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日本銀行総務人事局 日本銀行におけるダイバーシティ推進の取り組み すべての職員が能力を最大限に発揮できる組織を目指して(2019年3月25日掲載)

近年、多くの企業がダイバーシティの推進(多様な人材の活用)に取り組んでいます。性別、年齢、国籍、障がいの有無、宗教、信条、性的指向・性自認などを問わず、多様な人材の活躍を促すことが組織に活力を与えるためです。日本銀行でも、総務人事局総務課に設けられた「ダイバーシティ推進グループ」を中心に、「すべての職員がそれぞれの能力を最大限に発揮できる」ことを目指して環境整備を進めています。取り組みには、制度の拡充だけでなく、すでにある制度をより円滑に利用できるようにしたり、意識啓発のための研修を実施するといった活動も含んでいます。今回は、日銀が経営上の課題としてこれまで取り組んできたダイバーシティの推進について、具体的に紹介します。


先駆けて導入したフレックスタイムと培われてきた「働く女性」支援の土壌

日銀総務人事局総務課に「ダイバーシティ推進グループ」が設置されたのは2015年1月。現在(19年2月末)の所属メンバーは男女4名ずつの計8名。同グループ長の五神玲子さんは「ダイバーシティに関する制度の設計・導入は、同じ課の人事制度企画グループが行っていました。その後、導入された制度が使いやすくなるように環境を一層整え、職員の意識の啓発にも継続して取り組む必要があるという考えから、専担部署としてダイバーシティ推進グループ(以下、推進グループ)が新設されました」と説明します。

振り返ると、日銀はダイバーシティという概念が日本で広がりはじめる前から雇用環境の整備や制度の導入などを進めてきました。05年、施行された次世代育成支援対策推進法に基づいて「第1期行動計画」(注1)を策定し、施策の一つとして08年1月にはフレックスタイム制を導入。業務に支障のない範囲でコアタイム(午前10時〜午後3時)以外は裁量による出退勤を認めました。推進グループの金城一樹さんは「当時、金融機関でフレックスタイム制を導入していたところは少なく、世間対比でみて先進的な取り組みでした。同制度があるおかげで、育児や介護との両立がしやすくなったなどの声も聞かれています」と言います。

「その3年後、第2期行動計画の施策として『時間単位の年次有給休暇(時間休)』も導入。1日単位、半日単位だけでなく、時間単位でも有給で休めるようになったのです。職員は育児や介護などがあっても、ワーク・ライフ・バランスに取り組みやすくなりました。私自身も子どもの世話をするために時間休を活用しています」

フレックスタイム制は本店だけでなく、16年8月からは支店・事務所でも導入されました。制度の適用を受ける職員数は年々増え、現在では全職員の約3割、1,500人程度がフレックスタイム制を利用しています。

また、日銀では「女性にとって働きやすい職場作り」も積極的に進めてきました。妊娠中は時間外勤務の制限や通院時間の確保などの勤務措置があり、出産予定日の6週間前から欠勤が認められますが、さらに育児休業のうち5日を有給とする制度(注2)も導入されているほか、育児目的での短時間勤務制度や看護休暇も利用できます。本店では、子どもが認可保育所に入所できない場合、事業所内保育所の利用もできます。本店からほど近い場所に認可保育所と同程度の人員配置や広さなどを備えた施設を確保しており、職員に利用されています。

  • イラスト1
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「えるぼし」第3 段階(最高レベル)認定マーク(右)と「プラチナくるみん」認定マーク(左)

日銀では、常勤職員の半分ほどを女性が占めていますが、産育休からの復帰者の割合は「ほぼ100%」と言います。これは制度が整っているから、という理由だけではないでしょう。五神さんはこう言います。

「ライフステージが変わっても日銀で公共性に資する仕事に携わっていきたい、そういう意識を持つ女性職員が多いからだと思います。また、日銀には、男性・女性問わず、育児をしながら働き続けることを応援しようという土壌があり、そのうえに出産・育児等の支援制度が整えられてきたのです」

フレックスタイム制や時間単位の有給休暇は職員の間にも定着しており、こうした制度を利用する人としない人の間に意識のギャップはほとんどないと言います。制度利用が必要な職員はちゅうちょなく使える雰囲気が醸成されている、ということです。なお、「ワーク・ライフ・バランスを実現できているか」との職員向けアンケートでは、約85%が「できている・どちらかというとできている」と回答しました。「日銀は、働きやすさを高め、より能力を発揮してもらうことに前向きな会社であり、そのために、職員の個別事情も踏まえてきめ細かな対応を行っています」と金城さんは強調します(注3)


  • (注1)次世代育成支援対策推進法では、企業が、労働者の仕事と子育ての両立を図るために行動計画を策定することが求められています。これに基づき、日銀では05年の第1期行動計画に続き、10年からの第2期行動計画、14年からの第3期行動計画を経て、現在は18年に策定した第4期行動計画が実施されています。
  • (注2)育児休業のうち5営業日までを有給とする育児休業制度が15年4月に導入されました。これによって男性職員の育休利用も促進され、17年の男性育休取得率は35%となっています。なお、本支店の男性の幹部職員が育休を取得した例もあります。
  • (注3)日銀は18年、次世代育成支援対策推進法に基づき厚生労働大臣による「プラチナくるみん」の認定を受けました。同認定は「くるみん」の認定を受けた企業のうち、「男性の育児休業取得」「長時間労働の抑制」「多様な労働条件の整備」「出産した女性労働者の継続就業」などの項目について、より厳しい基準を満たした企業が受けられるものです。

研修やセミナーで意識啓発し、職場復帰、キャリア形成、相互理解を促進する

推進グループでは、制度設計に加え、職員のダイバーシティにかかる意識の啓発にも継続して取り組んでいます。その一つが研修の実施です。日銀では主として総務人事局人材開発課が各種の研修を企画・実施していますが、その中でダイバーシティ研修も年間30回ほど行い、五神さんや金城さんらが講師となって日銀のダイバーシティ推進の考え方や方向性を説明しています。

推進グループ自身が企画・実施する研修もあります。同グループの設立から年1回実施している研修が「職場復帰支援セミナー」です。直近の同セミナーには、妊娠中や産育休中、育休から復帰後の女性だけでなく、配偶者が育休中などの男性職員も多く参加し、参加者は100名近くにのぼります。研修の様子は支店等の部署にもテレビ中継しました。
企画・運営を担当した推進グループの佐藤恵美さんは、次のように話します。

「育休中などの職員の中には、復帰後に仕事と育児を両立できるだろうかと不安に感じている方も多くいます。研修では産育休からの復帰に際しての準備や心構えに焦点を当て、復帰後をイメージできるような内容にしています。外部から専門家を招き、講義を行ったり個別の質問も受け付けたり、さらに保活(保育所探し)についても情報提供や具体的なアドバイスを行いました」

佐藤さん自身も育児をしながら働く女性職員ですが、「育休中は職場と接触する機会が意外と少ないと感じた」と話します。しかし、こうした復帰支援セミナーの案内を職場から自宅に送ってもらえるだけで「(産育休中の)自分のことを気にかけてくれている」という安心感が生まれると言います。

日銀は、16年に施行された女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)の定めに基づく行動計画も策定しています。そのなかで、女性職員の登用の拡大に向け、「企画役級以上」(注4)の職員に占める女性の割合や、将来の管理職候補として採用される総合職・特定職の採用者に占める女性の割合について目標を設定しています。

推進グループの藤尾恒さんは「こうした目標に向けた取り組みの一つとして、女性職員のキャリア形成をサポートする『女性キャリアセミナー』を実施している」と話します。

直近の同セミナーは、法律・経済・語学・システムといった専門分野に特化した仕事をする女性職員を対象に実施しました。藤尾さんは「キャリアを形成していく過程において、結婚・出産・育児などのライフイベントに直面するということが少なくありません。その時、仕事と育児の両立のなかで、たとえば時間的な制約に悩むこともあると思います。どうすればワーク・ライフ・バランスを確保しながらキャリアを形成していくことができるのか。そうした悩みや問題意識についてじっくりと考えること、また、将来に向けたキャリア形成の戦略を考える機会を提供すること。それが今回のメインテーマでした」と話します。

写真1

職場復帰支援セミナーの模様

セミナーでは、まず女性役員が自身の職業経験も踏まえつつ、キャリア形成の過程で意識しておくべきこと等について講話を行いました。その後、外部講師による講義・演習に続き、本店で管理職として活躍している女性職員に登場してもらい、仕事に取り組む上でのスタンスや工夫、後輩・チーム員の指導等で気を付けていることを直接語ってもらい、セミナー参加者との意見交換を行う時間も設けました。

「参加者からは、『実際に管理職に就き、他部署との調整等の責任を伴う仕事をしている先輩と意見交換することで、職場のリーダーとして求められる能力についてあらためて考えるいい機会となった』とか、『リーダーとしてチームを引っ張ることについて、大変さばかりを想像していたが、管理職として一定の裁量を持ちながら組織に貢献し、それが仕事のやりがいにもつながっているということがよく分かった』といった声が聞かれました」と、藤尾さんは言います(注5)

ダイバーシティは女性活躍にとどまりません。推進グループでは、職場運営の一助とすべく、管理職を対象に「障がいを持つ方を部下に持った場合のマネジメント」というテーマでセミナーを実施しました。こうしたセミナーを企画した理由について、金城さんは、次のように話します。

「日銀のダイバーシティ推進は『すべての職員』を主語としており、実際、本支店の多くの職場で障がいを持つ職員が活躍しています。今回は、障がい者の雇用の促進といった社会的要請も踏まえ、障がいを持つ職員がより一層能力を発揮して組織に貢献していくためのマネジメント上の工夫等について考える機会とすべく企画しました。セミナーには、多くの役員や本支店の幹部職員も参加しました」


  1. (注4)「企画役」は日銀において担当業務を取りまとめて遂行し、部門内の組織の運営・管理の役割を担う管理職です。
  2. (注5)日銀は17年5月、女性活躍推進の取り組みの実施状況等が優良な企業として、「採用」「継続就業」「管理職比率」などの全評価項目で認定基準を満たし、厚生労働大臣の認定「えるぼし」評価のうちの最高レベルである第3段階に認定されました。

変化に強い組織であるために多様な人材を確保する

  • 日本銀行では、ダイバーシティの推進に向けて、次の行動計画を策定、実行してきました。2005年から2010年まで、次世代育成支援のための行動計画、第1期。2010年から2014年まで、次世代育成支援のための行動計画、第2期。2014年から2018年まで、次世代育成支援のための行動計画、第3期。2018年から2021年まで、次世代育成支援のための行動計画、第4期。また、2016年から2021年まで、女性の活躍推進に関する行動計画。日本銀行は、両立支援制度の拡充のため、次の制度を導入しました。2005年4月、看護休暇の導入、2008年1月、看護休暇の半休化。2008年1月、フレックスタイム制度の導入。2008年1月、配偶者出産休暇の導入。2010年6月、介護休暇の導入、半休化。2010年7月、再雇用登録制度の導入。2010年11月、高年層短時間勤務制度の導入。2011年1月、時間単位の年次有給休暇の導入。2011年4月、事業所内保育所の設置。2015年4月、有給の育児休業の導入。2016年8月、第二フレックスタイム制度の導入。2016年8月、30分短時間勤務制度の導入。2017年4月、在宅勤務制度の導入。2017年8月、リエントリー制度の導入。また、2014年以降は並行して、職員の意識改革のため、次の取組みを行ってきました。2014年度以降、育児休業からの職場復帰支援セミナー。2015年度以降、産育休者と管理者との面談マニュアル。2015年6月、介護ポータルサイトの開設。

日銀における将来の管理職候補である総合職・特定職で新規採用した職員に占める女性の割合は、近年、3割を超えています。

推進グループと総務人事局人事課を兼務し採用活動を担当する田尾一輝さんは「日本経済に貢献したいという意気込みのある、さまざまなバックグラウンドを持った人に来てもらいたいという思いで採用活動をしています」と話します。

日銀の採用パンフレットでは、16年から「女性の活躍に向けて」と題したページを新たに作り、出産・育児支援制度などを積極的に紹介しています。女性の採用が多いのはこうした「入り口」の広報活動も背景にあるでしょう。また人事課の担当者らは支店と協力しながら全国各地の大学に足を運んだり、海外の就職フォーラムに参加したりと多様なルートで採用活動を展開しています。田尾さんは、次のように話します。

「日銀の社会的な使命(物価の安定と金融システムの安定)は変わりませんが、外部環境は大きく変化しています。その使命を果たす上での人事制度や働き方も時代とともに変化すると思います。日銀が変化に強い組織であるためには多様な人材が必要不可欠です。今後とも公的使命感を持った多様な人材に来てもらいたいと考えています」

ダイバーシティ推進に関する取り組みについては、推進グループから日銀の最高意思決定機関である政策委員会に定期的に報告し、総裁を含む役員から意見をもらいます。金城さんによれば「報告の際には、多様な観点からの議論が行われます。たとえば、『こういう施策はできないものだろうか』といった示唆をいただくこともあります」とのこと。役員を含め、日銀はダイバーシティ推進を重要な経営課題に位置づけているのです。

ダイバーシティ推進に向けた取り組みは多くの企業で行われています。推進グループでは、社会一般の動向を把握すべく、民間金融機関等や各国中銀から情報収集を行っています。先進的な企業では、近年の「働き方改革」への対応として、仕事の在り方・進め方そのものを見直す取り組みも広がっており、そうした動きがダイバーシティ推進を後押ししてきています。ダイバーシティは「ゴールなき取り組み」です。これからも、多様な人材を集めつつ、性別や障がいの有無などにかかわらずに一人ひとりが個として尊重され、能力を発揮できる組織を目指して、日銀の挑戦は続きます。