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本邦金融機関による経営課題への対応状況

2002年 4月 8日
日本銀行考査局

日本銀行から

 「本邦金融機関による経営課題への対応状況」(日本銀行調査月報2002年4月号掲載論文)を取りまとめました。全文は、こちら (ron0204a.pdf 206KB) から入手できます。なお、本論文に関する問い合わせは、日本銀行考査局(tel:03-3277-2727、03-3277-1544)までお願い致します。

要旨

金融機関経営の現状

1. 本邦金融機関にとって喫緊の経営課題は、引き続き、不良債権問題への積極的対応と、その克服を通じた収益性の向上である。また、都長信を中心に、株式保有リスクへの対応も優先的な経営課題である。

2. 金融機関の損益状況をみると、銀行(13年度上期決算)では、不良債権処理負担が、引き続き基本的な期間収益(コア業務純益)を上回っている。また、株式関係損益も株価下落に伴って損失超となったことから、最終利益は赤字となった。損失吸収余力としての経営体力は、最終利益の赤字のほか、有価証券含み損益の悪化から、全体として低下している。

3. 信金では、12年度までの推移をみる限り、不良債権処理負担はコア業務純益の範囲内に止まっている。経営体力の面でも、出資金増加も加わり上昇傾向を辿っている。もっとも、13年度入り後については、不良債権処理負担が増加する動きもみられており、やや不透明な面がある。

経営課題への対応の進捗状況

4. 不良債権問題等、信用リスク管理面の対応については、全体として、貸出資産の劣化になお歯止めがかかっておらず、資産内容の改善には捗々しい進展がみられていない。信用格付体系をはじめとする信用リスク管理の枠組みの整備は進んでおり、自己査定も相応に定着してきているが、なお改善の余地も残存するようにみられる。貸出資産全体の運営方針を策定する際に信用格付を活用するとともに、個々の債務者に関しても、実態把握の充実と財務分析の精緻化を図り、その結果をタイムリーに信用格付に反映させることが重要である。これを踏まえ、必要に応じ経営再建指導や保全強化、あるいは貸出債権の流動化といった対応を迅速に検討することが重要とみられる。その過程では、担保不動産の適切な評価も不可欠である。これらを通じ、外部環境変化に大きく左右されにくい貸出資産運営を展望することが期待される。

5. 市場リスクについては、大手行では、管理体制と運用の両面で高度化が進展しており、政策投資株式についてもリスクの削減を急いでいる。また、地域金融機関でも、リスク指標の計測・モニタリング体制の構築に取組んでいる。もっとも、地域金融機関では、収益環境が厳しい中で、リスク評価が必ずしも十分でない投資事例もみられるため、リスクの解析や内部的な牽制機能の確保等、リスク管理の運用面での一段の整備が重要とみられる。

6. さらに、金融業務や金融機関を取り巻く多様な環境変化に伴い、適切なリスク管理の重要性が増している。金融機関においては、大手金融グループ等における経営統合の動きや金融業務におけるIT(情報通信技術)依存度の高まりとネットワークの拡大に応じて、システムの安全性・安定性の確保が重視されてきている。ただし、システム部門等におけるアウトソーシングや複数の金融機関によるシステムないし事務センター等の共同運営等の動きが進展する中で、これらに対応した的確なリスク管理体制の整備の面で課題も残されている。また、決済リスクの面では、RTGS化後の業務対応上の新たな留意点や、拠点被災時にも業務継続を可能とする体制整備の必要性に関し、認識が深まりつつある。

7. 以上のような管理すべきリスクの多様化・複雑化を背景として、各リスク要因を統合的に捉えた上で、経営体力に見合ったリスク制御による健全性確保と、リスク調整後収益での経営管理を目指す動きが大手行中心にみられる。経営統合や取引の多様化によりリスクプロファイルが複雑化している先においては、こうした統合的なリスク管理体制への移行促進が期待される。

8. 不良債権問題の克服や、それを通じた金融機関の収益性向上に向けては、金融機関における信用リスク管理体制の整備と実効性のある運用を確保することが優先的な課題である。また、金融機関の経営努力のみならず、少なくとも企業部門の再生と一体的な対応が図られることが不可欠である。金融機関においてリスクとリターンの適正なバランスの確保が目指されると同時に、企業部門の再生に向けた動きが進展することによって、不良債権問題への対応が実効性を増すとみられる。さらに、金融機関における経費効率化や企業等のニーズに応じた付加価値の高い金融サービスの提供といった競争力の強化が図られることが、金融機関の収益性及び経営の安定性の向上に繋がるとともに、間接金融に求められるリスク仲介機能の発揮にも資するものと考えられる。