日本銀行国際局「国際連携課」の仕事 G20・G7・EMEAPなどの日銀が参加する「国際会議」を支える(2016年12月26日掲載)
日本銀行は、G20・G7の財務大臣・中央銀行総裁会議をはじめ、多岐にわたる「国際会議」に参加しています。目的や内容に応じ、総裁や総裁代理者らが意見交換するハイレベルな会議から、その下に設置されるワーキンググループなど実務担当者が出席する会議まであります。
「国際局国際連携課」の主要業務の一つは、日銀が参加する国際会議やその作業部会に事務方として関わること。2016年5月、宮城県仙台市で開催されたG7では、同課が中心となって事前の調整や準備を行ったり、各国の訪問団の滞在をサポートしたりしました。G7の期間中、奔走した担当者の話を中心に、国際連携課の仕事を紹介します。
G20・G7とアジアの担当部署を統合しすべての国際会議への対応力を高める
G7 財務大臣・中央銀行総裁会議
「国際連携課は、2014年6月に発足した国際局内の新しい部署です。20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議などの国際会議を担当していた総務課の国際関係グループと、アジア諸国との会議や金融協力を担っていた国際局内のアジア金融協力センターを統合して発足しました」
こう話すのは、国際局国際連携課長の福澤恵二さん。二つのチームの統合により、現在では約30人のスタッフが同課で活躍しています。
統合前、総務課の国際関係グループでは、G20のほか、主要7カ国(G7)財務大臣・中央銀行総裁会議や国際決済銀行(BIS)の中央銀行総裁会議などにも実務担当として関わり、その時々の国際金融市場や金融機関の活動状況に関する意見交換等を通じて、国際的な経済・金融の安定に向けた取り組みを支えてきました。一方、アジア金融協力センターでは、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)や東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)といった国際会議の企画調整に関わるなど、アジア域内での金融協力を深化させることを目的に活動してきました。
この二つをなぜ統合することになったのか。背景には金融経済のグローバル化や国際的な金融規制強化の流れがあります。福澤さんはこう説明します。
「グローバルな国際会議でアジアなど新興国の存在感が高まると同時に、アジアにおける会議では先進国の金融政策や国際金融規制について議論する機会が増えてきました。それに伴い、国際局の二つのチームで重なる業務領域も増えてきたのです。統合すれば、両者の持つ情報や知見、国際会議の対応などのノウハウも共有することができ、シナジー(相乗効果)があると考えたのです」
統合後も同課にはEMEAPやASEAN+3などの担当者のラインが設けられ、アジア域内での金融安全網の構築や債券市場の育成といった国際金融協力を行っているほか、他の局からの協力を得ながら、統計作成の改善といったさまざまなテーマについて途上・新興国への金融技術支援などを続けています。またG20の担当ラインなども引き継がれたほか、リサーチ機能の拡充も図られています。
たとえばEMEAPは年1回、総裁会議を開きますが、その会議の企画調整を担うのは国際連携課のEMEAP担当ラインとなります。総裁や代理者会合に出席する国際担当理事をサポートするため、事前に議題の調整・交渉を行ったり、議題を詳細に検討して日銀としての対応方針を準備したりします。さらに、EMEAPの担当者自身も、総裁会議・代理者会合の下に設けられた「金融市場ワーキンググループ」に金融市場局の担当者と一緒に出席し、中国人民銀行や韓国銀行、オーストラリア準備銀行など、11カ国・地域の中銀・通貨当局の担当者らを相手に各国の金融市場動向や金融政策について実務的な意見交換を行います。
「今の日銀の仕事には、国際的でない業務はない」(福澤さん)と言われるほど、どの局で働いていても、国際会議に関与したり、海外中銀の担当者らとメールや電話で連絡を取り合ったりする機会が増えています。ただし、国際会議への関与の仕方、その仕事の内容について言えば、「国際局国際連携課は、他の局と違う側面があります」と、同課の企画役でEMEAP担当の高田良博さんは言います。
「他の局の場合は、所掌する業務の延長上にある国際会議に参加(関与)することが多いように感じます。一方で、国際連携課が関与する国際会議は、総裁らが出席することも多く、景気動向から金融政策、世界経済の成長などまで、多様な議題で意見交換が行われます。したがって国際連携課の担当者は、その議題に応じて他局からも話を聞いたりコメントを求めたり、日銀内で調整をしながら国際会議に向けて準備していく。課の名前のとおり、いろいろな人と連携しながら仕事を進めていく機会が他の局より多いのです」
G7 シンポジウム
国際会議が日本国内で開かれることもあります。そんなときは日本がホスト国となり、各国関係者を「おもてなし」しながら会議を成功へと導かなければなりません。ホスト国の一員として国際会議を支えるのも国際連携課の仕事です。
2016年5月20日と21日の両日、国内では8年ぶりとなるG7が仙台で開催されました。国際局では国際連携課を中心に、課を超えて14人が仙台に出張するなど、G7の会議を舞台裏で支えました。どのような仕事をしたのか、具体的に紹介しましょう。
1年前から入念に「ロジ」を進め、開催中は「リエゾン」が各国総裁をサポート
G7 写真撮影
G7の国際会議には、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの財務大臣と中央銀行総裁のほか、欧州委員会(EC)委員や世界銀行総裁なども出席します。開催場所となった仙台市の秋保地区には、各国から政府・中央銀行・国際機関・報道の関係者など約800人が訪れたと言います。
国際連携課は日銀内の事務局機能を担い、全体の運営を主導する財務省や仙台市と協力しながら準備を進めました。今回のG7は、G7伊勢志摩サミットにつながる重要な会議として、「世界経済の再興」「強靭な国際金融アーキテクチャの構築」などに焦点を当てて議論を行いました。そうした議題をめぐる会議前の調整や、会議後の公表文の内容の確認なども、国際連携課は日銀の関係部署や国内外の当局と連携して行いました。
高田さんは、「G7開催の約1年前から財務省や仙台市と何度も打ち合わせを重ね、会議を円滑に運営するために『ロジ(ロジスティクス)』と呼ばれる後方支援業務を進めました。各国訪問団の予定や要望を事前に把握し、会場周辺をはじめ国内各地の交通事情も考慮して、細かいところまで準備を行いました」と振り返ります。
「苦手な食べ物は夕食会のメニューで避けてほしいとか、移動に使う車はこういうタイプが良いなどと、各国の関係者などからの要望はいくらでもありました。それに対して細かな要望であっても多くの人が関わってくるので、伝えるべき人に伝え、漏れのないように準備をしました。また、各国訪問団の予定に合わせて人の動き、いわゆる動線も決めておかなければいけません。到着した空港から何時何分の新幹線に乗るか、どこに配車して、駅のホームからどう案内し、どの道順で会場まで行くか……。動線が滞り、ある国の中銀総裁が会議に間に合わないなどということは避けなくてはなりません。国際会議のロジとは、会議にマイナスになるようなことは発生させない、『何もなくて当然』の役割を果たさなければなりません」
各国訪問団には、ホスト国である日本から「リエゾン」と呼ばれる案内係がつきます。今回のG7では、各国の財務大臣と中銀総裁に一人ずつ、国際機関の代表らにも一人ずつリエゾンがつきました。国際連携課を中心に、日銀からは10人前後がリエゾンとして仙台に出張。G7の開催期間中、各国の総裁などと行動を共にしながら、移動のスケジュール管理のほか、案内・調整役を担いました。
国際連携課の企画役補佐の岩井荘平さんは日銀リエゾンのリーダーを務め、岩井さん自身もドイツ連邦銀行のイェンス・ヴァイトマン総裁のリエゾンを務めました。「総裁に失礼のないよう、おもてなしの心でしっかりやろう」と心がけ、日銀リエゾンのメンバーにも同じことを伝えたと言います。
とはいえ、半歩下がって総裁についていくようなスタイルでは、リエゾンは務まらないかもしれません。岩井さんは、ヴァイトマン総裁を出迎えて、「滞在中、困ったことがあれば何でもお申し付けください」と挨拶。すると、総裁を含めてドイツ連邦銀行の訪問団からは、リクエストが次々に飛んできました。
「ミーティングに使う別の部屋をとってくれないか」「仙台の名物をお土産に持って帰りたい」……。
ヴァイトマン総裁から「ソウヘイ、ホテルのラウンジまでちょっと来てくれないか」と、声をかけられたこともありました。 岩井さんはヴァイトマン総裁と抹茶ケーキとコーヒーでしばし歓談。そこで「ドイツのメディアからインタビューを受けるのだが、背景に良い絵が撮れる場所はないか。緑のきれいなところがいい」というリクエストを受け、ケーキを食べ終えてからすぐに手配したと言います。
「どんな要望にも臨機応変に対応することで、良い雰囲気をつくりたいという気持ちでした。日銀のリエゾンで、総裁たちに日本を好きになってもらいたいという思いもありました」
G7 仙台推進協力委員会主催歓迎レセプション
岩井さんは国際連携課でASEAN+3や二国間の国際協力を主に担当しています。最近では、日銀とフィリピン銀行とのクロスボーダー担保取極などの仕事に携わっていますが、G7に関与して得た情報や知見は「アジアでの仕事にも生きる」と言います。
「アジア各国の中銀関係者らと意見調整し、落としどころを探る場面で、最後はお互いの『人』を見て判断するようなことがあります。私自身、相手になるほどと思わせるロジックと、一人のセントラルバンカーとして信頼感を高めなければいけません。そのためには、『アジアの明日に何が必要か』という目線に加え、『最先端の金融で何が起こっているか』というグローバルな目線も必要です」
17年の横浜でのアジア開発銀行総会にG7で得られた経験も生かして貢献する
会場に向かう黒田総裁
国際連携課は語学に堪能なスタッフが多く、また日銀の他の組織に比べて女性スタッフの割合が高い部署です。同課の安永奈都さんと三好純子さんの二人も、G7の開催の数日前から仙台に出張し、舞台裏を支えました。
安永さんは、金融安定理事会(FSB)のスヴェイン・アンドリーセン事務局長のリエゾンを務めました。日銀の秘書課に勤務した経験があるそうですが、「秘書に比べると、リエゾンはサポートする相手以外の人たちとも活動する時間が長かった」と話します。
「リエゾンもいろいろな部署と連携しながら仕事に臨みます。準備の段階では財務省や日銀の他部署などと打ち合わせを重ねる。でも、仙台での一日の流れを自分の頭の中で想像すると、『ここはどういう動きをするの?』と疑問がどんどん出てくる。そうしてまた打ち合わせです。開催中も、一日の予定が終わってから深夜までミーティングをしていました。最初、リエゾンを任されたときは大丈夫かなと不安でしたが、あまりにも毎日すべきことが多くて、それをこなしていくうちに終わっていた感じです」
三好さんはG7の会場となったホテル内に設置された「ロジ室」に待機し、黒田総裁や理事をサポートする仕事などに当たりました。
「ロジ室には電話やコピー機、シュレッダーも備えられ、国際連携課からはノートパソコン数台を持ち込みました。会議のブレイクには総裁はロジ室に戻り、空いている場所で休憩。私たちは資料をまとめて渡したりしました」
三好さんはホテル内の動線を頭に叩き込み、総裁や理事を会議場に案内したり、朝食の席を確保したりする役割も果たしたそうです。
国際間の金融のつながりが深く、より複雑になりつつある今、世界の経済・金融情勢をめぐる意見交換の場としての国際会議はさらに活発化し、注目度も増していくでしょう。日銀が参加する国際会議は、テレビなどで華やかに映る場面が多いですが、その舞台裏を地道な準備の積み重ねで支える国際連携課の役割も、より重要度が増すはずです。2017年5月には「第50回アジア開発銀行年次総会」が横浜で開催される予定です。国際連携課長の福澤さんは「今回のG7で得られた経験も生かしながら、会議の成功に貢献したい」と気を引き締めています。
写真出典: 財務省ウェブサイトより加工して作成