コストプッシュ圧力の消費者物価へのパススルー
2022年9月30日
八木智之*1
倉知善行*2
高橋優豊*3
山田琴音*4
河田皓史*5
要旨
新型コロナウイルス感染症からの回復局面において、国際商品市況の上昇や為替円安を背景に、わが国企業が直面する原材料や製品の調達コストは、はっきりと上昇している。本稿では、こうしたコストプッシュ圧力の高まりが最終需要段階の物価である消費者物価に与える影響 ―― いわゆる「パススルー率」―― を定量的に計測し、近年の変化やその背景について考察する。わが国に関する計測結果をみると、為替レート変動のパススルー率は、近年、輸入ペネトレーションが高まるなかで上昇傾向にあることが示唆される。また、為替変動の影響を除いた原材料コスト変動等のパススルー率は、最終需要段階全体としてみれば大きな変化は窺われないが、中間需要段階に加え、最終需要段階でも一部品目においては幾分高まっているとみられる。パススルー率は、(1)コストプッシュ圧力の大きさ、(2)景気局面、(3)感染症の影響も受けた製商品の需給の引き締まり等によって左右され得るため、先行きの動向を注視していく必要がある。
JEL 分類番号
E30、E31、F30
キーワード
コストプッシュ圧力、原材料コスト、為替レート、消費者物価、パススルー、新型コロナウイルス感染症
本稿の内容は、日本銀行の「コロナ禍における物価動向を巡る諸問題」に関するワークショップ・第2回「わが国のフィリップス曲線とコスト転嫁」(2022年5月30日)の第1セッションにて発表された。本稿の作成にあたっては、青木浩介氏、植田和男氏、宇南山卓氏、亀田制作氏、塩路悦朗氏、陣内了氏、福田慎一氏、森川正之氏、渡辺努氏および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : tomoyuki.yagi@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : yoshiyuki.kurachi@boj.or.jp
- *3日本銀行調査統計局(現・総務人事局) E-mail : masato.takahashi@boj.or.jp
- *4日本銀行調査統計局(現・政策委員会室)E-mail : kotone.yamada@boj.or.jp
- *5日本銀行調査統計局 E-mail : hiroshi.kawata@boj.or.jp
日本銀行から
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