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日本銀行大阪支店 現場最前線に吹く「新しい風」(2026年6月25日掲載)

金利ある世界、DX(デジタルトランスフォーメーション)・キャッシュレス化に生成AI、働き方改革など ── 社会や職場を取り巻く環境が目まぐるしく変化している今、日本銀行にも「新しい風」が吹いています。今回は、現場最前線、「西日本の母店」と称される大阪支店に焦点を当てました。大阪支店では、▼金融経済情勢の調査分析、▼銀行券や国庫金の管理、▼広報や対外発信といった業務において重要な役割を担っています。それぞれの現場で生じている大きな変化をご紹介します。大阪支店が担うBCP(業務継続計画)や採用活動をはじめとする組織運営面での取り組みについても取材しました。


姿を変えながら躍動する街

日本銀行大阪支店外観の写真。画面手前の旧館は、ドーム型の屋根を中央にして、その両脇には三角屋根が配置されている。

大阪支店外観

「2025年大阪・関西万博」を経て、30年には統合型リゾート「大阪IR」の開業が予定される関西。世界中を見渡しても特に活気あふれるエリアです。

その要因の一つはインバウンド(訪日外国人)。アジアから欧米の方まで、どこもかしこも熱気に包まれています。地域の経済情勢を調査・情報発信する営業課調査グループでグループ長を務める小嶺成司さんは、「関西は製造業で日本の成長を支えてきた歴史がありますが、最近は大阪・京都を中心に、アジアのハブとして観光上の魅力も強みになっています」と指摘します。

「大阪支店が担当する大阪府・和歌山県・奈良県に加え、京都支店が受け持つ京都府と滋賀県、神戸支店のある兵庫県の『2府4県』は、経済規模では国内全体のおよそ15%(約6分の1)。しかしインバウンド観光業に限るとその割合は約4分の1にまで拡大します。わずか10年程度で急成長したエネルギーの塊です。万博等に併せて都市再開発が進み、街の姿も様変わり。その一端として、キャッシュレスをはじめ社会インフラの整備も進展しています。日本銀行の支店には地域のシンクタンクの役割もある中で、そうした経済・社会の変化を捉え、情報提供していくことが求められています」

実際、そうした認識から、大阪・関西万博の時期には「万博シリーズ」と題し、スタートアップや、GX(グリーントランスフォーメーション)、女性の働き方などをテーマに調査レポートを矢継ぎ早に公表。インバウンドや大阪IRに向けて意見交換会も開催するなど、多彩な情報発信を行っています。

この間、地域の金融経済情勢を的確に把握すべく、行政機関や経済団体との意見交換も行い、ネットワークを強化してきました。職場においても近畿経済産業局から初めて出向者を迎えつつ、先方にはバイオテクノロジー分野に担当者を送っています。

「社会全体としてダイバーシティが重視される中、多様な視点を持つことが求められます。ダイナミックに変化している関西エリアを、さまざまな人と関わりながら観察し、働きかけていけることは、中央銀行員として、とてもありがたいことです」(小嶺さん)

  • 調査レポートの目次。タイトルは「関西インバウンド市場の動向等について」。内容は次のとおり。1 関西インバウンド市場の動向、2 更なる成長に向けた課題とデジタル化・データ活用、BOX1 関西におけるキャッシュレス化を巡る状況、BOX2 「インバウンド消費動向調査」個票データ分析例。

    調査レポートの一例

  • 調査レポートの記者向けレクチャーの模様を撮影した写真。4人の出席者が並んで着席し、左から2番目の出席者が記者に対して説明を行っている。

    調査レポートの記者向けレクチャーの模様

新しい銀行券とともに変化を捉える

日本で唯一の発券銀行としての業務に関しては、24年7月に20年ぶりとなるかいさつがありました。大阪支店は、その新旧銀行券の切り替えに大きな役割を果たしています。

「銀行券は日本銀行の本支店から取引先金融機関を通じて世の中に送り出されます。大阪支店は、その前段階として、製造された銀行券を国立印刷局から引き取り、主に西日本の支店に送り届けています。この役割を担うにあたっては、銀行券の需要予測が重要です。金融機関へのヒアリングを重ねて世の中の銀行券に対する需要を把握するとともに、窓口での受払いの動向と過去のデータを照らし合わせながら、精度の高い需要予測を行っています」

そう説明するのは、発券課総務グループ長の亀石覚士さん。

このようなかたちで、西の母店としての役割を果たした結果、25年末における新しい銀行券の市中流通高は日本全体で70億枚強に達し、着実に流通が進んでいます。

亀石さんは「銀行券の受払量をはじめ、大阪支店発券課の事務量は、本店に次ぐ規模です。キャッシュレス化の進展や金利ある世界のもとで、銀行券の流通にも新しい動きが生じつつあります。こうした変化にも目配りをしながら、引き続きチーム全員で力を合わせ、西日本に銀行券をくまなく行き渡らせるという西の母店機能を着実に果たしていきたいと思います。人々が街で銀行券を手にしている姿をみると、それは自分たちの仕事の結果なのだという手応えを感じられる、やりがいのある仕事です」と話します。

進む国庫金のキャッシュレス納付

キャッシュレス納付推進宣言式の様子を撮影した写真。中央の登壇者が発表を行い、左右に並んだ参加者がその発表を聞いている。

キャッシュレス納付推進宣言式

街の至る所でキャッシュレス化が進んでいますが、納税などの国庫金受入も同じ。「政府の銀行」として国庫金の受払いを担う日本銀行では、キャッシュレス納付の利用を広く呼び掛けています。

大阪支店においては、23年に、関西の2府4県の行政機関、金融機関など約90団体と共に「キャッシュレス納付推進共同宣言」を行いました。メリットについて、業務課総務グループ企画役の高野淳也さんはこう説明します。

「従来方式では、日本銀行の代理店となる金融機関が納付書を取りまとめ、日本銀行の支店に輸送し、業務課が1枚1枚処理するなど、多大な手間とコストが掛かっていました。しかし、キャッシュレス納付を利用すれば、これらの社会的コストを大幅に削減できます。納付者にとっても利便性が向上します。ぜひ『いつでも、どこでも、便利な』キャッシュレス納付をご利用ください」

大阪の華 BCPをより一層深く

首都圏被災時の業務継続計画(BCP)に関する大阪連絡会の様子を撮影した写真。

首都圏被災時の業務継続計画(BCP)に関する大阪連絡会(2025年度)

大阪支店が担う重要な役割にBCPがあります。首都圏を襲う巨大地震などで本店が機能しなくなったときに、日本銀行が果たすべき業務を継続し、国内外の金融サービスを守り抜く。具体的には、金融機関等との間で資金を決済している「日銀ネット」の稼働や、災害時に急増する資金需要への対応、国内外への情報発信などが挙げられます。

万一の事態に備え、日々の実践がポイント。そこで営業課と業務課では、本店機能の一部を日頃から代行するデュアル・オペレーションに取り組んでいます。加えて、金融機関等も巻き込んだ、定期的な訓練も欠かせません。今年も3月に、首都圏での大規模地震発生を想定し、日銀ネット等をバックアップセンターに切り替える訓練を実施しました。リモート対応の追加など、訓練メニューも不断に見直しを図っています。

「限られた人員が時限性のある中で取り組むため、緊張感が一気に高まります」と状況を話してくれたのは、BCP関連で他機関との窓口になっている営業課総務・金融グループの矢久保由介さん。

同時に、近年では、関西エリアの金融機関や行政機関等との横の連携も進んでいます。大手金融機関や取引所なども大阪拠点にBCP体制を築いていることから、いざというときには大阪全体が一体となって金融機能を維持できるように、日頃から「顔の見える関係」づくりが肝要です。その一環としてこれまでに、約30団体が参加する「首都圏被災時の業務継続計画(BCP)に関する大阪連絡会」などを実施し、マスコミ等への情報発信にも努めてきました。大阪にBCP体制を築く金融機関の数も増しており、大阪支店の役割は広がっています。

「一堂に会することで、お互いにどのような対策を講じているのか情報を交換し、体制作りの強化につなげています。大阪支店が担うBCPの役割は、日本銀行の信頼に関わる重要な業務です。中央銀行員として、大きなやりがいときょうじを感じます」(矢久保さん)

伝統ある建築を「入り口」に広報を進化

新しい取り組みということでは、近年特に目立つのが広報活動です。

25年には、節目に合わせた企画展「おさつ万博」と「阪神・淡路大震災から30年」を開催。これらの展示では、各国の銀行券や通貨単位を楽しく紹介するとともに、災害発生時に日本銀行が果たす役割なども伝えました。「日本銀行がこんな活動をしているとは知らなかった」といった声が来場者から多数寄せられるなど、大きな反響を呼んだことから、企画展の一部を常設展へと変更しています。さらに、より多くの方にご参加いただけるよう、見学ツアーの開催日も拡大。随所に、おもてなし精神がみられます。広報担当の営業課総務・金融グループの中谷友美さんは「年間のご見学者は4000人以上。本店同様、辰野金吾による明治建築が人気です。さらに見学ルートでは模擬券を用いた1億円の重さ体験コーナーなどもあり、楽しみながら日本銀行を身近に感じていただける機会になっています」と話します。

イベントの開催も多彩に取り組んでいます。25年には、大阪取引所との共催となる「コラボ見学会 五代友厚ゆかりの地を1日でめぐるガイドツアー」を初開催しました。

こうした企画を通じて、大阪取引所、証券保管振替機構、大阪商工会議所、造幣局とつながりが生まれ、それぞれの業務を相互に見学するなど、組織の交流も進展。日本銀行職員が大阪取引所で1日勤務するなど、組織間の交流プログラムも実現しました。同グループの上木真保子さんはこう振り返ります。

「大阪経済の父とも称される五代友厚の没後140年という節目を機に、貴重なつながりを持つことができました。情報交換を通じ、学びが多かった一方で、日本銀行の広報活動において、銀行券という誰もが知るコンテンツがある強みも実感したところです」

さらに広報活動では、大阪支店ホームページの充実にも取り組んでいます。デザインの変更に加え、支店長と地元財界人との対談企画も実現。この間、マスコミから幾度となく取材を受けるなど、日銀ファンの獲得に手応えを感じています。

こうした精力的な活動に対し、中谷さん、上木さんの二人は「『日本銀行はどのようなことをしているのだろう』と思われている方が少なくない中で、直接見学者と接し、業務をお伝えできることに、やりがいと責任を感じます」と口をそろえます。

  • 企画展での模様を撮影した写真。展示物の前で職員が参加者に説明を行っている。

    企画展での模様

  • 支店ホームページ内のコラボページの画面。人・歴史・未来とつながるをテーマに、五代友厚と大阪の歴史の特集記事を掲載している。

    支店ホームページの充実に向け他機関とのコラボページも新設

時流に沿った働き方改革 多様性と温故知新

秋のオープン・カンパニーの様子を撮影した写真。職員が多数の大学生に向けて説明を行っている。

秋のオープン・カンパニーの模様

働き方にも「新しい風」が吹いています。特に昨今目覚ましいのが生成AIの活用です。調査分析業務を皮切りに、さまざまな業務で活用を広げつつ、店を挙げて促進しています。そして何よりも大きな変化が在宅勤務です。多様なライフスタイルがあるもとで、営業課を中心に環境整備に努め、急速に広がりをみせています。日本銀行は、発券や決済業務を中心とした安定的な現場力こそが組織の礎ですが、社会が変わる中で何も変わらないわけにはいきません。仕事の向き合い方も、民間企業の動向も参考にしながら、適切に変えていく必要があるということです。

このように働きやすい環境を作るのと同時に、注力しているのが将来を見据えた人財確保です。特に、関西地方には多くの大学があることから、新卒採用に関しても、大阪支店は西の母店として重要な役割を担っています。さまざまな大学で講義等を行いつつ、25年には、冬に1回の開催だった大学生・大学院生向けのオープン・カンパニーを秋にも導入しました。若手職員が、コース別に体験型プログラムを企画するといった工夫も加えています。

「説明会では、学生により近い20代の職員を中心に講師を任せました。その結果、説明会に携わった職員にとっても、仕事を見直す機会になり、エンゲージメントの強化につながったと思います。私自身もそうですが、人に関わる業務は責任が重大なので、そこを任されることに喜びを感じます」

採用や人事に関わる仕事を担当する文書課総務グループの松尾瑠璃さんはそう話します。


大阪支店を取材したのは、12年ぶりのこと。店が所在する中之島や北浜をはじめ、大阪・関西の街並みはこの間大きく姿を変えていました。高層ビルとグリーンが調和しつつ、国内外の人で熱気にあふれ、2025年に関西の人口は、52年ぶりの転入超に転じたそうです。こうした躍動の中、大阪支店も中央銀行として重厚な趣を残しつつ、同時にエネルギッシュに変化していることが分かりました。職員の皆さんをみていると、創意工夫の大阪商人の街らしく、変化を楽しんでいるように感じます。

やってみなはれ。西の風はとても心地よくなびいています。

(肩書などは2026年3月時点の情報をもとに記載)