地域経済報告―さくらレポート―(2016年4月)*
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2016年4月7日
日本銀行
目次
- III.地域別金融経済概況
- 参考計表
I.地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(16年1月)と比較すると、東北から、生産面で弱含んだ状態が続いているとして判断を引き下げる報告があった一方で、残り8地域では、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。
各地域からの報告をみると、東海で、「基調としては緩やかに拡大している」としており、残り8地域で、「基調としては緩やかな回復を続けている」、「緩やかに回復している」、「回復を続けている」等としている。この背景としては、新興国経済の減速に伴う影響などから輸出や生産面に鈍さがみられるものの、国内需要は、設備投資が緩やかな増加基調にあり、個人消費も雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移していることなどが挙げられている。
16/1月判断 | 前回との比較 | 16/4月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
東北 | 生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている | ![]() |
新興国経済の減速に伴う影響などから生産面で弱含んだ状態が続いている中、基調としては緩やかな回復を続けている |
北陸 | 回復を続けている | ![]() |
回復を続けている |
関東甲信越 | 輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている | ![]() |
輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている |
東海 | 緩やかに拡大している | ![]() |
自動車関連での生産停止の影響から輸出・生産が一時的に減少したとみられるものの、基調としては緩やかに拡大している |
近畿 | 輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに回復している | ![]() |
輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに回復している |
中国 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
四国 | 緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復を続けている |
九州・沖縄 | 緩やかに回復している | ![]() |
新興国経済の減速などの影響を受けながらも、緩やかな回復を続けている |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北から、「高水準で推移している」、関東甲信越から、「足もと増加している」との報告があった。一方、7地域(北海道、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「減少している」、「高水準ながらも、減少傾向にある」等の報告があった。
設備投資は、北陸、東海から、「着実に増加している」、「大幅に増加している」、5地域(関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、北海道、東北から、「高水準で推移している」、「堅調に推移している」との報告があった。
この間、企業の業況感については、3地域(北陸、四国、九州・沖縄)から、「総じて良好な水準を維持している」等の報告があった。一方、近畿から、「製造業を中心に悪化している」、3地域(東北、東海、中国)から、「幾分慎重化している」等、関東甲信越から、「総じて良好な水準を維持しているが、一部にやや慎重な動きもみられている」、北海道から、「横ばいとなっている」との報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。
百貨店販売額をみると、「全体として持ち直しの動きに一服感がみられる」等の報告があった一方、「底堅く推移している」、「堅調に推移している」等の報告があった。また、スーパー販売額は、「改善の動きが続いている」、「堅調に推移している」等の報告があった。このほか、コンビニエンスストア販売額は、「堅調に推移している」、「増加している」等の報告があった。
乗用車販売は、「前年を下回っている」等の報告があった一方、「横ばい圏内の動きとなっている」、「底堅く推移している」等の報告があった。
家電販売は、「前年を下回っている」等の報告があった一方、「底堅く推移している」、「持ち直している」、「緩やかに回復している」等の報告があった。
旅行関連需要は、「国内外ともに前年を下回っている」等の報告があった一方、「国内旅行を中心に底堅く推移している」、「国内旅行を中心に増加傾向にある」等の報告があった。この間、複数の地域から、外国人観光客が引き続き増加している等の報告があった。
住宅投資は、関東甲信越、四国から、「このところ持ち直しが一服している」等の報告があった一方、東北から、「高水準で推移している」との報告があったほか、6地域(北海道、北陸、東海、近畿、中国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。
生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、6地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「弱含んだ状態が続いている」、「持ち直しが一服している」、「横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があった。この間、3地域(北海道、北陸、東海)から、「高水準で推移している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。
主な業種別の動きをみると、輸送機械は、「緩やかに持ち直している」、「緩やかに増加している」等の報告があった一方、「減少している」、「一進一退の動きとなっている」等の報告があった。また、はん用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気機械は、「高水準で推移している」、「全体としては緩やかに増加している」等の報告があった一方、「減少している」、「弱含んだ状態が続いている」等の報告があった。この間、化学は、「緩やかに増加している」等の報告があった一方、「生産水準が低下している」等の報告があった。このほか、鉄鋼は、「減産を継続している」等の報告があった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給が着実な改善を続けている」、「引き締まっている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 減少している | 高水準で推移している | 雇用・所得環境が着実に改善していることを背景に、回復している | 緩やかに持ち直している | 緩やかに増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、高水準で推移している | 堅調に推移している | 底堅く推移している | 高水準で推移している | 弱含んだ状態が続いている | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 減少傾向にある | 着実に増加している | 持ち直している | 持ち直している | 高水準で推移している | 雇用・所得環境は、着実に改善している |
関東甲信越 | 足もと増加している | 増加している | 底堅く推移している | このところ持ち直しが一服している | 新興国経済の減速に伴う影響に加え、在庫調整の動きもあって、横ばい圏内の動きが続いている | 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している |
東海 | 高水準ながらも、減少傾向にある | 大幅に増加している | 足もと一部に鈍さがうかがわれるものの、基調としては持ち直している | 持ち直している | 自動車関連での生産停止の影響から一時的に減少したとみられるものの、基調としては緩やかに増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給が引き締まっているほか、雇用者所得は着実に改善している |
近畿 | 減少している | 増加している | 一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境などが改善するもとで、全体としては堅調に推移している | 持ち直しつつある | このところ横ばい圏内の動きとなっている。この間、在庫はやや高めの水準となっている | 雇用情勢をみると、労働需給が改善を続けるもとで、雇用者所得は一段と改善している |
中国 | 緩やかに減少している | 緩やかに増加している | 底堅く推移している | 持ち直している | 全体として横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、着実な改善を続けている |
四国 | 高めの水準ながら減少傾向にある | 緩やかに増加している | 緩やかに持ち直している | このところ持ち直しに向けた動きが一服している | 持ち直しが一服している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに持ち直している |
九州・沖縄 | 緩やかに減少している | 増加している | 一部に弱めの動きがみられるほか、足もとでは消費者マインドがやや慎重化しているものの、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、全体としては緩やかに持ち直している | 緩やかに持ち直している | 新興国経済の減速などの影響が続く中、高めの水準ながら、このところやや減少している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得は緩やかに持ち直している |
II.地域の視点
各地域における地場企業の設備投資動向
1.はじめに
今後、日本経済が潜在成長率を上回る成長を続け、デフレから完全に脱却していくためには、企業による設備投資の動向が重要な鍵となる。企業は、歴史的にみて非常に高い収益水準のもとで、設備投資スタンスを前傾化していくことが期待されている。その一方で、最近の新興国経済の減速等に伴い、投資意欲が抑制的になることも懸念されている。そこで、今回の地域の視点では、「各地域における地場企業の設備投資動向」に焦点を当てる形で調査を行った。
2.地場企業の設備投資動向の総括評価
本支店を通じたヒアリングの結果、各地域の地場企業では、最近の新興国経済の減速等を受け、当面の投資額を減額する動きが一部にみられ始めており、先行き企業の投資スタンスが慎重化することを危惧する声も相応に聞かれた。また、その他の様々な理由から、依然として抑制的な投資姿勢を続ける先も少なからずみられた。
こうした一方で、業種や企業規模を問わず、多くの先では、近年、収益が改善する中で、緩和的な金融環境もあって、国内で前年を上回る水準の投資を着実に実施している状況にあり、全体としては緩やかな増加基調をたどっているとの感触が得られた。加えて、そうしたもとで、地場企業は、多様な設備投資に踏み切っていることも確認された。このような中で、2016年度の設備投資については、現時点で投資額を一段と積み増す計画の先が少なくないことなどを踏まえると、現在同様の状況が続く可能性が高いとみられる。
3.国内での設備投資に慎重な姿勢となる様々な理由
地場企業では、業種や企業規模を問わず、国内の設備投資に関して、「事業継続に必要な最小限の案件に止める」とか、「投資額を増額する場合でも、収益の伸びに拘らず減価償却費の範囲内に抑える」など、依然として慎重な姿勢を堅持する先が少なくない。また、投資の増額を計画していた先でも、予定していた案件を先送り・取り止める動きが電気機械等の一部にみられている。こうした姿勢の背景としては、様々な理由が挙げられており、主なものを纏めると次のとおり。
- イ.最近の先行き不透明感の高まり
- 年初来、国際金融資本市場が不安定な動きを示す中、新興国経済の減速が明確化するなど、先行き不透明感が高まっていることを受け、計画していた設備投資を先送り・中止する動きが一部にみられている。
- ロ.期待成長率が低いもとで投資の必要性が低い
- 為替差益等で収益が改善したとしても、それを受けて設備投資に踏み切る動きはさほど見受けられない。むしろ、国内の既存事業は今後も人口減少の進展に伴う需要の縮小が避けられない中で、現有の設備や施設等で当面は十分に対応可能なほか、新規事業による新たな需要の獲得も見込めない段階にあるため、多額の設備投資が必要な状況にはないとの声が多く聞かれている。
- ハ.脆弱な財務体質の改善を優先
- 業績不振の先に加え、改善している先でも、過去の過大な投資等に伴う多額の有利子負債を抱えていたり、内部留保が企業規模対比等で低水準にある企業では、設備投資よりも財務体質の改善を優先するとの声が聞かれている。
- ニ.後継者・人手の不足
- 中小企業を中心に、後継者が見当たらないとか、設備や施設を増強しても稼動に必要な人手を確保出来ない、さらには人手不足を背景とした建設費の上昇で投資採算に合わない等を理由に、設備投資を断念する先が少なくない。
- ホ.海外現地生産の拡大
- 今後も需要の拡大を見込める新興国を中心に、現地ニーズへの迅速な対応や生産コストの削減等を図るべく、国内の投資よりも海外での生産体制の強化に向けた投資を優先する先が引き続き少なからずみられている。
- ヘ.事業拡大に向けた意欲の不足
- 当面は現状のままで安定した経営が可能な企業では、積極的な設備投資により事業を拡大しようとする意欲に乏しい先が散見される。
4.国内における多様な設備投資
このように慎重な姿勢を崩さない先がみられる一方で、多くの先では、近年の収益改善に加え、緩和的な金融環境もあって、設備投資を増額している状況にある。その際の具体的な内容としては、これまで先送りしてきた既存設備の維持・更新投資を実施したり、国内外での需要増加に加え、近年の為替円安等を踏まえた海外からの生産移管への対応も含め、生産ラインの増設や新工場の建設、営業拠点の新設など能力増強投資に踏み切っているといった声が数多く聞かれている。
さらに、地場企業では、そうした枠には必ずしも入らない多様な形での前向きな設備投資を拡大している。その主な動きを挙げると、以下のとおり。
- イ.新規事業・成長分野の強化に向けた投資の広がり
- 市場が縮小傾向にある既存事業とは異なる新規事業への取り組み強化に向けた投資や、成長分野(航空、環境・エネルギー、医療介護、農業等)の関連投資など、中長期的な事業強化に向けた投資に踏み切る動きが広がっている。このほか、M&Aに対しても、事業領域・規模を早期に拡大する目的で、積極的に取り組む先が増加している。
- ロ.人手不足を背景とした省力化・効率化投資等の活発化
- 深刻化する人手不足への対応を明確に意識する形で、省力化・効率化投資に踏み切る先が非製造業も含めて数多くみられている。その際には、単に生産・作業工程を自動化するといった投資のみならず、最先端のロボット技術やIT設備の導入により生産性の向上も図る先がみられ始めている。このほか、人手確保の一環として、工場への冷暖房設備の設置や女性用休憩施設の新設など、労働環境の改善に向けた投資も増えている。
- ハ.AIやIoTの活用も展望した研究開発投資の実施
- 国内で研究開発投資を積極化する動きが続いており、特に都市部の大企業を中心に、AIやIoTの活用を視野に入れた技術開発に取り組む先がみられ始めている。
- ニ.訪日外国人需要等の取り込みに向けた投資の積極化
- 近年の訪日外国人の増加等を受け、宿泊や不動産、運輸等では、ホテルや商業施設の新設・改装、車両更新等を加速させる先が多くみられている。このほか、東京オリンピックの開催を見据えた投資に踏み切る動きが地方圏でも見受けられている。
- ホ.防災関連投資に対する着実な取り組み
- 東日本大震災をはじめとする近年の災害等を踏まえ、業務継続の対応力を高める観点から、工場や営業施設等を耐震補強したり、移転・新設する動きが少なからずみられている。
- ヘ.各種補助金や設備投資促進税制に後押しされる形での投資の増加
- 収益の改善が十分に進まず、これまで設備や施設等の更新を見送ってきた中小企業を含め、国や自治体が設けた各種補助金や設備投資促進税制を活用しつつ、維持・更新投資や効率化投資等に踏み切る動きが広がっている。
5.2016年度の見通しと今後の課題
以上のもとで、2016年度の設備投資の方向感をうかがうと、現時点では多くの先で具体的な計画を策定している段階ながら、比較的良好な経営環境が維持されるとの想定のもとで、投資額を増額する方針を示す先が少なくなく、全体としては現在の増加傾向ないし高水準の状況が続く可能性が高いとみられる。もっとも、最近の新興国経済の減速等による先行き不透明感の高まりなどを受け、投資額を2015年度の水準から削減する動きが一部にみられ始めており、今後、企業の投資姿勢が慎重化することを懸念する声も聞かれている。
こうした中で、国内の設備投資が持続的に相応の水準で増加していくためには、企業自身が高付加価値の新たな製品・サービス等の開発を進め、新規の設備が必要となる新たな需要を創出していくこと、国や自治体、金融機関等が設備投資・研究開発の促進に向けた各種支援を一段と強化すること、などが必要との指摘が聞かれている。
日本銀行から
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