地域経済報告 —さくらレポート— (2012年10月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2012年10月22日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(12年7月)と比較すると、8地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、海外経済の減速した状態がやや強まっていることなどを背景に、前回までの持ち直しや回復の動きが一服している、またはそのテンポが緩やかになっているとの報告があった。
この間、東北からは、「一部に弱めの動きがみられるものの、公共投資が大幅に増加しているなど、全体として回復している」と、前回までの回復の動きが続いているとの報告があった。
12/7月判断 | 前回との比較 | 12/10月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 持ち直しに向けた動きがみられている | ![]() |
引き続き持ち直しの動きはみられるものの、このところ弱めの動きがみられ始めている |
東北 | 震災関連需要が一段と強まる中、様々な経済活動の水準が震災前を上回るなど、回復している | ![]() |
一部に弱めの動きがみられるものの、公共投資が大幅に増加しているなど、全体として回復している |
北陸 | 海外経済減速の影響がみられるものの、全体としては持ち直しの動きが続いている | ![]() |
横ばい圏内の動きとなっている |
関東甲信越 | 復興関連需要や消費者マインドの改善傾向などを背景に国内需要が堅調に推移する中で、緩やかに持ち直しつつある | ![]() |
横ばい圏内の動きとなっている |
東海 | 緩やかに回復している | ![]() |
回復の動きが一服している |
近畿 | 持ち直しの動きもみられるが、なお足踏み状態にある | ![]() |
全体として足踏み状態となっているが、一部に弱めの動きがみられている |
中国 | 持ち直しの動きもみられるが、なお横ばい圏内の動きとなっている | ![]() |
全体としてなお横ばい圏内にあるものの、輸出の減少等を背景として、生産等を中心に弱めの動きがみられる |
四国 | 持ち直している | ![]() |
持ち直し基調にあるものの、そのテンポが緩やかになっている |
九州・沖縄 | 一部になお弱めの動きもみられるが、全体として持ち直している | ![]() |
輸出、生産が弱めの動きとなるなど、全体として持ち直しのテンポが緩やかになっている |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、5地域(北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「増加している」や「持ち直しつつある」等の報告があったほか、3地域(北海道、東海、九州・沖縄)からも、「下げ止まっている」、「概ね横ばいで推移している」との報告があった。
設備投資は、8地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、九州・沖縄)から、「増加している」、「持ち直している」等の報告があったほか、四国からも「底堅い動き」との報告があった。
個人消費は、3地域(東北、関東甲信越、九州・沖縄)から、「底堅く推移している」との報告があったほか、5地域(北陸、東海、近畿、中国、四国)からは、「横ばい圏内の動きとなっている」、「持ち直しの動きが一服している」との報告があった。この間、北海道からは、「このところ弱含みとなっている」との報告があった。
大型小売店販売額は、関東甲信越、九州・沖縄から、「底堅く推移している」、北陸、四国から、「横ばい圏内の動き」との報告があった。この間、残暑の影響などもあって、北海道からは「このところやや弱めとなっている」、東北からは「前年を下回った」との報告があった。また、東海や近畿、中国からは、「スーパーは弱めの動き」との報告があった。
乗用車販売は、全ての地域から、エコカー補助金の終了を背景に、「このところ減少している」、「水準を切り下げている」等の報告があった。
家電販売は、多くの地域から、薄型テレビを中心に「低調に推移している」や「前年を下回っている」との報告があった。
旅行関連需要は、ほとんどの地域から「持ち直している」、「総じて堅調に推移している」等の報告があった。なお、ごく最近では「外国人観光客の来訪が減少している」等の報告があった。
住宅投資は、東北から、「増加している」、3地域(関東甲信越、近畿、九州・沖縄)から、「持ち直している」との報告があったほか、東海からは、「底堅く推移している」との報告があった。一方、北海道、中国からは、「持ち直しの動きが鈍化している」等の報告があったほか、北陸や四国からは、「弱い動きとなっている」との報告があった。
生産は、海外経済減速の影響などを背景に、6地域(北海道、関東甲信越、東海、近畿、中国、九州・沖縄)から、「減少している」、「弱めの動き」との報告があった。また、東北からは「横ばい圏内の動き」、四国からは「持ち直しのテンポが緩やかになっている」との報告があった。この間、北陸からは、「全体としては高操業を続けている」との報告があった。
業種別の主な動きをみると輸送機械は、5地域(北海道、関東甲信越、東海、中国、四国)から、「減少している」、「生産水準を引き下げている」等の報告があった。一般機械、電子部品・デバイスでも、多くの地域から、「弱い動きとなっている」等の報告があったほか、鉄鋼についても、5地域(北海道、北陸、東海、中国、九州・沖縄)から、「一部に弱めの動きがみられる」等の報告があった。この間、化学については、複数の地域から、医薬品の堅調などもあって「高水準の生産を維持している」、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、厳しい状況の中で、引き続き改善の動きがみられるとの報告があった。もっとも、一部の地域からは、「改善の動きに一服感がみられる」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「回復している」や「改善傾向にある」等の報告があった。雇用者所得は、北陸、四国から、「持ち直している」や「前年を上回って推移している」との報告があった一方、東海、近畿からは「持ち直しの動きが一服している」、「足もと幾分弱含んでいる」との報告があったほか、3地域(北海道、関東甲信越、中国)からは、「弱めの動きが続いている」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 下げ止まっている | 製造業中心に持ち直している | このところ弱含みとなっている | 持ち直しの動きが鈍化している | 足もと弱めの動きがみられている | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は厳しい状況の中で緩やかに持ち直しているものの、雇用者所得は弱めに推移している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している | 増加している | 品目によっては弱めの動きもみられるものの、底堅く推移している | 震災に伴う建て替え需要等から増加している | 海外経済減速の影響から、一部の業種で弱い動きがみられるものの、全体として横ばい圏内の動きとなっている | 雇用情勢は、回復している |
北陸 | 北陸新幹線関連の施設案件や小・中学校の耐震関連工事等を中心に増加している | 製造業を中心に持ち直している | 横ばい圏内で推移している | 弱い動きとなっている | 海外経済減速による影響がみられるものの、全体としては高操業を続けている | 雇用情勢は、持ち直している。雇用者所得は、持ち直している |
関東甲信越 | 被災した社会資本の復旧工事などから、増加基調にある | 震災復旧・エネルギー関連投資などを中心に、増加している | 底堅く推移している | 持ち直しの動きが続いている | 弱めの動きとなっている | 雇用・所得情勢は、厳しい状況の中、改善の動きがみられる |
東海 | 概ね横ばいで推移している | 着実に増加している | 持ち直しの動きが一服している | 底堅く推移している | 減少している | 雇用・所得情勢は、改善の動きに一服感がみられる |
近畿 | 増加している | 企業収益に持ち直しの動きがみられる中、緩やかに持ち直している | 横ばい圏内の動きとなっている | 持ち直している | 海外経済減速などの影響から、弱めの動きとなっており、在庫も高めの水準となっている | 雇用情勢はなお厳しさを残しながらも徐々に改善しつつある。賃金は、所定内・所定外給与は底堅く推移しているものの、夏季賞与に弱めの動きがみられる。こうしたもとで、雇用者所得は、足もと幾分弱含んでいるが、振れを均してみると横ばい圏内の動きとなっている |
中国 | 持ち直しに向けた動きがみられている | 製造業を中心にこれまでのところ持ち直している | 持ち直しの動きが一服している | 持ち直しの動きが緩やかになっている | 弱めの動きとなっている | 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、有効求人倍率は横ばい圏内にある。雇用者所得は、企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いている |
四国 | 持ち直しつつある | 底堅い動きとなっている | 横ばい圏内の動きとなっている | 弱めの動きが続いている | 持ち直しのテンポが緩やかになっており、一部で生産水準を引き下げる動きがみられている | 雇用・所得情勢は、改善基調にある |
九州・沖縄 | 関係予算の減少幅が縮小していることを背景に、下げ止まっている | 持ち直しの動きがみられる | 全体として底堅さを維持している | 持ち直している | 高操業を続ける業種もみられるが、海外経済の減速した状態がやや強まるもとで、全体としては弱めの動きとなっている | 雇用・所得情勢は、なお厳しい状態にあるが、労働需給は改善傾向にある |
II. 地域の視点
各地域における最近の観光関連需要の動向
各地域における最近の観光関連需要の動向をみると、全体として堅調に推移している。すなわち、各地域とも、東日本大震災後は、旅行自粛ムードなどから観光関連需要が一旦減少したものの、その後は、国内観光客を中心に、「持ち直している」とか、「堅調」といった声が多く聞かれている。ただし、地域別には、震災からの回復度合いに幅がみられている。新たな観光スポットがオープンした地域や交通インフラの整備が進んだ地域では、観光客が震災前の水準を上回っている一方、震災や豪雨などによる被災地域では、客足の回復が遅れている。この間、外国人観光客については、「欧州や韓国からの旅行客の戻りが鈍い」という声が多く聞かれる。また、増加していた中国などからの観光客についても、ごく最近では「中国からのツアーがキャンセルになった」とか、「中国や韓国からの新規申し込みが減少している」という声が聞かれる。
観光関連分野における最近の特徴としては、需要サイドで構造的な変化が生じていること、また、供給サイドでも、そうした変化への対応を進めていることが挙げられる。こうした需要・供給両サイドの動きがかみ合いつつあることが、最近の観光需要を下支えする一因になっていると思われる。
まず、需要サイドをみると、(a)高齢者の需要増加に加え、(b)旅行目的の多様化の深まりと、その裏側でのメリハリ消費の進展、(c)ブログやソーシャルネットワーキングサービス(以下「SNS」)などを通じた話題・体験の共有や共感の広がりによる需要喚起といった構造的な変化がみられている。
すなわち、団塊の世代が退職の時期を迎え、いわゆるアクティブシニアが増加しているもとで、「高齢者は、旅行やレジャーなどへの支出が積極的」とか、「時間や金銭面に余裕があることから、若年層に比べ長期滞在したり、質を求めて高価格帯のサービスを選択する傾向があり、観光関連需要を押し上げている」といった声が多く聞かれている。また、団体旅行から個人旅行へのシフトが進んできていることで、「団体客向けの定型的な観光商品が苦戦する」一方、インターネットの普及と検索の利便性向上により、「ガイドブックに載っていない、あるいは、地元の人しか知らないといったニッチな情報や、自分が興味を持つ分野についてのより深い情報・体験を求める観光客が増えている」との声が聞かれる。こうした中で、観光客の消費行動は「旅の主目的については消費を惜しまない一方で、二次的なもの(例えば、交通費や宿泊費、土産物など)については支出を絞る」といった“メリハリ消費”の傾向が強まっているとの声も多い。さらに、スマートフォンやSNSの普及に伴い個人による情報発信が一般化したことで、「クチコミで人気を集める施設や商品が生まれたり、今まで注目されていなかった観光資源が一躍人気を集める」など、需要サイドからの情報発信による新しい観光関連需要の発掘がみられている。
次に、供給サイドでは、こうした需要サイドの構造変化に対して、(a)各セグメント(高齢者や女性)に特有のニーズの拾い上げ、(b)各地域が持つ独自の魅力に着目した新しい観光メニューの提示、(c)IT技術を活用した観光客へのきめ細かな現地情報の提供などにより、需要の取り込みを図る動きが進んでいる。
具体的には、観光関連需要に占める高齢者のウェイトが高まる中で、関連企業では、多様化する高齢者の観光に対するニーズにきめ細かく対応することや、「メリハリ消費の傾向は女性に強くみられる」として、女性の積極消費をターゲットにしたプラン・サービスを提供することで、需要の掘り起こしに成功している先がみられている。また、観光の目的が個人ごとに細分化され、ニーズが多様化していることに対応するため、地元の観光資源を再評価し、新たな観光メニューとして提示する「着地型観光」を強化する地域が増えている。さらに、観光客の選択肢を一段と増やし滞在期間の延長、宿泊の促進などに繋げようとの観点から、地域内あるいは複数の地域間で連携する試みも増えている。こうした豊富なプランやそれぞれの魅力を観光客に認知してもらうために、現地の雰囲気をタイムリーに伝える情報発信の工夫や、「地元ならでは」のコンテンツを現地で紹介するツールとしてのスマートフォン向けアプリの提供など、IT技術を活用した情報発信の強化に取り組む先が増えている。
このほか、中長期的な課題として、国内人口の減少傾向が続くもとで、国内観光客の獲得だけでは自ずと限界があるとして、地方公共団体や地元企業などが一体となって、外国人観光客の誘致に積極的に取り組んでいる地域が多い。こうした取り組みは、これまで、海外の商談会などでのトップセールスやホームページの多言語化といった現地へのPR活動、外国人スタッフの確保など国内の受け入れ体制の整備といったものが中心であった。しかし、最近は、国内観光客向けと同様に、「日本ならでは」の体験型観光メニューの提示や、複数の観光地が連携することで、外国人観光客に新たな日本の魅力を伝え、更なる観光関連需要を取り込もうとする動きがみられ始めている。
先行きの観光関連需要については、イベント開催などの短期的な変動要因はあるものの、「堅調な入込みが持続する」とか、「引き続き安定して推移する」といった声が多くなっている。ただし、国内観光客については、先行きの「景気悪化懸念」、「消費税率引き上げ」などによる消費者マインドの帰趨が気掛かりとする声が聞かれている。また、外国人観光客についても、「為替円高などによる来日客回復の遅れ」に加え、中国からの観光客のウェイトが高い先を中心に、「来日客の減少が長引かないかを懸念している」との声が聞かれている。
日本銀行から
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