気候変動関連の市場機能サーベイ(第4回)調査結果
―市場機能向上の進展状況と今後の課題―
2025年6月6日
日本銀行金融市場局
要旨
気候変動問題への対応において、気候変動から生じるリスクや機会の、株式や債券などの金融商品価格への織り込みや、気候変動関連のESG債の発行環境の整備などが進み、金融市場による金融仲介機能が発揮されることは重要である。日本銀行では、2022年以降、その状況や課題の把握のために本調査を実施してきた。
今回調査では、気候関連リスク・機会の価格への織り込みについては、株式、社債市場とも、幾分織り込みが進んだとの見方が示された。さらなる織り込みに向けた課題については、「気候関連リスク・機会を重視する発行体や投資家の広がり」を最も多くの先が挙げた。
ESG債市場の現状については、ESG債の経済的な優位性への見方に幾分変化がみられた。投資家の裾野の拡大が限定的となるもとで、ESG債の需給への見方は緩和方向に変化し、グリーニアムを含めたESG債の一般社債に対する発行条件の優位性への見方もやや慎重化した。ESG債発行の理由として、投資家層の拡大を挙げる先も減少した。ESG債市場の先行きについては、事業法人、投資家ともに、やや長い目でみてESG債への取り組みを積極化していく方向性は引き続き窺われている。ただ、事業法人は、気候変動対応資金の調達手段を借入や一般社債を含めてより柔軟に考えている様子も窺われた。こうしたもとで、ESG債市場拡大の課題として「気候関連リスク・機会を重視する発行体や投資家の広がり」を最も多くの先が選択した。
今回調査では、ESG債の経済面への見方には幾分変化がみられたが、気候変動対応に理解を得て、必要な資金を確保することへの企業の姿勢は変化していない。企業はこれまでも、ESG債の発行事由として、経済的メリットよりも事業戦略・レピュテーションを重視してきたが、こうした観点からのESG債の発行スタンスは維持されている。トランジション・ファイナンスは、多排出産業を中心に活用が進みつつあり、今後も活用方針が示されている。移行計画も、資金調達面を含めて活用するとの声が聞かれている。
昨年秋以降、米国での政権交代や、欧州における産業競争力を巡る議論の活発化などを契機に、気候変動ファイナンスを巡る国際的な情勢には変化がみられている。今回調査では、これらがわが国の市場参加者の見方に直接的に大きな影響を与えた様子は窺われず、これまでわが国はバランスのとれた対応をしてきており、大きな影響はないとの声も聞かれた。同時に、これも契機として、開示や気候変動ファイナンスを巡るコストと効果、理念と実効性といった観点から多くの意見が聞かれるなど関心の高まりが窺われており、今後どのような影響が生じるかは注目点の1つである。また、今後、気候関連開示の法定化が進んでいくなかで、企業におけるESG債の位置づけが変化していく可能性もある。気候変動関連の市場機能を評価していくうえでは、こうした動向も注視していく必要がある。
日本銀行から
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