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日本銀行大阪支店の仕事 「西の母店」として全国を支える(2014年3月25日掲載)

日本銀行には、東京の本店のほか、全国に32の支店があり、それぞれの地域において、経済活動に必要なお金の循環の「心臓部」として役割を果たしています。
こうした中で、規模・役割の両面から重要な拠点となっているのが、西日本の母店機能を持つ大阪支店です。日本銀行開業のわずか2カ月後、明治15年(1882)12月に開設された大阪支店は、大阪府、和歌山県、奈良県を担当区域とし、全支店中最大の規模となっています。また、本店が災害等で本来の機能を十分果たせなくなった際に業務を代替する拠点となっており、日ごろから業務継続のための訓練も怠りません。今回は大阪支店の日ごろの業務と非常時への備えについて取材しました。

歴史と威厳を漂わせる建物の奥では、暮らしに密着した仕事が行われている

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大阪支店の外観

水都大阪の水運の要を担った堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島。古くは各藩蔵屋敷が立ち並び、現在も大阪を代表するビジネス街です。その中之島の、大阪のメインストリート・御堂筋に面した一角に日本銀行大阪支店はあり、大阪市役所本庁舎と御堂筋を挟んで向き合っています。

大阪のランドマークの一つとなっている大阪支店旧館は、本店と同じくわが国近代建築の第一人者・辰野金吾が設計したネオバロック様式の洋風建築です。緑青が美しいドーム屋根など重厚な外観は、支店が築いてきた歴史を感じさせます。市民にも親しまれ、年間5千人の見学者が訪れています。

旧館の奥にある新館では、関西経済を支える日銀の業務が行われています。お札の発行、金融機関や国のお金の受け払いなど、いずれも地域の暮らしの基盤となる仕事です。大阪支店の職員、約300人が、営業課、業務課、発券課、文書課の4課に分かれて、これらの仕事を担っています。順を追って、これらの仕事を紹介しましょう。

お札の品質を守る
──西日本の現金供給の一大拠点

多くの人は、日本銀行と聞くとお札(正式名称は「日本銀行券」)を連想することでしょう。

私たちの手元にあるお札は、国立印刷局で印刷され、日本銀行が引き取り、発行したものです。お札の大半は民間金融機関に払い出され、そこから企業や個人に流通し、日々の取引に使われています。大阪支店発券課では、滋賀県にある国立印刷局彦根工場から新しいお札を引き取り、これを支店から発行するほか、大阪以西の各支店に新札を供給しています。大阪支店自身が発行するお札は、全国の2割弱にのぼるほか、西日本におけるお札の供給について重要な役割を担っています。

発券課企画役の小玉建心さんは、話します。

「きれいなお札を世の中のすみずみまで届けることは、偽造防止という点と、気持ちよくお金を使っていただくという点で非常に重要だと考えています。ひいてはそれがお金の価値や日本銀行への信頼につながります」

お札の平均寿命は、五千円券と千円券で1年程度、一万円券でも4から5年です。企業や個人の取引で利用されたお札は、金融機関を通じて日銀本支店に持ち込まれます。日銀では、戻ってきたお札を再び世の中に出しても良いように、一枚一枚、偽札が混ざっていないか、傷み具合はどうかチェックしています。この仕事を「鑑査」と呼びますが、日銀には毎日大量のお札が戻ってくるので、この仕事には特注の機械(鑑査機)を用いています。大量のお札を迅速に処理することが求められる一方で、厳格なチェックをきちっと行う必要があるため、鑑査機には高度なセンサー技術などが数多く用いられています。

ちなみに、大阪支店における鑑査処理量は1日に900万枚。年間では20億枚以上に達します。偽造が疑われるお札は鑑査機から排出され、最後は人間の目で一枚ずつ真偽を鑑定します。大阪支店管内でも毎年偽造券が発見されていますので気は抜けません。同課企画役の小戸善夫さんはこう話します。

「スキャナーやカラープリンター等の技術は日々進歩しています。我々は最後の砦ですから、偽札鑑定技術の研鑽を怠ることはできません」

一方、個人の方が持ち込んだ、傷んだり汚れたりして使えなくなったお札の引き換えも大切な業務です。同課企画役の福島博司さんはこう話します。

「不安な面持ちで、焼けて灰になったお札を持ってこられる方もいらっしゃいます。私たちは灰の中から、一枚でも多くのお札を見分けようと目を凝らして鑑定します。鑑定が終わって最後に新しいお札をお渡しすると、皆さんぱあっと笑顔になりますし、ほっとして泣き出す方もいらっしゃいます。私たちもうれしくなります」

近畿・四国の金融機関(4千店舗)で受入れた国のお金を集計処理

大阪支店の組織図。支店長、副支店長のもと4つの課(営業課、発券課、業務課、文書課)で構成。

日銀が「政府の銀行」として行っている国のお金の受払いも、私たちの生活と深くかかわっています。お金の受入れの仕事を例にとると、私たちが国に支払う、税金や社会保険料、交通反則金などは、通常、金融機関が受入れますが、実は金融機関は日銀の代理人として受入れているのです。受入れたお金や証票は日銀に集められ、そこで国のお金として計上されます。

大阪支店では、業務課がこうした国のお金を計理する仕事をしています。大阪支店は管内だけでなく、近畿2府4県と四国等の金融機関(約4千店舗)が受入れたお金について取り纏めの仕事をしています。

税金等国のお金の計理処理では、OCR(光学式文字読み取り装置)と呼ばれる自動読み取り機を用い、金融機関から送られてきた納付書をデータ処理していますが、その物量は、年間約6百万件、全国の約2割を占めます。関係官庁は、そのデータを基に、納付の有無の確認などを行っています。

こうした国のお金は、金融機関で受入れた日の翌々営業日に国のお金として計理しています。年間で最も集中する日は、大阪支店では1日当たり20万件もの計理処理を行います。OCRの読み取りエラーが出たものは手入力で補正する必要があり、納付書に記載された文字が判読できないときなどは、一件一件金融機関に電話で確認しなければなりませんから大変な作業です。

業務課企画役補佐の竹野啓さんは話します。

「1円たりと間違えてはなりませんし、1日たりとも遅れてはなりません。正確迅速にデータを送ることで『政府の銀行』としての負託に応えられるのだと責任感を持って臨んでいます。地味で外からは見え難い業務かもしれませんが、身近なところに日銀の仕事があることを知ってもらえるとうれしいですね」

地域の金融経済の動向を把握し、分かりやすい情報発信に取り組む

日本銀行が行う金融政策は、全国各地の景気動向を点検したうえで決定されています。

大阪支店営業課では、首都圏に次ぐ規模の関西経済の調査を担当しています。

景気動向の分析には、統計などの経済指標や企業から提供されたデータを分析するアプローチと、面談などにより景況感を聞き取り(「ヒアリング」といいます)、得た情報を分析するアプローチがあります。支店では、どのように経済を把握しているのでしょうか。営業課で調査グループ長を務める宇野洋輔さんに聞きました。

「地域の経済指標やデータに制約がある中で、緻密なヒアリングを組み合わせて、経済動向を多角的に検証していきます。

例えば、当地は百貨店が多いという特徴があります。百貨店の販売額が増えた時、なぜ増えたのか、どんなものが売れているのか、どんな人が買っているのかといったことをデータやヒアリングを通じて調査し、景気を左右する消費者行動の変化を分析していきます」

ヒアリングは、支店長が企業のトップと面談したり、若手担当者が生産や販売の担当者の方とコンタクトをとったりと、いろいろな階層で行っています。

「景気に対する見方は人それぞれ。景気が回復している状況でも、悪いと思う人は必ずいます。様々な経済指標やヒアリング情報から、景気情勢の変化の兆しを察知し、管内全体の景気の先行きを予測することは容易ではありません。ですが、断片的なピースの一つ一つがきちっとはまり、クリアな分析結果が導かれる時、目の前の靄が一気に晴れていくような感覚になり、経済という生きものをリアルに感じる醍醐味があります」(宇野さん)

このほか営業課の総務・金融グループでは、管内の金融機関の預金や貸出の動き、さらには資金繰りや経営動向を日々モニタリングしています。日頃から金融機関と綿密なコンタクトをとることで、関西地区の金融の情勢を見極めています。

このように金融と経済の両面から分析を行った結果は、毎月の支店長記者会見で公表されるほか、四半期に一度本店で行われる支店長会議などで報告されます。

支店長をはじめとする支店幹部は、大学や経済団体などに赴いて講演も行っています。営業課では情報発信の強化に取り組んでおり、「外部講演は、年間100回を超す頻度で行っています」(宇野さん)。

また、最近はホームページを通じた情報発信にも力を入れています。ホームページは昨年11月に、親しみやすいビジュアル、内容にリニューアルしました。大阪支店の歴史に触れられるコーナーや支店長と大阪出身の著名人との対談記事などを掲載しています。

非常時には本店のバックアップを担う

私たちが金融機関を通じて、別の金融機関にある口座にお金を送金する場合、最終的には送金した金融機関と入金される金融機関の間でお金の決済が必要となります。

このとき金融機関は、「日銀ネット」と呼ばれる日銀と金融機関を結ぶコンピュータネットワークを利用して決済処理します。日銀ネットの1日当たりの資金決済額は約100兆円、日本のGDPの2割に相当する金額です。仮に、このシステムが止まれば、日本中のお金の流れがストップすると言っても過言ではありません。

日銀ネットのシステムは東京都府中市の電算センターに置かれていますが、万が一、大規模災害などにより府中センターが機能しなくなった場合に備え、大阪エリアにバックアップセンターがあります。大阪バックアップセンターと府中センターは常時接続されており、データを同期する仕組みが構築されています。つまり、今この瞬間に府中センターが使えなくなっても、直ちに大阪バックアップセンターへの切り替えを行い、業務を引き継げる体制を取っているのです。

また、円滑な決済を確保するうえでは、金融機関の資金繰りも重要です。大規模災害時に、金融機関が努力を尽くしても資金が不足する場合には、一定の条件の下で、日本銀行は貸付等による資金供給を機動的に実行しますが、本店が機能しなくなったときには、首都圏の金融機関に対しても大阪支店から資金を供給します。

このほか、日本銀行は、外国中央銀行や国際機関のお金(円資金)を預かるなど、外国中央銀行や国際機関とも密接な関係にあります。大規模災害などにより本店で外国中央銀行や国際機関との連絡が困難になった場合には、海外市場の混乱等を回避するため、大阪支店から日本銀行の被災状況を的確に知らせるなどの業務を行います。

「いざという日」に向けた業務継続計画

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休日に実施された日銀ネットの災害対策訓練の模様

もっとも、システムがいくら万全でも、それを動かす人間がしっかりと行動できなければ機能しません。また、日銀本店が被災した場合には、最低限の本部機能をほかの場所において果たしていくことが必要となります。本店が機能しなくなったときには、金融システムの安定のために欠かすことができない仕事を大阪支店が引き継ぎます。

非常時に全職員がなすべきことをまっとうできるか。あらゆる組織が抱える課題です。大阪支店ではその課題にどう取り組んでいるのでしょうか。

業務課企画役の関貴介さんは、府中センターで東日本大震災を経験しました。その体験から「いざというときは日頃の訓練がものをいいます」と強調します。

大阪支店では、日常的に有事を想定した訓練を実施しています。関係者が机上でシミュレーションするレベルのものから、本番さながらにシステムを実際に動かす訓練まで、そのやり方はバリエーションに富んでいます。有事の際には慣れない業務も整斉とこなさなければならないため、訓練は本番さながらのシナリオで経験を積めるようにしています。

日銀ネットを用いた訓練は、平日には実施できないため休日に行います。大阪支店を中心に行うものと、本支店合同のものがそれぞれ年に1回ずつあります。合同訓練は、日銀ネットに接続する金融機関や関係官庁も参加する本番さながらの大掛かりなものとなります。今年は、さる3月9日(日)に実施されたばかりです。

さらに、最近は、シナリオを事前に知らせないまま訓練を行う「シナリオブラインド訓練」も取り入れるようになりました。職員にとっては極度に緊張する訓練ですが、その緊張状態で冷静に動けるか、予告なく直面する事態に適切に対応できるかなど、底力を養うのに非常に有効な訓練となっています。

「やはり人間ですから、大きな災害に直面すると、緊張もすれば舞い上がりもします。その中で自分が今何をしなければならないかを見失わないように訓練しておくことが大切なんです」(関さん)

こうした訓練の積み重ねについて、営業課総務・金融グループ長の戸田博之さんは語ります。

「非常時こそ日本銀行の役割が問われます。日本銀行が機能しなくなれば、金融機関や金融市場には深刻な影響が生じ、経済活動も停滞してしまいます。一人一人の生活にも影響が及ぶでしょう。日本の金融を守ることは、皆さんの生活を守ることだと考えています。いざという日、それぞれの持ち場でその時できる最善のことを行う。そのために日々の積み重ねがあると信じています」

また、業務課の関さんは力強く話します。「大阪支店のメンバー全員が、『本店が機能できなくなった時、日本を支えるのは我々だ』という責任感や矜持を持って仕事に向き合っています」

取材を終え、御堂筋から旧館を振り返った時、取材前に見た明治時代の建物は、周囲の現代的な建物と調和し、それらの重しとして落ち着きを与えていることに気付きました。