備投資など、企業部門を中心にやや弱めの動きがみられることを理由に、やや下方修正した。

表 地域からみた景気情勢
  08/1月判断 判断の変化 08/4月判断
北海道 やや弱めの動きとなっている 不変 やや弱めの動きが続いている
東北 全体としてみれば、緩やかな回復を続けている 右下がり 足踏み感がみられている
北陸 一部で弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している 右下がり 減速している
関東甲信越 緩やかな拡大基調にある 右下がり やや減速している
東海 緩やかに拡大している 右下がり 緩やかな拡大基調にあるが、その速度は足もと鈍化している
近畿 緩やかに拡大している 右下がり 一部に減速の動きがみられるが、基調としては緩やかに拡大している
中国 全体として回復を続けている 右下がり 一部に弱さがうかがわれるものの、全体として回復を続けている
四国 緩やかながら持ち直しの動きが続いている 右下がり 持ち直しの動きがやや弱まっている
九州・沖縄 緩やかな回復を続けている 右下がり 回復に足踏みがみられる

 個人消費は、関東甲信越で緩やかな「増加」と判断しているほか、多くの地域では、「底堅く推移」ないしは「横ばい圏内の動き」と判断している。この間、北海道が「やや弱めの動き」と判断している。

 個別の動きをみると、大型小売店の売上については、食料品が堅調に推移しているものの、衣料品や雑貨、身の回り品を中心にやや弱めの動きがみられるとの報告が聞かれている。家電販売は、薄型テレビ等のデジタル家電を中心に、引き続き好調に推移している。乗用車販売は、新車投入効果などから持ち直したあと、足もとでは横ばい圏内の動きとなっている。この間、旅行取扱高は、地域ごとのばらつきはあるものの、総じてみれば国内旅行を中心に底堅く推移している。

 前回報告との比較では、北海道、東北、北陸、東海がやや下方修正した。

 設備投資は、企業収益が足もと伸び悩んでいることなどを背景に、高水準ながら増勢が鈍化している、との報告が目立っている。

 前回報告との比較では、北陸、関東甲信越、東海、近畿、四国がやや下方修正した。

 生産は、北海道、北陸、近畿、四国が「持ち直し」ないしは「増加」、「増勢」と判断しているほか、関東甲信越、中国、九州・沖縄では、「横ばい圏内の動き」ないしは「堅調に推移」と判断している。この間、東北、東海が、「このところ低下」ないしは「幾分反動減がみられる」と判断している。

 業種別の特徴をみると、地域ごとのばらつきはあるものの、加工業種では、電子部品・デバイスや輸送機械で、やや強めに推移した昨年後半の反動もあって、足もと弱含んでいるほか、食料品でも弱めの動きがみられる。素材業種では、鉄鋼や紙・パルプが堅調に推移している一方、建設関連の窯業・土石や木材・木製品に加え、繊維でも弱めの動きがみられるなど、引き続き業種間のばらつきがみられる。

 前回報告との比較では、北海道がやや上方修正した一方、東海が下方修正、東北、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄がやや下方修正した。

 雇用・所得環境をみると、雇用情勢については、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国が、「改善を続けている」ないしは「有効求人倍率が高め」などと判断している一方、北海道、東北、北陸、九州・沖縄では、「横ばい圏内で推移」ないしは「改善の動きが弱まっている」などと判断しており、地域差がみられる。

 所得面は、東北、関東甲信越、東海、四国が、緩やかな「増加」、「改善」ないしは「回復」と判断しているほか、北陸、近畿、中国が、「前年並み」、もしくは「底堅く推移」ないしは「横ばい圏内で推移」と判断している。この間、北海道では、「弱めの動き」と判断しているほか、九州・沖縄は、「改善に足踏みがみられる」としている。

 前回報告との比較では、雇用情勢については、東北、北陸、九州・沖縄がやや下方修正したほか、所得面については、東北、北陸、近畿、九州・沖縄がやや下方修正した。

需要項目等

表 需要項目等
  個人消費 設備投資 生産 雇用・所得
北海道 やや弱めの動きとなっている 堅調に推移している 緩やかに持ち直している 雇用情勢は、横ばい圏内で推移している。雇用者所得は、弱めの動きとなっている
東北 概ね底堅さを維持しているものの、一部に弱めの動きがみられている 高めの水準を維持している 高水準の域にあるものの、このところ低下してきている 雇用情勢をみると、足もとやや弱めの動きとなっている。雇用者所得は、緩やかな改善を続けているものの、先行き不透明感が強まっている
北陸 横ばい圏内の動きとなっている 高水準の投資を継続してきたこともあって、このところ一服感がうかがわれる 引き続き増加している 雇用情勢をみると、改善の動きが弱まっている。雇用者所得は、前年並みになっている
関東甲信越 緩やかな増加基調にある 足もと高水準ながら横ばいとなっている やや強めに推移した昨年後半の反動もあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている 雇用情勢は、改善を続けている。雇用者所得は、緩やかな増加を続けている
東海 底堅く推移している 高水準にあるが増勢は鈍化している 足もとは幾分反動減がみられている 雇用情勢をみると、高水準の生産等を背景に、常用労働者数は増加している。この間、有効求人倍率は高水準で推移している。雇用者所得は、改善している
近畿 底堅く推移している 一部に増勢鈍化の兆しがうかがわれるが、全体としては増加している 足もと概ね横ばいとなっているが、基調としては緩やかな増勢にある 雇用情勢は、改善を続けている。雇用者所得は、賃金に一部弱めの動きがみられるが、基調としては底堅く推移している
中国 一部に弱めの動きがみられるものの、概ね底堅さを保っている 足もと高水準を維持している 総じて堅調に推移している 雇用情勢をみると、有効求人倍率は幾分低下しつつも引き続き高めの水準を保っている。雇用者所得は、概ね横ばい圏内で推移している
四国 全体として底堅く推移している 製造業を中心に足もと高めの水準を維持しているが、先行きは減少の計画にある 緩やかに増加している 雇用情勢は、緩やかな改善の動きを続けている。雇用者所得は、全体として緩やかに回復しつつある
九州・沖縄 底堅く推移している 増加している 横ばい圏内の動きとなっている 雇用情勢は、このところ改善に足踏みがみられる。雇用者所得は、このところ改善に足踏みがみられる

II.地域の視点

1.グローバル需要の取り込みに向けた企業の対応について
── 中堅・中小製造業や非製造業の動きを中心に

 新興国を中心としたグローバルな需要が拡大する中、これを積極的に取り込もうとする動きが、地域による濃淡はあるものの、大企業・製造業から中堅・中小製造業や非製造業へと徐々に広がりをみせている。

 こうした動きの背景としては、足もとの海外経済を巡る不透明感の高まりにもかかわらず、中長期的にみれば、グローバル需要は、今後も拡大傾向を続けるとみられる一方で、国内需要は、人口減少等から先行き縮小するとの危機感が強まりつつある点が挙げられる。そのうえで、企業は、新興国の富裕層の消費スタイルが変化する中、高品質な「日本製品」や「日本式のきめ細かなサービス・文化」への関心の高まりという追い風も受けながら、中長期的な戦略のひとつとして、海外・国内市場におけるグローバル需要の取り込みに注力しつつある。

 まず、中堅・中小製造業の海外市場における動きについてみると、大企業からの受注の増加といった間接的な形だけではなく、自らが海外において現地需要を直接取り込む動きもみられている。また、成長分野(環境、インフラ整備関連等)を捉え販路を拡大している先や、従来、国内市場に軸足のあった内需型企業における海外での需要の取り込みも目立ち始めている。さらに、農水産物の輸出も徐々にみられている。こうした海外現地需要の取り込みといった動きは、アジア圏を中心に、ロシアやブラジル、中東などにも広がりつつある。

 また、非製造業についてみると、これまで遅れていた海外市場での展開も、小売や飲食、宿泊、サービスの拠点進出(中国が中心)や、建設における現地需要の取り込みの動きがみられ始める等、業種の裾野が広がりつつある。同時に、グローバル需要の国内市場への取り込みについても、世界的な観光資源等の地域の強みを活かした外国人観光客の誘致が徐々に活発化しているほか、訪日する外国人の様々なニーズ(ショッピング、留学、医療検診等)に対応した動きも、みられ始めている。

 グローバル需要の取り込みに成功している企業の特徴は、(1)世界に通用する高い技術力を有し付加価値を高めていること、(2)既存技術やノウハウの転用・強化により新たなニーズに対応していること、(3)入念な市場調査とそれを踏まえた工夫により、現地企業のニーズや外国人の嗜好にきめ細かく対応していること、(4)巧みなブランド戦略や連携等により、企業や観光地の強みを効果的に発信していること等が挙げられる。

 しかしながら、多くの課題が残されているのも事実。具体的には、海外においては、(1)知名度の低さや専門的な人材の不足等を背景とした販路開拓の難しさ、(2)決済・契約リスク、(3)現地拠点のマネジメントの難しさ、(4)政治リスク、(5)技術流出や模倣品の横行、(6)現地物流体制の未整備(品質管理の難しさ、トレーサビリティの低さ)等が指摘されている。また、外国人を受け入れるうえでは、ソフト面(外国人に対応できる人材等)、ハード面(宿泊施設や案内板等)の整備が十分でない、との声が多い。

 こうした課題の解決は容易ではないが、様々な工夫により克服し、「経済のグローバル化のメリット」をより一層享受できるような体制を構築していくことが期待される。

2.地域からみた最近の雇用・賃金情勢について

 最近の雇用・所得環境を窺うと、原材料価格の上昇に伴う企業収益の悪化等を反映し、足もと、改善の動きに一服感がみられるものの、総じてみれば労働需給は引き続きタイトであり、雇用者所得は緩やかな増加を続けている。

 すなわち、職種別には、学生の理系離れや高学歴化、少子化等の影響から採用が難しくなっているシステムエンジニア等の技術職や工業高校卒の技能工、また年齢別にはバブル崩壊後採用を抑えていた30歳前後の中堅層に対する需給が逼迫している。また、企業の採用スタンスは総じて積極的であるが、中小企業については、大企業に比べ知名度が低いほか、採用にかけられる費用が少ないこともあって、必要な人材の確保に苦戦している先が多い。
 このように人手不足感が強い状況下、企業は、人材の確保・繋留を企図して、(1)パート・アルバイトの時給引き上げのほか、(2)有能なパート・派遣社員等、非正規雇用の正社員化や、(3)女性や高齢者、外国人の活用、(4)福利厚生の充実化、等の動きを活発化させている。

 こうした状況を受け、業績好調な製造業の一部では、ベース・アップを実施する先がみられるが、多くの先では、足もと景気の先行き不透明感が強まっていること等から、人件費の増加を極力抑制しようとの姿勢は崩していない。
 すなわち、賃金については、人件費の固定的な増加に繋がるベース・アップではなく、業績に応じた賞与中心の処遇改善を行うスタンスにあるほか、原材料価格高等により収益が悪化している先では、賞与を削減する動きがみられる。また、業績への貢献度の低い部門や人材に対しては、処遇の見直しに踏み込む動きもみられる。さらに、非正規雇用についても、人件費の固定費化を避ける観点等から、都市部を中心に、安価で貴重な労働力としてのパート・アルバイトや派遣社員を活用する動きが引き続きみられる。