地域経済報告 —さくらレポート— (2009年10月)*
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2009年10月19日
日本銀行
全文の目次
- I.地域からみた景気情勢
- II.地域の視点
- 1.最近の雇用・所得動向
——企業の雇用・賃金調整を巡る動きを中心に—— - 2.環境・省エネビジネスへの取り組みと関連企業の対応
- 1.最近の雇用・所得動向
- <参考1>地域別金融経済概況
- <参考2>地域別主要指標
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照会先
調査統計局・地域経済担当
Tel.03-3277-2649
I. 地域からみた景気情勢
各地域の取りまとめ店の報告によると、足もとの景気は、引き続き地域差は残るものの、全体として持ち直しの動きがみられる。
すなわち、公共投資は、増加している。また、内外の在庫調整の進捗等から輸出、生産も持ち直している。一方、設備投資は、厳しい収益状況等を背景に、大幅に減少している。また、個人消費は、一部で政策効果がみられるものの、厳しい雇用・所得環境が続くなかで、弱い地合いが続いている。住宅投資も減少している。
こうしたなか、地域別総括判断を前回と比較してみると、北海道、東北、北陸、近畿、四国が状況の厳しさに関する記述を維持しつつも、景気の方向性については、全ての地域で変化が報告された。
09/7月判断 | 前回との比較 | 09/10月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 低迷している | ![]() |
低迷しているものの、持ち直しの動きもみられる |
東北 | 厳しい状況が続いているが、下げ止まりつつある | ![]() |
厳しい状況が続いているが、製造業を中心に持ち直しの動きがみられる |
北陸 | 依然として厳しい状況にあるが、下げ止まりの兆しがみられている | ![]() |
依然として厳しい状況にあるが、一部に持ち直しの動きがみられている |
関東甲信越 | 大幅に悪化したあと、下げ止まりつつある | ![]() |
持ち直しに転じつつある |
東海 | 輸出と生産の持ち直し等から、下げ止まりつつある | ![]() |
持ち直しつつある |
近畿 | なお厳しい状況にあるが、下げ止まりつつある | ![]() |
雇用面などに厳しさを残しつつも、持ち直しの動きがみられる |
中国 | 下げ止まりつつある | ![]() |
下げ止まりの状況のもとで、一部に持ち直しの動きがみられる |
四国 | 悪化を続けているが、一部に下げ止まりの兆しがみられる | ![]() |
依然として厳しい状況にあるものの、全体として下げ止まっている |
九州・沖縄 | 大幅に悪化したあと、下げ止まりつつある | ![]() |
持ち直しの兆しがみられるなか、下げ止まった状態にある |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
個人消費は、一部で政策効果がみられるものの、厳しい雇用・所得環境が続くなかで、各地域で弱い地合いが続いている。
個別の動きをみると、家電販売(薄型テレビ等)、乗用車販売(ハイブリッド車等)について、一部に政策効果がみられているものの、大型小売店の売上については、衣料品や宝飾品を中心に、弱い動きが続いている。また、旅行・レジャーは、一部に高速道路ETC割引の効果がみられているものの、総じて弱い動きが続いている。
前回報告との比較では、ほとんどの地域で、一部に改善の動きがみられるものの、基調に大きな変化はないと判断した。
設備投資は、厳しい収益状況等を背景に、大幅に減少している。
業種別にみると、製造業では電気機械、輸送機械、化学等で、非製造業では情報通信、卸・小売業等を中心に減少している。
前回報告との比較では、全ての地域で前回と同じ判断となった。
生産は、持ち直している。
業種別の動きをみると、電子部品・デバイス(携帯電話向け部品、液晶部品等)、輸送機械(自動車、同部品)、化学(エチレン、塩ビ等)、鉄鋼などが、輸出の増加などから、持ち直しているほか、一般機械も下げ止まっている。一方、紙・パルプ、窯業・土石などでは、引き続き減産の動きが続いている。
前回は、北海道、東北、近畿、四国が、減少傾向にあると判断していたが、今回は、ペースに地域差がみられるものの、全地域で増加傾向にあると判断した。
雇用・所得環境をみると、引き続き悪化傾向をたどっている。
雇用情勢については、一部に有効求人倍率の下げ止まりを指摘する地域がみられるものの、全体としては雇用者数の減少が続いている。雇用者所得は、所定外給与や特別給与の減少等から減少を続けている。
前回報告との比較では、雇用情勢については、多くの地域で前回と同じ判断となったが、近畿は悪化したと判断した。一方、東北と東海は労働需給の悪化に歯止めがかかりつつあることから、悪化ペースが鈍化したと判断した。雇用者所得は、ほとんどの地域で前回と同じ判断となったが、近畿は減少ペースが加速したと判断した。
需要項目等
個人消費 | 設備投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|
北海道 | 政策効果を主因に、持ち直しの動きがみられている | 大幅に減少している | 一部に持ち直しの動きがみられる | 雇用情勢は、厳しい状況が続いている。雇用者所得は、所定外労働時間の抑制は幾分弱まりつつあるが、企業収益の悪化を背景に、企業の人件費抑制スタンスが根強く、厳しい状況が続いている |
東北 | 一部に政策効果がみられるものの、全体では弱い状況が続いている | 大幅に減少している | 内外における在庫調整の進展や海外需要の増加等を受けて、持ち直している | 雇用情勢をみると、厳しい状況が続いているものの、下げ止まりの兆しがみられる。雇用者所得は減少が続いている |
北陸 | 全体としては弱い状況にあるが、一部には政策効果から持ち直しの動きが続いている | 大幅に減少している | 中国、韓国向け等を中心とした輸出の増加などから、全体として着実に持ち直している | 雇用情勢をみると、常用雇用者数の前年割れが続いているほか、有効求人倍率も求職者数の増加や求人数の減少から、低水準で推移している。雇用者所得は、常用雇用者数や所定外給与・特別賞与等の減少から、引き続き前年を下回っている |
関東甲信越 | 夏季賞与の大幅減少を含め、雇用・所得環境が厳しさを増すなかで、弱い地合いが続いている | 厳しい収益状況を背景に大幅に減少している | 内外の在庫調整の進捗や政策効果を背景に増加している | 雇用情勢は、悪化している。雇用者所得は、企業収益の悪化等を映じて大幅に減少している |
東海 | 一部に持ち直しの動きがみられるものの、総じて弱い状態が続いている | 低水準で推移している | 増加している | 雇用・所得環境は、引き続き厳しい状況にあるが、労働需給の悪化には歯止めがかかりつつある |
近畿 | 耐久消費財に政策効果がみられるものの、夏季賞与の大幅減により雇用者所得の減少幅が拡大するなか、総じて弱めの動きを続けている | 企業収益が依然厳しい水準にあるもとで、減少している | なお低水準ながら、持ち直している。この間、在庫は減少を続けている | 雇用情勢をみると、有効求人倍率が低い水準となっているなかで、雇用者数は引き続き減少している。雇用者所得は、減少幅が拡大している |
中国 | 弱めの動きが続いている | 大幅に減少している | 持ち直している | 雇用情勢は、厳しい状況が続いているが、有効求人倍率は低下に一服感がうかがわれる。雇用者所得は、企業の業績悪化に伴う人件費抑制等を背景に、弱めの動きが続いている |
四国 | 一部に追加経済対策の効果がみられるものの、全体としては弱めの動きとなっている | 大幅に減少している | 持ち直しているものの、全体としては依然低水準で推移している | 雇用情勢は、悪化を続けている。雇用者所得は、大幅に減少している |
九州・沖縄 | 政策効果等から一部に持ち直しの動きがみられるものの、全体としては弱い動きが続いている | 減少している | 増加している | 雇用・所得情勢は、さらに厳しさを増している |
II.地域の視点
1.最近の雇用・所得動向——企業の雇用・賃金調整を巡る動きを中心に——
各地域の雇用・所得環境は、足もと輸出・生産が増加し続ける中にあっても、依然厳しい状況が続いている。雇用情勢は、有効求人倍率が低下を続けており、既往最低並みの水準となっているほか、完全失業率も上昇傾向をたどっており、過去最高に近い水準となっている。また、雇用者所得は、所定外、特別、所定内給与いずれについても減少を続けている。
昨秋以降の企業の雇用・賃金調整の動きをみると、内容面では、未曾有の急激な需要動向の変化のもとで、(1)非正規社員の大規模削減、(2)雇用調整助成金制度の活用、さらに(一部ではあるが)(3)所定内給与への切り込み(賃下げ)などが、決断・実行されている。また、実施順序の面では、需要の減少が年末から年始にかけて急激に進んだため、非正規社員の削減が先行、次に役員報酬や所定内給与の引き下げを実施、賞与の本格削減は夏季賞与から、という動きが少なからずみられた。
企業からは、未曾有の急激かつ大幅な業況悪化の中で、意外に倒産企業が少ないのは、雇用・賃金面での調整が、非正規社員削減、雇用調整助成金制度活用、給与の大幅カットと、多様なチャネルで柔軟かつ迅速に実施できたことが大きい、との声が聞かれている。このうち、非正規社員削減については、一時、実施し辛い時期はあったものの、段階的に実施することで最終的には削減目標を達成した先が多い。また、雇用調整助成金制度については、支給要件の緩和などの対応が高く評価されている。所定内給与の引き下げについては、組合が思いの外に柔軟な姿勢を示したとの声が聞かれており、未曾有の危機に直面し、会社の存続と正社員の雇用維持を最優先して、労使が足並みを揃えた姿がうかがえる。
ただ、労使が痛みを分け合う形で大胆な雇用調整を行い、苦境を乗り切ろうとする中、こうした仕組みに当てはまらないケースが存在する。具体的には、雇用調整の対象となった派遣社員などの非正規社員と、主婦層を中心とした労働市場への新規参入組については、企業が正社員の雇用を維持するためにアウトソースや新規採用を絞り込む中で、失業者数を押し上げる形となっている。また、小・零細企業については、需要の大幅減少の長期化を受けて、雇用調整助成金制度を利用するニーズが高まっており、実際、利用が増えているが、事務手続負担の重さなどから雇用調整助成金制度の利用が難しく、十分な雇用調整を実施できずに経営難に直面している先も少なくない模様。
この間、恒常的な人員・人材不足に悩む業種や企業(例えば、農業や介護サービスなど)の中には、この機に人員・人材の確保を模索する先も少なくなく、こうした先に余剰労働力の吸収を期待する声も聞かれるところ。しかし、多くの場合は、求職者のニーズとのミスマッチなどがネックとなって、こうした形での雇用確保は思うように進んでいない。なお、各地域の地公体では、これらの雇用創出に向けた取り組み・各種支援を行っているが、効果は限定的なものにとどまっている。
先行きについては、当面は厳しい状況が続くとの見方が多い。足もと輸出・生産が増加し続ける中、最悪期は脱したとの見方もあり、実際、既に一部では非正規社員の増員に踏み切る先もみられるものの、来年以降における需要動向および制度面での先行き見通し難もあって、多くの先は非正規社員の本格的な活用再開に二の足を踏んでいる。また、来年度の新卒も含め、新規採用数の大幅削減方針を表明している先が多いほか、小・零細企業については、業況の先行きを不安視する声もなお少なくなく、雇用・所得環境の改善は、当面、期待薄との見方が多い。なお、現在はまだ限定的ながら、生産の海外シフト方針を表明する先も散見され、最近の為替相場の動向などが、一段の雇用・所得環境悪化に繋がることを懸念する声も聞かれるところ。
2.環境・省エネビジネスへの取り組みと関連企業の対応
今回景気後退局面では、幅広い業種が業況悪化に直面したが、そうしたなかで今後の成長産業として注目されている数少ない分野の一つに環境・省エネビジネスがある。もとより環境・エネルギー問題は、世界的な懸案事項であり、関連ビジネスが成長トレンド上にあることには疑念の余地はないが、最近、新規参入の動きが業種、規模等の枠を超えて急速に拡大しているほか、本業における業績低迷を背景に参入するケースが増えている。
すなわち、かつて環境・省エネビジネスは、公益企業や比較的経営に余裕のある大企業および関連企業が、社会的責任(CSR)や企業イメージ向上の観点から採算はある程度度外視して環境汚染防止・リサイクル事業等に取り組むケースが多かった。しかし近年は、輸送用機械(自動車)、電気機械、素材(化学等)等の大企業およびその関連企業が、国際的な環境問題への関心の高まりや環境規制(例えば自動車のCO2排出規制)の強まり、エネルギー価格上昇等を背景に、市場の拡大を見込んで、本業の技術等を活かし得る新たな収益機会として、再生可能エネルギー関連事業(太陽光発電等)や環境配慮型商品事業(環境対応車<エコカー>、省エネ住宅<エコハウス>等)等に取り組む動きが増えている。そうしたなか、昨秋以降の景気後退局面においては、本業の不振に喘ぐ建設、一般機械等の中堅・中小企業が、分野の成長性や公的支援に惹かれ、業種転換や事業多角化目的で新規参入する動きが全国的に広がりをみせている。
しかしながら、最近の環境・省エネビジネスへの参入拡大については、懸念を表明する声も聞かれている。すなわち、現時点では、環境対応商品の一部(エコカーや太陽光発電関連等)を除き、多くのビジネスが発展初期段階にあって市場規模が小さく、政府・自治体の各種施策による需要喚起や公的需要に頼らざるを得ない状況にある。また、本分野は今後の成長分野として世界的にも注目を浴び、既に激しい競合が繰り広げられていることから、当面、収益面で多くを期待することは難しい。このため、(1)競争に耐え得る高い技術力、(2)需要を的確に捕捉するリサーチ力、(3)製商品を売り捌くマーケティング力等の面でかなりの優位性を持たないと生き残りは難しい、との見方から、安易な参入に懸念を表明する声が少なくない。大企業製造業や有力な地場中堅・中小企業を中心とした先発組では、長期間にわたる研究開発の蓄積や高い技術力、市場開拓力等を背景に、総じてみれば、着実に成果をあげつつあるが、本業不振のために最近になって新規参入した後発組では、需要見通しが期待先行であったり、技術開発体制が脆弱であったり、販路確保の目処が立っていないケースがみられる等、課題を抱えている先が少なくない。地方自治体や大学も巻き込んだ取り組みも少なくないなか、今後の動向には注視が必要と考えられる。