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先進国における労働生産性の伸び率鈍化

2016年3月28日
日本銀行国際局
中島上智*1
西崎健司*2
久光孔世留*3

要旨

近年、先進国において労働生産性の伸び率が趨勢的に鈍化している。成長会計のフレームワークでは、労働生産性の伸び率は資本装備率の伸び率の寄与とTFPの伸び率の和であり、先進国ではそのどちらも伸び率が鈍化している。学界や中央銀行での議論では、その主な背景として、(1)金融仲介機能の低下に伴う資本の非効率的な配分(Misallocation)により資本蓄積が停滞した、(2)労働市場のミスマッチ(Mismatch)拡大により全要素生産性(TFP)の伸び率が鈍化した、(3)計測の問題(Measurement problem)から技術革新の成果がGDP統計に十分に反映されていない、という3つの論点(「3つのM」)が指摘されている。先行きについては、金融仲介機能の回復や労働市場のミスマッチ解消に連れて労働生産性の伸び率が、程度の差はあるものの、徐々に高まっていくとの見方が多い。

労働生産性の伸び率の変動は、賃金や物価に影響を及ぼす。先進国12か国のデータを用いた実証分析によると、労働生産性の伸び率が鈍化した場合、賃金上昇率は直ちに鈍化するが、インフレ率は1年程度のラグをもって上振れる。今後米国や欧州において労働生産性の伸び率が加速してくれば、インフレ率の加速が抑えられるため、緩和的な金融環境が長く続き得る。しかし、労働生産性の伸び率が中央銀行の想定を下回ることになれば、インフレ率が加速するため、金融緩和の度合いを想定比前倒しで縮小させる要因となるリスクがある。

当面は、労働生産性の伸び率がいつどの程度のテンポで加速してくるのかという点に加え、それが賃金や物価にどのように波及してくるかという点についても不確実性が高い。先進国の中央銀行はそうした点を慎重に見極めながら金融政策を運営していく必要がある。

  1. *1日本銀行国際局 E-mail:jouchi.nakajima@boj.or.jp
  2. *2日本銀行国際局 E-mail:kenji.nishizaki@boj.or.jp
  3. *3日本銀行国際局 E-mail:maruseru.hisamitsu@boj.or.jp

本稿の作成にあたっては、日本銀行スタッフから有益なコメントを得た。また、サーベイ及び図表作成については、漆原一起氏、高富康介氏、伊達大樹氏(現 青森支店)、東宏香氏、浜中景子氏の協力を得た。本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行国際局までご相談ください。
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照会先

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