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「日銀探訪」第2回:発券局日本橋発券課長 斉藤正利

年末年始のお金の出入りが平準化=発券局日本橋発券課(1)〔日銀探訪〕(2012年8月21日掲載)

発券局日本橋発券課長の写真

「日銀探訪」の2回目のインタビューでは、発券局日本橋発券課を取り上げる。窓口で銀行券や貨幣の受け渡しを行うほか、損傷通貨の引き換えや、お金の真偽の判別を実施する現場部署だ。埼玉県戸田市にある戸田発券センターが大手金融機関との間で銀行券の受け渡しを行っているのに対し、日本橋発券課の銀行券取引相手は地域金融機関が中心。貨幣については、大手金融機関も含めて日本橋発券課で取り扱っている。取引額は戸田より少ないが、取引先数や件数は日本橋発券課の方が多い。

課員は、7月末現在で83人。4グループで構成される。運営保管グループは主に銀行券や貨幣の保管を、大口出納グループは金融機関との間でお金の受け渡しを行う窓口業務を担当している。小口出納グループは、金融機関、法人、個人を問わず、損傷通貨などの引き換え、国庫金の受け払い、手形交換の各業務に携わる。鑑査グループは、大口出納グループが受け取った銀行券と貨幣の鑑査(真偽の鑑定と枚数チェック)事務や、廃棄対象となった銀行券の最終処理が主業務だ。

インタビューに応じた斉藤正利課長は、金融機関との間でのお金の受け渡しに関し、年末年始やゴールデンウイーク前後などのお金の出入りが、以前に比べて平準化していると説明。その理由について、 1)最近では金融機関やコンビニなどで現金自動預払機(ATM)がほぼ1年中稼働しており、休日前に現金を大量に引き出す必要がない 2)クレジットカードなどの普及で、現金そのものを扱う機会が減っている—などを挙げた。

日本橋発券課について、きょうから4回にわたってリポートする。

「金融機関との間での大口の現金受け払いの特徴は、貨幣の取り扱いが多いこと。銀行券の取り扱いの多くが、戸田発券センターに移行したためだ。ただ、市中金融機関同士で貨幣を融通し合う仕組みもあり、効率化も図られている。現金の受け払いについて最近感じるのは、山と谷の差が小さくなっている点。従来は、年末にお金がたくさん出て行って、年始になると戻ってくる流れだった。また、ゴールデンウイーク前や、五・十日決済、給与支給日などでもお金がたくさん出て行き、その後に戻ってくる動きがあり、山と谷の差が大きかった。しかし最近は、年末年始でも金融機関やコンビニでATMの稼働している先が多いほか、クレジットカードなど現金以外の決済手段を使用する機会も増えている。公務員や民間の給与も、口座振り込み支給が拡大した。さらに、金融機関や警備輸送会社の現金配送も効率化している。そのため、現金の出入りが以前と比べて平準化している」

「貨幣は、大袋だと100円貨で4000枚入っており、20キロぐらいある。お札は、日銀では1万枚を1パック化し、40パックでまとめている。1万円ならば40億円で中身は400キロ。これらは機械で移動させることが多いが、それでもこれだけの重さのものを扱うのは大変な作業だ」

焼けたお札、1枚1枚剥がして鑑定=発券局日本橋発券課(2)〔日銀探訪〕(2012年8月22日掲載)

今回は、損傷した日銀券や貨幣の引き換え業務をめぐる苦労について話を聞いた。日銀には、火事で焼けたり、地中に埋められていたり、自動車の解体でつぶされたりなどと、さまざまな状況下で流通に適さなくなったお金が、交換のために持ち込まれる。斉藤正利日本橋発券課長によると、焼けて固まったお札を1枚1枚剥がして引き換え基準に適合しているかどうか調べたり、くっついた貨幣を金づちを使って引き剥がすなど、地味で苦労を伴う作業も少なくないという。お金の鑑定は素手で行っている。作業の効率化を図るために、身近な道具を工夫して使っているようだ。

「小口出納業務は、金融機関や個人との間での損傷通貨の引き換え事務が中心だ。まず、損傷現金の引き換え基準から説明する。銀行券の場合、表裏の券面に対し3分の2以上あれば全額、5分の2から3分の2未満で半額を引き換える。5分の2未満は失効となる。貨幣は、重さが半分を超え、表裏どちらかの模様が認識できるものは全額引き換えるが、それ以外は失効。金貨の場合は高額なので、重さ98%以上で全額引き換え、それ以外は失効となる」

「火事で焼損した紙幣の引き換えは、苦労を伴うことが多い。銀行券の生地は、ミツマタなどの特殊なものを組み合わせているので、腰が強くて、焼けても形が残りやすい。複数焼けて放水でぬれて固まっている場合には、そのままそっと持ってくると形状はしっかりしている。これを1枚1枚剥がすことはできるが、判別はかなり大変な作業だ。それから長期間土の中に埋まっていたお金は、ひどく腐食していることがある。お金は素手で鑑定するのが原則なので、汚れるのも覚悟しなければならない。貨幣では、解体業者が車をスクラップする際に、シートの間などに挟まっていた小銭を見つけて持ち込むことがある。そういう貨幣は変形していることが多く、数を数えるのに使う升に収まらず、枚数確認に大変苦労する。また貨幣は、表裏どちらかの模様が認識できなければ引き換え対象にならないが、焼けて3枚がくっついていたら真ん中のものは認識できない。そこで、金づちとか万力を使って剥がすといった地味な仕事もしなければいけない」

「先輩たちが考えた鑑定用の道具としては、ピンセット、千枚通し、真ちゅうブラシ、サンドペーパーなどがあり、今も使っている。ぬれたお金を乾かすためには、ドライヤー、アイロン、乾燥機類も活用している」

お金の鑑定、独り立ちまでに1年程度=発券局日本橋発券課(3)〔日銀探訪〕(2012年8月23日掲載)

日銀発券局の職員は、全員がお金の鑑査(真偽の鑑定と枚数チェック)の訓練を受ける。斉藤正利日本橋発券課長によると、すべてのお金について真偽を判断できるようになるまでには、毎日のように訓練しても1年程度はかかるそうだ。金融機関が持ち込む貨幣の中には、摩耗または汚損の度合いの高いものが多い。これらについては、機械だけで対応するには限界があり、鑑査には人手が必要とのこと。特に記念貨は最近種類が増えてきているが、模様をすべて覚えた上で、1枚1枚を手で調べなければならず、苦労が多いようだ。

「火事で損傷したりひどく腐食したりした日銀券も含め、すべてのお金をきちんと鑑定できるようになるまでには、ベテランと組んで毎日のように訓練しても、だいたい1年はかかる」

「自動鑑査機は偽札を絶対に通さないが、一部欠けていたり、いたずら書きされていたり、腰が弱くて流通に向かなくなったりしたものも排除する。これらの中に偽札が入っている可能性もあるので、窓口に引き換えで持ち込まれるお札と同じように、高い技術で鑑定している。また、印刷技術が現在ほど優れていない旧銀行券で、高額のものは、相当慎重に鑑定するように指導している。鑑査をマニュアル化するのは難しい。お札は1枚1枚数えるよりも、まとめて数える方が、特徴や材質の違いに気づきやすく、おかしなものが交じっている場合には見つけやすい。それだけ人間の目と指は敏感ということだ」

「鑑査事務では、記念貨を含む貨幣の鑑定で苦労が多く、人手も要する。貨幣は額面が小さいので、それほど偽造が出回るわけではないが、その多くは一枚一枚人手でチェックしていく。特に記念貨は、機械で対応できないので、すべて手と目でチェックする。そのために、鑑査担当はすべての模様を覚えなければならない。記念貨が日銀に戻ってくるのは、例えば親が熱心に集めていても、子供の代になると興味がなくなって使ってしまうケースなどが考えられる。記念貨は日銀に戻ってくると造幣局に納められることとなり、もう一度流通させることはない」

「大口出納の現金の受け払いでは、再度使える日銀券、使用に適さない損券などと整理して運んできてくれる。しかし中には、再度使えるお金の中に明らかに使えないものが入っていたり、1代前の券種と今の券種が混在しているケースもある。これらは極力分けてもらえるとありがたい。一方、小口出納の引き換えでは、あまり見たことがないお金や、ちょっと触った感じが違うもの、こんな貨幣があっただろうかと多少なりとも不安を感じたものがあったら、どんどん連絡してほしい。真偽の判断に迷うような現金は、極力分別して持ち込んでほしい」

震災時、大量の義援金にびっくり=発券局日本橋発券課(4)〔日銀探訪〕(2012年8月24日掲載)

東日本大震災発生時には、被災地に対する義援金が全国各地から寄せられた。これらの多くは貨幣で、日銀に対する持ち込み量は通常より2割程度増加した。一方、被災地での損傷通貨の引き換え作業では、津波で土砂まみれになった日銀券を洗い、ドライヤーやアイロンで乾かしたり、腐食した貨幣の表面をサンドペーパーで削ったりして、鑑定作業を行った。被災者に一日でも早く引き換え金を渡すため、日銀の本支店から週交代で応援部隊を東北に送ったが、斉藤正利日本橋発券課長によると、普段は地元以外の店舗で勤務することがないような職員なども自ら志願して被災地に向かったという。

「東日本大震災への対応で驚いたのは、義援金の貨幣が金融機関を経由して大量に日銀の窓口に入ってきたことだ。日銀への貨幣の持ち込み量は、通常よりも2割くらい増えた。いろいろと工夫して保管場所を確保したし、通常よりも大量の貨幣を運ぶにあたって、作業員の事故につながらないよう、積み下ろしには非常に神経を使った」

「被災地では金融機関自身も被災者なので、普段のように現金の仕分けをしてもらえる状態ではなかった。銀行券と貨幣が混在したまま持ち込まれるケースも多かった。一方で、被災者に対して1日でも1時間でも早く損傷通貨の引き換え金をお渡ししたい。そこで、本支店から毎週メンバーを変え、チームを組んで、応援を派遣した。普段は地元以外の店舗で勤務することがないような職員も、自ら手を挙げて行ってくれた。家族のいる女性職員は、小さな子供を祖父母や夫に預けて行ってくれた。非常にありがたかった。速やかに引き換え金を支払おうという高い使命感は、報道などでも評価していただいたと思う。被災地では、津波につかったお金が、土砂にまみれたまま日銀に持ち込まれた。日銀券は、まず水洗いして、ドライヤーで乾かしたり、アイロンがけしたり、干したりした。一方、貨幣は海水で腐食していた。特に一円貨はアルミなので相当腐食しており、1円と鑑定するのにも時間がかかった。また、お年寄りなどの中には、今は通用していない古銭貨を持っていた方もおり、五円貨や一円貨と間違いやすいものが混入していた。そういった貨幣の腐食部分を、一枚一枚真ちゅうブラシで削ったり、サンドペーパーで取り除いたりして鑑定した」

「被災地における損傷現金がどの程度の量で、いつまで日銀の窓口に持ち込まれるのかなど、読みにくい状況があった。そういった中で、東北への応援部隊派遣を徐々に縮小していくタイミングを、慎重に図らなければならなかった。現地と、本店と、こちらから送った派遣部隊の判断と、日々詳細にすり合わせを行って、今年2月までの応援とすることを決めた」

「課の運営に当たって心がけているのは、次のようなことだ。現金は、その場で数えたり鑑定したりしなければならず、事務ミスが許されない一発勝負のようなところがある。日銀では『現金その場限り』という言い方をする。一つ一つの事務を、きちんとその時点で確実にこなすということだ。一つの事務や作業に集中して取り組むことができる環境・体制づくりを、多くの関係者の知恵を借りて、しっかり推進していきたい。二つ目は、われわれの仕事は一人の目、一人の手でやることはなく、必ず複数の人間、最低でも2人が一つの事務・作業を行う。そういう中では、コミュニケーションが非常に大切だ。私を含めた管理・監督者が率先して、コミュニケーションの円滑化に資する環境づくりに努めている」

次回は9月上旬をめどに、業務局総務課を取り上げる。

(出所)時事通信社「MAIN」および「金融財政ビジネス」
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