日本銀行金融研究所 歴史研究課アーカイブグループの仕事 歴史資料として重要な文書を後世に引き継ぐ(2026年3月25日掲載)
日本銀行の業務は、金融政策の運営をはじめ、銀行券の発行、金融システムの安定に向けた取り組み、決済に関するサービスの提供、国の事務の取り扱い(国庫金や国債に関する業務)など多岐にわたりますが、過去の政策決定や業務運営は、その時々の金融経済の状況を反映している面があるのは言うまでもありません。そして、その業務の記録には、金融経済史を研究する上で非常に重要な文書も含まれています。日本銀行では、それらを含む歴史的に重要な記録を、後世に引き継ぐべく収集・保存し、さらに一般に公開する取り組みを行っています。
将来の利用のために重要文書を収集・保存
1882年12月に開業した日本銀行大阪支店の帳簿。日本銀行の帳簿の中では現存する最古のもの。
日本銀行のアーカイブは、金融研究所に設けられています。1982年の日本銀行創立100周年事業で金融史関連資料を公開したことに始まり、1999年9月に正式に「日本銀行金融研究所アーカイブ」(以下、アーカイブ)を発足。情報公開法が施行された2002年10月には歴史・文化・学術的な価値を持つ資料を管理する施設として総務大臣から指定を受け、さらに「公文書等の管理に関する法律」(以下、「公文書管理法」)が施行された2011年4月には内閣総理大臣から「国立公文書館等」の指定を受けました。
アーカイブの目録掲載冊数は2025年3月末時点で11万6166冊。これは、16ある「国立公文書館等」の施設のうち、国立公文書館に次ぐ水準です。
保存されている資料は、総裁・役員の講演記録や記者会見資料、支店長会議資料、帳簿、写真など多岐にわたります。ちなみに、この広報誌「にちぎん」もその一つです。保存されている資料のほとんどは紙資料ですが、マイクロフィルムや電子文書などもあります。
膨大な資料を収集し、保管するのは経費も人員も要することですが、その活動の意義をアーカイブ館長の岸淳一さんはこう話します。
「公文書管理法の第1条に記されているように、歴史的事実の記録である公文書は健全な民主主義の根幹を支える国民の知的資源です。重要な文書を漏れなく収集し、長期的に良い状態を維持し、広く利用され得るようにしておくことは、日本銀行の諸活動を現在および未来の国民に説明する責務を全うしていく上で、重要な基礎となります」
本店各部署・支店等と連携して残す文書を選別
そのための具体的な業務を、収集、保存、利用の順にご紹介しましょう。
まずは収集です。収集には移管と寄贈があります。移管とは本店各部署・支店等で作成された資料が保存期間を終えた後、アーカイブに移送されることを指します。資料の作成部署は、当該資料の保存期間満了前に、重要度に基づいて保存期間満了時の措置(以下、レコードスケジュール)として移管または廃棄のいずれかを定めます。アーカイブでもこのレコードスケジュールを確認し、保存期間満了時の措置について、必要に応じて作成部署と協議等を行います。なお、移管・廃棄の判断は、公文書管理法を踏まえ日本銀行が定めた規程にのっとって行っています。2024年度に移管された文書は2836冊でした。
大量の資料を受け入れる移管は根気を求められる業務ですが、担当するアーキビストの近藤麻里さんは「文書は時代や組織を映す鏡のようなもの。それらを未来に橋渡しする責任を感じます。電子文書の保存が増えていくなど、新たな課題も出てきますが、時代の変化に合わせて、しっかり対応したいと思っています」と話します。
なお、アーキビストとは歴史的資料の取り扱い等の専門知識・技能を持つ専門職を指します。約20人規模のアーカイブグループの3分の1程度がアーキビストで、特に専門知識を求められる場面で活躍しています。
長期的保存のため、小さな積み重ねを大切に
明治期の業務風景の写真。アーカイブはこうした貴重な写真も数多く所蔵。
保存は複数の書庫で行っており、文書をおおむね年代ごとに分けて管理しています。その劣化を防ぐため、各書庫内は適切な温湿度を保つように心がけています。温湿度などを記録できるデータロガーで小まめに環境のチェックを行っています。そのほか、書庫の出入り口での靴の履き替え、粘着性の防じんマットの設置、虫トラップを用いた文化財害虫(注1)の生息状況のチェック、照明のLED化、定期的な清掃など、資料を守るための対策を最大限に行っています。
- (注1)食害、汚染などにより文化財に悪影響を及ぼす昆虫。
そのように細心の注意を払うことについて、担当するアーキビストの釜谷友梨子さんは「小さな積み重ねが大事」と説明します。
「後世に資料を残していくアーカイブでは、長い時間軸での視点を持つことが重要です。最初は小さな変化でも、時間がたつと深刻な劣化に至ってしまう可能性も念頭におきつつ、とるべき対策を適時に着実に行うよう心がけています」
時代に合わせ、電子媒体などの保存も課題に
1877年に発行された金禄公債証書。歴史の教科書で見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん劣化には不可避の面があります。特に、日本銀行開業時の明治10年代から大正期にかけて用いられたコンニャク版(注2)により作成された資料や、物資不足の戦中・戦後に作られた紙資料は、物理的に劣化しやすい特性があります。そのような資料は、判読できるうちにデジタル化し、複製物を作成します。また、とじが外れてしまった資料を中性紙の保存箱に収納するなどして劣化の進行を抑えます。
- (注2)コンニャクなどを用いた転写方法。転写版として用いるコンニャクなどを原本に押し付けて文字(インク)を転写した後、別の紙に再度転写する。明治から大正にかけて主に利用された。メチルバイオレットというインクの性質上、時間の経過と共に印字が薄れていき最終的には読めなくなる。
こうした複製物の作成や劣化対策は、紙資料だけでなく、CDやDVDなどの電子媒体やマイクロフィルムについても必要です。DVDなどについては、データの品質を評価するエラーレートチェックを定期的に行い、可読性を確認しています。
一連の作業を担当するアーキビストの亀野彩さんは文書の劣化対策とデジタル化についてこう話します。
「資料は保存されるだけでなく、必要に応じて利用されていくことが重要です。貴重な資料がそろう中で何を優先してデジタル化するかなど悩むことは多いですが、『あのデジタル資料のおかげで論文が書けました』などの声が届くと、やりがいを感じます」
レファレンスで、より高度に資料提供
レファレンスの一例。利用者とのやり取りや資料調査を通してニーズに合った資料を特定。
このように収集、保存され、目録に掲載されている資料は、個人情報など公開が望ましくない情報(利用制限情報)を除けば、利用請求を行うことで利用することが可能です。請求状況を見ると、大学教員などの研究者からの利用請求が多数を占めます。
利用請求が行われた資料は、来所してアーカイブ閲覧室にて閲覧できるほか、写しの交付(デジタルデータを保存した電子媒体や紙のコピーの交付)による利用も可能です。
利用者はアーカイブホームページに掲載されている目録の情報等を参考に利用請求する資料を特定します。この際、目録に記載されている情報だけでは資料の内容が分からないケースもあることから、日本銀行のアーカイブは、利用者の資料探しをサポートするレファレンスサービスも行っています。企画役補佐の大貫摩里さんはレファレンスサービスに関してこう話します。
「利用目的を聞いた上で、この資料が役立つのではないかといったアドバイスを行っています。提供する機会の多い人気の資料もあり、経験を積むごとに当たりを付けやすくなるという面があります。私自身は入行後に金融史・貨幣史の資料編集や、日本銀行の設立経緯、1990年代の金融政策に関わる論文作成に関わったことがあり、その経験もこの業務に活かせていると感じます」
ちなみに、人気の資料としては日本銀行の建物などの写真や歴代総裁に関する文書が多いとのことです。なお、2024年度の利用請求は237件あり、閲覧室での閲覧が55件、写しの交付が209件でした。
ホームページをリニューアル
アーカイブでは、所蔵している歴史公文書の一部について、ホームページや貨幣博物館の展示スペースにて一般に公開し、利用請求を行ってもらわなくても利用できるようにしています。
このうちホームページに関して、利用者がより資料にアクセスしやすい環境を作るためにリニューアルを進めています。これまでも、デジタルアーカイブのページを設けて一部の資料には紹介文を添えるなど工夫を凝らしていますが、リニューアルに際しては、デジタルアーカイブのページに「作成年代別」「資料の種別」「トピック解説」といったカテゴリーを設けるなど、より資料を探しやすい構成にするほか、レスポンシブデザイン(注3)も採用し、一段と使い勝手を良くすることとしました。
- (注3)さまざまなデバイス(PC、タブレット、スマートフォンなど)の画面サイズに応じて、レイアウトを自動調整するウェブデザイン手法。
そのリニューアル作業を担当する大貫さんは、「資料の活用に携わるのは、人のためになる仕事」と話します。
「ここにあるのは、長期的に社会全体の財産となる貴重な資料です。それを守るだけでなく、活かしていこうという仕事にやりがいを感じます」
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リニューアル後のホームページにおけるトップページのイメージ。
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リニューアル後のホームページではデジタルアーカイブ掲載資料を作成年代別に検索できる。
このように職員たちからは「国民の知的資源」「長期的」「未来に橋渡しする責任」といった言葉が数々聞けました。最後に、印象的だった岸館長の言葉をご紹介します。
「アーカイブグループは、わが国の金融経済史を研究する上で欠かせない重要文書を歴史資料として後世に引き継いでいく使命を負っています。日本銀行が将来にわたって説明責任を果たしていけるよう、われわれは専門家集団としての知恵を結集し、日々小さな積み重ねを大切に、業務に取り組んでいきたいと考えています」
(肩書などは2025年10月時点の情報をもとに記載)
