原油価格の変動要因と世界経済への影響:期待と金融要因の役割
2016年11月11日
笛木琢治*1
東宏香*2
東尾直人*3
中島上智*4
大山慎介*5
玉生揚一郎*6
全文掲載は、英語のみとなっております。
要旨
本稿では、原油価格の変動要因と世界経済への影響について、構造VAR(SVAR)を用いて定量的に分析した。本稿の特徴は、Kilian(2009)に代表される先行研究を拡張し、原油の実現した需要・供給要因(世界経済の景気を反映した原油需要と世界の原油生産の変動が原油価格に及ぼす影響)に加え、(1)将来の需要要因(世界経済の成長率に関する予想の変化の影響)、(2)将来の供給要因(世界の原油生産に関する予想の変化の影響)、(3)金融要因(原油市場における投資家のリスク・アペタイトの変化などの影響)を識別していることにある。
分析から明らかになったことは、主に次の3点である。
第1に、原油価格の変動のうち40%以上が、将来の需要・供給要因と金融要因によって説明される。特に将来の供給要因は、原油価格の変動を説明するうえで、将来の需要要因や金融要因と比べて2倍以上重要である。
第2に、近年の原油価格の下落局面に注目すると、2014年1月から2015年1月にかけては、将来の供給要因(世界的に高水準の原油生産が続くという見通し)が原油価格下落の主因であった。一方、2015年6月から2016年2月にかけては、実現した需要要因と将来の需要要因(世界経済の減速と成長率見通しの下方修正)が原油価格を相当程度押し下げていた。このように、原油価格の変動をもたらす要因は局面ごとに異なり得る。
第3に、原油価格の変動が世界経済(生産活動)に及ぼす影響は、原油価格の変動をもたらす要因によって異なる。このため、原油価格の変動が世界経済に及ぼす影響を考慮するうえでは、どのような要因によって原油価格が変動したかを識別する必要がある。
JEL分類番号
C32、E44、G12、G15
キーワード
原油の需要・供給要因、原油価格、金融要因、構造VAR(SVAR)
- *1日本銀行国際局 E-mail : takuji.fueki@boj.or.jp
- *2日本銀行国際局 E-mail : hiroka.higashi@boj.or.jp
- *3日本銀行国際局(現・金融機構局) E-mail : naoto.higashio@boj.or.jp
- *4日本銀行国際局(現・国際決済銀行) E-mail : jouchi.nakajima@bis.org
- *5日本銀行国際局 E-mail : shinsuke.ooyama@boj.or.jp
- *6日本銀行国際局(現・オックスフォード大学) E-mail : yoichiro.tamanyu@pmb.ox.ac.uk
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