地域経済報告―さくらレポート―(2016年7月)*
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2016年7月7日
日本銀行
目次
- III.地域別金融経済概況
- 参考計表
I.地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(16年4月)と比較すると、中国から、生産面等で一部に弱めの動きがみられるとして、また、九州・沖縄から、熊本地震の影響がみられるとして、それぞれ判断を引き下げる報告があった。一方、残り7地域では、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。
各地域からの報告をみると、東海で、「基調としては緩やかに拡大している」としており、7地域(除く東海、九州・沖縄)で、「基調としては緩やかな回復を続けている」、「緩やかに回復している」、「回復を続けている」等としている。この背景としては、新興国経済の減速に伴う影響などから輸出や生産面に鈍さがみられるものの、国内需要は、設備投資が緩やかな増加基調にあり、個人消費も、一部に弱めの動きもみられるが、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移していることなどが挙げられている。この間、九州・沖縄では、「熊本地震の影響により急速に下押しされた後、観光面などで弱い動きが続いているものの、供給面の制約は和らいできており、緩やかに持ち直している」としている。
【16/4月判断】 | 前回との比較 | 【16/7月判断】 | |
---|---|---|---|
北海道 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
東北 | 新興国経済の減速に伴う影響などから生産面で弱含んだ状態が続いている中、基調としては緩やかな回復を続けている | ![]() |
生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている |
北陸 | 回復を続けている | ![]() |
一部に鈍さがみられるものの、回復を続けている |
関東甲信越 | 輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている | ![]() |
輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている |
東海 | 自動車関連での生産停止の影響から輸出・生産が一時的に減少したとみられるものの、基調としては緩やかに拡大している | ![]() |
自動車関連での工場事故や熊本地震の影響から輸出・生産面で振れがみられるものの、基調としては緩やかに拡大している |
近畿 | 輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに回復している | ![]() |
輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに回復している |
中国 | 緩やかに回復している | ![]() |
一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな回復基調を続けている |
四国 | 緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復を続けている |
九州・沖縄 | 新興国経済の減速などの影響を受けながらも、緩やかな回復を続けている | ![]() |
熊本地震の影響により急速に下押しされた後、観光面などで弱い動きが続いているものの、供給面の制約は和らいできており、緩やかに持ち直している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、九州・沖縄から、「持ち直しに転じつつあり、熊本地震の復旧工事もみられている」との報告があった。また、3地域(北海道、近畿、四国)から、「下げ止まっている」等、北陸から、「持ち直しに転じている」、東北から、「高水準で推移している」、関東甲信越から、「増加している」との報告があった。一方、東海、中国から、「高水準ながらも、減少傾向にある」等の報告があった。
設備投資は、北陸、東海から、「着実に増加している」、「大幅に増加している」、5地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「緩やかに増加している」、「増加基調にある」、「増加している」との報告があったほか、北海道から、「高水準で推移している」との報告があった。この間、九州・沖縄から、「高水準で推移しているが、熊本地震の影響により、一部に投資の先送りや維持・補修投資の実施など上下双方向の動きがみられている」との報告があった。
この間、企業の業況感については、北海道から、「改善している」、北陸から、「足もとは総じて良好な水準を保っているものの、先行きは慎重な見方が増えている」との報告があった。一方、九州・沖縄から、「熊本地震の影響などもあって、製造業・非製造業ともに悪化している」、中国から、「幾分慎重化しており、一部では悪化の動きもみられる」、3地域(東北、東海、近畿)から、「幾分慎重化している」、関東甲信越、四国から、「総じて良好な水準を維持しているが、一部にやや慎重な動きもみられている」等の報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、四国から、「緩やかに持ち直している」との報告があった。また、6地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国)から、「一部に弱めの動きもみられる」等としつつも、「持ち直している」、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」等の報告があった。この間、九州・沖縄から、「全体として弱めの動きとなっている」との報告があった。
百貨店販売額をみると、「底堅く推移している」等の報告があった一方、「高額品を中心に前年を下回っている」、「このところ弱めの動きとなっている」等の報告があった。また、スーパー販売額は、「改善の動きが続いている」、「堅調に推移している」等の報告があった。このほか、コンビニエンスストア販売額は、「堅調に推移している」、「増加している」等の報告があった。
乗用車販売は、「前年を下回っている」等の報告があった一方、「横ばい圏内で推移している」、「底堅く推移している」等の報告があった。
家電販売は、「前年を下回っている」、「弱めの動きとなっている」等の報告があった一方、「底堅く推移している」、「持ち直している」、「緩やかに回復している」等の報告があった。
旅行関連需要は、「弱めの動きとなっている」との報告があった一方、「国内旅行を中心に底堅く推移している」、「国内旅行を中心に堅調となっている」等の報告があった。この間、外国人観光客は、引き続き「増加している」との報告があった一方、「熊本地震による観光地の被災や消費者マインドへの影響などから、熊本県や大分県を中心に、国内・外国人観光客ともに大幅に落ち込んだ状態が続いている」との報告があった。
住宅投資は、四国から、「このところ持ち直しに向けた動きが一服している」との報告があった一方、東北から、「高水準で推移している」との報告があったほか、7地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。
生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「持ち直しが一服している」、「横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があった。一方、3地域(北海道、北陸、東海)から、「高水準を保っている」、「緩やかに増加している」等の報告があった。この間、九州・沖縄から、「熊本地震の影響により大幅に減少した後、生産設備の復旧や代替生産の進捗などから、増加に転じている」との報告があった。
主な業種別の動きをみると、輸送機械は、「軽自動車関連が減少する中、全体としては高めの水準となっている」、「工場事故や熊本地震の影響による振れを伴いつつも、基調としては緩やかに増加している」等の報告があった一方、「減少している」、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。また、はん用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気機械は、「熊本地震により操業を停止した先で生産活動を再開する動きなどがみられており、持ち直しに転じている」、「高水準で推移している」、「全体としては緩やかに増加している」等の報告があった一方、「一部で減産の動きがみられている」、「一部に弱めの動きがみられる」等の報告があった。この間、化学は、「増加に転じている」、「緩やかに増加している」等の報告があった。このほか、鉄鋼は、「減産を緩和する動きもみられる」等の報告があった。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給が着実な改善を続けている」、「引き締まっている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | |
---|---|---|---|
北海道 | 下げ止まっている | 高水準で推移している | 雇用・所得環境が着実に改善していることを背景に、回復している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、高水準で推移している | 緩やかに増加している | 一部に弱めの動きもみられるが、底堅く推移している |
北陸 | 持ち直しに転じている | 着実に増加している | 一部に鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の改善や観光関連の交流人口の増加を背景に、持ち直している |
関東甲信越 | 増加している | 増加している | 一部に弱めの動きもみられるが、底堅く推移している |
東海 | 高水準ながらも、減少傾向にある | 大幅に増加している | 一部に鈍さがうかがわれるものの、基調としては持ち直している |
近畿 | 下げ止まりつつある | 増加基調にある | 一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境が改善するもとで、全体としては堅調に推移している |
中国 | 緩やかに減少している | 緩やかに増加している | 一部に弱めの動きもみられるが、全体としては底堅く推移している |
四国 | 下げ止まっている | 緩やかに増加している | 緩やかに持ち直している |
九州・沖縄 | 被災地以外における大型案件などもあって持ち直しに転じつつあり、熊本地震の復旧工事もみられている | 高水準で推移しているが、熊本地震の影響により、一部に投資の先送りや維持・補修投資の実施など上下双方向の動きがみられている | 熊本地震に伴う営業・物流面への影響は和らいでいるものの、消費者マインドが依然として慎重なほか、観光面の大幅な落ち込みが続いており、全体として弱めの動きとなっている |
住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|
緩やかに持ち直している | 緩やかに増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している | 北海道 |
高水準で推移している | 横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、改善している | 東北 |
持ち直している | 横ばい圏内で推移しており、高水準を保っている | 雇用・所得環境は、着実に改善している | 北陸 |
再び持ち直している | 横ばい圏内の動きが続いている | 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している | 関東甲信越 |
着実に持ち直している | 自動車関連での工場事故や熊本地震の影響による振れを伴いつつも、基調としては緩やかに増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給が引き締まっているほか、雇用者所得は着実に改善している | 東海 |
持ち直している | このところ横ばい圏内の動きとなっている。この間、在庫はやや高めの水準となっている | 雇用情勢をみると、労働需給が改善を続けるもとで、雇用者所得は一段と改善している | 近畿 |
持ち直している | 一部に弱めの動きがみられるものの、全体としては横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、着実な改善を続けている | 中国 |
このところ持ち直しに向けた動きが一服している | 持ち直しが一服している | 労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに持ち直している | 四国 |
熊本地震の影響により、一部に建築工事の遅れなどがみられているものの、緩やかに持ち直している | 熊本地震の影響により大幅に減少した後、生産設備の復旧や代替生産の進捗などから、増加に転じている | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得は緩やかに持ち直している | 九州・沖縄 |
II.地域の視点
各地域における消費関連企業の販売動向と販売戦略・価格設定行動
1.消費関連企業の最近の販売動向
(1) 全体感
- 各地域における消費関連企業の販売動向をみると、汎用的な商品・サービスに対する消費者の節約志向が幾分強まっているほか、高額品の売上にも陰りがみられるなど、このところ一部に弱めの動きがみられる。もっとも、雇用・所得環境が改善を続けるもとで、多様化する消費者ニーズを着実に捉えて売上を伸ばしている企業も相応にみられ、全体としては底堅く推移している。
- 主要業態別には、百貨店は、衣料品の不振が続く中、高級時計や宝飾品等の販売に陰りがみられ、本年入り後、売上が前年を下回る先が多い。家電量販店は、パソコン等の情報通信機器を中心に幾分弱めの動きとなっている先が多いほか、自動車販売店も、新型車などの販売は堅調ながら、軽自動車を中心に全体では引き続き勢いを欠く状況にある。
一方、食品スーパーは、総じて堅調に推移している先が多いほか、コンビニエンスストアも、新規出店や新商品投入の効果等から緩やかに増加している。また、宿泊は、観光客数が高水準なことや客単価の改善から好調な先が多いほか、ドラッグストアなど低価格訴求型の業態も、堅調に推移している先が少なくない。さらに、総合スーパーや飲食は、消費者のニーズを捉えた価格・品質での商品・メニューを提供している先を中心に、底堅く推移している。 - この間、熊本地震の影響については、熊本・大分両県を中心に、観光産業のほか、飲食等では依然厳しい状況が続いている一方、家電量販店やホームセンター等では、復興需要を背景に売上が伸びている先が多い(補論<18~19頁>参照)。
(2) 今年前半の弱めの動きの背景
- 今年前半の販売動向を振り返ると、雇用・所得環境が改善を続ける中、一部に弱めの動きがみられた。その背景として、企業からは、天候要因等の影響に加えて、以下のような声が聞かれた。
- (1)株価下落に伴う逆資産効果の顕在化
- 都市圏の百貨店や専門店を中心に、年初来の株価下落等を背景に、高級時計や宝飾品等に対する富裕層・高所得者層の支出姿勢が弱まっているとの指摘が聞かれた。
- (2)訪日外国人需要の増勢鈍化
- 都市圏の百貨店、家電量販店等からは、ウェイトが大きい中国人向けを中心に、本年入り後の為替円高の進行や同国の関税強化等を背景に、高額品の販売や大量購入の動き等が鈍化しているとの指摘が聞かれた。
- (3)先行きの景気等に対する悲観的な見方の増加
- 百貨店や食品スーパーを中心に、先行きの景気情勢や社会保障負担の増加等に関する悲観的な見方が増加していることに伴い、シニア層から若年層まで余分な出費を手控える動きが幅広くみられるとの声が多く聞かれた。
- (4)需要の先喰いや燃費不正問題の発生
- 自動車販売店等を中心に、前回の消費税率引き上げ前の駆け込みや各種需要喚起策に伴う需要の先喰いのほか、燃費不正問題の発生が、足もとの販売不振に繋がっているとの指摘が聞かれた。
- (1)株価下落に伴う逆資産効果の顕在化
2.消費関連企業の販売戦略・価格設定行動
(1) 販売戦略
- 消費関連企業では、(1)多様化する消費者ニーズに対応した新商品・サービスの投入、(2)消費意欲が比較的旺盛なシニア層や女性層、訪日外国人客の需要取り込み、(3)各種イベント開催、カフェ併設などの店舗改修、会員向けサービスの充実等による顧客との接点拡充、(4)域外を含めた新規出店の強化、(5)Eコマースや宅配サービスの展開等を通じた販売チャネルの拡充などに、これまで以上に注力する先が多い。
- ここにきての新たな試みとして、異業種企業との連携が広がりをみせ始めている。一方、ビッグデータを活用する動きも一部にみられるが、現時点で広がりはなく、なお拡大の余地がある。
(2) 価格設定行動
- 消費関連企業の価格設定行動をみると、最近の選別消費・メリハリ消費の一段の強まりから、昨年みられた値上げや値引き販売抑制の動きが弱まっている。そうしたもとで、従来よりも品質や付加価値を高めた商品・サービスを拡充しつつ価格引き上げを実施する動きと、汎用的な商品を中心にした低価格戦略を強化する動きの双方に広がりがみられている。
価格引き上げの具体的な動きとしては、宿泊やレジャー施設等、需要が拡大している業態で、サービス内容の充実等を図りながら人件費等の増加分を吸収するための値上げに踏み切る先がみられる。
一方、低価格戦略を強化する動きとしては、食品スーパーや飲食等で、低価格品の品揃えを強化したり、価格を据え置く先が増えている。これらの中には、加工食品や日用品等の価格を低めに抑える一方、高品質の生鮮食品では値上げを行うなど、品目やサービスに応じて従来以上にきめ細かな価格設定に注力し、消費者の節約志向を上手く捉えて売上を伸ばす先もみられる。もっとも、為替円高の進行に伴い原材料価格の上昇傾向に一服感がみられる中、更なる値上げによって消費者がより低価格帯の商品・サービスを提供する業態・店舗へ流出することを懸念する先も少なくない。
3.先行きの見通し
- 消費関連企業の先行きの販売については、雇用・所得環境の改善が見込まれるもとで、夏季商戦に期待する声が聞かれるほか、消費者ニーズの掘り起こしや訪日外国人客の需要獲得に向けて積極的に取り組む先も多く、基調としては底堅さを維持するものとみられる。この間、為替円高や株安の一段の進行など、足もとの金融市場の不安定な動き等を踏まえ、消費者マインドの更なる慎重化を懸念する声も聞かれている。
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