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総裁記者会見要旨 2018年1月23日(火)
午後3時半から約50分

2018年1月24日
日本銀行

(問)今回の決定内容について、また展望レポートについても、ご説明をお願いします。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。

また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。

わが国の景気の現状については、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。

やや詳しく申し上げると、海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は、企業収益や業況感が改善する中で、増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。住宅投資は横ばい圏内の動きとなっています。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引締まりを続けています。また、金融環境は、極めて緩和した状態にあります。

先行きについては、わが国経済は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、極めて緩和的な金融環境と政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、景気の拡大が続き、2018年度までの期間を中心に、潜在成長率を上回る成長を維持するとみられます。2019年度は、設備投資の循環的な減速に加え、消費税率引上げの影響もあって、成長ペースは鈍化するものの、景気拡大が続くと見込まれます。実質GDP成長率に関する今回の見通しを、従来の見通しと比べると、概ね不変です。

次に、物価面では、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景に、エネルギー価格上昇の影響を除くと弱めの動きが続いています。もっとも、マクロ的な需給ギャップが改善を続けるもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も上昇するとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。今回の物価見通しを、従来の見通しと比べると、概ね不変です。

リスクバランスについては、経済に関しては概ね上下にバランスしていますが、物価に関しては下振れリスクの方が大きいとみています。物価面では、マクロ的な需給ギャップが改善を続け、中長期的な予想物価上昇率も次第に上昇するとみられるもとで、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要があります。

なお、展望レポートについては、片岡委員が、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、物価の見通しに関する記述に反対されました。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

また、今回の決定会合では、「貸出増加を支援するための資金供給」、「成長基盤強化を支援するための資金供給」、東日本大震災および熊本地震にかかる「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」等の措置について、受付期間を1年間延長することを決定しました。

(問)今後の政策金利の調整の方針について伺います。今回の展望レポートでも示されたように、経済・雇用情勢の改善は続いていまして、現在、消費者物価指数は生鮮食品を除いても総合で1%近くまで上昇しています。今後、2%に向けて物価上昇の勢いが高まっていく場合に、現在短期を-0.1%、長期をゼロ%程度に誘導している金利水準についても調整が必要とお考えでしょうか。また、どのような条件が整えば、調整を行う可能性が生じるのか、お考えをお聞かせ下さい。

(答)わが国では、景気が緩やかに拡大している一方、物価は弱めの動きが続いています。他の主要国でも同様の傾向がみられますが、物価上昇率が1%台半ばで推移している米欧と異なり、わが国の消費者物価の前年比は、エネルギー価格の寄与を除いてみると、小幅のプラスにとどまっています。

このように、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があることを踏まえると、いわゆる出口のタイミングやその際の対応を検討する局面には至っていないと思います。

日本銀行としては、引き続き、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが、日本経済にとって必要であると考えています。

(問)ETFの買入れについてお尋ねします。12月28日に公表された「主な意見」によりますと、12月の決定会合で、委員の中から、株価や企業収益が大きく改善していることなどを踏まえ、政策効果と考え得る副作用についてあらゆる角度から検討すべき、との問題提起がありました。リスク・プレミアムに働きかけるという当初の政策目的からも、必要性は薄れつつあるようにも思いますが、今後も継続する必要性は何なのか、あるいは、どのような条件が整えば見直しを行うのか、お考えをお聞かせ下さい。

(答)ETFの買入れは、従来から「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みの1つの要素として、株式市場におけるリスク・プレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていく観点から実施しています。こうしたリスク・プレミアムへの働きかけは、これまでのところ、大きな役割を果たしてきていると思います。

一方で、本日公表した展望レポートでも指摘したように、これまでのところ、株式市場において過度な期待の強気化を示す動きは観察されていません。また、コーポレートガバナンスなどの面でも、ETFの買入れが大きな問題になっているとは考えていません。

従って、日本銀行としては、現時点でETF買入れを見直す必要はないと考えています。先行きについては、2%の「物価安定の目標」を実現する観点から、その時々の経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適切に判断していく方針です。

(問)デフレ脱却を目的に2%の物価目標導入などを盛り込んだ政府・日銀の「共同声明」を2013年1月に公表してから5年が経っています。先程のお話にもありましたが、2%の物価目標は達成できていませんが、経済閣僚からは、デフレ脱却に向けて着実に進んでいるといった意見もでています。改めてこの5年の振り返りと現在の状況、そして2%の物価目標もしくは「共同声明」の見直しの是非について、改めてお聞かせ下さい。

(答)2013年1月に政府と日本銀行の間で合意され、公表された「共同声明」においては、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して金融緩和を行い、それを実現していくことになっています。

そのもとで、2013年4月の「量的・質的金融緩和」の導入後、物価上昇率は、消費税率引上げの影響を除いても1.5%程度まで上昇していったのですが、その後は、消費の低迷や、最も大きかったものとしては原油価格が110ドルくらいから、30ドルを割るぐらいまで低下しました。そうした原油価格の下落から実際の物価上昇率が低下し、それが予想物価上昇率にもマイナスの影響を与える形で、2%の「物価安定の目標」の達成が遅れてしまったということです。その中で、日本銀行としては、「量的・質的金融緩和」の拡大、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入、そして一昨年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を行ってきました。そのもとで、景気に関しては先程申した通り緩やかに拡大する状況になってきていますし、企業収益や家計の所得等も大きく改善するなど、経済の好循環が続いていますが、物価はまだ2%の「物価安定の目標」にはほど遠い状況にありますので、引き続き2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、しっかりと金融緩和を続けていきたいと思っています。

そうしたもとで、私どもとして、2%の「物価安定の目標」を変更する必要があるとは全く考えていませんし、「共同声明」について、何か変更する必要があるとも思っていません。引き続き、粘り強く金融緩和を続けて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成したいと考えています。

(問)予想物価上昇率について、今回の展望レポートで判断を「弱含み」から「横ばい」に引き上げられました。予想物価上昇率の引上げは、実質金利の低下を通じて金融緩和の効果をより強めるという作用があるかと思います。これが今、横ばいですが、更に進んで予想物価上昇率が上昇していった場合に、強まり過ぎた金融緩和効果を調整するという意味で、名目金利を調整することが今後起き得るのかどうかについて、お考えをお聞かせ下さい。

(答)ご指摘の通り、予想物価上昇率が上昇していくと、自然利子率が一定であっても、実質金利の低下によって景気刺激効果が強まっていきますが、あくまでも金融政策については、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を行っています。そのもとで適切なイールドカーブを形成していますので、ご指摘のように予想物価上昇率が上がったから直ちに金利の調整が必要になるとは全く考えていません。

(問)金融調節で2点お伺いします。今月9日に国債買入れオペを減額したことをきっかけに、日銀の金融政策の正常化観測が浮上して、為替市場で円高が進む局面がみられました。総裁は、このようなオペを受けた市場の反応について、どのように受け止めていらっしゃるのか、ご所見をお願いします。

関連して、円高が進行したことによって、市場では、日銀が今後国債買入れを減額するのが難しくなったのではないか、という見方も聞かれています。今後、イールドカーブが低下した局面で、国債買入れの減額が難しくなるのかどうか、円高を踏まえて総裁はどのようにお考えか、お伺いします。

(答)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとでは、毎回の金融政策決定会合において金融市場調節方針が決定され、これと整合的な形でイールドカーブが形成されるように長期国債の買入れが実施されます。そうしたもとでのオペの金額やタイミングは、国債の需給環境や市場の動向などを踏まえて、実務的に決定されるものです。従って、どのような状況であれ、日々の国債買入れオペの運営が先行きの政策スタンスを示すことはないと言ってよいと思います。

なお、先日の実務的に決定されたオペの金額・タイミング等のもとで、為替相場が円高に進んだのは、そのオペが一因ではないか、とマーケットの一部で言われているようですが、為替の動き全体をみて頂くと分かるように、ユーロがドルに対して非常に強くなり、ドルがユーロに対して弱くなりました。その際にドルが他の通貨に対しても若干弱くなったということですので、特に円高が起こったということでもないように思います。為替は、色々なファクターで動きますので、それについて特に何か言うつもりはありません。為替の動向ももちろん十分よく注視していますが、オペの金額自体は、先程申し上げたように、適切なイールドカーブを実現することを目標に決められています。保有残高の増加額のめどは年間約80兆円となっていますが、オペの金額はマーケットの状況に応じて増額したり減額したりしますので、オペが難しくなることはないと思っています。あくまでも、適切なイールドカーブを形成する観点から、必要なオペを行うということに尽きますので、その時々のオペの金額やタイミングが金融政策の先行きを示すものでは全くないということです。

(問)先程総裁がおっしゃったように、5年前に2%の「物価安定の目標」を掲げられて、当初は期待に働きかけると総裁がおっしゃった通りの効果があったと思うのですが、今5年経ちまして、物価目標の達成時期を6回先送りしています。一方で、人々の中では、物価が上がるだけで賃金が上がらないので生活が苦しくなっているということを言う方々もいます。ここで改めて、なぜ2%の「物価安定の目標」が必要なのか、総裁の言葉でご説明頂けますか。

(答)当初から申し上げていますが、私どもは、単に物価が上がればよいのではなく、賃金や企業収益等が改善する中で緩やかに物価が上がっていく形で、2%の「物価安定の目標」が達成されることを狙ってこの金融緩和を進めています。そのもとで、期待に働きかけるという点は、どこの国の金融政策でも必ずあり、そうした要素も十分踏まえて、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の中でも、生鮮食品を除く消費者物価の前年比の上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するという、「オーバーシュート型コミットメント」の形で、期待に対する働きかけを引き続き行っています。

そうしたもとで、なぜ物価がなかなか上がってこないのかについては、いくつかの要素を考える必要があると思います。1つは、ある意味でグローバルに、日本だけでなく欧米でも、経済が回復し、かなり順調に成長しているもとでも、物価が必ずしも十分に上がってこない、目標に達していないということです。そうした中で、欧米の中央銀行も、何度も、物価が目標に達するであろう時期をずっと後ずれさせてきています。その中には、共通の要素もあります。1番大きいのはもちろん原油価格であり、原油価格の下落が実際の物価の押下げ方向に働くことは、グローバルに同じく起きています。また他の要素として、技術革新やグローバル化も、物価の上昇率を抑制的にする方向に働いていると、最近よく言われています。それは欧米と共通する要素ですが、日本の場合は更に非常に大きな要素として、やはり、1998年から2013年まで15年間続いたデフレのもとで、物価・賃金があまり上がらないことを前提にした、家計や企業の賃金・価格設定行動、あるいはそれをどのようなものとして受け入れるかまで含めた、いわばデフレマインドが非常に根強いということがあります。欧米のように予想物価上昇率が2%の物価安定目標の周りに比較的よくアンカーされているところと大きく違って、デフレマインドのもとでの様々な慣行や制度・仕組みが、2%の「物価安定の目標」に到達する時期を後ずれさせている要素であることは事実だと思います。

ただ、そのもとでも2%は、従来から申し上げている通り、3つの理由で必要だと思っています。第1には、消費者物価指数はどうしても実際の物価上昇率よりも高めに出てくる傾向があります。1%くらいとか色々な議論がありますが、少なくとも消費者物価指数は、どうしてもインフレ・デフレの実態よりも高めの数字が出てきてしまいます。ですから、消費者物価指数について、例えば0%という目標を立てますと、実際はデフレになっていることになってしまいます。第2には、いわゆる伝統的な金融政策は、短期金利の操作によって、景気を抑制したり刺激したりして物価の安定を保とうとしますが、実際の物価上昇率が非常に低い時ですと、短期金利も低いところに釘付けされて、必要な時に大幅に短期金利を下げることが難しくなるわけです。ですから、通常の金融政策の余地を確保する観点からも、一定の物価上昇率を目指す必要があると思います。この2つは各国とも共通の観点で、そのもとで主要国は皆2%の物価安定目標を掲げて金融政策を運営しています。そうしたもとで、わが国もいわばグローバル・スタンダードに沿って金融政策を運営することが、中長期的にみて為替の安定にもつながると思います。これらの3つ、消費者物価指数の過大評価の傾向、金融政策の余地を確保する必要があること、そしてグローバル・スタンダードであることからも、引き続き2%の「物価安定の目標」を目指して、粘り強く金融緩和を続けていく必要があると考えています。

(問)今ご説明のあった、2%の「物価安定の目標」の理由ですが、そのうちグローバル・スタンダードで言うと、例えば金融政策の波及経路も違いますし、欧米と比べて日本は雇用が硬直的と言いますか、まだまだ賃金に、例えば正社員の賃金を上げづらいとか、そうした特有の事情もあるかと思います。そうした中で物価上昇は、日本の場合は賃金上昇が大きな鍵を握ると思うのですが、2%の「物価安定の目標」を変えないのであれば、他に例えば日銀にできることが何かあるのか、それとも政府も含めて何かできることがあるのか、その辺りの考えをお聞かせ下さい。

(答)先程ご質問の中にもあった2013年の「共同声明」でも、1本目の矢は、2%の「物価安定の目標」を早期に実現するための金融緩和、2本目の矢は、中長期的には財政健全化を目指す、短期的には財政による景気刺激も行うということ、3本目の矢は、いわゆる成長戦略として様々な構造改革を進めていく形で、全体として、デフレから脱却して持続可能な成長を実現することが目指されています。ただ、やはり各国ともそうですが、物価の安定は中央銀行の責務であり、そうした意味で、日本銀行も引き続き、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、適切な「イールドカーブ・コントロール」と、フォーワードルッキングな「オーバーシュート型コミットメント」という、現在の金融政策を粘り強く続けていきたいと思います。波及経路は色々あり、それぞれの経済実態で少しずつ違ってはいますが、日本の場合も、賃金が上がらなければ物価が上がらない、物価が上がらなければ賃金が上がらないというように、賃金と物価は大体並行的に動いていますので、やはり、賃金が上がっていくことが持続的な2%の「物価安定の目標」の達成のためには必要であると思っています。そうしたもとで、日本銀行としては最大限の努力をしています。他方で政府としても、本年の春闘がいよいよ始まりますが、そこに向けて、3%の賃金上昇を目指して労使でしっかりやってほしいということを働きかけていますし、様々な租税特別措置その他でそれをバックアップしています。そうしたことも賃金・物価には影響があると思いますが、あくまでも、2%の「物価安定の目標」を達成する責務はどこの国でも中央銀行にあると考えています。

(問)今回の展望レポートでは、経済の上振れ要因・下振れ要因における海外経済の動向に関する記述の部分で、前回みられていた「不確実性がある」という文言が削除されました。不確実性というと、リスク・プレミアムにつながる部分だと思うのですが、この文言が消えたことは、将来のETF買入れの縮小に向けて多少なりとも近づいたと理解してよろしいのでしょうか。

(答)あまり関係ないと思います。引き続き、海外要因がリスクに挙げられていまして、もちろん、上振れ、下振れ両方あるのですが、多くは下振れ要因であろうと思っています。

(問)今後金利がどうなるかは、政府の財政健全化にも大きく影響する部分だと思うのですが、物価が上がっていった時に、仮に、政府から借金が膨らまないよう低金利をなるべく続けて欲しいというプレッシャーがあった時に、やはり出口というのは躊躇されることにつながるのか、その辺りを教えて下さい。

(答)日本銀行の政策は、あくまでも物価の安定と金融システムの安定という2つの使命を達成すべく行っています。しかも、日本銀行は政府から独立した機関であり、政策委員会という合議体のもとで適切な金融政策を決定していくので、そうしたご心配は無用かと思います。

(問)次期総裁人事について、今、関心が高まっていますが、政界、財界、それからマーケット関係者、様々な分野で話を聞いても、黒田総裁続投を望む声が非常に多いのが現状です。こうした続投期待の声を、ご本人としてどう受け止めていらっしゃるでしょうか。

もう1点ですが、総裁は今73歳で日本の金融政策を引っ張ってこられているのですが、まさに人生100年時代の希望の星ともいえると思います。この先5年間も、日銀そして金融政策を引っ張っていこうという思いはお持ちでしょうか。

(答)次期総裁云々の話、これは、常に申し上げていますが、国会の同意を得て内閣が決定するものですので、それについて何か申し上げるのは僭越だと思いますので、申し上げられません。年齢云々は、今おっしゃった通りの年齢ですので、それ以上何か付け加えることはありません。

(問)次期総裁に必要な適性といいますか、資質は何だとみていらっしゃいますか。

(答)それも色々具体的に申し上げるのも僭越ですので、差し控えさせて頂きたいと思いますが、常に思っているのは、これはどこの中央銀行でも同じだと思いますが、これだけ経済や金融がグローバル化した中では、グローバルな視点や国際的な関わり合いが非常に重要になっているということです。それから、これは経済政策全てについてあてはまることだと思いますが、現実や実態を把握する能力とともに、政策というものは、いつも、このようにしたらこうなるだろうとか、様々なオプションを理論的に考えて比較するものですので、実践的な能力と理論的な分析を兼ね備えているということが、重要なのではないかと思います。これは私について言っているわけではなく、一般的に、現在の中央銀行の総裁というのは、そういったことが必要だろうと思います。

(問)2点お願いします。1つは、先程物価の比較で出された米国の物価ですが、日本ではあまり上がっていない医療費、教育費、乗り物ですとか、公共的なものも相当、それから水道も相当上がっていると思いますが、こうしたものは、日本でもやはり上がった方がよいと総裁はお考えなのかどうか教えて下さい。

もう1点、「共同声明」から5年間の推移や金融政策の枠組みについては先程ご説明がありましたが、その評価をお伺いしたいです。この大胆な金融緩和をすることに関しては、たぶん誰も異論がないと思うのですが、物価上昇率の結果とか、「共同声明」に書かれていた政府の取組みについて、5年経ってどうでしょうか。こんなものか、と思っている人も少なくないのではないかと思うのですが、総裁の評価を教えて頂けますか。

(答)前段は相対価格の話ですのでとやかく申し上げるつもりはありませんが、欧米と日本の1つの違いとして、サービス価格があまり日本では上がっていません。財の価格は、国際的に取引されているので、為替レートによる遮断効果はあるものの、国際的に類似した動きをする傾向がありますが、サービスは多くは国内で取引されますので、その国の状況を反映して動きます。そうした中で、日本のサービス価格があまり上がっていません。その中身をみると、帰属家賃の問題や、その他様々なサービスの価格の上昇があまり大きくないことが影響しています。ただ、展望レポートにも示されている通り、潜在成長率を超える成長が続き、需給ギャップが更にプラス幅を大きくしていき、雇用も更に逼迫していく中で、やはり賃金が上がり、労働集約的なサービスの価格も上がっていくと思います。

「共同声明」については、日本銀行としては「共同声明」に沿って最大限の金融緩和を続けてきましたが、1番大きな理由としては原油価格の大幅な下落、そしてわが国の場合、15年続きのデフレのもとで、欧米と違い予想物価上昇率が2%の「物価安定の目標」のまわりにアンカーされておらず、低いところにとどまっていることから、2%の「物価安定の目標」の実現には欧米の場合よりも相当時間がかかっていると思います。そうした面は残念ではありますが、「共同声明」の考え方が間違っていたとは思っていません。日本銀行としては、引き続き粘り強く金融緩和を続けて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現したいと思っています。

(問)長期国債買入れペースにかかる80兆円のめどの話ですが、2017年の買入れ実績をみますと、60兆円を切るぐらいの水準かと思うのですが、少ない量で以前と同じような金利水準を維持できているということは、日本銀行にとって望ましいことなのかどうかという点について、そもそも80兆円を買う必要があったのかというところも含めて、伺えればと思います。

(答)一昨年の9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に枠組みを変更した時点で、金融調節の対象は、マネタリーベースの増加額や国債の買入れ額ではなく、長短金利になりました。従って、80兆円はあくまでめどであり、そのもとで状況に応じて買入れ額が増えたり減ったりするということなのですが、ストック効果がありますので、結果的に、フローとしては国債買入れ額が少なくても適切なイールドカーブが実現されています。80兆円はめどであって目標ではありませんので、望ましいとか望ましくないということではなく、必要なだけ買入れを進めるということです。

(問)春闘についてですが、賃金の設定スタンスがなお慎重という文言がずっと続き、次第に積極化していくという話がずっと続いているのですが、既に労働組合が要求案を作り始めている状況ですので、次第に、というのは、今春闘でなかなか本格的に上がるのが難しいと思っていらっしゃるのか、今春闘でも次第にというところが直近のところに効果を及ぼして一気に上がっていくという状況もあり得ると思っていらっしゃるのか、お伺いします。

(答)強力な金融緩和は、企業収益の増加や賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていく、という好循環を作ることを目標としています。実際、企業収益は過去最高水準で推移していますし、労働需給は一段と引き締まっているほか、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比も1%程度まで上昇してきています。このように、賃金上昇圧力は着実に高まっていると思っています。こうしたもとで、政府は税制面での措置を含む各種の施策を打ち出して、企業による力強い賃金アップを後押しする姿勢を示していますし、企業の側も、先週、経団連が3%の賃上げを経営側の指針として掲げるなど、前向きな対応をみせています。日本銀行としては、現在のこうした経済環境を活かしながら、労使双方において好循環の実現に向けた取組みが拡がっていくことを強く期待しています。

(問)マーケットの一部には、根強く早期の金融引締め観測があるようですが、12月の決定会合の「主な意見」では、ETFの買入れの必要性について少し踏み込んだ発言や、将来的に金利の調整を議論する必要性についての意見が散見されるようになりました。総裁ご自身の考えとしては、現在は粘り強く金融緩和を続けていくということだと思うのですが、外からみえる議論の方向性の少しの変化と、総裁ご自身の今おっしゃっていることを、どう整理すべきなのか教えて頂けますでしょうか。

(答)合議体の議論ですので、色々な意見や議論が出るのは自然なことだと思います。前回の金融政策決定会合でも、今回でも、結論として、ETFの買入れについては引き続き6兆円を堅持することを全員一致で決定しています。色々な議論があり、一部の委員がそういった議論をされたのは、「主な意見」で示している通りですが、全体としての議論の動向については、まもなく前回の金融政策決定会合の議事要旨が公表されますので、ご覧になって頂ければ、ごく一部の議論であったということが分かると思います。先程来申し上げている通り、ETFの買入れは継続することで問題ないと思っているということですし、金利についても、引き続き粘り強く現在の金融緩和を続け、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということに尽きると思います。

(問)海外経済の先行きについての質問ですが、年初来、朝鮮半島の緊張が非常に融和方向に向かって、地政学リスクが低下しているようにみえるのですが、総裁の見立てをお願い致します。仮にリスクが低下すると判断できるのであれば、それは世界経済、日本経済にどのような影響があるのか、ご所見をお願いします。

(答)展望レポートや公表文の中で、地政学的リスクを挙げていますが、これは、世界を見渡したときに、いくつかの地域において地政学的リスクがあることを指摘しているわけです。そこには、ご指摘の地域の問題も含まれています。ただ、地政学的リスクが高まったとか低くなったとか、先行きがどうかということについては、私どもは特別な知見があるわけではありません。個人的な意見は色々とありますが、日本銀行総裁として、あるいは政策委員会の総意としての見方はありませんので、お答えを差し控えさせて頂きます。

以上