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総裁記者会見要旨 2020年10月29日(木)
午後3時半から約65分

2020年10月30日
日本銀行

(問)本日の決定内容と展望レポートの内容につきまして、ご説明をお願い致します。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利をゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITは、当面、年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する保有金額の増加ペースを上限に、積極的な買入れを行います。CP等、社債等については、2021年3月までの間、合わせて約20兆円の残高を上限として、買入れを行います。

本日は、展望レポートを決定・公表致しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明致します。

わが国の景気の現状については、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が再開するもとで、持ち直していると判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、大きく落ち込んだ状態から持ち直しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は増加しています。一方、企業収益の悪化を背景に、設備投資は減少傾向にあります。雇用・所得環境をみると、感染症の影響が続く中で、弱い動きがみられています。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低水準となっていますが、全体として徐々に持ち直しています。この間、企業の業況感は、大幅に悪化した後、幾分改善しています。金融環境については、全体として緩和した状態にありますが、企業の資金繰りに厳しさがみられるなど、企業金融面で緩和度合いが低下した状態となっています。先行きについては、経済活動が再開し、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、緩和的な金融環境や政府の経済政策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられます。もっとも、感染症への警戒感が残る中で、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられます。その後、世界的に感染症の影響が収束していけば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済は更に改善を続けると予想されます。

次に、物価ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比をみますと、感染症や既往の原油価格下落、Go To トラベル事業の影響などにより、小幅のマイナスとなっています。予想物価上昇率は弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、当面、感染症や既往の原油価格下落、Go To トラベル事業の影響などを受けて、マイナスで推移するとみられます。その後、経済の改善に伴い物価への下押し圧力は次第に減衰していくことや、原油価格下落の影響などが剥落していくことから、消費者物価の前年比は、プラスに転じていき、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。予想物価上昇率も、再び高まっていくとみられます。

前回の見通しと比べますと、成長率については、サービス需要の回復の遅れを主因に2020年度は下振れていますが、2021年度は幾分上振れています。また、2022年度は概ね不変となっています。物価については、概ね不変です。ただし、こうした先行きの見通しは、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強いと考えています。今回の見通しは、広範な公衆衛生上の措置が再び導入されるような感染症の大規模な再拡大はないと想定しています。加えて、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されると考えていますが、これらの点には大きな不確実性があります。そのうえで、リスクバランスについては、経済・物価のいずれの見通しについても、感染症の影響を中心に、下振れリスクの方が大きいとみています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。

また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」や、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFおよびJ-REITの積極的な買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)海外発のリスク要因についてです。欧米で再び、新型コロナの感染者が増えておりまして、経済活動を制限する動きも出てきているかと思います。また、11月3日に米大統領選もあって、大きなイベントも控えているところかと思います。今回の展望レポートでは、海外経済の持ち直しということをみていたかと思いますが、景気の下振れや市場混乱のリスクが、従来の見通しより高まっていないのかどうか、総裁のご見解をお願いします。また、リスクが顕在化した場合に、政策対応としてどのようなことを考えていくのかということをお願いします。

次に、企業の資金繰り支援策についてです。来年の3月に「特別プログラム」が期限を迎えると思いますが、総裁はかねて、必要なら延長するという方針を示されていたかと思います。今回、その必要性がまだないということで延長を決めなかったということかとは思いますが、現時点でどの程度、この必要性が高まっているのか否かというところのご認識と、判断材料とかタイミング、今後延長する場合、どの辺りをみていくのかというところについても教えてください。

(答)まず、今回の展望レポートでもお示ししている通り、先行きの経済の見通しについては、引き続き、不確実性が高く、下振れリスクが大きいということは認識しています。ご指摘のように、欧米を含め世界的に感染拡大が収まっておらず、欧州の一部の国では公衆衛生上の措置が強化されています。新型コロナウイルス感染症の帰趨やそれが内外経済に及ぼす影響について、不透明感が強い状況が続いていると考えています。また、ご指摘の政治的なイベントも控えています。国際金融市場をみると、ひと頃の緊張は緩和しているものの、やはり、経済の不透明感が強いもとで、なお神経質な状況にありますので、今後の動向を注視していく必要があると考えています。このように、感染症の影響を中心に、先行きの経済・金融には大きな不確実性がありますので、日本銀行としては、引き続き3つの柱による現在の金融緩和措置をしっかりと実施していくつもりですし、そのうえで必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるという考えです。

次に、企業の資金繰り支援策についてですが、現在行っている、新型コロナ対応特別オペとCP・社債等の増額買入れからなる日本銀行のいわゆる「特別プログラム」は、政府の施策あるいは金融機関の取組みなどと相俟って、効果を発揮していると考えています。先ほど申し上げたように、企業等の資金繰りにはまだ厳しさがみられていますが、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されています。こうしたもとで、銀行貸出残高の前年比伸び率は約30年振りとなる6%台で推移していますし、社債あるいはCPの発行残高も前年比10%を超える二桁の高い伸びが続いています。この「特別プログラム」は、2021年3月末までの時限的な措置としていますが、今後の感染症の影響等を踏まえて、必要と判断すれば、期限を延長するとの考えに変わりはありません。具体的な判断のタイミングについては、今後の情勢を踏まえて適切に考えてまいりたいと思いますが、必要と判断すれば期限を延長するつもりです。

(問)海外発のリスクというのは、依然非常に不透明感が高いということなのですが、世界を見渡すと欧米のように感染の拡大が続いている地域と、アジアとりわけ中国のように感染が収まって回復に向かっている国、あるいは同じアジアの中でも、インドのように感染拡大が止まらなくて経済が大きくマイナス成長のままというように、国毎・地域毎のばらつきが大きくなっていると思います。そうした中、各国の金融政策運営のあり方、またそういう金融政策や財政政策の運営が、今後少しばらつきが出てきた場合、市場にどういう影響を及ぼし得るのか、ちょっと長い目でみた場合どうなりそうなのか、その辺をお願いします。

(答)これはなかなか難しいご質問ですが、感染状況と経済状況はご指摘の通りであり、欧米で感染が再拡大していますが、経済動向をみますと、米国の経済はかなり順調に回復していますし、欧州の場合も米国より緩やかですが回復基調が続いています。欧州の場合、公衆衛生上の措置を再び導入した国もありますが、それらの国も含めて、春先のような全般的な徹底したロックダウンではなく、対象を絞った形で経済の回復との両立を図りながら行っています。それから、中国はご指摘のようにきわめて順調に成長率を伸ばしており、これは感染症の拡大を一番早くほぼ完全に収束させたもとで、様々な経済政策を打って経済が順調に成長しているということです。他方、一部の新興市場国等では感染拡大が続いており、経済の持ち直しはインドも含めてみられますが、その回復の度合いは非常に緩やかです。今後の金融政策と財政政策の余地という面では、先進国や中国等は十分な余地がありますが、途上国の一部ではその余地もある程度限られている可能性はあるということです。そうしたことから、途上国を含めて、経済あるいは金融の実情はよく注視していく必要があると思っています。ただ、リーマンショックの時や90年代の終わりのアジア通貨危機のような状況が、途上国に直ちに発現するとはみていません。

(問)まず物価についてです。足許、新型コロナウイルスの需要の低迷ですとかエネルギー価格の下落によって、物価に下押し圧力がかかっておりますけれども、展望レポートでもお示しになっているように、やはりGo To キャンペーンの影響というのが、更に物価に下押し圧力をかけているというような状況かと思います。加えて、将来的に携帯電話の通話料金等が値下げされます。嬉しい消費者の方もいらっしゃるとは思いますが、これもまた物価にとっては下押し圧力がかかるのだろうと思います。日銀は政府との「共同声明」に基づいて、これも踏まえて2%の物価上昇率の目標というのを掲げていらっしゃるわけですけれども、こうした政策が物価に下押し圧力をかけている、かかっている状況について、総裁はどのようにお考えでしょうか。ご所見をお願いしたいと思います。

また、麻生副総理兼財務大臣もおっしゃっておられますけれども、10万円の一律の給付によって現預金が積み上がっている状況かと思います。これは必ずしも消費喚起策というわけではないのですけれども、やはり巨額の財政出動に見合った経済対策としての効果というのが現時点で発現されているのかどうかということについては、若干どうかなと思う向きもあろうかと思います。これについて総裁のご所見をお伺いできればと思います。

(答)まず、消費者物価の前年比は、当面、新型コロナウイルス感染症、あるいは既往の原油価格下落、Go To トラベル事業の影響等から、マイナスで推移するとみています。ご指摘の携帯電話料金の値下げ、あるいはGo To トラベル事業等が短期的に物価を押し下げることはあり得るとは思いますが、あくまでも特定部門における一時的な価格変動であり、一般物価の全体の動向、趨勢を規定するものではないと考えています。

また、感染症の拡大、それから緊急事態宣言その他の状況のもとで、個人に一律10万円を支給するというのは、いわば緊急避難的な所得の補助ということで、意味はあると思っています。ただ、その結果のデータをみると、確かに所得はその分非常に大きく増えているのですが、消費は必ずしも、特にサービス消費等は増えていないので、その分貯蓄に回って貯蓄率がかなり上がっていることは事実です。それはそれとして一種の安心感を与え、それから今後の消費のサポーターにもなり得ると思いますので、あまり具体的に政府の政策について云々するつもりはありませんが、今言ったような一定の──特にあのような時期において──効果があったのではないかと考えています。

(問)民間企業の動きになるのですが、第一生命保険が、今日、企業年金の予定利率を1%引き下げると発表しました。今年春には、大手銀行が軒並み定期性の預貯金の金利を引き下げるという動きもありました。いずれも、今の超低金利の動きを反映したものだと思います。このように、金利動向が我々の生活に影響を与えることが多くなっているのですが、今のコロナ禍の政策対応云々ではなく、この緩和政策が長期化している功罪について、改めて総裁の見解をお願いします。

(答)この点はいつも申し上げている通りでありまして、金利を含めた金融緩和は、預金金利だけをみれば家計の金利収入を減らすことになるわけですが、金融政策全体として経済活動を支え、雇用を支え、そうでなければ大きく下落するはずの雇用者所得をそうでなくするといった意味も含めて、全体としては家計にとってもプラスの影響を及ぼしていると考えています。それから金利については、日本に限らずどこの国でも名目金利は非常に下がっています。日本の場合は特に物価上昇率が非常に低いために、実質金利でみると名目金利ほどの諸外国との格差があるわけではありません。従って、金融政策全体として、家計や企業にプラスの影響を及ぼしていると考えています。

(問)ETFの購入についてお尋ねしたいのですが、日銀の残高が積み上がってきて、市場機能の歪みであったり、日銀自身の財務リスクみたいな指摘も出ておりますけれども、現在12兆円というのは当面の措置ということにしていますが、ETFの施策に関する出口というか、当面の措置をどうするかということも含めて、現段階で総裁のお考えをお聞かせ願えればと思います。

(答)従来から申し上げている通り、ETFの買入れは、株式市場のリスク・プレミアムに働きかけることを通じて、金融市場の不安定な動きなどが企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止し、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていくことを目的としているわけです。ご案内の通り、新型コロナウイルス感染症の影響により、2月下旬以降、市場は大きく不安定化しましたが、日本銀行によるETFの買入れは、市場の不安定な動きを緩和する効果があったと考えています。もちろん、この間も、ETFの買入れを適切に実施していくために様々な工夫を行ってきています。例えば、個別銘柄の株価に偏った影響ができるだけ生じないように、幅広い銘柄から構成されるTOPIXに連動するETF買入れのウエイトを高めてきました。また、コーポレートガバナンスの面でも、スチュワードシップ・コードの受入れを表明した投資信託委託会社により、適切に議決権が行使される扱いとなっています。また、ETF買入れの持続性を高める観点から、12兆円を上限として、その範囲内で市場の状況に応じて弾力的な買入れを実施してきています。こうしたもとで、ETF買入れはこれまで大きな役割を果たしてきており、引き続き必要な施策であると考えています。

(問)ETFの買入れというのは、白川前総裁時代から始められてもう丸10年になりますけれども、ETFの買入れというのが全く終わる気配がないというか、先ほどの質問にも絡むのですけれども、どういう条件になれば出口を示していくのか、また、出口といった場合、保有額をどのようにして減らしていくのか、その辺り、総裁のお考えがございましたら是非お聞かせください。

(答)金融市場の動向に注意して、不安定な動きなどがあった場合にそれを防止するという意味で、特に2月下旬以降、市場が不安定化する中で、その動きを緩和する効果があったと考えています。従って、当面これを続けるということですが、経済およびマーケットが安定してくれば、当然出口についても議論することになると思います。この措置は、いわゆる「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という全体のフレームワークの一環であり、やはり経済動向、特に物価動向を踏まえて、そうしたことも将来検討していくことになろうと思います。今のところ、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」全体のフレームワークの中で、引き続き必要な要素、施策であると考えています。

(問)先般公表された金融システムレポートでは、リスクシナリオではあるのですが、景気の停滞が続けば、資金需要の低迷と金融機関の資本制約によって、2022年度にも貸出が減少に転じるとの分析が示されました。資本制約を背景に貸出が減少するような状況は、金融緩和の効果よりも副作用が上回っているとも考えられるのですが、この点について総裁はどのようにお考えでしょうか。また、そのような状況を回避するために、金融システム面に配慮した何らかの政策対応が必要になる可能性について、現時点でどのようにお考えでしょうか。

(答)10月の金融システムレポートで示している通り、わが国の金融システムは、景気改善がかなり緩やかなものにとどまると想定しても、相応の頑健性を備えていると評価しています。ただ、仮に今後、景気が長期にわたり停滞し、そのことを受けて金融市場も大きく調整するような厳しいストレス事象が発生する場合には、確かに、金融機関の経営体力の低下により、金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、更には実体経済への下押し圧力として作用するリスクがあるという点に留意が必要と考えています。もちろん、現時点では、政府および日本銀行による思い切った政策対応もあって、こうしたリスクは大きくないと判断していますが、日本銀行としては、今後とも、感染症拡大が金融システムに与える影響をもちろん予断なく点検していくつもりですし、様々な可能性について、当然金融庁とも引き続きよく連携しながら、必要な対応をしてまいりたいと考えています。

(問)「特別プログラム」についてですが、先ほども質問がありましたが、3月末までということで、必要であれば期限を延長する考えに変わりはないとのことでした。相手先もあることなので、急に何か発表するというものでもないかと思うのですが、先ほどの総裁の話を聞いていると、貸出も増えているし、資金繰りについても緩和的な状況が維持されているというご発言がありましたが、内部ではいつどうするかという議論は始まっているのでしょうか。

(答)先ほど申し上げたように、これまでのところ、金融機関側の努力もありますし、また政府の様々な施策もありますが、日本銀行の「特別プログラム」のもとで、銀行の貸出は順調に伸びています。様々なヒアリング等からも、企業の多くは年末越えの資金繰りは十分ついているとのことです。年度末越えの資金繰りがどうかということは、来年になって議論になるのかもしれませんが、今慌てて何かしなくてはならないということはないと思います。ご指摘のように、来年3月末までの時限措置を間際になって云々するということは良くないと思いますので、当然のことながら、状況をみながら必要な時期に延長するということであれば決定していきたいと考えています。今の時点で具体的にいつからどうするということを内部で議論しているということではありませんが、常に様々な企業の資金繰りに関係するデータをよくみています。そして企業の状況、単に資金繰りだけではなくて、企業の収益も含めて、よくみていきたいと思っています。

(問)足許の見通しとは逆の局面に関する質問になってしまうのですが、政策対応の柔軟性の観点から伺いたいと思います。マイナス金利政策ですか、現行の政策はデフレに対してある意味対応できている、実際していると思う反面、テールリスクかもしれないのですが、急激なインフレには若干ガードが甘いような感じをみる向きもあります。新型コロナの物価に対する影響は、デフレ的というような見方が中心なのかもしれませんが、不確実性が高い中で、万が一ですが物価の急変動、特に上向きの動きにも金融市場などに混乱を与えることなく、迅速柔軟に対応できるのか、といったところをお伺いできればと思います。

(答)その点は、マイナス金利だから金融政策が柔軟に対応できなくなるということはないと思っています。なお、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する中で、エコノミストの議論としては、消費者の行動自粛などによって、消費需要を中心に需要が減るという面と、通勤ができないなどその他様々なことで供給が減るという面の両方があります。エコノミストの中には、供給が減る面の方が強ければ、むしろインフレ的かもしれないし、需要が減る面の方が大きければデフレ的かもしれないという議論は当初ありましたが、最近のIMFの分析等をみても、やはり需要減の影響が当面非常に大きいとなっています。それから、供給減といっても、これは地震や台風、洪水によって、工場設備などが損なわれているわけではなく、工場設備も交通機関もインフラも全てそのままあり、感染症対策ということで行動が抑制されているだけなので、供給面への影響は、感染症の影響が薄らいでいけば、それは自然にそうなるのか、あるいはワクチンや治療薬が普及することによってそうなるか様々あると思いますが、すぐに供給力は戻るわけです。そうした面を考えても、今回の感染症の拡大等によって、インフレが起こるとかインフレが加速されるとか、そうしたことはあまり考える必要はないだろうというのが、今のエコノミストたちのコンセンサスだと思います。ただ、20世紀初めのスパニッシュ・フルー以来100年振りくらいの世界的なパンデミックですので、あまり予断を持つことなく、経済・物価動向は十分注視していきたいと思っています。最初に申し上げたように、マイナス金利だからインフレ圧力に対応しにくいといったことはないというのは、申し上げられます。

(問)ヨーロッパでは感染が本当にまた大きく拡大している状況ですが、日本でも、北海道では感染が増加して警戒ステージを引き上げるような状況になってきています。日本でも感染再拡大をする可能性について、警戒感をどのくらいお持ちでしょうか。今回、展望レポートの中で、広範な公衆衛生上の措置が再び導入されるような大規模な再拡大はないと想定している、けれども、その点には大きな不確実性がある、とわざわざ書き込んでいるところでも、かなり警戒感をお持ちなのかな、と感じましたので、その点について教えてください。

それから、今、中小企業だけではなくて、大企業の業績というのも相当悪化をしてきていますよね。更に不確実性、先行きの不透明感というのはまだまだ続いている中で、今、日銀にできるサポートというのは何なのか、今のサポート状況をこれから更にどのように強化する余地があるのかについて教えてください。

(答)最初の点については、確かに不確実性が高いということで、警戒をしていることは事実です。ただ、メインシナリオとしては、広範な公衆衛生措置を伴うような感染の大幅な拡大、再拡大はないのではないか、と今は考えています。ご案内の通り、欧州でかなり急速に大幅に感染が拡大していますが、他方で、欧州でも重症者の数はそれほど増えていないとか、死者はあまり増えていないとか、様々な状況があります。それから、欧州の一部の国では、公衆衛生上の措置を再導入していますが、春に行われたような全面的な外出禁止や抑制、店舗の閉鎖といった形ではなく、ある程度、地域や場所などのターゲットを絞って行われています。そういう意味でも、警戒すべきことではありますが、経済的な活動と感染拡大の防止を両立させながら行っていくことを考えていかなければならないし、欧州も含めて先進国はそういう方向に向かっているのではないかと思っています。

それから、企業業績は毎日のように出ていますが、ご案内のように、外食、宿泊、観光、それをサポートする鉄道、航空、そうしたところはかなり大きな影響を受けています。他方で、IT関係や宅配、巣ごもり消費に関係するところは、売り上げも利益も伸びていて、やはりIMFが述べているアンイーブン、ばらつきがあるといいますか、大企業についても中小企業についても、一概に悪化しているということは必ずしもいえません。ただ、対面サービスは、夏に一時回復が止まっており、9月以降緩やかに回復してはいますが、まだ新型コロナウイルス感染症が始まる前のレベルにはかなり遠いわけです。ですから、対面サービスは引き続き厳しい状況がまだ続いていますが、そうした面も含めて、少しずつ持ち直してきているということ自体はいえると思います。感染拡大防止と経済活動の両立を図るということを、日本だけでなく各国、皆分かっているわけですので、そういう中で、企業業績についても、最悪の状況は回避できればと思っています。日本銀行としてはもちろん、引き続き3つの柱をしっかり行って、更に必要があれば、それぞれの要素についても緩和措置を拡大することは十分可能だと思っています。

(問)2%インフレ目標について、これが今、日銀にとってどういう性格のものなのかを確認させて頂きたいと思います。そもそも、総裁就任当初、2%インフレ目標というのは2年で実現すると、あらゆる手を使って実現するとおっしゃっていたわけですけれども、結果としては安倍政権の間には実現できませんでした。そして、今日の展望レポートでも明らかなように、コロナショックがあるとはいえ、結局10年かけてもできないという見通しです。そうすると、今現在、この2%インフレ目標というのはどういう性格のものなのか。当初の通り、たまたま2年を目標にしていたけれども、経済的事情があって後ずれしているだけで、今もってあらゆる手を使って早期に実現しなければいけないものなのか、それとも中長期的な目標として、無理をせずそのときの経済情勢に合わせて緩やかに達成を目指すという目標になっているのか。それについて、今現在この2%インフレ目標が日銀にとってどういう性格なのかを確認させてください。それと、もし、内容、性格が変わっているとすれば、いつから変わったのかということを確認させて頂けますか。

(答)2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際は、同年1月に「共同声明」という形で政府と日本銀行がいわば役割分担という形で、日本銀行は2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現すべく金融緩和を行うということで、それに応じて2013年4月に2年程度を念頭に置いてできるだけ早期に実現しようと大規模な「量的・質的金融緩和」を導入しました。ただその後、様々な事情から、原油価格の動きやその他もありますが、2年程度で実現するのは難しくなったことは認めています。しかしその後も、常に2013年1月の「共同声明」に沿って、これは日本銀行としてももう1月に金融政策決定会合で決めたことですが、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を実現するという目標は依然として維持しており、それ自体は変える必要はないと思っていますし、適切なものであると考えています。これは、諸外国の中央銀行も同様で、2%の物価安定目標を先進国の中央銀行の殆どが掲げていますけれども、この10年くらいの間、FRBは一瞬2%に達しましたが、どこもなかなか2%に達していないわけです。それにもかかわらず、やはり2%の物価安定目標の達成を金融政策の目標に掲げています。これは、従来から申し上げている通り、消費者物価指数は様々な事情から過大表示する傾向がありますのでその分を十分考慮していく必要があるということと、金融政策の余地を残しておく必要があるという意味から、2%の物価安定目標というものを先進国の中央銀行は皆掲げて金融政策を行っており、わが国の中央銀行も同様な考え方であるということです。

(問)来週の米国選挙に向けて、市場では神経質な動きが続いているようですが、一部では円高懸念が結構強いようなのですが、現状の金利差からみれば、日米殆ど変わらず、それから政策の方向性も変わっていないと。そうすると円高に振れるような理由というか要因も見受けられないと思うのですが、その選挙を迎えるに当たっての神経質な市場の動き、その辺の総裁の注意度というか、警戒感をお伺いしたいのですが、よろしくお願いします。

(答)米国大統領選挙などの行方やその国際金融市場への具体的な影響についてコメントするのは、差し控えたいと思います。いずれにせよ、日本銀行としては、様々なイベントその他の国際金融市場への影響については、十分に注視していきたいと思っています。それから為替市場は、かなり狭いレンジで動いており、あまり大きな変動はこのところしていないということも事実です。これはなぜかというのは様々な議論があるところですが、為替市場は、株式市場や債券市場に比べると、比較的安定して動いています。これは、それぞれの経済が新型コロナウイルス感染症という同じ要因に影響されているということもあるでしょうし、金融政策や財政政策も先進国が皆同じような方向を向いているということもあるかもしれません。その他、様々な事情があると思いますが、これまでのところ比較的安定的に動いているということに尽きると思います。

(問)債券市場についてお聞きします。今年に入ってからの水準ではありますが、30年債あるいは40年債の金利が結構高止まりしていると思います。ゼロ%に近い10年債に比べて、魅力があるということで、金融機関が超長期債に資金を振り向けているという状況にあり、実際、生命保険の2020年度下期の運用計画では、超長期の投資に前向きな声が聞かれました。大規模な緩和を続ける中で、運用利回りの低下という副作用を防ぐために、日銀が40年債を買入れオペから外して、金利上昇を促すのではないかという見方がマーケットの一部にありますが、これに対するご認識をお伺いしたいと思います。

また、今の債券市場の機能が低下しているということを考慮して、超長期に限らず、買入れの額や回数を減らすというお考えは今後あるのかどうかということもお伺いしたいと思います。

(答)いずれについても、今後、このようにもっていくということを決めているということはありません。2016年9月の「総括的な検証」でも、経済活動に大きな影響を与えるのは、短期、中期の金利であって、特に超長期の金利は、あまり経済活動に直接的な影響はなく、むしろ下がり過ぎると生保とか年金の運用利回りが大幅に低下し、それが間接的に消費者のコンフィデンスに影響する惧れもあるということでした。適切なイールドカーブが望ましいということで、イールドカーブ・コントロールで適切なイールドカーブの形成を促しているわけです。そういう意味で、おっしゃったような超長期の買入れをやめるとか、あるいはイールドカーブ全般にわたる国債の買入れについて、何か見直しをするというようなことが必要、あるいは適当とも考えていません。ご承知の通り、マーケットの状況をみながら、これまでも上下適切に調整してきましたし、今後も適切なイールドカーブが形成されるように促していきます。政策的には、政策金利残高に-0.1%、10年物国債金利の誘導目標をゼロ%程度とする中で、イールドカーブが適切に形成されるように各レンジの国債を適宜買い入れるという方針自体は、今変える必要があるとは思っていません。また、超長期債の買入れをやめるといったドラスティックなことを今考えているということはありません。

(問)2%の物価目標の関連でお尋ねです。新型コロナウイルスの影響で、4月の段階で総裁はモメンタムが失われたと発言していると思うのですが、物価安定目標は事実上今棚上げして、危機モードで対応しているというのが実態だと思いますが、コロナ対応策が終われば、仕切り直しで2%に向けた取組みに移れるとお考えなのか教えてください。

それと、展望レポートでは2022年度でも1%に満たない見通しとなっていますけれども、追加対応をしないと2%に引き上げられないと考えていますか。それとも、自然と引き上がっていくイメージを持たれていますか。

(答)2%の「物価安定の目標」の達成に向けたモメンタムが失われていたということはその通りです。ただ、だからどうするかというのは、あの時点ではあくまでも新型コロナウイルス感染症対応であり、3つの柱で行っていくことが最も必要で、それは企業の資金繰り支援であり、金融資本市場の安定化であるということです。それらを通じて経済活動をサポートし、2%の「物価安定の目標」に向けた道筋にやがて復帰していくことを期待しているのは事実で、2%の「物価安定の目標」を依然維持しています。このため、当面、3つの柱で企業の資金繰りと金融資本市場の安定化を前面に出した政策をとっていきますが、感染症の影響が和らいでいくにつれて、経済活動の刺激と、2%の「物価安定の目標」の達成に向けた道筋をより明確にしていくことに、金融政策のウエイトが動いていくと思います。ただ、現時点では、やはり感染症への対応が何よりも重要であり、しかもそれが、中長期的にみて、経済活動が正常化し、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて動いていく基礎になると考えています。

(問)この春以降、コロナ問題の危機で、世界的に経済が弱い動きが拡がる中で、株価を中心にマーケットは割と順調に回復してきた印象があって、実体経済とマーケットの乖離が起きている印象もあります。このマーケットの動きについては、コロナ問題が回復した後の経済の急回復を織り込んでいるとか、コロナ後の世界では、IT技術によって生産性が回復していくといった現象を織り込んでいる、いわば非常に正当化される動きだという見方があります。一方で、日銀を始めとする世界の中央銀行による潤沢な資金供給による流動性を背景としたある種のバブルだという見方もあるかと思います。ここ数日の欧米の株価はそうした見方がある意味では正しいのかなという危うさも示唆しているようにみえますが、この春以降の実体経済とマーケットの乖離がなぜ起きているのか、あるいはそれが持続的なのか、その辺りを総裁はどのようにご覧になっているかを教えて頂けますでしょうか。

(答)為替や株の動きの先行きを云々するというのは、あまり適切ではないと思いますが、日米欧の株価の動きを特にPERなどでみますと、日欧の株価は歴史的なPERの平均値からそれほど外れていません。確かに米国の株価は歴史的なPERの平均よりかなり高いところまできており、それが若干調整したということは事実です。しかし、その解釈については、米国の方などは、全ての企業のPERが歴史的な平均値よりも非常に高くなっている、つまり企業収益よりも株価の上がり方の方が激しいということになっているわけではなく、一部のIT関連の企業などのPERが非常に高いところにきており、それが全体のPERを押し上げているというのです。当該IT企業――企業名を言うわけにはいきませんが――をみると、確かにこのところ、非常に売り上げも伸び、将来の収益期待が高まっているようにもみえます。そのようにみると、歴史的な平均よりも高いけれども、別にバブルではないかもしれません。しかし、そうはいっても様々な状況があって、平均があるところからかなり離れて、全体の平均値が高くなっていることも事実だと言う方もいますので、何とも申し上げられないということに尽きます。単純に、経済が非常に大きく落ち込んだのに株が順調なのは実体から離れてバブルではないかというのは、やや正しくないのではないかと思います。何回も申し上げていますが、新型コロナウイルス感染症による影響で、特段生産設備やインフラ、技術などが損なわれているわけではありません。感染症の拡大・流行のおそれから、様々な経済活動が自粛され、抑制されているということですので、いったんそれが収束すれば、元のところに一気に戻るという可能性もあるわけです。もちろん、ポストコロナで生活習慣や経済活動が変質する面もあるかもしれません。しかし、感染症が収束すると相当程度は戻るということであれば、足許で経済活動がどんと落ちたからといって、直ちに株価も同様にどんと落ちなければならないということにはならないのではないかと思います。ただ、株価について、云々するつもりはありません。

(問)来年3月に期限を迎えるコロナ対応オペについてお伺いします。必要があれば、延長を決めるということだと思いますが、延長の場合に、現行の枠組みのまま単純延長なのか、それとも枠組みを修正、見直ししたうえで、延長されるのでしょうか。特にコロナ対応オペに関しては、+0.1%の付利があり、足許で例えば、地方銀行でも与信費用が想定よりも少なかったということで、企業業績で業績予想を上方修正するところも出てきており、一部では日銀による経営支援という指摘も出ています。この点について見直しの可能性を教えてください。

(答)ご指摘のようなことも含めて、今後検討することになると思いますが、今の時点で何か具体的な中身の変更といったものを考えているというわけではありません。

以上