地域経済報告 —さくらレポート— (2013年10月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2013年10月21日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(13年7月)と比較すると、国内需要が堅調に推移し、生産が緩やかに増加している中で、雇用・所得環境にも改善の動きがみられていることから、全地域で判断を引き上げる報告があった。
各地域からの報告をみると、8地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「回復している」、「緩やかに回復している」等、北陸から、「着実に持ち直している」との報告があった。
13/7月判断 | 前回との比較 | 13/10月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 持ち直している | ![]() |
緩やかに回復しつつある |
東北 | 回復しつつある | ![]() |
回復している |
北陸 | 持ち直している | ![]() |
着実に持ち直している |
関東甲信越 | 持ち直している | ![]() |
緩やかに回復している |
東海 | 持ち直している | ![]() |
緩やかに回復している |
近畿 | 緩やかに持ち直している | ![]() |
緩やかに回復している |
中国 | 全体として緩やかに持ち直している | ![]() |
全体として緩やかに回復している |
四国 | 持ち直しつつある | ![]() |
緩やかに回復しつつある |
九州・沖縄 | 持ち直している | ![]() |
緩やかに回復している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、各種経済対策の効果等から、3地域(北海道、東北、九州・沖縄)から、「大幅に増加している」、6地域(北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国)から、「増加している」、「増加傾向を維持している」との報告があった。
設備投資は、4地域(北海道、東北、関東甲信越、東海)から、「増加している」、「緩やかに増加している」等、4地域(近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。また、北陸からは「底堅く推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境に改善の動きがみられること等を背景に、6地域(北海道、北陸、東海、近畿、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直しの動きがみられている」等の報告があったほか、関東甲信越から、「底堅さを増しており、都心部では強めの動きとなっている」との報告があった。また、東北、中国から、「底堅く推移している」との報告があった。
大型小売店販売額をみると、百貨店は、多くの地域から、高額品の販売が堅調となっているなど、「持ち直しの動きが続いている」、「堅調に推移している」等の報告があった。スーパーは、一部の地域で、「弱めの動きが続いている」との報告があった一方、複数の地域から、「下げ止まりつつある」、「持ち直しの動きがみられている」との報告があった。
乗用車販売は、新型車投入効果等を背景に、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。
家電販売は、節電機能に優れた白物家電が堅調であること等を背景に、多くの地域から、「底堅い動きとなっている」、「下げ止まりつつある」等の報告があった。
旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域で、外国人観光客が増加しているとの報告があった。
住宅投資は、7地域(東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「増加している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。また、北陸から、「着実に持ち直している」、北海道から、「緩やかに持ち直している」との報告があった。
生産(鉱工業生産)は、国内需要が堅調に推移しているほか、海外需要も持ち直しに向かっていることを背景に、4地域(北海道、北陸、近畿、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、中国、四国)から、「持ち直している」等の報告があった。また、東海からは、「高めの水準で推移している」との報告があった。
業種別の主な動きをみると、輸送機械は、「高操業を続けている」、「増加基調にある」等の報告があった。また、電子部品・デバイスは、「緩やかに持ち直している」等の報告があったほか、一般機械でも、「持ち直している」等の報告があった。鉄鋼は、「緩やかに増加している」等との報告があったほか、化学も、「増加している」等の報告があった。この間、金属製品について、「増加基調にある」等の報告があったほか、窯業・土石についても、「高水準の生産を続けている」との報告があった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、労働需給面が「緩やかに改善している」等の報告があったほか、雇用者所得についても、複数の地域から「持ち直しの動きがみられている」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は緩やかに改善している」等の報告があった。雇用者所得は、四国、九州・沖縄から、「概ね横ばい圏内となっている」等の報告があった一方、4地域(北海道、関東甲信越、東海、近畿)から、賞与や所定外給与の増加等を背景に、「改善しつつある」、「持ち直しの動きがみられている」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 各種経済対策を受けた公共工事発注の本格化から大幅に増加している | 緩やかに増加している | 消費者マインドの改善に雇用環境の緩やかな改善も加わり、持ち直している | 緩やかに持ち直している | 国内外需要の増加を背景に、緩やかに増産している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善している。雇用者所得は、所定外給与が増加しているほか、夏季賞与が前年を上回るなど持ち直しつつある |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している | 増加している | 底堅く推移している | 震災に伴う建て替え需要等から増加している | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 増加傾向を維持している | 製造業を中心に底堅く推移している | 持ち直しの動きがみられる | 着実に持ち直している | 着実に増加している | 雇用・所得は、持ち直している |
関東甲信越 | 増加している | 非製造業を中心に増加基調にある | 底堅さを増しており、都心部では強めの動きとなっている | 緩やかに増加している | 持ち直している | 雇用・所得情勢は、労働需給面が緩やかに改善しているほか、所得面でも持ち直しの動きがみられている |
東海 | 増加している | 一段と増加している | 緩やかに持ち直している | 増加している | 高めの水準で推移している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給面では改善しているほか、所得面でも改善しつつある |
近畿 | 増加している | 持ち直している | 消費者マインドの改善などから、緩やかに持ち直している | 増加している | 緩やかに増加している | 雇用情勢をみると、労働需給は改善している。こうしたもとで、雇用者所得も改善の動きがみられている |
中国 | 増加している | 非製造業を中心に持ち直している | 底堅く推移している | 増加している | 持ち直している | 雇用情勢をみると、緩やかに改善している。雇用者所得は、弱めの動きとなっているものの、持ち直しに向けた動きもみられる |
四国 | 増加している | 持ち直している | 緩やかに持ち直しつつある | 増加している | 持ち直しに向かう動きがみられている | 雇用・所得情勢は、労働需給面を中心に改善している |
九州・沖縄 | 大幅に増加している | 非製造業を中心に持ち直している | 消費者マインドの改善などから、持ち直しの動きがみられている | 着実に増加している | 緩やかに増加している | 雇用・所得情勢は、厳しい状態が続いているが、労働需給面では、非製造業を中心に改善している |
II.地域の視点
各地域における最近の消費行動の特徴と企業の販売・価格面での対応
各地域における本年入り後の個人消費の動向をみると、引き続き弱めの地域があるものの、年央にかけての消費者マインド改善や足もと雇用・所得環境に改善の動きがみられるもとで、多くの地域では緩やかな持ち直し、または底堅い基調となっている。やや仔細にみると、地域間では幅があり、都心部や地方中核都市、生産・建設工事・国内外の観光客が増加している地域では、高額品・高付加価値サービスや旅行・外食等の選択的支出を中心に前向きな消費行動がみられている一方、引き続き動意に乏しい地域も残っている。また、企業からみると、商圏の特徴(人口・産業構造等)、事業内容(取扱商品・サービス)、販売戦略の違いによって、各社の販売地合いに大きな差がみられている。
最近の消費行動の特徴をみると、生活必需的な食品や日用品等の基礎的支出については、各地域とも総じて消費者の抑制的な支出スタンスが続いている。一方、高額品・高付加価値サービスや旅行・外食・耐久消費財等の選択的支出については、株価上昇等による資産効果や消費者マインドの改善等を背景に「商品・サービスへの選好を上方にシフトする動き」や、「趣味・嗜好品や非日常的なイベント・サービス(ハレ消費・コト消費)には支出を惜しまない動き」がみられており、メリハリを意識した消費行動が進展している。この間、地方圏の企業からは、高額品や高付加価値サービス等の品揃えが充実している都市圏への消費流出が強まっているとの声も聞かれている。
消費者属性別にみると、シニア層や富裕層では資産効果や企業業績の回復等を背景に、高額品・高付加価値サービスに対する消費を増やしている。シニア層では孫のための消費や家族3世代での旅行需要などもみられており、勤労者世帯の消費の下支えになっている状況もうかがわれる。勤労者世帯においても、夏季賞与や所定外給与の増加など所得面に改善の動きがみられる中で、衣料品における定価販売での購入や旅行・外食等の支出が増加しているほか、一部の都市圏においては先行きの所得増加等を見越してローンを利用した消費も増えつつあるなど、部分的に節約志向を緩和する動きもみられている。また、働く女性の増加や労働参加率の上昇などを背景に、消費主体として女性の存在感が高まっているとの声も聞かれている。
この間、消費全体としては、今のところ消費増税を意識した動きは限定的なものとなっている。なお、一部の輸入高額品等については、先行きの価格上昇を見越して購入を急ぐ動きがみられるほか、家電・自動車等の耐久消費財等については、電力料金・ガソリン価格の上昇に対応して、省エネ性能の高い商品への買い替えの動きがみられている。
消費関連企業の販売戦略をみると、これまで注力してきたシニア層向けの需要掘り起こしが地域的な広がりをもって着実に進展しているほか、足もと消費意欲が旺盛な富裕層や女性向けにターゲットを絞った企画、共働き世帯や単身世帯の増加に対応した取り組みもみられている。さらに、多様化する消費者ニーズをとらえ、顧客の囲い込みまで視野に入れつつ、品質やトレンドを重視した自主企画商品(PB商品)の充実を図る動きもみられる。加えて、将来展望を踏まえ、ITや企業間連携を活用・強化して商圏や顧客層(若者、外国人等)の拡大を図る動きも活発化している。こうした中、長期にわたる低価格競争で採算が悪化している地場の小売、飲食店等では、消費者ニーズの変化にあわせ、高価格帯の品揃え充実や低価格路線の見直しにより、活路を見出そうとする動きも出てきている。
原材料や製商品の仕入価格が上昇している企業の価格設定行動をみると、市場の競合状況やブランド力によって、対応に大きな差がある。ブランド力のある趣味・嗜好品や高付加価値化を伴った商品・サービス等の値上げは、消費者段階まで波及しつつあり、高付加価値品については値上げが受け入れられやすい環境になりつつあるとの声が聞かれている。この間、一部の観光ホテル等では、国内外の観光客増加による需給バランス改善を受け、客室単価を引き上げる動きもみられている。
一方、消費者の低価格志向が根強い商品・サービス等では、トップブランドが値上げを率先している一部の加工食品等を除き、他社との競合が激しく、仕入価格の上昇を販売価格に転嫁できないとの声が多い。このため、小売業では、内容量を減らして価格を据え置く「実質値上げ」や、セール対象品目・頻度の見直し、商品構成の見直し(PB商品・高付加価値品の充実)等で採算を維持しようとする先が多い。中には、値上がりしている商品を敢えて特売品にすることで、集客を図っている先もみられる。また、価格交渉力の弱い中小食品製造業や飲食店等では、仕入先や原材料の見直し等のコスト削減努力を続けているが、「企業努力の限界」に来ているとの声も聞かれている。
先行きの個人消費は、当面は現状の基調が続き、今年度末にかけて消費増税前の駆け込み需要が消費の押し上げに働くとみる企業が多い。もっとも、地方公務員の給与減額や企業の撤退等の影響が懸念される地域があるほか、来年度以降については駆け込み需要の反動減の大きさなど現時点では見極め難い要素が多い。このため、消費の持続性は、来春の賃金引き上げなど雇用・所得環境の改善に依るところが大きいとの声が大勢となっている。
この間、各地域では、企業間連携等による需要喚起策が計画されているほか、観光ビザの発給要件緩和やLCCの就航路線増加、富士山の世界文化遺産登録、北陸新幹線の延伸開業、東京五輪の開催などが、国内外の観光客の増加や関連産業の雇用増加等を通じ、地域の消費に貢献するとの期待の声が聞かれている。
日本銀行から
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