地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* インバウンドの現状:企業等の取り組みと地域活性化の注目点
- 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2019年6月10日
日本銀行
【要旨】
わが国を訪れる外国人旅行者数は着実な増加を続けており、2018年には3,119万人と過去最高を記録した。最近におけるインバウンド需要の特徴は、(1)東アジアからの観光客の増加、(2)個人旅行の増加と訪問・宿泊地の広がり、(3)「モノ消費」の落ち着きと「コト消費」の拡大、の3点が指摘できる。
政府は、インバウンドを含む観光の振興を「成長戦略と地方創生の大きな柱」と位置付け、誘客や消費喚起に取り組んでいる。企業や自治体等でも、インバウンド需要を積極的に獲得していくとのスタンスが大勢である。特に地方では、急速に進展する高齢化や人口減少に対する危機感から、より積極的なスタンスを示す先が多い。
最近の取り組みの特徴としては、次の3点が挙げられる。第1に、インバウンド客を受け入れる環境整備の進捗である。これは、行政等による支援や音声翻訳技術をはじめとするテクノロジーの普及により、中小・零細企業を含めて進捗しているとの評価が聞かれる。第2に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス等での情報発信の強化に加え、最近ではビッグデータを活用してインバウンド需要の動向を分析する「デジタルマーケティング」を導入する動きがみられることである。第3に、「コト消費」の拡大を受けた取り組みの積極化である。具体的には、訪日リピーターや個人旅行客が増加する中、テーマ別観光の企画など多種多様な取り組みがみられている。
地域活性化に向けた課題は、「連携」、「分散」、「共生」という3つのキーワードで整理できる。第1の課題は、地域の稼ぐ力を高めていくうえで、関係者間の「連携」の余地が相応に残されている点である。この点では、観光地域づくりの舵取り役である日本版DMOへの期待感が大きい。第2の課題は、増加を続ける訪日外国人旅行者の受け入れにあたり、地方への「分散」を一層進めていく必要がある点である。カギとなる空港等から観光地までの交通整備では、自動運転技術などテクノロジーの活用により課題の解決につなげていこうとする動きがみられている。第3の課題は、住民や環境との「共生」への不安である。一部の観光地では、ゴミや渋滞など「オーバーツーリズム」と呼ばれる問題が発生している。課題解決のために規制や税の導入を検討する動きもあるが、そうした対応が観光資源の「質」を維持・向上させ、観光地の持続可能性を高めていくかが注目される。
先行きを展望すると、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催等もあって、インバウンド需要は増加を続けるとみられる。また、受入環境の整備も、テクノロジーの普及・活用などにより着実に進捗していくと思われる。わが国が「観光先進国」の実現に向けて着実に歩を進めていく中、インバウンドを起点とした地域活性化の動きがさらに広がっていくかが注目される。
日本銀行から
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