地域経済報告 —さくらレポート— (2013年7月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2013年7月4日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(13年4月)と比較すると、8地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から判断を引き上げる報告があった。各地域からの報告をみると、家計・企業マインドが改善するもとで国内需要が底堅さを増しているほか、海外需要も持ち直しに向かっていることを背景に、多くの地域から、「持ち直している」等の報告があった。
この間、東北からは、「回復しつつある」と、前回からの変化はないとの報告があった。
13/4月判断 | 前回との比較 | 13/7月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 持ち直しの動きが続いている | ![]() |
持ち直している |
東北 | 生産が下げ止まるもとで、回復しつつある | ![]() |
回復しつつある |
北陸 | 持ち直しの動きがみられる | ![]() |
持ち直している |
関東甲信越 | 下げ止まっている | ![]() |
持ち直している |
東海 | 緩やかに持ち直している | ![]() |
持ち直している |
近畿 | なお弱めながらも、持ち直しに向けた動きが徐々に広がりつつある | ![]() |
緩やかに持ち直している |
中国 | 業種や規模によるばらつきを伴いつつも、全体としては持ち直しつつある | ![]() |
全体として緩やかに持ち直している |
四国 | 一部に弱めの動きがみられるものの、底堅く推移している | ![]() |
持ち直しつつある |
九州・沖縄 | 全体として横ばい圏内の動きを続けているが、内需関連を中心に持ち直しの動きがみられている | ![]() |
持ち直している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、8地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「増加している」、「増加しつつある」等の報告があった。
設備投資は、4地域(北海道、東北、関東甲信越、東海)から、「増加している」、「緩やかに増加している」等、3地域(近畿、中国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「持ち直しつつある」等の報告があった。また、四国から、「一部で弱めの動きがみられているものの、そうした影響を除いてみれば底堅さを増している」との報告があったほか、北陸からは「底堅く推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
個人消費は、消費者マインドの改善等を背景に、5地域(北海道、北陸、東海、近畿、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直しつつある」、「持ち直しの動きがみられている」等の報告があったほか、関東甲信越から、「底堅さを増している」との報告があった。この間、3地域(東北、中国、四国)からは、「底堅く推移している」、「横ばい圏内で推移している」等の報告があった。
大型小売店販売額をみると、百貨店は、多くの地域から、高額品の販売が堅調となっているなど、「増加している」、「持ち直しの動きが広がっている」等の報告があった。一方、スーパーは、ほとんどの地域で、「弱めの動きが続いている」等の報告があった。
乗用車販売は、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。
家電販売は、スマートフォンや節電機能に優れた白物家電等が堅調であるものの、テレビやパソコンが低調であることから、多くの地域から、「低調に推移している」等の報告があった。一方、複数の地域から、「全体としては横ばい圏内の動き」等の報告があった。
旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。
住宅投資は、3地域(東北、四国、九州・沖縄)から、「増加している」、近畿から、「緩やかに増加している」との報告があった。また、5地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、中国)から、「持ち直している」、「持ち直しが続いている」等の報告があった。
生産は、国内需要が底堅さを増しているほか、海外需要も持ち直しに向かっていることを背景に、北陸、東海から、「全体として増加している」、「増加傾向にある」との報告があったほか、5地域(北海道、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「緩やかに持ち直している」等の報告があった。また、東北、四国からは、「下げ止まっており、持ち直しに向かう動きがみられている」等の報告があった。
業種別の主な動きをみると、輸送機械は、6地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄)から、「増加傾向にある」、「持ち直している」等の報告があったほか、鉄鋼も、4地域(北海道、関東甲信越、東海、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。また、建設関連需要の増加などを背景に、金属製品について、北陸、四国から、「緩やかな増加基調にある」等の報告があったほか、窯業・土石についても、北海道から、「高水準の生産を続けている」との報告があった。また、一般機械でも、複数の地域から、「下げ止まっている」、「持ち直しの動きがみられる」等の報告があった。この間、電子部品・デバイスは、複数の地域から、「弱めの動きを続けている」等の報告があった一方、「増加している」、「持ち直しつつある」との報告もあった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、厳しい状況にあるものの、労働需給面を中心に「緩やかに改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は緩やかに改善している」等の報告があった。雇用者所得は、3地域(近畿、四国、九州・沖縄)から、「概ね前年並みとなっている」、「横ばい圏内の動き」等、3地域(関東甲信越、東海、中国)から、「弱めの動きが続いている」等の報告があった一方、北陸からは、「持ち直しつつある」との報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 増加しつつある | 緩やかに増加している | 天候要因による振れを伴いつつも、消費者マインドが改善する中、持ち直しの動きがみられる | 持ち直している | 国内外需要の回復から持ち直している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は他地域と比べ厳しい状況にあるものの、改善傾向にある。雇用者所得は、所定外給与が増加している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している | 増加している | 底堅く推移している | 震災に伴う建て替え需要等から増加している | 下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 北陸新幹線関連の施設案件や小・中学校の耐震関連工事等を中心に増加傾向を維持している | 製造業を中心に底堅く推移している | 持ち直しの動きがみられる | 持ち直している | 海外経済減速の影響が徐々に後退する中で、全体として増加している | 雇用情勢は、持ち直しつつある 雇用者所得は、持ち直しつつある |
関東甲信越 | 増加している | 非製造業を中心に増加基調にある | 底堅さを増している | 着実に持ち直している | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得情勢は、所得面が引き続き弱めに推移しているものの、労働需給面は緩やかに改善している |
東海 | 増加している | 着実に増加している | 持ち直しの動きがみられている | 持ち直している | 増加傾向にある | 雇用・所得情勢をみると、労働需給面では改善している |
近畿 | 増加している | 堅調な非製造業に加え、製造業でも前向きな動きが徐々に増加しており、全体として持ち直してきている | 消費者マインドの改善などから、緩やかに持ち直しつつある | 緩やかに増加している | 緩やかに持ち直している | 雇用情勢をみると、労働需給は緩やかに改善している。この間、賃金は弱い動きとなっているものの、雇用者所得は、振れを均してみると、なお横ばい圏内の動きとなっている |
中国 | 各種経済対策の効果から、増加している | 非製造業を中心に持ち直しつつある | 横ばい圏内で推移している | 持ち直しが続いている | 持ち直しつつある | 雇用情勢をみると、非正規雇用を中心に持ち直しの動きがみられ、有効求人倍率は改善している。雇用者所得は、弱めの動きとなっているものの、一部に今年度の夏季賞与の引き上げなど、持ち直しに向けた動きもみられる |
四国 | 増加している | 一部で弱めの動きがみられているものの、そうした影響を除いてみれば底堅さを増している | 全体としては横ばい圏内の動きが続く中、一部に持ち直しの動きがみられている | 増加している | 下げ止まっており、持ち直しに向かう動きがみられている | 雇用・所得情勢は、労働需給面を中心に緩やかに改善している |
九州・沖縄 | 増加を続けている | 非製造業を中心に持ち直している | 消費者マインドの改善などから、持ち直しの動きがみられている | 増加している | 持ち直している | 雇用・所得情勢は、厳しい状態が続いているが、労働需給面では、非製造業を中心に改善している |
II.地域の視点
事業・収益環境の変化を踏まえた地場企業の投資行動
1.企業の設備投資動向
各地域の地場企業の国内設備投資計画をみると、製造業では、なお慎重な投資姿勢を維持する先もみられるものの、売上・収益が改善しつつある中で、投資マインドが徐々に持ち直してきており、維持・更新や研究開発の再開・実施に踏み切る動きが徐々に広がりつつある。また、非製造業では、小売業やサービス業、運輸業などで店舗や拠点を新設する動きが強まっており、底堅さを増していくとみられる。このほか、成長が期待される分野への対応やエネルギー・防災関連投資も引き続きみられており、先行きの設備投資は、全体として緩やかな増加基調をたどる可能性が高まっている。
2.最近の事業・収益環境の変化を踏まえた投資行動の特徴点
製造業では、なお慎重な投資姿勢を維持する先もみられるものの、海外経済が徐々に持ち直しに向かっていることや為替相場の円安方向の動きに加え、これまでの経営体質改善の効果もあって、売上・収益が改善する企業が増えており、「これまでの我慢するスタンスから、チャンスがあれば前向きな投資を検討する動き」が出るなど、投資マインドが徐々に持ち直してきている。こうした中で、先送りしてきた機械等の維持・更新投資の再開、工場の移転・集約等を含む合理化・効率化投資や新製品開発のための研究開発投資の実施に踏み切る動きなどが、徐々に広がりつつある。
とくに、内外で市場の拡大が見込まれるスマートフォン関連、食料品、医薬品、高度・先端技術等の分野においては、需要取り込みや高付加価値化への対応を企図した能力増強投資や研究開発投資が増加している。
この間、国内外別の投資スタンスをみると、為替相場の円安方向の動きを受けた国内生産の採算改善から、国内での生産水準を高める動きが一部にみられているものの、能力増強のための設備投資は海外を優先させる基本戦略を維持する企業が多い。その背景としては、拡大する海外需要の取り込み、為替変動に影響されない生産体制の構築、生産・物流コストの削減等の狙いに変化がないことが挙げられている。こうした中、国内生産拠点においては、マザー工場としての機能向上に向けて、拠点整備を進めつつ新製品の開発や高付加価値化、成長分野への研究開発投資に注力する動きがみられている。また、海外生産の進展等に伴い余剰となった生産設備の集約や拠点再編等に併せた合理化・効率化投資もみられている。
非製造業では、消費関連業種において、高齢化の進展やライフスタイルの変化等に伴う消費者ニーズの変化への対応、都市部に集積する需要の取り込みを図るべく、既存の商圏や業態を超えた積極的な業容拡大を進める動きが強まっている。こうした中で、大手を中心とした競合他社や他業態の進出への対抗を意識して、地場企業でも市場シェアの維持や拡大を狙って出店・改装等の投資を積極化させている。
また、物流分野では、ネット通販の拡大や配送の小口化・迅速化への対応を進めるため、交通インフラの整備もあって、大型物流施設の新設などが大都市圏周辺でみられている。観光分野でも震災後の需要回復に加え、LCC就航等によるインバウンド需要増等の取り込みを狙った宿泊施設やレジャー施設の増改築が積極化している。このほか、医療介護関連、農林水産業関連など、今後の市場拡大が見込まれる分野での投資も引き続きみられている。
この間、中小企業においては、直面する需要の回復がさほど進んでいないとする声や、為替相場の円安方向の動きや原燃料高に伴うコスト上昇を指摘する声が聞かれている。さらに、既存設備の稼働率の低さや財務体質の改善を重視する姿勢もあって、なお慎重な投資スタンスを維持する先もみられている。もっとも、売上・収益の回復や経営改善の進展に伴い、先送りしてきた維持・更新や高付加価値化による競争力向上を目的とした投資を再開・実施する動きが増えつつある。その際、政府・自治体等による補助金等の投資促進策も投資の後押しに寄与している。
このほか、メガソーラー等の再生可能エネルギーによる発電事業の投資は引き続き全国で活発となっているほか、電力料金の値上がりや為替相場の円安方向の動きを受けたコスト増に対応することを目的に、省エネ関連投資に取り組む事例も多くみられる。また、工場移転や耐震補強などの防災関連や、震災の被災地における復旧・復興関連などの投資も引き続きみられている。
3.資金調達環境と今後の展望
企業の資金調達姿勢をみると、設備投資を増加させる企業でも現時点ではキャッシュフローや手元流動性で対応可能な範囲内にとどめる先が多い。もっとも、金融緩和が進む中にあって、企業の資金調達環境は一段と緩んだ状態となっており、中には借入を伴う設備投資を行う動きもみられるなど、企業の投資行動を下支えする方向に寄与しているとみられる。今後、金融緩和の効果がさらに浸透していくもとで、設備投資の増加基調がより確かなものとなっていくことが期待される。
日本銀行から
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