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総裁記者会見要旨 2019年3月15日(金)
午後3時半から約50分

2019年3月18日
日本銀行

(問)本日の結果についてお願いします。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施します。

また、長期国債以外の資産の買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し得るとしています。

わが国の景気についてですが、海外経済の減速の動きが足許の輸出や生産に影響を与えていますが、家計・企業の両部門において、引き続き、所得から支出への前向きの循環は働いていると考えています。従って、景気の総括判断は、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」としました。

やや詳しく申し上げますと、海外経済は、減速の動きがみられますが、総じてみれば緩やかに成長しています。そうしたもとで、輸出は、足許では弱めの動きとなっています。国内需要の面では、企業収益や業況感が総じて良好な水準を維持するもとで、設備投資は増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しています。公共投資も高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、足許では弱めの動きとなっていますが、緩やかな増加基調にあります。労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。

先行きについては、わが国経済は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられます。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%台後半となっています。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。

リスク要因としては、米国のマクロ政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、保護主義的な動きの帰趨とその影響、それらも含めた新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられます。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

(問)公表文にもございましたが、世界経済の減速感が強まっています。内閣府の景気動向指数は後退局面入りすら示唆している状況です。景気の現状と先行きについて、改めてご所見をお願いします。

(答)今回、景気動向指数が大幅に低下したことについては、1月の生産減少により、指数を構成する生産関連の指標が下落したことが、大きく影響していると理解しています。日本銀行としても、輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられることは認識していまして、この点は、本日の公表文でも示した通りです。

一方、国内需要については、堅調な動きが続いています。企業収益が総じて良好な水準を維持するもとで、設備投資は増加傾向を続けているほか、個人消費も、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、緩やかに増加しているとみています。このように、所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムに変化は生じていません。また、公共投資も、高めの水準を維持しています。

こうした点を踏まえ、本日の金融政策決定会合では、わが国の景気の現状について、「緩やかに拡大している」という判断を維持しました。先行きについては、国内需要が増加基調を辿るとみられるほか、輸出も、当面、弱めの動きとなるものの、基調としては緩やかに増加していくと考えられます。このため、「わが国経済は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、緩やかな拡大を続ける」と判断したところです。

(問)FRBが利上げを中断したのに続きまして、ECBも利上げを来年以降に先送りし、各国の中央銀行で緩和的な動きが強まっています。日銀の中でも追加緩和を求める声が出ている状況ですが、この是非についてどうお考えでしょうか。

(答)日本銀行を含め、どの国の中央銀行も、その国の経済・物価の安定を実現することを目的としており、それぞれの置かれた経済状況に応じて、最も適切な政策運営に努めていると考えています。

そのうえで、わが国の経済についてみますと、確かに輸出や生産面に海外経済の減速の影響がみられるということはその通りですが、他方で内需は堅調に推移していますし、先行きも、緩やかな拡大を続けるという中心的な見通しは維持しています。物価面でも、「物価安定の目標」の実現にはなお時間を要すると見込まれますが、マクロ的な需給ギャップがプラスの状況が続くもとで、引き続き、2%に向けたモメンタムは維持されているのではないかと考えています。

政策委員の個々の意見についてコメントは差し控えますが、本日の決定会合では、こうした経済・物価情勢を踏まえて、大方の委員が、これまで通り、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが最も適切と判断したところであります。

(問)先般1月に展望レポートを示した時に、物価上昇見通しについて、今まではメインで使っていたのは消費税上昇の影響を除いた方だったと思うのですが、今回からそれが参考値として扱われました。先般、総裁は国会でも色々な要因はできる限り除いた方がいいのだ、というような発言がありましたが、この点について改めて説明してください。

(答)従来から、日本銀行は、物価の見通しを示すに当たり、物価の基調が分かりやすく説明されることが重要だと考えています。この点、先行き、一時的とみられるような価格変動要因が複数見込まれていまして、物価の基調を的確にとらえることが難しくなってきているわけです。特に本年10月には、消費税率引き上げと教育無償化政策がいわばセットで導入されることが予定されていますし、また、一部の事業者が表明している携帯電話通信料の大幅な引き下げが、新年度入り後の物価に影響を与える可能性も指摘されています。こうした要因が一時的かつ大きい場合に、その影響を展望レポートの物価見通しなどから除外することは、物価の基調を分かりやすく説明することにつながる可能性があるわけです。ただ、1月の展望レポートで示した通り、今回の税率引き上げと教育無償化は、これを合わせて1つの政策対応としてとらえますと、物価への影響は比較的軽微にとどまるということが予想されます。また、見通し計数から、こうした様々な制度変更や携帯電話通信料引き下げなどの影響を次々と除外していきますと、計数の客観性が損なわれることになりかねず、却ってその意味が分かり難くなってしまう可能性もあるということです。こうした論点あるいは物価を巡る今後の状況を踏まえますと、日本銀行としては、基本的に今申し上げたような一時的な要因を除外しない物価見通しを中心に説明し、そのうえで、必要に応じてそうした要因が物価に与える影響についても指摘していくことが適当ではないかと考えています。

(問)麻生財務大臣が今朝の記者会見で2%目標に触れて、2%にこだわっているのは新聞記者と日本銀行ぐらいなものだと、独特な言い回しをされて、そのうえであまりこだわり過ぎると色々おかしな点が出てくるというような発言をされていて、政権の中枢からこういった発言が出ていることへの受け止めをお聞かせください。

(答)麻生大臣のご発言について、具体的にコメントするのは差し控えたいと思います。そのうえで申し上げますと、この2%の「物価安定の目標」は、日本銀行の政策委員会が自ら決定したものでありまして、物価の安定という日本銀行の使命を果たすためには、これを実現していくことが必要だと考えています。もちろん、かねてから申し上げています通り、物価が2%に上がりさえすればよいというわけではなく、日本銀行は、企業収益あるいは雇用・賃金が増加して投資や消費が活発化するもとで、物価も緩やかに上昇していくという経済を目指しているわけです。また、物価は、原油価格の動きを含めて様々な要因によって変動しますし、長期にわたる低成長やデフレの経験などを踏まえますと、物価上昇率が高まるには相応の時間がかかる可能性があることも念頭に置く必要があると思っています。更には、金融緩和が、市場機能、金融仲介機能に与える影響なども考慮する必要があると思っています。日本銀行としては、こうした経済・物価・金融情勢を総合的に勘案したうえで、2%の「物価安定の目標」の実現を目指していくという方針に変わりはありません。

(問)前回の総裁会見で、総裁が今年どんなことに注目なさっているのかというのを伺ったのですが、その時のお答えが、春闘でどのような賃上げが実現するかということでした。そして実際に春闘の動きがどうなっているかといいますと、自動車・電機の主力企業で賃上げが去年を下回っているという状況です。今後の景気それから物価に、どのように影響するとみていらっしゃるでしょうか。2%の物価目標というのは、まだまだ遠いなというふうにご覧になっていらっしゃるでしょうか。

(答)春闘については、一昨日、いわゆる集中回答が出ましたけれども、中小企業も含めて、まだ現在も労使間で交渉が行われています。全体的な賃金の設定動向というのは、まだ見極めが必要な状況でありまして、今の時点で断定的なことは言えないと思います。そのうえで、集中回答の状況をみますと、多くの企業で6年連続のベースアップが見込まれているということ、それからこの先ボーナスや諸手当など、多様な方法による年収ベースの賃上げが進められるものと考えています。

日本銀行は、強力な金融緩和によって、企業収益の増加あるいは賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環を作り出すことを目指していますので、ベースアップの定着あるいは賃上げ手法の多様化といったことは、こうした経済の好循環の実現を後押しするものではないかと考えています。いずれにしても、今後、より深刻な人手不足に直面している中小企業の状況も明らかになってくるわけです。日本銀行としても、こうした動向には十分注目をしていますし、良好な企業収益あるいは労働需給の引き締まり、消費者物価の緩やかな上昇といった経済環境を活かしながら、労使双方において前向きな取組みが拡がって、賃金と物価の好循環が実現していくことを強く期待しています。

(問)今回の公表文で、輸出、それから生産の判断を引き下げているのに、全体の景気判断を据え置いているのは、ちょっと整合性が取れないような気がするのですが、どうしてなのか。これは4月に見極めるということなのでしょうか。

(答)公表文の中には、まずは足許の話、それから先行きの話、海外経済と日本経済についても書かれています。足許、海外経済、特に欧州や中国の減速が、日本の輸出や一部の生産に影響を与えていることはその通りです。ただ、一方では、足許でも設備投資は順調ですし、消費も振れを伴いながら堅調に推移しており、内需は比較的堅調な状況です。それを踏まえたうえで先行きどうなるかということですが、海外の状況についても、いずれIMFその他国際機関も様々な見通しを出されると思いますけれども、色々な動向をみる限り、例えば中国においては、かなり大幅な景気対策が既に決定され、あるいは実行されつつあり、どんどん減速していくという状況にはないのではないかと思います。中国政府も6%~6.5%の成長率を目標として掲げていますし、中国経済についても、足許の減速と、この2019年、2020年といった年全体をみたときの状況とは少し違っており、緩やかな成長が続いていくという見方で正しいと思います。欧州の場合も、ご承知のように、昨年のディーゼルの環境規制などが突然大きくきて、自動車産業がかなり影響を受けましたが、それも克服されつつありますし、対中輸出が減ったということについても、先程申し上げた通り、中国の景気は後半に向けて回復していくというのが大体の皆さんの見方のようです。日本経済についても、足許の輸出・生産の弱さはありますが、内需は堅調ですし、先行きについても、所得と支出の好循環というものが基本的に続いていくという、従来の経済についてのメインシナリオは変わっていないということだと思います。

(問)先程の2%ターゲットについてお伺いしたいのですが、最近更に柔軟に、こだわりを持たずに、とか、そういった声が増えていると思います。ただその一方で、日銀としては2年というのはこだわっていなくて、できるだけ早期にとおっしゃっているだけで、総裁としては十分に柔軟になっているというお考えなのか、それとも柔軟にする余地は、例えばレンジ化とかする余地はある、とお考えになっているのか、お願いします。

(答)2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということは、2013年1月に日本銀行として決定して、その後引き続きそれを守ってきているわけです。これを変更する必要があるとか、変更することが好ましいとは思っていません。現在の政策委員会のメンバーも、皆同じ意見だと思います。

(問)総裁ご存知のように、MMT(Modern Monetary Theory)というのがアメリカ・欧州の方でも議論されているようなのですが、これについての総裁の考え方をお願いします。というのも、日本では成功しているじゃないか、とおっしゃっている専門家の方もいるものですから、どうぞ宜しくお願い致します。

(答)MMT(Modern Monetary Theory)は、最近米国で色々議論されているということは承知していますが、必ずしも整合的に体系化された理論ではなくて、色々な学者がそれに類した主張をされているということだと思います。そのうえで、それらの方が言っておられる基本的な考え方というのは、自国通貨建て政府債務はデフォルトしないため、財政政策は、財政赤字や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきだ、ということのようです。ただ、こうした財政赤字や債務残高を考慮しないという考え方は、極端な主張だと思いますし、米国の学界でも非常に少数の意見であり、広く受け入れられた考えではないと思っています。もちろん常に私が申し上げている通り、財政運営は政府・国会の責任において行われるものですが、実際にわが国の政府債務残高は極めて高い水準にありますので、政府が、中長期的な財政健全化について市場の信認をしっかり確保するということが重要だと思っています。また、「共同声明」においても、政府が持続可能な財政構造を確立するための取組みを着実に推進するということになっていますので、そうしたことを期待しています。

(問)マイナス金利政策について1点お伺いします。日本に導入してから、先月2月で3年が過ぎましたが、国内の物価はなかなか上がらない状況かと思います。日本や海外の学者の一部からは、金利をマイナスにするという政策は、インフレ期待や景気を逆に冷やすのではないかといったような論文も出てきていると思います。そうした中で、非伝統的な政策手段だからこそ評価するには時間を要するかと思いますが、現時点で海外での導入事例も踏まえて、総裁は、マイナス金利に関する功罪については、どのようなご認識をお持ちでしょうか。

(答)私も海外の議論を全て知っているわけではないのですが、ご承知のようにECBを含めて欧州大陸の中央銀行は殆ど、依然としてマイナス金利を維持しています。それも、わが国の場合のように-0.1%を当座預金の一部に適用するということではなく、根っこから、しかも大幅なマイナス金利を適用し、それを依然として維持しています。それは全体の金融緩和の中で必要だということで維持されているのだと思いますし、最近特に欧州において反対が強くなっているとか、拡がっているとは感じておりません。他方で、米国では以前からマイナス金利の導入には強い反対意見があると同時に、一部には、むしろマイナス金利をやりやすいような金融システムを作って、いわば伝統的な短期金利をプラスの範囲で動かすだけではなくて、マイナスまで含めて動かすことによって、いわゆる量的な緩和ではなく、マイナス金利でやったほうがよいのではないかという学者もいます。同時に、多くの学者は、マイナス金利に対して比較的批判的で、むしろFRBがやってきた量的緩和で十分緩和効果があったのではないかという議論があります。米国の場合は意見が相当分かれていると思いますが、欧州では、少なくとも多くの意見は、マイナス金利は必要であり、効果を持っているということだと思います。わが国の場合は、先程申し上げたように、ごく一部を-0.1%にして短期金利をマイナスにして、そして10年物国債金利をゼロ%程度、超長期はプラスという、適切なイールドカーブを作るという意味でも有効であり、それが全体として金融緩和の効果を上げていると思っています。他方で、金融機関の収益に対する影響には色々な議論があることはよく承知していますが、先程申し上げたように、-0.1%というのは当座預金のごく一部に適用しているだけで、殆どは実は+0.1%か0%ということになっていますので、そういったことに対する配慮もしているということだと思います。

(問)先程、日本経済は、輸出・生産は落ち込んでいるものの、内需は堅調との見方を示されましたが、今後、世界経済の減速が輸出・生産の下振れを通じて内需に波及するリスク、またそれが物価に与える影響につきまして、現時点で総裁はどのようにお考えでしょうか。また、海外経済が持ち直すタイミングについて、現時点ではどのようにお考えでしょうか。

(答)米国経済はかなり堅調な動きをしていますが、先程来申し上げている通り、足許、欧州と中国が減速しているということはその通りでして、それが更に減速していくということになれば、日本の輸出や生産にも更に影響が出て、それが内需にも影響してくるという可能性はあると思います。しかし、そもそも海外経済自体がそのようにどんどん落ち込んでいくというのは、少なくとも多くの政府や国際機関の見通しではありません。むしろ年後半には、中国でも欧州でも成長率が回復してくるという見方のようです。中国の場合は様々な政策対応をしていますし、欧州の場合は一時的な要因などが剥げ落ちてくれば、当然成長が戻ってくると思います。欧州の場合は国によって相当違っており、フランスやスペインは比較的好調で、ドイツとイタリアが不調だということですが、全体として海外経済が更にどんどん下振れしていくという可能性は非常に低いのではないかと思います。リスクは認識しておく必要があり、海外経済の下振れが、単に輸出や生産だけでなく、国内の内需に影響を与えてくるという可能性は否定できませんが、そもそも海外の状況は、今のところは年後半には中国や欧州といった、今減速しているところが回復してくるというのがメインシナリオのようですので、それに従えば、リスクはあると思いますが、メインシナリオとしてそういうことが予想される、ということではないと思っています。

(問)金融政策の一環としてのETF購入についてです。今回というより前回の会合前なのですが、市場関係者の間で、日経225型からTOPIX型へよりシフトを進めるのではないか、というレポートが出て話題になったことがありました。今のところETF買いについてよくある話は、品薄株の流動性、あまり流動性のない株があるので限界があるのではないかという話と、ガバナンスに影響を及ぼす懸念があるのではないか、と2点あるように思います。総裁は以前にもお答え頂いたことがあると思いますが、今のETF買いについて、何か調整の必要があるかどうか、現時点でどのようにお考えでしょうか。

(答)株式市場の機能や副作用ということが指摘されてきましたので、それに対応して買い入れるETFの構成を、よりマーケット全体を平均的に代表するようなETFの方に少しウエイトを移す形で対応はしていると思います。その中で、ETFを通じた日本銀行の株式保有割合は、現時点でも株式市場全体の4%程度にとどまっています。また、コーポレートガバナンスの面では、ETFを構成する株式については、スチュワードシップコードを受け入れている投資信託委託会社によって、適切に議決権が行使される扱いになっています。このため、現時点では株式市場の機能に何か影響を及ぼしているということはないと思いますが、引き続きETFの買入れについては、そうした副作用のないように行っていきたいと思っています。

(問)国内銀行の不動産融資の過熱感のようなことについてお聞きしたいと思います。昨年10月の日銀の金融システムレポートでは、不動産融資の貸出残高が既にピークを上回って、更に増加しているであるとか、対GDP比でみてもピークを更新している、と。ただし、いわゆるヒートマップは点灯していないわけですが、既に不動産融資は減速していながらなかなか減らない、と。総裁は現時点で国内銀行の不動産融資の実態、現状についてどのようにみていらっしゃいますでしょうか。

(答)まず、不動産市場全体として、バブル期にみられたような全国的な過熱感が窺われないことは皆さん認めていると思いますが、首都圏を中心とする都市圏と地方圏との間で需給のひっ迫感に格差があり、大都市圏の不動産価格は上昇傾向が続いているということは事実です。そうしたもとで、大都市圏の不動産価格が上昇傾向を続けていることには、人口動態や経済活動の地域間格差といった問題に加えて、大都市圏では海外投資家の取引が増加しており、国内と海外の不動産市場の連動性が高まっているといった要因も影響しているようです。全体としての不動産市場の動向については、引き続き関心を持ってみていきたいと思っています。

なお、金融機関の不動産融資につきましては、当然のことながら、行き過ぎがないか、適切なリスクとリターンか、それから特に不動産関係の融資は期間が非常に長いですから、入り口の審査だけでなくて中間の管理を十分していくことが必要であるとか、そういった面で、考査の際には適切に、金融機関との対話を通じて、十分なリスク管理を行っていくことを促しています。今のところ、リスク管理が十分でない金融機関が拡がっているということではないと思いますが、やはり期間が長いということと、今の時点では大都市圏の不動産価格が上昇傾向にある一方で、地方はやや一服気味であるといったことも踏まえて、不動産市場の動向と、金融機関の融資姿勢やリスク管理の両面から、十分注視していきたいと思っています。

(問)先程から景気の全体の認識をお聞きしていると、基本的にはヨーロッパ、中国が回復してくるのではないか、というのがメインシナリオということで、今の海外経済の減速の影響というのは、今のメインシナリオとしては、一時的なものにとどまるということで考えていらっしゃるのでしょうか。それとも、まだそうかどうかも今見極めが必要だということなのでしょうか。

それからもう1つ、先程の春闘の話に戻るのですが、今年はちょっと去年ほどの水準ではなかったというお話がありましたが、これまで結構春闘で相場作りをリードしてきたトヨタ自動車が、ベアの要求を非公表にして、ということになって、水準がよくみえなくなってきた部分があります。それが結果として、公表する義務があるというわけではないと思うのですが、やはり賃上げの、社会の所得から支出という流れを作るうえで、その辺りの部分というのがちょっとみえにくくなってきているのではないかなと思うのですが、総裁はどのようにお考えでしょうか。

(答)前段については、海外経済の中では中国と欧州が減速しており、それが今後どのように展開していくかということは、世界経済の動向、更には日本経済に与える影響という点からみても非常に重要だと思います。他方で、ご承知のように米国経済は堅調な成長を続けていますし、中国以外のアジアの新興国をみますと、インドは7%近い成長を続けていますし、インドネシアも5%台の成長を続けています。新興国の代表のように思われている中国が昨年の後半以来減速しているということで、非常に注目を集めていますが、実は他の新興国はかなり成長をしているというか、むしろ成長率が回復している国もあります。また、昨年の前半までは、米国の金融政策の正常化がどんどん進んで金利が上がり、途上国から資金が逃げ出す、あるいはそれを防止するために途上国が金融引き締めを余儀なくされることによって、新興国の成長率が低下するのではないか、という議論が強かったのですが、最近はそういう議論が全くなくなりました。むしろ新興国はそういったおそれがなく、財政・金融政策も活用して比較的順調に成長率が回復しているところもあります。まずは世界全体をみたらどうかということと、もう1つは現在減速している中国と欧州がどうなっていくかということですが、特に中国については、既にかなり大幅な景気刺激策をとっていますので、その効果はいずれ出てくると思います。それが年の後半くらい、というのが皆さんの見方のようです。これはもっと遅れるとか、もっと早く出るとか色々な議論があるようですが、海外経済についても、緩やかに成長するというメインシナリオは変わっていないのではないかと思っています。ただし、リスクは確かにありますし、その点は十分注意していく必要があると思っています。

春闘については、まだ本当に中間段階というか、中間までもいっていないのかもしれませんので、あまり断定的なことをいうのはよくないと思いますが、集中回答の数字などをみますと、昨年よりちょっと低いくらいで、殆ど同じということです。また、これは昨年になりますが、冬のボーナスが非常に良かったともいわれていますし、集中回答した企業以外、特に中小企業のベアの交渉がどうなっていくのか、それから今ボーナスなどの色々な形で総合的な賃上げが実現しています。そういう意味では、みえにくくなっているのかもしれませんが、全体としてどのように賃上げが進んでいくかについては、十分注視していく必要はあると思います。今のところ、何かここ数年の中で賃上げ率が顕著に低下している感じは、少なくとも私は持っていません。ただ、もう少し、これは5月頃まで続きますので、状況を全体としてみる必要があると思っています。

(問)総裁は就任されて今月で6年になると思いますが、6年前に就任されたときに就任の色々なご発言の中で、2年程度で2%を責任持って達成するというようなご発言をされたと思います。この間あらゆる非伝統的な政策を取り入れてこられたと思うのですが、しかし2%の物価目標というのはなかなか達成できないという状況で、直近では、追加緩和なのですけれども、政策変更としては2016年9月からは目立った政策はとられていないのかな、フォワードガイダンスなどは取り入れられたと思いますが。それで、市場では追加緩和は本当に日銀はする気があるのかと、そう見られると、インフレ期待なんかもなかなか上がらないのではないかと思うのですが、その点どのように受け止めていらっしゃるでしょうか。

(答)2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際は、その年の1月に2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという政策委員会の決定を踏まえて、「量的・質的金融緩和」を導入したわけです。その際に、金融政策のラグとかその他を考慮しつつ、どのくらいの規模の緩和が必要かということを議論して、2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に実現しようということであれば、このぐらいの緩和が必要だということで始まったわけです。ご記憶のことだと思いますが、2014年の夏頃までに消費税の引き上げを除いても、実は1.5%ぐらいの物価上昇になっていました。「量的・質的金融緩和」を導入したときの消費者物価が-0.5%というデフレの状況でしたので、2年足らずで1.5%まで2.0%ポイントぐらい上昇したわけですが、その後1番大きかったのは、やはり原油価格だと思います。2014年夏頃には1バレル当たり110ドル、120ドルというところが、1年半後の2016年の初めには30ドルを割るというぐらいに非常に大きく下落し、それが実は日本だけでなく欧米でも、消費者物価上昇率を殆ど0%ぐらいまで引き下げたわけです。その後、原油価格は半分ぐらい戻したわけですが、そのもとで、例えば米国の場合は、消費者物価上昇率が2%前後になっています。それは、やはり米国の場合は、予想物価上昇率が2%程度にアンカーされているので、ある意味ですんなりと戻ったわけですが、欧州の場合はそれよりも2%付近でのアンカーが弱いせいか、そこまでいっていませんが、それでも1%の半ばぐらいまで戻っています。わが国の場合は、実際の物価上昇率が下がると、予想物価上昇率が一緒に下がってしまうので、原油価格が少し戻って実際の物価上昇率が上がっても、予想物価上昇率が下がってしまっているところがすぐに上がってこないということです。米国が2%ぐらい、欧州が1%半ば、日本は1%弱というようなところになっていまして、そういう意味では、色々な状況の中で、「量的・質的金融緩和」の拡大やマイナス金利の導入など、様々なことを行いましたし、また、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を2年半ぐらい前に導入しました。また、昨年には資産買入れの弾力化といったこともやり、それぞれのときに応じて必要な措置を取ってきています。結果的にまだ達成されていないというのは非常に残念であることは事実ですが、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する、という物価安定に向けた日本銀行としての使命、それに応じた政策というものは変わっていないし、変える必要もないと思っています。

以上