地域経済報告 —さくらレポート— (2012年7月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2012年7月5日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(12年4月)と比較すると、全地域から改善方向の報告があった。各地域の判断をみると、多くの地域が「緩やかに回復している」、「持ち直している」などとしている一方、いくつかの地域では「持ち直しの動きもみられるが、なお足踏み状態にある」などとしている。
12/4月判断 | 前回との比較 | 12/7月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 横ばい圏内で推移している | ![]() |
持ち直しに向けた動きがみられている |
東北 | 震災関連需要による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回って推移しているほか、被災地でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している | ![]() |
震災関連需要が一段と強まる中、様々な経済活動の水準が震災前を上回るなど、回復している |
北陸 | 全体としては持ち直しの動きが続いているものの、一部でそのペースが緩やかになっている | ![]() |
海外経済減速の影響がみられるものの、全体としては持ち直しの動きが続いている |
関東甲信越 | 海外経済の減速や円高の影響等から、横ばい圏内の動きとなっている | ![]() |
復興関連需要や消費者マインドの改善傾向などを背景に国内需要が堅調に推移する中で、緩やかに持ち直しつつある |
東海 | 持ち直しの動きを続けている | ![]() |
緩やかに回復している |
近畿 | 足踏み状態となっている | ![]() |
持ち直しの動きもみられるが、なお足踏み状態にある |
中国 | 横ばい圏内の動きとなっている | ![]() |
持ち直しの動きもみられるが、なお横ばい圏内の動きとなっている |
四国 | 生産面でみられた弱めの動きが和らぎつつあるもとで、全体としては持ち直している | ![]() |
持ち直している |
九州・沖縄 | 全体として持ち直しの動きが続いているが、そのテンポは緩やかなものにとどまっている | ![]() |
一部になお弱めの動きもみられるが、全体として持ち直している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、関東甲信越から、「増加している」との報告があったほか、4地域(北海道、東海、近畿、四国)からも、「下げ止まっている」との報告があった。一方、中国からは、「低調に推移している」、北陸、九州・沖縄からは、「減少している」や「減少傾向にある」との報告があった。
設備投資は、企業収益が改善しつつあるもとで、維持・更新投資や新製品対応投資、震災後の復旧関連投資などを中心に、8地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、九州・沖縄)から、「持ち直し」や「増加している」等との報告があったほか、四国からは「底堅い動き」との報告があった。
個人消費は、自動車に対する需要刺激策の効果や被災地での震災関連需要などを背景に、7地域(東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「増加を続けている」や「持ち直し」、「堅調に推移している」との報告があったほか、北陸からも、「底堅い動きとなっている」との報告があった。一方、北海道からは、「横ばい圏内で推移している」との報告があった。
大型小売店販売額は、消費マインドが改善傾向にあるもとで高額品などが堅調なことから、多くの地域から「持ち直し」や「底堅く推移している」との報告があった。ただし、東海や近畿からは、「スーパーは弱めの動き」との報告があった。
乗用車販売は、全ての地域から、需要刺激策の効果などを背景に、「高水準が続いている」や「増加を続けている」等の報告があった。
家電販売は、薄型テレビなどの駆け込み需要の反動により、東北を除く全ての地域から、「低調に推移している」や「減少している」との報告があった。一方、東北からは、「震災に伴う買い替え需要が引き続きみられることもあって堅調に推移している」との報告があった。
旅行関連需要は、ほとんどの地域から「持ち直し」との報告があった。
住宅投資は、東北から、「増加している」、4地域(関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄)から、「持ち直している」との報告があったほか、東海からは、「底堅く推移している」との報告があった。一方、北海道からは、「持ち直しの動きが鈍化している」、北陸や四国からは、「弱い動きとなっている」との報告があった。
生産は、国内需要の持ち直し等を背景に、東北と東海から、「増加している」、4地域(北海道、北陸、関東甲信越、四国)から、「持ち直し」等の報告があったほか、近畿や中国からは、「一部に持ち直しの動きがみられる」との報告があった。一方、九州・沖縄からは、「全体としては横ばい圏内の動き」との報告があった。
業種別の主な動きをみると、輸送機械は4地域(北海道、東北、関東甲信越、東海)から、「増加している」、中国から、「操業度を幾分引き上げている」、2地域(四国、九州・沖縄)から、「高水準の生産を維持している」との報告があった。一般機械、鉄鋼でも、多くの地域から、「高水準の生産を続けている」、「緩やかに増加している」等の報告があった。こうした中、電子部品・デバイスについては、東北、関東甲信越からは、「減少している」、「弱い動き」、中国、九州・沖縄からは、「横ばい圏内の動き」となっている一方、北海道、北陸、東海は、「持ち直している」、「持ち直しの動きがみられる」と区々の動きとなっている。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「引き続き厳しい状況にあるが、改善の動きがみられる」との報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「回復している」や「改善の動きがみられる」等の報告があった。また、雇用者所得は、多くの地域から「下げ止まっている」等との報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 下げ止まりつつある | 製造業中心に持ち直している | 一部に持ち直しの動きがみられるものの、全体としては横ばい圏内で推移している | 持ち直しの動きが鈍化している | 持ち直しに向けた動きがみられている | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は厳しい状況の中で緩やかに持ち直しているものの、雇用者所得は弱めに推移している |
東北 | 震災復旧関連工事の発注本格化に伴い、大幅に増加している | 増加している | 震災関連需要に加え、雇用環境の回復もあって増加を続けている | 震災に伴う建て替え需要等から増加している | 海外経済減速等の影響から、一部の業種で弱めの動きがみられているものの、堅調な内需や被災企業の復旧等から増加している | 雇用情勢は、回復している |
北陸 | (減少傾向にあるものの)北陸新幹線関連の施設案件などがみられたことから、前年を上回っている | 製造業を中心に持ち直している | 底堅い動きとなっている | 弱い動きとなっている | 海外経済減速による影響が一部にみられるものの、全体としては生産水準が上昇している | 雇用情勢をみると、持ち直している。雇用者所得は、前年を上回っている |
関東甲信越 | 被災した社会資本の復旧工事などから、増加している | 震災復旧関連投資のほか、企業収益が持ち直しつつある中で、維持・更新のほか新規分野への投資もみられ始めるなど、増加している | 消費者マインドが改善傾向にあることに加え、自動車に対する需要刺激策などもあって、全体として緩やかに増加している | 持ち直しの動きが続いている | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得情勢は、厳しい状況の中、改善の動きがみられる |
東海 | 下げ止まっている | 着実に増加している | 緩やかに持ち直している | 底堅く推移している | 自動車関連を中心に増加している | 雇用・所得情勢は、生産の増加を受けて、改善の動きがみられる |
近畿 | 下げ止まっている | 企業収益に持ち直しの動きがみられる中、緩やかに持ち直している | 全体として緩やかな持ち直しの動きが続いている | 持ち直している | 海外経済減速などの影響から、なお弱めの動きが続いているが、一部に持ち直しの動きもみられる。この間、在庫は高めの水準となっている | 雇用情勢はなお厳しさを残しながらも徐々に改善しつつあり、賃金も下げ止まってきている。こうしたもとで、雇用者所得は、前年比横ばい圏内の動きとなっている |
中国 | 低調に推移している | 製造業を中心に持ち直している | 全体としては持ち直している | 持ち直している | 全体では横ばい圏内で推移しているが、一部に操業度を引き上げる動きがみられる | 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、有効求人倍率は横ばい圏内にある。雇用者所得は、全体として企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いているが、幾分改善傾向にある |
四国 | 概ね下げ止まっている | 底堅い動きとなっている | 持ち直している | 弱めの動きが続いている | 持ち直し基調が続いている | 雇用情勢は、改善基調にある。雇用者所得は、前年比小幅プラスとなっている |
九州・沖縄 | 減少している | 水準としては低めながら、前年度を上回っている | 乗用車販売が好調な動きとなっているほか、旅行・観光需要も盛り上がりがみられるなど、全体として堅調に推移している | 持ち直している | 自動車や一部の電子部品・デバイスについては好調ながら、全体としては横ばい圏内の動きにとどまっている | 雇用・所得情勢は、なお厳しい状態にあるが、労働需給は改善傾向にあるほか、雇用者所得は概ね前年並みとなっている |
II. 地域の視点
各地域の地場企業の投資動向について
各地域の地場企業の投資は、全体として持ち直している。国内外別にみると、拡大する海外需要の取り込みを企図して、大企業を中心に投資の軸足を国内から海外へと移していく動きが大きな流れとなっている。こうした企業の海外シフトに加え、国内での人口減少などもあって、国内投資については、引き続き慎重なスタンスにある先が少なくない。一方、リーマン・ショック以降に抑制されていた維持更新投資の再開や、取り組みを強化している分野への投資がみられているほか、東日本大震災の被災地では、中堅・中小企業の事業再開に向けた投資が動き始めるなど、国内投資についても前向きな動きが少しずつ広がっている。
まず、海外投資については、新興国を中心に需要の増加が続く中で、国際競争力を高め、こうした需要に対応するための能力増強投資を積極化させる先が多くみられている。こうした動きは、中堅・中小企業などにも広がりをみせており、取引先の海外展開に追随するケースに加え、新たな販路確保などを求めて、独自に海外へ投資する先がみられ始めている。また、新興国における生活レベルが向上し、財・サービスに対する「質」へのニーズが高まっていることを好機と捉え、従来よりも幅広い業種で、新たに海外進出する動きも出てきている。
地域別にみると、中国、タイ、インドネシアなどのアジア地域への投資が目立つ。このうち、生産コスト引き下げを主眼に海外に進出した先では、最近の中国での賃金上昇を受けて、より安価な労働力を求め、ミャンマーやカンボジアなどの周辺国に生産拠点を広げていく動きがみられている。
また、中国への投資を行う先については、現地需要の取り込みを主眼に置きつつも、収益力強化を目的とした生産設備の省人化投資や物流効率化投資、高付加価値品製造に向けた投資など、能力増強以外を目的にした投資を増やす先もみられている。
国内投資については、リーマン・ショック以降に落ち込んでいた生産や需要の回復を受けた投資が少しずつ広がっている。具体的には、製造業で、これまで見送っていた維持更新投資などを再開させる動きがみられているほか、非製造業でも、緩やかな増加が続く個人消費の取り込みに向け、商圏の拡大や域内シェア拡大を狙った出店強化や店舗リニューアルの動きが出てきている。
このほか、一つ一つは国内投資全体を引っ張っていくまでの力強さはないものの、各地域からは、以下のような分野に対する投資が積極化してきているとの声が聞かれた。
- (a)高齢化の進展により需要が拡大する「ヘルスケア関連」
- (b)消費者の「内食志向」、「食の安全・安心志向」などへの対応
- (c)世界的に普及が進み、市場が拡大する「スマートフォン関連」
- (d)メガソーラー事業など、震災後関心が高まっている「エネルギー関連」
- (e)物流コスト削減ニーズなどに対応する大都市周辺での「物流施設」
- (f)次世代の成長分野をにらんだ「研究開発投資」
この間、被災地では、大企業を中心に被災施設や設備の復旧に向けた投資がみられているが、ここにきて、中堅・中小企業などでも、国や地方自治体などの補助金支給などが後押しとなって、事業再開に向けた投資が動き始めている。
また、被災地での公共工事の増加などを見込んで、建設財関連企業が被災地に生産拠点を新・増設する動きや、建設業で被災地などに営業拠点を新設する動きがみられている。このほか、小売業では、震災関連需要や雇用環境の回復を背景に、震災前から計画し中断されていた出店計画を再開させたり、沿岸部などへの出店を加速させる動きがみられている。
なお、被災地では、建設関連コストの上昇が投資額の上振れに繋がるケースがみられており、今後の企業の投資行動への影響を懸念する声も一部に聞かれている。
このほか、震災を契機に、各地で、事業継続体制の強化に向け、各種施設の耐震工事や拠点の分散化、重要施設の2重化などの投資がみられている。
先行きの投資スタンスをみると、海外経済減速の長期化の影響が懸念材料ではあるが、海外投資については、基本的には、新興国需要の取り込みに向けた積極的な投資を続けていくとの声が多い。一方、国内投資については、「これまで抑制していた維持更新投資などが一巡すれば投資額を減らす」とか、「設備の過剰感が残る中にあって更なる投資は難しい」など慎重な声も根強く聞かれている。こうした中、企業が国内投資スタンスをより積極化していくためには、「現在動き始めている様々な事業が着実に実を結び、それが更なる投資と成長に繋がっていくことが必要だ」との声が聞かれている。
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