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総裁記者会見要旨 2020年7月15日(水)
午後3時半から約60分

2020年7月16日
日本銀行

(問)本日の会合の決定内容と展望レポートについて、説明をよろしくお願い致します。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITは、当面、年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する保有残高の増加ペースを上限に、積極的な買入れを行います。CP等、社債等については、2021年3月末までの間、合わせて約20兆円の残高を上限として買入れを行います。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明します。わが国の景気の現状については、「経済活動は徐々に再開しているが、内外で新型コロナウイルス感染症の影響が引き続きみられるもとで、きわめて厳しい状態にある」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、持ち直しに向かう動きもみられますが、感染症の世界的な大流行の影響により、大きく落ち込んだ状態にあります。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は大幅に減少しています。企業収益や業況感は悪化しており、設備投資は横ばい圏内の動きとなっています。雇用・所得環境をみますと、感染症の影響が続く中で、弱い動きがみられています。個人消費は飲食・宿泊等のサービスを中心に大幅に減少してきましたが、足許では持ち直しの動きがみられています。住宅投資は緩やかに減少しています。この間、公共投資は緩やかに増加しています。金融環境については、全体として緩和した状態にありますが、企業の資金繰りは悪化しているなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっています。先行きについては、経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、本年後半から徐々に改善していくとみられます。もっとも、世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が残る中で、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられます。その後、世界的に感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けると予想されます。次に物価ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比をみますと、原油価格の下落などの影響により、0%程度となっています。予想物価上昇率も弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落などの影響を受けて、マイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響が剥落していくことから、消費者物価の前年比はプラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。予想物価上昇率も、再び高まっていくとみています。

今回の経済・物価の見通しは、いずれも、概ね前回の見通しの範囲内です。ただし、こうした先行きの見通しは、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強いと考えています。また、今回の見通しは、大規模な感染症の第2波が生じないことに加えて、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下しないことや、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されることなどを前提としていますが、そうした前提にも大きな不確実性があります。そのうえで、リスクバランスについては、経済・物価のいずれの見通しについても、感染症の影響を中心に、下振れリスクの方が大きいとみています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。

また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」や、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていきます。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)日銀は3月以降、新型コロナ対策として金融市場の安定維持と企業の資金繰り支援に向けた措置を相次ぎ打ち出してきました。その評価と、本日は現状維持ということでしたが、更に追加的な措置が必要なのか、お考えをお聞かせください。

(答)日本銀行は、3月以降、「特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETF等の積極的買入れの「3つの柱」で金融緩和を強化してきました。こうした対応は効果を発揮しているとみています。内外の金融資本市場は、なお神経質な状況にありますが、ひと頃の緊張は緩和しています。企業の資金繰りには依然ストレスが加わっていますが、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されています。金融機関の貸出態度は緩和的であり、CP・社債の発行環境も一時的に拡大していた発行スプレッドが縮小するなど、良好な状態にあります。こうしたもとで、銀行貸出残高は前年比+6%台半ば、CP・社債残高も前年比+10%を超える高い伸びとなっています。

日本銀行としては、引き続きこの「3つの柱」により、資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく所存ですが、そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。

(問)景気の先行き見通しですが、いわゆるV字回復というのがなくなって、今回の展望レポートでも書かれているように、その改善のペースというのは緩やかなものにとどまると考えられるとの指摘があります。V字回復ではなくU字とかL字とか、そのようなイメージの回復になっていくということでよろしいのでしょうか。

もう一点が、社債の買入れについてです。社債の発行高は6月はすごく増えており、社債市場の改善につながっていると思います。その一方で、いわゆる市場機能の低下という面では、日銀が大量に買い入れていることで、日銀が買い入れる社債がマイナス利回りになっているということで、リスクに応じた、いわゆる金利の調整という市場の機能が低下しているのではないかという懸念の声が聞かれます。この点について総裁はどうお考えでしょうか。

(答)まず、経済の見通しですが、今回の展望レポートにも示している通り、既に足許で回復の様々な兆候がみられており、ある意味ではかなり急速な回復のようにみえます。しかし、それは非常に大きく落ち込んだところから急速に回復しているもので、今後もそれがずっと続くかどうかは、議論のあるところです。むしろ私どもとしては、その後の回復は緩やかなペースになるとみています。ただ、そうしたもとでも、展望レポートにもある通り、今年度はマイナス成長になりますが、2021年度はかなり強く回復し、2022年度も1%台半ばということで、持続的な成長経路に戻っていくとみています。U字かV字かなど、様々な議論はあると思いますが、緩やかではあるけれども着実に回復していくとみています。

それから、社債についてですが、CPも社債も金額自体はFRBなどが買い入れる額よりも小さくみえますが、確かに、社債やCPの市場の大きさで比べると、日本銀行の買入れはかなりの規模になっています。そうしたことも、欧米と異なり、CPや社債のスプレッドが拡大したものが、全く元のように小さなものになっているという意味で、市場の安定化に非常に有効につながったと思っています。市場機能の低下云々というのは、確かに長期的にみてそういう議論があることは事実だと思いますが、足許で社債あるいはCPについて市場機能が大きく低下しているということはないように思います。市場規模全体に対してのCPや社債の買入れは、米国よりも相対的に大きいわけですが、それ自体は、まだまだ市場規模全体からみるとそれほど大きなものではありません。国債については、市場規模の半分程度を日本銀行が買い入れているということで、そういう議論も一部にあることは事実ですが、社債市場について今、市場機能の低下云々ということで議論になっているとは思っていません。

(問)コロナの第2波についてですが、前回の会見では第2波というよりも新興国の感染拡大の方が一番大きなリスクではないかというご指摘をされていたかと思います。一方で、その後をみていますと、国内外、日本であったりアメリカで、また感染者が増えているという話や、営業の自粛といった話もまた出てきているかと思います。この第2波のリスクに対するご認識、あるいは今後の政策的な備えをどう考えるかについて教えてください。

また、香港を巡って、米中の対立が今激しくなってきているところかと思います。こちらについても、先行きによっては世界経済、金融市場を揺さぶるリスクになるのではないかと思うのですが、現時点のお考えについてお願いします。

(答)第2波云々が依然として一つの懸念としてあることは、感染症学者の方が言っておられますので、その通りだと思います。現時点で、日本を含むアジアの国で、一部で若干収束していた感染がまた増えていますが、第2波といった大きなものにはなっていないと思います。他方で、新興国は、ブラジルやインドで感染が引き続き拡大していますので、こちらの問題は依然として大きいと思っています。先進国では、米国を除けば、感染が収束した後で大きく再拡大しているということはないように思います。また、米国の場合も、第2波なのかどうかは定義の問題かもしれません。日本やアジアと違って、完全に収束させる前にまた増えてきていますので、まだ第1波の中の話かもしれません。

香港については、非常に政治的な問題でもありますので、私から何か具体的なことを申し上げるつもりはありませんが、香港は金融市場としてアジアで非常に重要な市場でありますし、その推移はアジア全体の金融や経済にも影響を与えますので、今後どのようになっていくかを慎重にみていく必要があると思っています。

(問)今の質問に関連して、第2波についてですが、今日、東京都が感染の警戒レベルを最も深刻な「感染が拡大している」というところに引き上げています。感染者数も一時200人以上続いたり、今日は165人を確認しているようですが、そういったものも踏まえたうえで、先ほどのような「大きなものにはなっていない」というご認識だという理解でよろしいでしょうか。

(答)世界的にみて、いわゆる第2波かどうかという議論になると思いますが、日本を含めてアジアの場合は、非常に急速に収束させることができて、人口当たりでいうと感染率がきわめて低いところまで来ていました。その後、日本だけでなく、アジアのいくつかの国でまた増えています。あるいはオーストラリアのように、ほぼ収束していたのにまた少し増えてきたということで、一部でロックダウンのようなことを再開する動きもありますが、全体としてみて、いわゆる第2波というようなものになっているとは、感染症の専門家は今のところは言っておられないと思います。ただ、いずれにせよ、治療薬やワクチンが開発されて、広く摂取できるようになるまでは、やはりソーシャル・ディスタンスとか、必要に応じて店舗の休業要請をするといった形で対応していくしかないので、感染の状況、そしてその経済に対する影響がどうか、ということは十分注意していく必要があると思っています。

(問)金融機関の株主還元についてですが、FRBやECBは銀行の配当に対して停止勧告も含めて言及していますし、日銀はこれまで金融システムレポートで配当性向の高まりを指摘されてきたと思います。昨今の情勢で利益の重要性が結構増していると思うのですが、改めて金融機関の株主還元に対する認識をお伺いできればと思います。

(答)欧米の企業、特に金融機関は、わが国の金融機関などに比べるとかなり配当性向が高いといいますか、様々な株主還元をかなり手広く行ってきました。他方で、わが国の企業あるいは金融機関の経営者の方々は、比較的慎重に行動してきて、資本や流動性を相当手厚く持ち、今回のような事態に対して、欧米の企業や金融機関よりもスムーズに対応できていると思います。ただそのうえで、今後当面、新型コロナウイルス感染症が経済活動に深刻な影響を与えるわけですので、その状況が長引いたりすれば、企業ひいては金融機関の経営にも影響を及ぼす可能性があります。その辺りは十分慎重に状況をはかって、従来同様に慎重な行動をして頂くことが必要だと思っています。ただ、今の時点で、何か日本の金融機関に配当やその他の株主還元策をやめなさいという必要があるとは、必ずしも考えていません。

(問)景気の現状認識のところですが、今回の展望レポートでも、年後半から徐々に改善していくとみられるというパスを描いています。今後のいわゆる感染拡大の状況次第かもしれませんが、いったん大きく落ち込んで、底打ち、あるいは底入れをしたと認識されているのでしょうか。

(答)各国の経済によってそれぞれ事態が異なっているとは思いますが、わが国経済についてみると、設備投資は比較的しっかりしています。消費は、対面サービス関係は新型コロナウイルス感染症の心配がなくならない限り、完全には戻らないと思います。サービス関係、観光やスポーツ、イベントなどは、完全に戻るのはなかなか難しいですが、緩やかに回復している段階で、物の消費や生産は、底を打ったと思います。今は底を打って、ぐっと戻っているところですのでスピードも速いですが、その調子でずっといくというほど楽観しているわけではなく、その後の戻り、回復は、緩やかなものになるとみています。

(問)展望レポートですが、数字だけ見ると前回の幅よりも下になっていますが、出し方が違うので下方修正したとは単純に言えないでしょうか。4月時点から、景気の見通しに変化がないといいますか、大勢には変化はないとお考えでしょうか。

(答)前回は、緊急事態宣言が出されてそれがどのように解除されるかもはっきりせず、欧米でもロックダウンが続いている状況でしたので、非常に不確実性があるということで、各政策委員が経済・物価見通しを幅を持って出しました。今回は、緊急事態宣言も解除されましたし、欧米でもロックダウンが解除されて経済活動が再開している状況ですので、ポイントで出しました。その結果は、今回の展望レポートの参考の表にある通り、概ね前回出した幅の中に入っていると思いますが、2020年度は、前回出した幅よりも若干下の方にいっている面があります。これは、感染症の影響のデータがいくつか出てきて、消費、特にサービス関係に大きく影響していることが明らかになったことがあります。他方で、既に回復の兆し、特に物の消費などではっきりとした底打ちと回復がみられており、2021年度あるいは2022年度については、前回の見通しの範囲よりも少し上の方にきています。従って、2020年度、2021年度、2022年度の全体としては、前回の見通しの範囲内に収まっているとみています。

(問)先ほど、一連の政策効果について評価、言及されていましたが、一方で、このコロナ対応にあたって、春先ですか、日銀の対応として事業・雇用を守ることが大事だと、最優先に取り組むべきだと発言されたと思います。この一連の日銀の政策が、倒産や失業者の増大に歯止めをかけるのに、どの程度の効果があったと評価されていますか。

(答)データが示している通り効果があったと思いますが、これは日本銀行の政策だけではなく、政府の2回にわたる大規模な補正予算、それによる企業・雇用・家計の生活に対する大規模な支援策というものも、大きな効果を持ったと思います。日本銀行が3月、4月、5月と行ってきた様々な政策と、政府の強力な政策が相俟って、企業の倒産は今のところ非常に少ない状況ですし、失業率も若干上がっていますが、諸外国に比べ、またリーマンショック後の状況に比べてはるかに良いという状況であり、その状況に日本銀行の政策も一定の貢献をしたと考えています。

(問)国内の感染者がまた増加傾向にあり、政府のGo To キャンペーンについても、今、議論が起こっていまして、賛否どちらの声も上がっているような状況になっています。そうした中で気になるのは、地方経済の状況です。現状、地方経済について、どのような認識をお持ちでしょうか。

(答)この点は、先日も支店長会議で各地の支店長から報告を受けました。それぞれの地方の特色・特徴もあって、皆同じということではありませんが、ある程度共通してみられる傾向もあります。その一つは、設備投資が今のところ非常に堅調という点です。前より見通しは若干下がっていますが、それでもプラスの領域にあって設備投資は比較的しっかりしています。それから消費は、特に観光など対面サービスは非常に大きく落ち込んで、それによってかなり影響を受けている地方もあります。他方で、物の消費は、かなり戻ってきています。物の消費では、小売はデパートやコンビニがやや低調ですが、スーパーやドラッグストアは好調です。地域によって若干違いはありますが、先ほど申し上げたような日本全体の動きと平仄が合っている感じを受けました。ただ、対面サービス、特に観光のウエイトの大きな地域は、かなり影響を受けていると思います。観光に対する対応として政府が色々考えておられることは適切だと思いますが、いずれにしても、この感染を収束させる、特にワクチンや治療薬ができるだけ早くアベイラブルになることが、国民の不安を取り除いて、対面サービスについても需要が戻っていくことにつながるのではないかと思っています。

(問)地方で特に困っているところに対して、日銀として特別な対策を考えていくことになるのでしょうか。

(答)東日本大震災や熊本地震のような地域的な自然災害等で非常に大きく影響が出た場合に特別オペ等は行っていますが、経済の好不況が地域毎に違うということでの日本銀行の特別な対応はなかなか考えにくいと思います。今のところ、各地をみても地域毎の差はあり、観光に依存している地域はやや大きく影響を受けていますが、それでも全体としての日本経済は、底を打って回復しつつあるということには違いがないように思いました。ただ、今後とも各支店を通じて、各地域の状況は十分注視していきたいと思っています。

(問)新型コロナの発生責任の問題、あるいは、最近では南シナの問題などを巡って、米中対立が先鋭化しているようにみえます。新型コロナへの対応には、おそらく米中も含めた主要国の結束が非常に重要だと思うのですが、今の米中対立が今後の世界経済に与える影響についてどのようにご覧になっているかについてお願いします。

(答)日本銀行総裁として何か申し上げるのはあまり適当でないと思いますが、かつてアジア開発銀行総裁や財務官を務めたことから申し上げますと、今回の新型コロナウイルス感染症拡大の影響、それからご指摘の米中対立云々については、これまで非常に急速に進んできたグローバリゼーションに対して、人の移動や貿易や直接投資にブレーキがかかるのではないかということが非常に懸念されています。他方で、例えば日本を中心に、日本とEU、TPP11、そして日米と、様々な自由貿易協定が既に発効しており、その中には当然様々な貿易や投資の振興につながる要素が含まれています。新型コロナウイルス感染症の影響、そして米中対立などで、グローバリゼーションに歯止めがかかるのではないかといった懸念があることは認めます。しかし、私自身は、そうしたもとでも、単に先進国だけでなく新興国とともに、守るべきグローバリゼーションというのはしっかり守っていく必要があり、結局そのように向かっていくのではないかと思っています。

(問)当面はコロナとの共存を強いられる状況だと思いますが、その影響が長期化したり第2波などによって成長期待やインフレ率が一段と下振れた場合に、追加策として利下げも排除しないのか、それともコロナの影響自体が収束するまで企業支援というものに注力していくのか、ウィズコロナの政策対応について教えてください。

また、コロナ対応特別オペを利用しやすい制度にするために、金融機関から適格担保の拡充を求める声が聞かれるのですが、総裁は担保の拡大や要件の緩和など担保の拡充の必要性について今どのようにお考えでしょうか。

(答)当面は、「3つの柱」で企業の資金繰りの支援と金融市場の安定を図っていくことが一番重要だと思いますが、更に必要があれば、当然、追加緩和を躊躇なく行うと申し上げました。そうした場合にどのような手段があるかといえば、当然のことながら、「特別プログラム」の拡充のほかに、現在のイールドカーブ・コントロールの枠組みにおける長短金利の更なる引き下げなど、様々な手段がありますが、そのときの金融経済情勢に応じて最も適切な対応をとるということだと思います。

担保の拡充については、既にかなり拡充をしていまして、今の時点で具体的に何か更なる拡充が必要だとは考えていません。私どもとしては、常にオープンマインドでありますので、具体的な必要が出てくれば当然そういったことも考えていくことになると思います。

(問)コロナ対応策の効果については、一定の評価をされているかと思いますが、一方で、金融機関側、貸手側の融資審査であったり、あるいはいわゆるゾンビ企業の問題であったり、そのような指摘も出始めています。総裁は現在の緊急対応策の出口というものをどのようにお考えでしょうか。

(答)現時点で、金融機関は大変積極的に融資を拡大して企業の資金繰りを支援しています。これは金融機関自身の判断・決定によることもありますし、政府および日本銀行が様々な形で資金繰り支援をしていることもあると思います。そのもとで、今何か具体的に問題が生じているとは考えていませんが、仮に新型コロナウイルス感染症が拡大あるいはその影響が長引き、経済に対する下押し圧力が予想以上に長くなることになると、確かに企業によっては資金繰りの問題ではなくソルベンシーの問題になっていくところが出てくる可能性はあります。逆にいうと金融機関にとっての信用コストが増大する惧れもあります。従って、現時点でそうした心配はありませんが、そういう可能性については常に注視して点検していく必要があると思っています。

ゾンビ企業云々というのは、今の時点でそうした議論が多いとは思いませんが、かつてもそうした議論がありましたし、外国でもそのような議論をする方がいます。金融機関は積極的に資金繰り支援を行っていますが、その場合にも企業の長期的な持続可能性を十分に審査しながら行っていると思います。従って、退出すべき企業が退出せずにより長く生き延びてしまう、そして経済全体に結局マイナスになるという、いわゆるゾンビ企業論が、今の時点で議論になり深刻になるとは、私どもは思っていませんし、そうした議論も、今回はあまり出ていないと思います。当然のことながら、経済が回復し企業の収益状況も改善していくもとで、大規模な資金繰り支援の必要性が薄れていけば、当然政府も日本銀行も、出口ということになると思います。しかし、当面は、実体経済はかなりのスピードで回復しているようにみえますが、そのスピードでずっといくのではなく、全体として回復のスピード、テンポは緩やかということですので、資金繰り支援はまだかなり続ける必要があるのではないかと思っています。

(問)先ほど総裁は今後のリスクとして、企業が資金繰りの問題ではなくソルベンシーの問題になる可能性があるというご発言をされましたが、仮にそうなった場合、日銀としてどういう措置がとれるのかとれないのか、その辺りをまず伺います。

また、予想インフレが足許は少し弱含んでいるということで、先行きもコロナで景気に下押しがかかる間はなかなか高まっていかないということだと思います。そうなると、需給ギャップの改善も進まない中、物価はかなりマイナスの状態が続くのではと思います。そういうリスクがどれくらいあるのかということと、それが金融政策に与える影響について、展望レポートの中で企業の価格設定行動の不確実性についても言及があったので、そういうことと絡めて、予想インフレの動きと今後の政策運営の関連をお願いします。

(答)今そういった心配をしているわけではありませんが、仮に新型コロナウイルス感染症の影響がより長引き、景気の回復が十分でない期間が非常に長引くことになると、企業の中には資金繰りではなくソルベンシーの問題が出てくる可能性はあると思います。ただ、そういったソルベンシーを解決するのは、私ども中央銀行の役割ではなく、企業を取り巻く経済界あるいは政府による必要な場合の支援であると思っています。いずれにせよ、今の段階でその可能性が非常に大きくなっているということはありませんし、倒産自体も低い水準がずっと続いていますので、今の時点では心配していません。

足許の新型コロナウイルス感染症の影響や物価の弱さを反映して、短期の予想インフレ率はかなり下がっていますが、中長期はそれほど下がっていませんので、何かこれでデフレに陥るということは今のところ懸念していません。展望レポートの見通しでも、今年度は物価上昇率がマイナスになりますが、来年度はプラスで、再来年度はプラス幅が少しずつ拡大しています。予想インフレ率が弱含んでいることは事実ですが、中長期はそれほど弱含んでいませんし、これが持続的な物価下落というデフレに陥るリスクを高めているとはみていません。

(問)日銀が行っているイールドカーブ・コントロールは、政府の財政運営に影響を与えているのかどうか、ご所見をお願いします。

(答)イールドカーブ・コントロールは、金融政策上、行っているもので、財政ファイナンスではありません。この点は、広く理解されていると思っており、イールドカーブ・コントロールに、特にそういった問題があるとは考えていません。

(問)今回の一連の施策の中で、初期の段階からありました米ドル資金供給オペについてお聞きします。かなりドル市場を巡る環境は落ち着いてきているようにもみえ、日本以外の様々な国でも新たな借入は終了しているようにもみえます。まだ、この米ドル資金供給オペの継続は必要な状況なのでしょうか。ご所見をお聞かせください。

(答)基本的に、こういったバックストップのようなものの必要性は、今後も残ると思います。現状、わが国の金融機関のドル資金繰りに特段の問題は生じていません。わが国の銀行などは、海外での事業をかなり拡大してきたわけで、そうしたもとで、海外における取引先企業の資金需要に応える必要性が高まったほか、更には一時、ドル資金調達市場でやや神経質な動きがみられたこともあって、ドルオペも活用しながら、予防的に厚めの外貨流動性を確保するように努めてきたのだろうと思っています。こうしたバックストップは必要だと思いますし、必要に応じて積極的に利用すること自体は何ら問題ないと思います。わが国の金融機関も一時、ドルオペの残高を大幅に増やしましたが、今は半減しているのではないかと思います。そういう意味では、緊急的に非常に大きく拡大したものは収束に向かっていますが、こうしたバックストップのシステムは必要であると考えています。

(問)債券市場について、前回、総裁は超長期の金利について、そこまで上昇しないというようにお答えをされていましたが、6月以降も、超長期の金利は上昇傾向にあるかと思います。現在の水準についても、そこまで上昇していないとお考えでしょうか。それともお考えが変化されているところがあるのか、その点をお聞かせください。

次にETFの買入れについて、5月や6月の買入れ額をみると、年間12兆円のペースまで買入れが進んでいないように思うのですが、今回の決定でも、「当面12兆円のペースを上限に」という文言が維持されています。足許で買入れ額が減っていても、この12兆円という、ある意味目標というか上限の金額を設定することが必要であるとお考えでしょうか。また、当面の12兆円から本来の年間6兆円という数字に戻すタイミングというか、その基準について、お考えをお聞かせください。

(答)2016年9月の「総括的な検証」でも指摘している通り、超長期金利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回りを低下させて、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性があるといった認識には、変わりはありません。現在、感染症の影響で債券市場の流動性が低下しているもとで、国債増発が見込まれていることを踏まえると、債券市場の安定を維持して、イールドカーブ全体を低位に安定させることが最も重要な状況にあります。このため、当面、国債の積極的な買入れを行うことが適当と考えています。

ETFについては、リスク・プレミアムが過度に拡大することは良くないということで、リスク・プレミアムの状況を勘案して、弾力的に対応しています。12兆円を限度として弾力的に対応するという考えは全く変わっていません。

(問)前回の記者会見で、総裁は国債の増発に関連して、増発した分については買入れを増やして、金利を上がらないようにするということをおっしゃいました。国債の買入れは、この後、更に増発が行われたときに、更に無限に増やしていくことは可能なのでしょうか。あるいは、国債の信認ということを考えた場合に、何らかの限界があるのでしょうか。

(答)2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入して以降、わが国の長期金利はゼロ%近傍で安定しており、貸出金利も既往最低水準で推移しています。日本銀行としては、この枠組みは、きわめて緩和的な金融環境を作るうえで、経済・物価を刺激する効果をしっかりと発揮してきたと考えています。そのもとで、政府が必要に応じて国債を増発した場合には、金利が上昇することをイールドカーブ・コントロールのもとで防げるということで、財政政策と金融政策のポリシーミックスが、いわば自動的に実現することになります。それ自体、金融政策の観点から行っているイールドカーブ・コントロールの一つの効果だと考えており、これが何か国債の信認とか、国債の買入れを難しくするというようなことになるとは思っていません。

(問)2%インフレ目標について伺いたいと思います。黒田総裁の下で10年間やってこの2%目標はもうできないという予想を日銀自身がしているわけですが、10年やってできない目標というのは、目標そのものが間違っているか手段が間違っているかどちらかですが、これだけの金融緩和をあらゆる様々な金融緩和手段を講じてきたわけですから、一つ目標が間違っていたという仮説が成り立つと思います。今やはり現実的なメルクマールが必要ではないか。というのは、そうでないと常に過度に金融緩和バイアスが掛かってしまうというのが今現状だと思いますが、もっと現実的なメルクマールというのを検討するお考えというか、今すぐ見直すお考えはないでしょうが、頭の体操をする可能性もないのかどうかをお伺いしたいと思います。今、確かにコロナショックで現実はそういう状況ではないと思いますけれども、異常な事態だと思いますが、このパンデミックも、これからは10年に一度くらいはある、想定できるリスクだという専門家もいますから、それも含めて10年ということを考えて、実現できない目標というのは見直すべきではないでしょうか。

(答)私は全くそういうふうに考えていません。目標も適切ですし、手段も適切であると思っていますが、様々な事情、状況によってこういう事態が続いています。ちなみに、多くの先進国でも2%の目標を維持していますが、達成されていない状況が長らく続いているということは事実です。

(問)海外の中央銀行とともに見直すということを検討する可能性はありませんか。

(答)全くありません。

以上