地域経済報告 —さくらレポート— (2015年10月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2015年10月19日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(15年7月)と比較すると、全ての地域で景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。
各地域からの報告をみると、輸出や生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、国内需要は、設備投資が緩やかな増加基調にあり、個人消費も雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移していることなどから、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。
15/7月判断 | 前回との比較 | 15/10月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
東北 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
北陸 | 回復している | ![]() |
回復を続けている |
関東甲信越 | 緩やかな回復を続けている | ![]() |
輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている |
東海 | 着実に回復を続けている | ![]() |
輸出や生産に新興国経済の減速の影響などがみられるものの、設備投資が大幅に増加し、住宅投資・個人消費が持ち直していることから、着実に回復を続けている |
近畿 | 回復している | ![]() |
輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、回復している |
中国 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
四国 | 緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復を続けている |
九州・沖縄 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、近畿から、「増加している」との報告があったほか、3地域(東北、関東甲信越、四国)から、「高水準ながら横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、5地域(北海道、北陸、東海、中国、九州・沖縄)からは、「高水準ながらも、減少傾向にある」、「緩やかに減少している」等の報告があった。
設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」等、5地域(関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、東北から、「堅調に推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、「幾分悪化している」との報告があった一方、「改善している」、「総じて良好な水準で推移している」等の報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。
百貨店・スーパー販売額をみると、多くの地域から、「堅調に推移している」、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。
乗用車販売は、「改善の動きに鈍さがみられている」等の報告があった一方、「足もとでは下げ止まりつつある」、「底堅く推移している」、「持ち直している」等の報告があった。
家電販売は、「改善の動きに鈍さがみられている」との報告があった一方、「底堅く推移している」、「持ち直している」、「緩やかに回復している」等の報告があった。
旅行関連需要は、「横ばい圏内で推移している」、「国内旅行を中心に底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域から、外国人観光客が引き続き増加している等の報告があった。
住宅投資は、東北から、「持家を中心に増加している」との報告があったほか、7地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「持ち直しつつある」等の報告があった。また、近畿から、「下げ止まっている」との報告があった。
生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄)から、「このところ横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。この間、4地域(北海道、北陸、近畿、四国)から、「緩やかに持ち直している」、「高水準で推移している」、「増加している」との報告があった。
主な業種別の動きをみると、輸送機械は、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。また、はん用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気機械は、「緩やかに増加している」等の報告があった一方、「弱めの動きとなっている」との報告があった。この間、化学は、「高水準で推移している」等の報告があった一方、鉄鋼は、「減産を継続している」等の報告があった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 減少している | 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、一段と増加している | 雇用・所得環境が着実に改善していることを背景に、回復している | 緩やかに持ち直している | 堅調な海外需要を背景に、増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、高水準で推移している | 堅調に推移している | 底堅く推移している | 持家を中心に増加している | 横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 減少傾向にある | 着実に増加している | 持ち直している | 持ち直しつつある | 高水準で推移している | 雇用・所得環境は、着実に改善している |
関東甲信越 | 高水準ながら横ばい圏内の動きとなっている | 増加している | 底堅く推移している | 持ち直している | 新興国経済の減速に伴う影響に加え、在庫調整の動きもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している |
東海 | 高水準ながらも、減少傾向にある | 大幅に増加している | 雇用・所得環境が着実に改善する中で、持ち直している | 持ち直している | 新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得情勢は、着実に改善している |
近畿 | 増加している | 増加している | 一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境などが改善するもとで、全体としては堅調に推移している | 下げ止まっている | 増加傾向が続いているが、伸びはやや鈍化している。この間、在庫は横ばい圏内の動きとなっている | 雇用情勢をみると、労働需給が改善を続けるもとで、雇用者所得は一段と改善している |
中国 | 緩やかに減少している | 緩やかに増加している | 底堅く推移している | 持ち直している | 全体として横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、着実な改善を続けている |
四国 | 高水準で推移している | 緩やかに増加している | 緩やかに持ち直している | 持ち直しつつある | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している |
九州・沖縄 | 緩やかに減少している | 増加している | 一部に弱めの動きがみられるものの、雇用・所得環境や消費者マインドが着実に改善するもとで、全体としては緩やかに持ち直している | 持ち直している | 海外向けは新興国経済の減速の影響などからやや弱含んでいる一方、国内向けの減産が緩和しつつあり、全体として横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得は振れを伴いつつも緩やかに持ち直している |
II.地域の視点
各地域における少子高齢化・人口減少を踏まえた企業の戦略・対応状況
1.全体感
わが国は少子高齢化・人口減少に直面しており、先行き一段と進展していく見通しにある。こうした環境下で、各地域の企業においては、現状では人口増加が続いている都市圏を含め、業種や規模を問わず、少子高齢化・人口減少の進展への対応に取り組む動きが着実に広がっている。
すなわち、多くの先で、国内市場が中長期的に縮小する想定のもとで、既存事業の競争力向上を図ったり、成長分野や海外等で新たな需要を獲得することにより、引き続き業容の維持・拡大を目指す動きがみられている。また、既に顕在化している人手不足への対応として、シニア層・女性の活用や処遇改善等による人手の確保、省人化投資等を通じた所要人員の圧縮を進める先が数多くみられる。
2.少子高齢化・人口減少に対する企業の受け止め方
少子高齢化・人口減少の進展に対する企業の受け止め方をみると、需要面に関しては、一部にはシニア層などの需要増加を期待する声が聞かれるものの、人口減少が先行して進んでいる地方圏の内需依存型企業を中心に、先行き国内需要の減少は避けられないと危惧する先が多い。また、供給体制面に関しては、最近の国内景気の緩やかな回復もあって、既に人手の確保が困難となっている企業が少なくない状況を受け、多くの先から、更なる人手不足の深刻化が今後の事業展開の制約要因になることを懸念する声が聞かれており、地方圏を中心に実際に事業縮小や廃業に追い込まれる先もみられている。
このように多くの先がマイナス面の影響を指摘する中でも、需要の変化に応じて新たな分野での取り組みを強化する契機になり得ると捉える先が少なからずみられる。こうした先を含め、少子高齢化・人口減少への対応は、多くの先で重要な経営課題と位置付けられている。
3.少子高齢化・人口減少を踏まえた企業の戦略と特徴
(1)需要の変化に対応した具体的戦略
少子高齢化・人口減少を踏まえた企業の具体的戦略をみると、需要の変化への対応としては、既存事業の国内市場が中長期的に縮小していくことを想定する中で、設備投資の抑制や新規出店の中止など需要に見合う形で事業展開を見直す先はごく一部に止まっており、それ以外の多くの先では、以下のような施策により、引き続き業容の維持・拡大を目指していく方針を打ち出している。
イ.既存事業での更なる競争力向上
- 既存の主力事業に関して、製造業では需要の変化に対応した製品の投入や高付加価値化等を図ったり、非製造業では顧客の囲い込みに向けた商品・サービスの充実、販売方法の工夫等を進めることにより、競争力を一段と引き上げ、国内市場が縮小する中でシェアの維持・拡大を目論む先が多い。
ロ.需要拡大が見込める成長分野や新規事業への取り組みの強化
- 新たな需要の掘り起こし・獲得を図る観点から、製造業では、医療・介護やロボット関連など高齢化の進展や省人化ニーズの高まり等に伴い需要の拡大を見込める成長分野で、製品開発に注力する動きがみられる。また、非製造業でも、今後も増加を期待し得るシニア層や訪日外国人等の需要獲得に向け、ニーズに合致した商品・サービスの提供を強化する動きが多く見受けられる。こうした取り組みの過程では、業種を問わず、既存事業とは異なる事業に新たに参入する先も少なくない。
ハ.海外を含む域外進出の積極化
- 地方圏の小売業やサービス業を中心に、従来の営業エリアは市場が縮小していくとの見方から、今後も相対的に安定した需要を見込める近隣都市部や首都圏に営業エリアを拡充したり、新規に出店する動きが広がっている。さらに、国内のみならず、アジア圏を中心とした海外に販売・サービス拠点を設置する先が、これまで内需依存型であった企業でも増加している。
こうした施策を展開する際には、自社単独での対応のみならず、M&Aの積極的な活用や競合先を含めた他社との提携等に踏み切ったり、産学官での連携に乗り出す先が少なくない。
(2)供給体制面での具体的戦略
一方、供給体制面では、中長期的な観点もさることながら、足もと直面している人手不足への対応として、多くの先で次のような施策に取り組んでいる。
イ.シニア層・女性の活用や処遇改善等による人手の確保
- 人手確保に向けた具体策として、幅広い業種で、新卒・中途採用の強化に加え、定年延長や育児休業制度・育児時短制度の導入などシニア層や女性の活用に向けた環境整備、賃金水準の引き上げや勤務体系の柔軟化など処遇改善による人材の係留、外国人の積極的な活用等を図る動きがみられる。
ロ.省人化投資・業務プロセスの見直しを通じた所要人員の削減
- IT化やロボット導入等の省人化投資、業務プロセスの見直しなどにより所要人員の圧縮を進める先が多くみられている。こうした動きは、従来から生産ラインの自動化等を進めてきた製造業に加え、最近では、人手不足が深刻化している医療・介護や小売業など非製造業にも広がっている。
(3)企業の取り組みに伴う効果・影響
以上の企業の取り組みは、現状では途半ばの段階にある先も少なくないが、少子高齢化・人口減少の進展を踏まえて先行して着手した企業の中には、新たな需要の掘り起こしや収益の増加を実現するなど、一定の成果を上げている先も相応にみられている。また、一部には、地元での新規の設備投資や雇用の創出などを通じて、地域経済の活性化に貢献している先が見受けられる。
一方、人手不足への対応の面に関しては、人手の確保に繋がっているとする先も一部にみられるが、製造業で「技術を伝承する若年層の採用が難しい」とか、介護・運輸関連等でも「景気の回復もあって、人手の確保が一段と困難になっている」といった声が聞かれており、人手不足の解消に向け、現在掲げている施策に粘り強く取り組んでいく必要があるとする先が多い。ただし、企業の中には、今後も生産年齢人口が減少していくことを勘案すると現状の施策では不十分との認識を持ちながらも、現時点では人手不足の解消に向けた打開策を見出していない先も限定的ながらみられている。
4.先行きの展望
以上のように、多くの先では、国内需要が中長期的に減少していくことを想定しつつも、新たな需要の獲得等による業容の維持・拡大を図っている。一方で、人手不足の解消に関して、企業単独での対応には限界があるとする先がみられており、自治体や金融機関等に更なる支援を求める声も聞かれている。今後、このような面での支援機能の充実が図られるとともに、現在取り組んでいる需要の変化への対応や供給体制面での施策の成果を上げる企業が着実に増加し、地域の活性化に繋がっていくことが期待される。
日本銀行から
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