地域経済報告 —さくらレポート— (2010年4月)*
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2010年4月15日
日本銀行
目次
- <参考1>地域別金融経済概況
- <参考2>地域別主要指標
I. 地域からみた景気情勢
各地域の取りまとめ店によると、最近の景気情勢について、前回(10年1月時点)同様、ペースや広がりに差異があるものの、全ての地域が基調判断を「持ち直し」の動きがみられると報告した。
今回の地域別総括判断を前回と比較すると、2地域(四国、九州・沖縄)が基調に変化なしと判断したが、それ以外の7地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国)では、改善の動きの広がりやペースの加速など、基調に改善方向の変化があると判断された。
もっとも、ほとんどの地域が水準の厳しさ(北海道、東北、北陸、近畿)ないし地域や業種、企業間の格差の存在(関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄)に引き続き言及している。
10/1月判断 | 前回との比較 | 10/4月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 低迷しているものの、持ち直しの動きもみられる | ![]() |
低迷しているものの、持ち直しの動きが広がっている |
東北 | 厳しい状況が続いているが、製造業を中心に持ち直しの動きがみられる | ![]() |
厳しい状況が続いているが、持ち直しの動きが広がっている |
北陸 | 依然として厳しい状況にあるが、一部に持ち直しの動きがみられている | ![]() |
依然として厳しい状況にあるが、緩やかに持ち直している |
関東甲信越 | 地理的および業種間のばらつきを残しつつ、緩やかに持ち直している | ![]() |
地理的および業種間のばらつきを残しつつ、持ち直しの動きが続いている |
東海 | 業種間・企業間の格差が大きいものの、全体としては持ち直している | ![]() |
持ち直しを続けており、業種間・企業間の格差も徐々に縮小している |
近畿 | 雇用面などに引き続き厳しさを残しつつも、緩やかに持ち直している | ![]() |
雇用面などに厳しさを残しつつも、着実に持ち直している |
中国 | 下げ止まりの状況が続くもとで、一部に持ち直しの動きがみられる | ![]() |
持ち直している |
四国 | 一部に持ち直しの動きがみられるものの、全体としては横ばい圏内で推移している | ![]() |
一部に持ち直しの動きがみられるものの、全体としては横ばい圏内で推移している |
九州・沖縄 | 緩やかながら持ち直している | ![]() |
地域間のばらつきを残しつつも、全体として緩やかながら持ち直している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
個人消費は、引き続き全地域が政策効果の持続に言及しているほか、6地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄)が、耐久消費財以外の分野での持ち直しや下げ止まりの動きを報告した。しかし、過半の6地域(東北、北陸、関東甲信越、近畿、四国、九州・沖縄)が、引き続き全体としての地合いは弱い、と判断した。
品目別の動きをみると、引き続き、全ての地域が政策効果による家電および乗用車販売の増加に言及したが、うち2地域(四国、九州・沖縄)から、乗用車販売の増加ペース鈍化が報告された。百貨店等大型小売店については、全体としては厳しい状況が続いているが、4地域(北海道、東北、関東甲信越、東海)は「売上高の前年比減少幅は縮小している」等と報告した。また、6地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄)が、旅行関連需要の増加ないし下げ止まりの動きに言及した。
設備投資については、6地域(北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)が「下げ止まりに向けた動き」を報告したほか、「低水準ながら増加に転じた」との判断もみられた(北海道)。しかし、東北は「大幅な減少」、東海は「低水準での推移」が続いていると報告した。
内訳をみると、電気機械や輸送用機械等の輸出関連製造業における維持・更新投資の再開の動きを中心に、能力増強投資に踏み切る動きも報告された(北海道、中国、九州・沖縄等)。また、非製造業では、インフラ関連産業の大型投資に複数の地域(東海、九州・沖縄)が言及したほか、小売業での新規出店の動きも報告された(北海道等)。
生産については、引き続き全地域で、「持ち直し」ないし「増加」との基調判断が示された。また、一部の地域(北陸、中国等)は、持ち直し傾向を示す業種に広がりが出ていることを報告した。この間、一部地域(東北、四国)は、全体としては持ち直し傾向が続く中にあって、一部高操業先で増産ペースが鈍化していることを指摘した。
業種別の主な動きをみると、自動車・同部品、電子部品・デバイスについては、全地域で「増産」ないし「高操業」の状況にあることが報告されたが、一部地域(東北、四国)で増産ペース鈍化の動きが指摘された。鉄鋼については4地域(北海道、東北、東海、中国)から生産水準の上昇が報告された。一般機械については、6地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄)から生産水準の上昇が報告されたが、四国では低水準の操業継続が指摘された。この間、紙・パルプについては、3地域(北海道、東北、四国)から、減産ないし低操業が続いていることが報告された。
雇用・所得環境をみると、雇用情勢については、全地域が、厳しい状況が続いていると判断しているが、4地域(東北、関東甲信越、東海、中国)が、改善方向ないし下げ止まりの動きを指摘した。この間、6地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、中国、四国)で、有効求人倍率の改善の動きが報告された。
雇用者所得については、ほとんどの地域で減少傾向との判断が示された。この間、2地域(東北、東海)からは「名目賃金の前年比増加」、4地域(北陸、東海、中国、九州・沖縄)からは「所定外給与の増加」が報告された。
需要項目等
個人消費 | 設備投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|
北海道 | 政策効果を主因に、持ち直しの動きがみられている | 低水準ながらも増加に転じている | 持ち直しつつある | 雇用情勢は、厳しい状況が続いている。雇用者所得は、企業の人件費抑制スタンスが根強く、厳しい状況が続いている |
東北 | 一部に政策効果がみられるものの、全体では弱い状況が続いている | 大幅に減少している | 引き続き持ち直している | 雇用情勢をみると、厳しい状況が続いているものの、改善に向けた動きがみられている。雇用者所得は、引き続き減少しているものの、名目賃金は17か月振りに前年を上回った |
北陸 | 全体としては弱い状況にあるが、一部には政策効果から持ち直しの動きが続いている | 製造業を中心に下げ止まりつつある | 中国等アジア向けを中心とした輸出の増加などから、業種の広がりを伴いながら着実に持ち直している | 雇用情勢をみると、有効求人倍率は低水準で推移しているほか、常用労働者数も低調に推移しているなど、厳しい状況が続いている。雇用者所得は、このところ所定外給与は増加しているが、所定内・特別給与の減少により依然前年を下回っている |
関東甲信越 | 厳しい雇用・所得環境が続く中、全体としては弱い地合いが続いているものの、耐久消費財を中心に引き続き各種対策の効果がみられるほか、大型小売店売上高やホテル客室稼働率等、一部に持ち直しの動きがうかがわれている | 大幅な減少が続いているものの、企業収益の持ち直しの動きが広がる中、製造業を中心に減少幅は縮小している | 内外の在庫調整の進捗や政策効果を背景に増加を続けている | 雇用情勢は、厳しい状況が続いているが、労働需給の悪化には歯止めがかかっている。雇用者所得は、引き続き減少している |
東海 | 自動車等の耐久財が高水準で推移している中で、これまで低迷してきた非耐久財やサービス等にも底打ちの兆しがうかがわれ、全体として持ち直している | 低水準で推移している | 増加している | 雇用・所得環境は、引き続き厳しい状況にあるが、労働需給は持ち直している。雇用者所得は、所定外給与の増加を受けて名目賃金が前年比プラスに転じていることから、前年並みの水準まで持ち直している |
近畿 | 耐久消費財が政策効果により持ち直している一方、雇用者所得の減少が続く中、その他の分野では弱い動きが続いている | 企業収益の改善が続く中、下げ止まりに向けた動きがみられている | 輸出の増加や省エネ家電への政策支援を背景に、増加している。この間、在庫は減少を続けている | 雇用情勢をみると、有効求人倍率が低い水準となっている中で、雇用者数は引き続き減少している。賃金は、弱い動きが続いている。雇用者所得は、減少が続いている |
中国 | 経済対策の効果などから耐久消費財を中心に持ち直しの動きがみられる | 下げ止まりつつある | 緩やかに増加している | 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、有効求人倍率は大幅に低下した後、一部製造業などで新規求人の動きがみられており、幾分改善してきている。雇用者所得は、全体として企業の業績不振に伴う人件費抑制等を背景に弱い動きが続いているものの、所定外給与については、生産の持ち直しに伴い増加している |
四国 | 各種対策の効果から耐久消費財の販売が高水準で推移しているものの、厳しい雇用・所得環境のもとで、全体としては弱めの動きとなっている | 概ね下げ止まりつつある | 緩やかに持ち直しているものの、足もとそのペースは幾分鈍化している | 雇用情勢は、引き続き厳しい状況にある。雇用者所得は、減少している |
九州・沖縄 | 政策効果等から耐久消費財が増加しているほか、高額商品・サービスの一部で動きがみられるものの、全体としてはなお弱い動きが続いている | 低水準ながら概ね下げ止まっている | 緩やかながら着実に増加している | 雇用・所得情勢は、厳しい状態にある。新規求人倍率は前年を上回ったものの、有効求人倍率が依然として低い水準となっているほか、常用労働者数も引き続き減少傾向をたどっている。一人当たり現金給与総額は、所定外給与が前年を上回ったものの、全体としては前年を下回っている |
II.地域の視点
最近の地場企業の設備投資動向
各地域における地場企業の設備投資動向をみると、業種間、地域間、規模間に格差を残しながらも、下げ止まりの動きがみられる。即ち、製造業をみると、輸出関連製造業では大企業を中心に、設備投資の抑制姿勢を緩め、能力増強投資に踏み切る先もみられる。一方、内需関連製造業では、需要低迷や価格競争激化による収益悪化を背景に、抑制的な姿勢を続ける先が多い。この間、非製造業については、公共投資の減少傾向や消費者の節約志向、企業の経費節減等を背景に抑制的な姿勢を続ける先が多いものの、生き残りをかけた業種転換や営業力強化のための投資を行う先や、独自の経営戦略で業績を伸ばし、地価下落等を梃子にむしろ投資姿勢を積極化する先も少なくなく、二極化傾向がうかがわれる。
やや詳しくみると、製造業では、輸出関連(電気機械、輸送用機械、一般機械、鉄鋼等)の大企業を中心に、設備投資の抑制姿勢を緩める動きが広がっている。内容をみると、緊急避難的に先延ばししていた維持・更新投資の復活や、拠点統廃合関係を含む合理化関連投資が中心ながら、能力増強関連の設備投資に踏み切る先もみられる。
もっとも、海外企業との競争が激しさを増す中、能力増強投資を海外で実施ないしその検討を行っている先も多く、設備投資の抑制姿勢の緩和が、必ずしも全面的には国内需要につながり難くなっている可能性が示唆された。また、多くはないが、国内工場を海外に移管する動きも見受けられる。
この間、中小企業については、生産水準が低迷を続けている先が多いほか、生産水準は回復しても単価が低迷している、あるいは取引先が海外進出を検討しており受注見通しが不透明といった状況のもと、慎重な姿勢を続ける先が多い。国内で能力増強投資を行う先や、取引先に追随して海外投資を行う先は、ごく一部に限られている。
一方、内需関連製造業(食料品、紙・パルプ、印刷、繊維、窯業・土石、木材・木製品等)については、特定のヒット商品(酒類等)にかかる投資が一部にみられるものの、需要回復の目処が立たない中、抑制的な設備投資姿勢を維持する先が多い。
この間、研究開発投資については、新興国との競争激化や今後の需要構造の変化等をにらみ、業種を問わず、競争力強化や、新分野開拓(環境、バイオ、医療、介護等)を企図して、高水準の維持や増額を計画する先が多い。
なお、国内における生産拠点再編を受けて、廃止先と統合先で明暗を分ける事例が少なからず見受けられる。もっとも、廃止、統合の決め手は区々であり、例えば、(1)取引先(消費地)との距離、(2)交通インフラ、(3)労働力確保の難易、(4)自然環境(天候、天変地異リスク等)、(5)周辺環境、(6)地公体の企業誘致・つなぎ止めに向けた取組みスタンス等、様々な事由が挙げられ、これと言った決め手(十分条件)がある訳ではない。例えば、同じ地域に廃止される拠点と統合される拠点が存在するケースもみられる。
そうした中、各地公体では、(1)工業団地の土地価格の大幅引き下げや、(2)補助金等助成要件の緩和、(3)助成限度額の引き上げ、(4)課税減免措置(固定資産税、不動産取得税)の強化・新設、(5)インフラ整備(企業団地内の保育所設置等)、(6)設備貸与料金引き下げ、(7)個別企業訪問の強化等、追加的な企業誘致・つなぎ止め策を打ち出す先が相次いでいる。また、成長が期待される分野(環境関連等)や国内定着が期待される施設(研究・開発施設)などに的を絞って施策を厚めに施す地公体もみられる。
非製造業を詳しくみると、建設業では、公共投資の減少傾向と低水準で推移する国内設備投資を背景に、抑制的な姿勢を示す先が多いが、一部には、生き残りをかけて、共通性のある業種(農業、林業)や成長産業(介護、リサイクル)への業種転換・多角化を図るための投資に踏み切る先もみられる。
運輸業でも、価格競争が激しさを増す中、抑制的な姿勢を続ける先が大勢ながら、差別化を図るための投資(産業廃棄物輸送用設備、総合ロジスティクス・サービス用施設等)を実施する先もみられる。
小売業や外食業でも、需要低迷と厳しい価格競争が続く中、店舗統廃合や出店抑制等を続ける先が多いが、一部では、(1)独自の経営戦略により売上を伸ばす先(ドラッグストア、家具販売等、外食、スーパー等)が、地価下落等を好機到来と捉え、出店を加速しているほか、(2)生き残りをかけて店舗リニューアル等営業力の強化等を企図した投資に踏み切る動き(百貨店等)や、(3)いち早くリストラに目処を付け、積極姿勢に転じた先(家電量販店等)もみられる。
先行きについては、企業による費用構造改善の取組みが進み、世界的な需要回復と相まって収益が改善するにつれて、設備投資も、増加の裾野を広げ、回復傾向が明確化していくものとみられる。しかし、上述の通り、(1)製造業大企業では、今後の需要増加に対応する能力増強投資のかなりの部分を海外で実施することを計画ないし検討している先が多いこと、(2)その結果、一般機械製造業や建設業等の設備投資関連産業への波及効果も割り引かれる可能性があること、(3)下請け中小企業では、取引先の海外進出について行けず、海外企業に受注を奪われる先も少なくないと思われること、等の事情を勘案すると、設備投資およびその関連最終需要の増加テンポは、比較的緩やかなものになる可能性がある。
そうした中で、中小企業を中心とした業種転換や業務範囲拡大を企図した新規分野での設備投資の動きに期待が高まる一方、これらの動きを促進、サポートする体制の整備・強化を求める声も強まっている。
日本銀行から
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