地域経済報告 —さくらレポート— (2015年1月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2015年1月15日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(14年10月)と比較すると、北海道から、公共投資の減少など一部に弱めの動きがみられるとして判断を引き下げる報告があったものの、残り8地域では、景気の改善度合いに関する基調的な判断に変化はないとしている。
各地域からの報告をみると、国内需要が堅調に推移し、海外需要に持ち直しの動きがみられる中で、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道を含め全地域で、基調的には、「回復している」、「緩やかに回復している」等としている。この間、個人消費については、多くの地域で消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響が全体として和らいでいるとの報告があった。また、生産については、なお一部に弱めの動きがみられているものの、下げ止まりの動きを指摘する報告もあった。
14/10月判断 | 前回との比較 | 15/1月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 基調的には緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動は、和らいできている | ![]() |
一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動は、和らいでいる |
東北 | 消費税率引き上げの影響による反動がみられるものの、基調的には緩やかに回復している | ![]() |
消費税率引き上げの影響による反動が徐々に和らいできている中、緩やかに回復している |
北陸 | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している | ![]() |
基調的には緩やかな回復を続けている。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響も全体として和らいでいる |
関東甲信越 | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から生産面を中心に弱めの動きがみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている | ![]() |
基調的に緩やかな回復を続けており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響も全体として和らいでいる |
東海 | 基調としては回復を続けており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、幾分ばらつきを伴いつつ全体として和らいできている | ![]() |
基調としては回復を続けており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、全体として和らいでいる |
近畿 | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している | ![]() |
消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している |
中国 | 生産面で幾分増勢の鈍化がみられるものの、基調としては緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響は全体として和らぎつつある | ![]() |
生産面で幾分増勢の鈍化がみられるものの、基調としては緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響は全体として和らぎつつある |
四国 | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などがみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている | ![]() |
基調的には緩やかな回復を続けており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も全体として和らいでいる |
九州・沖縄 | 基調的には緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減は、徐々に和らいできている | ![]() |
緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減は和らいでいる |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北、近畿から、「増加している」等の報告があったほか、4地域(関東甲信越、中国、四国、九州・沖縄)から、「高水準で横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、3地域(北海道、北陸、東海)からは、「高水準で推移しているものの、足もとでは減少している」等の報告があった。
設備投資は、北海道、東海から、「一段と増加している」、4地域(東北、北陸、関東甲信越、近畿)から、「増加している」等の報告があったほか、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「非製造業を中心に弱めの動きがみられる」との報告があった一方、「底堅く推移している」、「引き続き改善傾向にある」等の報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「地域や業態間でばらつきを伴いつつも回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「基調として緩やかに持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「基調的に底堅く推移している」等の報告があった。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響については、多くの地域から、「全体として和らいでいる」等の報告があった。
大型小売店販売額をみると、多くの地域から、「前年を上回っており、駆け込み需要の反動の影響は和らいでいる」、「堅調に推移している」、「緩やかに持ち直している」等の報告があった。
乗用車販売は、「駆け込み需要の反動などから前年を下回っている」との報告があった一方、「駆け込み需要の反動が徐々に和らいできている」、「新型車投入効果もあって、持ち直しに向けた動きがみられている」等の報告があった。
家電販売は、「駆け込み需要の反動などから前年を下回っている」との報告があった一方、「基調的には底堅く推移しており、駆け込み需要の反動の影響も和らいでいる」、「着実に回復しつつある」等の報告があった。
旅行関連需要は、「国内旅行を中心に底堅く推移している」、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域から、外国人観光客が引き続き増加している等の報告があった。
住宅投資は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響などから、4地域(北海道、近畿、中国、九州・沖縄)から、「減少している」、「弱い動きとなっている」等の報告があった。一方、関東甲信越から、「駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある」、北陸から、「横ばい圏内で推移している」との報告があった。この間、3地域(東北、東海、四国)から、「高水準で推移している」、「基調としては底堅く推移している」等の報告があった。
生産(鉱工業生産)は、4地域(北海道、北陸、東海、近畿)から、「高水準で推移している」、「増加している」等の報告があったほか、中国から、「増勢が幾分鈍化しているものの、緩やかな増加基調にある」との報告があった。また、駆け込み需要の反動減などの影響に伴う耐久消費財等の在庫調整が徐々に進捗してきていることなどを背景に、3地域(関東甲信越、四国、九州・沖縄)から、「全体として横ばい圏内で推移しているが、一部に持ち直しの動きがみられる」、「足もと下げ止まりつつある」等の報告があった。この間、東北から、「弱めの動きが続いている」との報告があった。
主な業種別の動きをみると、電子部品・デバイスは、「増加している」等、はん用・生産用・業務用機械は、「緩やかに増加している」等の報告があった。輸送機械、電気機械、情報通信機械では、「引き続き駆け込み需要の反動がみられている」、「在庫調整が続いている」等の報告があった一方、「増加しつつある」等の報告もあった。この間、鉄鋼、化学は、「横ばい圏内となっている」等の報告があった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に持ち直している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 高水準で推移しているものの、足もとでは減少している | 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、一段と増加している | 雇用・所得環境の改善等を背景に、地域や業態間でばらつきを伴いつつも回復している。この間、一部で消費者マインドが慎重化していることもあって、消費行動にメリハリをつける動きが強まっている | 減少している | 国内外の堅調な需要を背景に、高水準で推移している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、増加している | 増加している | 耐久消費財で駆け込み需要の反動が徐々に和らいできており、総じて底堅く推移している | 駆け込み需要の反動が徐々に和らいできているほか、災害公営住宅の建設等から、高水準で推移している | 弱めの動きが続いている | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 減少傾向にある | 製造業を中心に増加している | 基調として緩やかに持ち直している | 横ばい圏内で推移している | 増加している | 雇用・所得環境は、改善している |
関東甲信越 | 高水準で横ばい圏内の動きとなっている | 増加している | 基調的に底堅く推移しており、駆け込み需要の反動の影響は全体として和らいでいる | 駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある | 足もと下げ止まりつつある | 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している |
東海 | 高水準ながらも、減少している | 一段と増加している | 雇用・所得環境が改善する中で基調としては持ち直しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、全体として和らいでいる | 基調としては底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も和らぎつつある | 高めの水準で横ばい圏内の動きが続いている | 雇用・所得情勢は、改善している |
近畿 | 増加傾向にある | 増加している | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も徐々に和らぎつつあり、雇用・所得環境などが改善するもとで、基調としては堅調に推移しているとみられる | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が引き続きみられている中で、弱めの動きとなっている | 駆け込み需要の反動などから一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに増加しており、高めの水準となっている | 雇用情勢をみると、労働需給は改善傾向にあるもとで、賃金も前年を上回るなど、雇用者所得は改善している |
中国 | 高水準で横ばい圏内の動きとなっている | 持ち直している | 基調としては底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動も和らいでいる | 弱含んでいる | 増勢が幾分鈍化しているものの、緩やかな増加基調にある | 雇用情勢は、着実に改善している。雇用者所得は、着実に持ち直している |
四国 | 高水準で推移している | 持ち直している | 基調的には緩やかに持ち直しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も和らいでいる | 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などがみられているが、基調的には底堅く推移している | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している |
九州・沖縄 | 高水準で推移している | 着実に持ち直している | 雇用・所得環境が着実に改善するもとで、基調としては持ち直しつつある。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減は和らいでいる | 弱い動きとなっている | 全体として横ばい圏内で推移しているが、一部に持ち直しの動きがみられる | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している |
II.地域の視点
各地域における中小企業の現状と活力ある企業の特徴
1.中小企業の現状等
(1)中小企業を取り巻く経営環境と足もとの収益動向
各地域の中小企業の収益動向をみると、人口減少・少子高齢化や大企業の海外拠点拡充等が進んでいる環境下で、企業規模が相対的に小さく、製品・サービスの差別化を図れていない先を中心に、厳しい状況にある企業が少なくないが、近年は、内外需要が持ち直すもとで、全体としては緩やかながらも改善傾向をたどっている。ただし、2014年度入り後は、消費税率引き上げ後の需要面における弱めの動きや円安等に伴うコスト負担の増加等から、業種や企業間でのばらつきが広がっているとの声が聞かれている。
すなわち、海外需要の増加が波及している業種(自動車・電気機械・航空機関連部品等)や、設備投資関連の業種(産業用機械等)、公共・建設投資関連の業種(建設等)、大企業の業績改善効果が及んでいる業種(運輸、人材派遣等)、円安のメリットが顕れている業種(造船、訪日外国人観光客関連の宿泊等)等では、収益の改善が続いている先が多い。
こうした一方で、内需依存度の高い業種(食料品、小売、飲食等)や、住宅投資関連の業種(建材、工務店等)等では、収益環境が悪化しているとの声が増加している。その要因としては、消費増税に伴う反動減の長期化や天候不順、実質所得の減少を反映した消費者マインドの悪化等による売上の減少に加え、円安等に伴う原材料価格の上昇、電力料金の負担増、人手不足を背景とした人件費の増加等に直面するもとで、販売価格への転嫁が進まない点も挙げられている。この間、足もとの原油安のプラス効果は、既に実感している先がみられる一方、これまでのところ十分に浸透していないとの声も聞かれている。
(2)中小企業の設備投資、雇用・賃金スタンス
中小企業の設備投資、雇用・賃金スタンスをみると、先行きの需要減少に対する懸念や足もと厳しい収益状況等に直面している先では、依然として抑制的な姿勢を続けている。その一方で、業況堅調先を中心に前向きなスタンスを取る動きもみられている。具体的には、設備投資に関しては、政府の補助金や緩和的な金融環境等の後押しもあって、これまで先送りしてきた老朽化設備の維持・更新や効率化・省力化に向けた投資を実施する先に加え、需要増加を見込んだ能力増強投資に踏み切る先もみられている。また、雇用・賃金面に関しても、人手不足への対応の観点を含め、新規・中途採用の積極化による人員増強を図ったり、賃金水準の引き上げや賞与増額など処遇改善を進めているとの声が聞かれている。
(3)中小企業が直面している経営課題
現状直面している経営課題としては、多くの先が、「中長期的な需要の減少」、「人手・人材不足」、「事業承継・技能伝承の困難化」を挙げている。いずれも、人口減少や少子高齢化に起因する面が大きい課題であり、特に地方圏で事業を展開する先では、大企業や若者の域外への流出もあって、都市部に比べ対応の必要性を指摘する声が多い。このような先では、人手・人材不足等により、漸く回復した受注の一部を見送らざるを得なかったり、事業の拡大に支障を来す事例がみられるほか、先行きの需要増加を見込めない中で、設備投資や従業員の処遇改善等に踏み切れない事例もみられている。こうしたもとで、事業縮小や廃業に追い込まれるような事態を懸念する声も聞かれている。
2.活力ある中小企業の特徴と地域活性化に繋げていくための課題
(1)活力ある中小企業の特徴等
以上のような経営環境の中で、課題への対応を着実に進め、地域で存在感を発揮している「活力ある中小企業」が、地域を問わず、相応にみられており、地域経済にも好影響を及ぼしている。こうした先では、経営者による強力なリーダーシップのもと、「特定分野での技術力や開発・企画力」、「機動力」、「地域密着」など中小企業が大企業・中堅企業に比較優位のある面を最大限に活用しつつ、積極的な事業展開や環境変化への対応を図っており、経営戦略面で以下の特徴がみられる。
イ.既存事業における付加価値・生産性向上
- 製造業では、既存事業における独自の技術力・開発力の向上を図るとともに、効率化・省力化投資等により生産性を高め、多品種少量生産や品質向上、納期短縮を実現したり、需要の変化に応じた製品開発を強化するなどにより、海外を含めた需要を取り込んでいる先がみられる。その際、下請けからの脱却を志向する先がある一方、大企業との連携強化を図る先も散見される。
- また、非製造業では、地域密着の利点を活かし、地元顧客のニーズを的確に把握したうえで、大企業には対応が難しいきめ細かな販売・サービスで囲い込みを図っているほか、農水産物をはじめとする各地域の高品質な商品等の販路を全国や海外に拡大したり、地元資源の活用等により内外観光客の獲得に成功している先がみられている。
ロ.成長分野・新規事業への参入
- 成長分野(医療・介護、航空宇宙、環境・エネルギー、バイオ・先端医療、コト消費関連等)や新規事業への参入、ニッチ市場の開拓等を通じ、新たな需要を獲得している先がみられる。こうした先の中には、単独での資金力・技術力では対応し切れない場合も少なくなく、他社との共同事業化や産官学連携等を活用する事例も見受けられる。
ハ.人材の育成・確保に向けた継続的な取り組み
- 競争力を維持・強化する観点から、有能な人材の育成・確保に向け、採用の強化に加え、従業員の処遇改善、技術やノウハウの着実な伝承、女性・高齢者・外国人の積極登用、外部人材の活用等を進めている先が少なくない。
こうした活力ある中小企業は、特に地方圏において新たな需要や雇用を生み出しているほか、厳しい経営環境にある同業他社の事業を承継する事例もみられるなど、地域活性化に向けた一翼を担っている先も見受けられており、今後も増加していくことが期待されている。
(2)地域活性化に繋げていくための課題
この間、金融機関や自治体、経済団体等では、中小企業単独での対応に限界があることも踏まえ、ビジネスマッチング、海外事業展開、事業承継、起業等の支援に取り組む動きが広がっているが、現時点では必ずしも十分な成果が得られていないとの指摘もみられている。このような取り組みの実効性を高め、活力ある企業の増加を通じて地域活性化に繋げていくためには、金融機関や自治体等が、自ら情報やノウハウを蓄積したり、専門的知識や客観的視点を有する外部人材を活用するなどにより支援機能を一段と強化し、経営課題に直面している先に対して、各企業の実情に応じた適切な対応を促していく必要があるとの指摘が聞かれている。
日本銀行から
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調査統計局地域経済調査課
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