日本銀行システム情報局 日本銀行が運用するシステムの安定稼動に向けた取り組み 日本の金融システムを24時間、陰ながら支える(2019年12月25日掲載)
日本銀行では他の金融機関と連携する決済システムを柱として、その他も含めて100以上ものコンピューター・システムが毎日の業務を支えています。そのシステムを365日、24時間体制で管理し、安定した運行を担っているのが「システム情報局」のスタッフ。システムの開発から、想定しうる多種多様なアクシデントに向けた対策、万が一の際のバックアップ体制の構築、トラブルを未然に防ぐための職員への啓発活動、技術の劇的な進化に対応する細やかな情報収集まで、社会的な要請に応えながら、日々、さまざまな取り組みが行われています。
国民の生活にもつながる日本銀行のシステム
システム運行の様子
金融政策運営や決済サービスの提供、国庫・国債事務、さらには一般的な事務処理まで、日本銀行の業務の多くはコンピューター・システムに支えられています。そのシステムの開発や安定した運行、管理などを担うのが、全6課・17グループからなる「システム情報局」。現在、大小含めて100以上のシステムが稼動していると、同局システム企画課長のアベ松裕司さんは話します。
「日本銀行が現在運用しているシステムの中で代表的なものとしては、日本銀行と金融機関を接続して、資金や国債の決済を行う日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)が挙げられます。万一、日銀ネットの運行に大きな問題が生じるようなことがあれば、金融機関を通じ日々行われているお金のやり取りが滞るなど、日本の金融基盤の安定が損なわれ、ひいては国民生活にも悪影響が及びかねません。このため、安定運行の確保のための取り組みは大変重要です」
日銀ネットがわれわれの暮らしにどう関わっているのか想像がつきにくいかもしれませんが、個人に関わるお金の動き、例えば国からの年金支給や、家賃の振り込みなどについても、最終的な決済は日銀ネットを通じて行われています。だからこそ日銀ネットの安定的な運行は、国民の暮らしを守ることにもつながっているというわけです。
海外中銀との意見交換
「情報通信技術の世界は日進月歩。今年3月に公表した日本銀行の中期経営計画(2019〜2023年度)においても、『情報技術が金融経済に広範かつ多様な影響を及ぼしつつあることを踏まえ、情報技術にかかる取り組みを適切に進めていくことが、業務・組織運営の両面で重要』と明記されています。システム情報局は、そうした情報通信技術の活用を通じ、日本銀行が行う業務の高度化や効率化、安定化に取り組むなど、日本銀行の業務をシステム面から支える、極めて重大な役割を担っている部署です」
状況の急激な変化を追うためには、常に情報通信技術の動向に目を光らすことが必須です。
「昨今の情報通信技術の進歩のスピードを考えれば、情報収集は普段から欠かすことができません。各国の中央銀行や国内の公的機関等とも連絡を取り合い、最新の情報を収集しています。自然災害やサイバー攻撃(注)などさまざまな脅威にも対応できるようにしておかなければなりません。そうした脅威の度合いが刻々と変化していくなか、自分たちが得た情報の活用の仕方もしっかり考え、必要とあらば、関係部署と連携しながら対策を講じていく。そうした力が求められています」
- (注)サイバー攻撃/コンピューターネットワークに侵入し、システムを破壊したりデータを盗んだりする行為。
365日、24時間体制でシステムの運行を見守る
システムの安定運行のため、具体的にはどのようなことが行われているのでしょうか。システムを構成する機器や回線の故障など、システムにトラブルはつきものですが、そうしたトラブルに対応するのが日銀ネット構築運行課システム運行グループです。グループ長の寺中毅さんによれば、各種システムの安定的な運行管理のため、365日、24時間体制のシフトが組まれているとのこと。
「システム障害などが発生したときに大切なのは、その発生原因と影響範囲を迅速かつ正確に把握すること。障害の原因は必ずあります。システムの専門スタッフの協力を得ながら、私たちはそれをまず探っていく。必要に応じて、システムを使う現場から情報を収集して状況を判断し、専門スタッフと共に原因の究明を行います」
時には、夜間や休日に呼び出されることも。2018年の北海道胆振東部地震では、朝の3時台に寺中さんの携帯電話が鳴りました。この時は幸いにしてシステムは滞りなく運行できましたが、停電により道内の決済システムが使えなくなった場合、広範囲に影響を及ぼす可能性があることも念頭に、内外の関係先と連携しつつ、情報の収集に努めたそうです。
「歯科治療中に電話が鳴ったときは、焦りましたね」と苦笑しながら振り返るのは、同グループ企画役の有田真理子さん。緊張感のある場面で難しい判断が迫られることもあるのだとか。
「今のグループに配属された際、何かあったら『ひとりで抱え込まない』『声を出して』と言われました。そうした助言も踏まえ、難しい判断を迫られるときには、遠慮せず周囲に相談するようにしています。システム障害対応は、関係者の皆が知恵を絞れば必ず良い対応策が出るんです。個々人の力ではなくチームでアクシデントに対応しようという意識がグループに浸透しています」
システム障害の対応部署ということで、スタッフの皆さんは心安まるときがないのではないか、との問いかけに寺中さんが笑顔でこう答えてくれました。
「確かに、皆、常に緊張感があると思います。ただ、日本銀行の仕事の土台であるシステムを守っている、という自負があるので、大変さよりもむしろやりがいの方が大きいんです」
定期的な大規模訓練で組織の実践力を向上させる
障害対応の様子
システムの安定運行のためには、いざというときへの備えも欠かせません。システム企画課総務グループ企画役の藤原裕一さんは、BCP(業務継続計画)体制の整備のための取り組みの一例をこう語ります。
「例えば想定外の自然災害をはじめ大規模なアクシデントが生じてもシステムを継続して稼動させていく体制づくりが大事です。そのひとつが、関西に設けられたバックアップシステム(通常のシステムが使えなくなった際の予備のシステム)です。仮に大きな災害でメインセンターのシステムや機器が利用できなくなったり、関東で通信が遮断された場合は、関西に設置されたこのバックアップシステムを立ち上げ、通常の運行が引き継がれるようになっています」
備えは机上の空論であってはいけません。いざというときに迅速かつ確実に対処できるよう、例年春頃には「システム障害対策訓練」が実施されます。
「日銀ネットを利用する約500の金融機関も参加して行います。日本銀行は、金融機関との連絡体制を確認しながら、日銀ネットなどのバックアップシステムを立ち上げ、金融機関も日本銀行のバックアップシステムに接続先を切り替えたり、自社のバックアップシステムを立ち上げたりします。こうした大規模な訓練を定期的に行うことで、実際に災害が起きたときに、金融機関も含めた関係者が円滑に対応できるよう、体制を整えながら実践力を高めています」
業務の処理はシステムが行いますが、障害などが起きた場合に備えてもっとも重要なのは、常日頃からの連携と事前の想像力だと藤原さんは言い切ります。
「各金融機関、官公庁などの担当者と日々コミュニケーションを密に取りながら、情報、経験を共有する。システムが担う部分は年々増していますが、システムを動かすのは人。いざというときの対応という点では、関係者同士の連携が何より大切ですね。それから想像力。アクシデントが起こっていない通常時から、最悪の事態への対応を、想像力をフルに働かせて考えます。これは難しいことではありますが、この仕事の醍醐味でもあります。醍醐味と思えるのは、国民生活を支え続けるシステムを担っている、という強い意識に支えられているからです」
セキュリティ対策のために日々重ねられる啓発活動
情報セキュリティに関する研修の様子
システムの安定運行のためには、レベルの高いセキュリティ(安全)対策を施し、サイバー攻撃による外部からの侵入などを防ぐことも重要です。情報セキュリティ課企画役補佐の中村啓佑さんは、担当業務についてこう語ります。
「情報セキュリティ課は、日本銀行のシステムセキュリティ確保にかかる施策の企画、立案および実務を担当しています。行内外の状況等を踏まえつつセキュリティ対策の指針を策定しており、その重要性を研修等を通じて、日本銀行の職員に説明し、理解を深めてもらっています。指針を作るだけではなく、行内への地道な啓発活動も私たちの大きな仕事です」
コンピューターウイルス等の侵入経路が多岐にわたり、偽メールひとつとっても手口が巧妙になっている今の時代、システムセキュリティに関する対策は、逐次更新されていると言います。また、セキュリティ対策に特化した強化月間を設け、重点的な啓発活動も行っています。こうした取り組みが、中央銀行のセキュリティレベルの維持・向上に貢献しています。
「セキュリティ侵害により機密情報が流出したり、システム運行が滞ると、日本銀行の業務に支障を来し、国民生活にも影響を及ぼしかねません。そうした事態を招かないためのセキュリティ面での職員の理解度が高まっていると感じます。同時にセキュリティ対策はバランスが大事。必要なセキュリティレベルを確保しつつ、コストと効果、業務の効率性やユーザーの利便性などを考えながら適切に進めていくことが求められています」
現在、日本銀行に限らず国内の公的機関などは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、気を引き締めて対応しています。
「国際的に注目を集めるイベントですので、開催までの間、公的機関や関連する事業者に対するサイバー攻撃が増えると想定されています。何も起きていないように見えても、実は、ひそかに攻撃あるいは攻撃準備が行われている可能性があることを念頭におきながら対応しなければなりません。セキュリティ対策は情報が命。常日頃から官公庁はもちろん、海外の中央銀行などと幅広く連携し、情報を共有するのも重要な業務です」
勉強会や研修、訓練を繰り返し行い、常に情報や体制を更新。システム情報局は、技術や社会環境が刻々と変化するなかで、中央銀行のシステムの安定的で効率的な運行を実現すべく強い使命感を持って日々尽力しています。業務の処理にシステムは欠かせませんが、そのシステムを構築し、動かすのは人。日本銀行の業務は今日も、システム情報局のスタッフの地道な努力によって支えられています。