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総裁記者会見要旨 2021年6月18日(金)
午後3時半から約60分

2021年6月21日
日本銀行

(問)本日の決定内容について、ご説明をお願い致します。

(答)日本銀行は、本日の決定会合におきまして、金融市場調節方針や資産買入れ方針のほか、以下の二つのことを決定しました。第一に、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」について、期限を2022年3月末まで半年間延長致しました。企業等の資金繰りは、ひと頃より改善しているものの、新型コロナウイルス感染症の影響からストレスのかかる状況が続くとみられます。こうした情勢を踏まえ、引き続き、企業等の資金繰りを支援していくことと致しました。第二に、気候変動関連分野での民間金融機関の多様な取組みを支援するため、金融機関が自らの判断に基づき取り組む気候変動対応投融資をバックファイナンスする新たな資金供給の仕組みを導入することとしました。この新たな仕組みは、成長基盤強化支援資金供給制度の後継と位置付けています。なお、その骨子素案を、7月の金融政策決定会合で公表する予定です。また、本日の決定会合では、長短金利操作のもとでの金融市場調節方針、ETFおよびJ-REITの買入れ方針について、これまでの方針を維持することを決定しました。

次に、経済・物価動向について、ご説明致します。わが国の景気の現状については、「内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は着実な増加を続けています。また、企業収益や業況感は全体として改善しています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境をみますと、感染症の影響から、弱い動きが続いています。個人消費は、飲食・宿泊等のサービス消費における下押し圧力が強く、足踏み状態となっています。住宅投資は下げ止まっています。金融環境については、企業の資金繰りに厳しさがみられるものの、全体として緩和した状態にあります。先行きのわが国経済を展望すると、当面の経済活動の水準は、対面型サービス部門を中心に、新型コロナウイルス感染症の拡大前に比べて低めで推移するものの、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられます。その後、感染症の影響が収束していけば、所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるもとで、わが国経済は更に成長を続けると予想されます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、感染症や携帯電話通信料の引き下げの影響がみられる一方、エネルギー価格は上昇しており、足許では0%程度となっています。また、予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。目先、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%程度で推移すると予想されます。その後、経済の改善が続くことや、エネルギー価格の上昇、携帯電話通信料の引き下げの影響剥落などから、徐々に上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響といった点について、不確実性が大きいと考えています。更に、感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下せず、また、金融システムの安定性が維持されるもとで金融仲介機能が円滑に発揮されるかについても注意が必要です。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)今回、延長を決めた資金繰り支援策についてです。足許で国内でもワクチン接種が加速してきて、経済情勢に少し明るい展望もみえてきたような状況かと思いますが、まだまだ資金繰りに関して、日銀として楽観できないということで、今回、半年間の延長を決められたのか、あるいは保険的というか、おそらく状況が戻ってはくるけれども、念のため今回延長を決めたということなのか、資金繰りの環境認識と併せて詳しく教えてください。

続けて、今回、気候変動対応で新たな資金供給策の決定をされました。こちらは、これから詳しい制度設計ということかとは思いますが、金融機関の気候変動関連の投融資は、具体的にどういったものを期待しているのか、あるいはそういった動きを促すために上乗せ金利を付けるといったインセンティブを、今、日銀として考えているのか、この辺りの狙いとか制度設計面も伺えればと思います。併せて、中銀と気候変動の関係というところで、その使命についても今回のステートメントで触れていますが、今回の措置をすることで、具体的にどうやって中銀の使命と気候変動を絡めてくるのか、例えば、今回のオペで経済成長とか物価の押し上げに資するということでやろうとしているのか、あるいはほかの狙いがあるのか、そういった波及経路についても教えて頂ければと思います。

(答)前段のご質問については、日本銀行は、昨年の新型コロナウイルス感染症の拡大以降、「特別プログラム」を含む強力な金融緩和措置によって、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めています。これは、感染症の影響を受けた企業等が、資金繰り面から困難に陥ることを防ぐとともに、今後、感染症が収束する中で速やかに事業を再開していく環境を整えること、金融市場の混乱が実体経済に悪影響を及ぼす悪循環を防ぐことが狙いです。感染症は、現在、わが国経済に大きな影響を与えており、特に、対面型サービスでは、下押し圧力の強い状況が続いています。感染症の影響の収束には暫く時間がかかると予想されるので、そうしたもとで、企業等の資金繰りにはストレスのかかる状態が続くのではないかとみています。こうした状況を踏まえて、「特別プログラム」を半年間延長し、引き続き、企業等の資金繰りを支援していくことが、わが国経済を支えるうえで重要と判断したわけです。

後段の気候変動問題への対応、これは、国際的な関心が高まる中で、わが国政府も、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標として掲げています。こうした目標に向けた政策対応は、基本的には政府・国会の役割です。しかしながら、気候変動およびそれへの対応は、中長期的に、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼし得ると考えています。従って、日本銀行としては、中央銀行の立場から、民間金融機関による気候変動への対応を支援し、長い目でみたマクロ経済の安定に貢献することは、「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」ものであると考えています。こうした認識のもと、今般、日本銀行では、金融機関が自らの判断に基づき取り組む気候変動対応の投融資をバックファイナンスする新たな資金供給制度を導入することとしました。これは、ミクロの資源配分への具体的な関与をできるだけ避けながら、金融政策面で気候変動への対応を支援するという、そういう意味では新たなアプローチであると考えています。また、この仕組みは、気候変動問題を巡る外部環境が流動的なもとで、情勢変化に柔軟に対応することもできると考えています。この新たな資金供給制度は、成長基盤強化支援資金供給制度の後継の制度と位置付けています。成長基盤強化支援資金供給制度の新規貸付は、現在の期限である来年6月をもって終了します。新たな制度については、今後、金融機関等の関係者との意見交換を踏まえて、7月の金融政策決定会合において、骨子素案を決定する予定です。その後、更に制度の詳細を検討し、準備が整えば、成長基盤強化支援資金供給の終了前から実施する方針です。意見交換や実務的な準備が順調に進めば、年内を目途に実際の資金供給を開始したいと考えています。いずれにしても、ご質問があった点も含めて、新たな資金供給制度の具体的な内容は、今後、検討していく予定です。なお、現在、日本銀行では、金融政策以外の分野を含めて、気候変動に関する日本銀行全体としての取組み方針を検討しているところであり、7月の金融政策決定会合後の適切なタイミングで公表する予定であることも申し添えます。

(問)一点目は、気候変動への対応ですが、いわゆるグリーンボンドの購入も検討課題の一つになるのか。あと、このタイミングでこうした施策を導入する方針を打ち出した狙いを改めてお伺いできればと思います。二点目は、先ほど総裁も触れていましたが、エネルギー価格の上昇によって企業物価が相当押し上げられているかと思います。なかなか最終価格などに転嫁するのが難しい状況の中で、この企業物価の上昇が企業収益への下押し圧力とか、あるいは日本経済に与える影響といった点をどのようにご覧になっているかについてお伺い致します。

(答)気候変動問題の中央銀行としての対応は、既に欧州の中央銀行等を中心に様々な議論が行われており、私どもも、BISその他の会議を通じて情報交換などをしています。そうした中で、現在の日本銀行の社債の買入れも、適格要件を満たせばグリーンボンドであっても当然買入れをするわけです。それを超えて、グリーンボンドだけを買うとか、グリーンボンドを特に多く買うということが適切かは、グリーンボンドの基準も実は様々な市場で分かれていますので、そういうことを将来も排除するわけではないのですが、むしろ今回は、より効果的で規模も大きくなり得る、金融機関による気候変動対応の投融資をバックファイナンスする形で、進めることにしました。タクソノミーなどについてはまだ合意ができていないわけですが、そうした様々な動向、外部環境が変わっていくことも踏まえて、弾力的に対応できるという意味でも、こういった形が良いのではないかと思っています。そうしたものが全て整うまで何もしないで待っているのはいかがかということで、やはりこうした形で、日本銀行として、経済・物価・金融情勢に大きな影響を与え得る気候変動の問題に対応していくことを決めたということです。

二番目のエネルギー価格の上昇等については、エネルギー価格のみならず様々な一次産品が値上がりしているわけですが、それが企業物価の上昇を招いていることは、欧米でも日本でも、程度の差はあっても起きています。これは、世界的に経済が回復基調になって、一次産品、エネルギー等に関する需要が増えて、価格も上がってきているということを反映したものです。それは、日本経済全体にとって、外需が増加していくことになり得るわけで、現に輸出も増加し、生産もはっきりと増加していますので、プラスの面が大きいと思います。一方で、確かに企業物価の上昇が消費者物価に転嫁できないと、企業収益の減収になるという問題はあり得ると思います。ただ、先ほど申し上げたように、今起きていることとしては、エネルギーを含めた一次産品の価格上昇は需要が増えているためであって、供給を減らしたりあるいは減少しているためではありませんので、日本経済にも企業収益にも、全体としてはプラスになると思います。しかし、個々の産業や企業にとって、必ずプラスになるかどうかというのは、十分みていかなければならないと思います。

(問)まず、気候変動ですけれども、現状、企業が気候変動対策で資金調達をするときは、どちらかというと社債が多くてですね、ローンが少ないと思うのですけれども、その理由について、どう考えているのかということと、今回の新しい制度の導入が、ローンが増える起爆剤になると考えていらっしゃるのかというのが一点目です。

次に、消費者物価指数ですけれども、5月の消費者物価指数は1年2か月振りにですか、プラス圏になりましたが、欧米と比べると、物価の上昇が日本だけ遅れているという現状があると思います。先ほど企業物価の話がありましたけれども、企業物価が上昇しても価格に転嫁されない、物価が上がらない理由というのを、改めてどう考えていらっしゃるでしょうか。

(答)気候変動の関係で、企業が様々な物的な投資あるいは技術に関する投資等を行う場合に、資金調達をどういう形で行うかは、産業や企業によって異なると思います。わが国の場合は、金融機関による融資がきわめて大きな割合を占めており、特に大手行の中には、既にこうした気候変動対応の投融資を拡大していこうと考えて計画しておられるところもあるようです。私自身は、日本銀行が今回のような対応を取ることを通じて、金融機関が気候変動対応の投融資を更に拡大していく、それが企業のニーズに合っているということになるのではないかと思っています。

消費者物価については、米国で、きわめて急速な需要の拡大に供給が追い付かないということで、一時的に消費者物価の上昇率がかなり上がっています。その背後には、一次産品価格が世界的に上がっているということもありますし、米国固有の理由もあると思います。欧州の場合は、その程度はより小さいです。わが国の場合は、そもそも新型コロナウイルス感染症が拡大する前から、物価上昇率は欧米と比べるとかなり低いところで停滞していましたので、今回の状況のもとでも、消費者物価の上昇率がそれほど高まってはいません。ただ、ご指摘のように、今ほぼゼロないしプラスになってきている、いわゆる一時的な要因を除くとプラスが少しずつ拡大してきていることは、大変好ましいことだと思います。そうした中で、様々なコストが上がっていくときの価格転嫁という問題につきましては、一方で需要がどのくらい伸びているかということにも関係するわけです。欧米、特に米国の状況をみますと、コロナワクチンの接種が非常に幅広く進むのに応じて、対面型消費を含めた消費がかなり急速に回復しており、需要が伸びる中で、消費者物価への価格転嫁も容易になるということが、今起きている状況だと思います。そうした意味では、わが国でも、現在かなり急速にワクチンの接種が進んでおり、これが一定のレベルに達すると、人々が安心して対面型消費を行うということが起こり得ます。いわゆるペントアップ需要が出てくるという要素もあるでしょうし、それ以外にも、安心して外出して対面型消費を行うということもあろうと思います。そうした面では、企業物価の上昇が消費者物価に転嫁しやすくなってくる可能性はあると思います。ただ今の時点では、明らかに米国あるいは欧州と比べて、まだワクチンの接種も十分進んでいませんし、なかなか人々が安心して対面型サービス消費を行うには至っていないということで、企業物価の消費者物価への価格転嫁が、そう簡単には進んでいないということだろうと思います。先ほど申し上げたように、今後経済の回復がしっかりしていくにつれて、そうしたことも含めて、消費者物価は徐々に上昇していくとみています。

(問)これまでの質問と関係するのですが、コロナ禍が物価に与える影響について伺います。以前、昨年の秋頃だったかと思うのですけれども、関連で伺った際は、エコノミストの世界的な議論の方向性ですとか、コンセンサスを踏まえつつ、どちらかというとデフレ的な影響を意識されていたのかな、とも思うのですが、それから一定期間が経って、コロナワクチンの接種率も高まる中で、総裁ご自身のご認識ですとか、見通しに変化があるのでしょうか。短期と中期とか、国内外とか、視点によって見方が異なるのかもしれませんが、今のご見解を伺えればと思います。あと、関連しているかはあれなのですが、ワクチンの接種が日本も含めて進んでいる中で、総裁ご自身はワクチンを接種されたのでしょうか。差し支えなければ教えて頂ければと思います。

(答)新型コロナウイルス感染症が世界的に拡がっていく中、様々な公衆衛生上の措置がとられ、人々も行動様式を変容させた結果、特にサービス消費なども含めて急激に経済活動が低下し、そのもとで、物価にもマイナスの影響が生じました。これは、日本だけでなく世界的に生じていたわけです。逆にいうと、グローバル金融危機のときやアジア通貨危機のときのように、経済構造や金融システムといったものが壊れて不況になり物価も下がるという状況ではなくて、あくまでも、感染症の影響、それに対して公衆衛生上の強い措置がとられる、あるいは人々が外出や対面型サービス消費を抑制する、という状況になったわけです。従って、感染症自体がワクチンの接種の普及などを通じて収束してくる、心配がなくなってくるということになれば、当然消費も戻ってきます。その場合、伸び率を数字でみると、いわゆるベース効果で、前年比でものすごい上昇率にみえますし、ペントアップ需要という要素もあるいはあるかもしれません。少なくとも、米国あるいは欧州の一部をみますと、景気の回復とともに、物価上昇率もかなり急速に上昇してきています。ただ、その中には、ベース効果の部分とか、消費が急速に拡大する中で一時的に供給が追い付かなくて上がっている部分もありますので、本格的にインフレになっているとはなかなか考えにくいと思います。ですから、全体として経済見通しが改善し、ワクチンの接種が進んで対面型サービスが戻ってくるという中で、今述べたような物価についての見通しも変わってきていると思いますが、足許欧米で起きているかなり高い物価上昇率は、一時的な面が大きいのではないかと思います。おそらく、中期的には2%の物価目標のところに収斂していくのではないかと思います。

コロナワクチンのことについては、私が住んでいるところは後期高齢者からどんどんワクチン接種をしていまして、私も通常の申し込みをして、2回目の接種を完了しています。

(問)今回、コロナ支援の特別プログラムを延長されましたけれども、企業の資金繰りを支援するという狙いについては必要な措置というような見方が大勢だと思います。一方で、中小企業を中心に既に過剰債務に陥っているところもあるという課題があって、政府も企業の借入れ負担を軽減するために、私的整理の条件緩和のような支援づくりにも乗り出していると思うのですが、過剰債務の関係とか、その辺りについて総裁のお考えを伺いたいです。

次に、FRBが昨日というか一昨日ですかね、ゼロ金利の解除時期を2023年に前倒しする方針を示唆したと思うのですけれども、最近よく海外の中銀の間で緩和の縮小に向けた動きが出ています。もともと日米欧の中銀というのは、協調してこれまで金融緩和を進めてきたのですが、今後各国の状況に応じて、だいぶ対応に違いが出ているような気がしています。総裁は、日本と諸外国との差異とか、その辺りの原因についてどうお考えか教えてください。

(答)まず、「特別プログラム」の延長につきましては、先ほど申し上げた通りです。なお、日本のみならず欧米でも、新型コロナウイルス感染症の影響が既に1年半くらい続いている中で、海外の中央銀行も様々な形で資金繰り支援をしてきたわけですが、この後、特にポストコロナを見据えると、産業構造などの様々な違いも出てくるでしょうし、リクイディティの問題からソルベンシーの問題に徐々に移っていくのではないかといった議論もあります。定性的にそういったことはよく分かりますが、他方で、わが国の場合を考えてみますと、依然として、対面型サービスを中心に、相当な売り上げの減少や、それに伴う資金繰りの厳しさがまだ残っていますので、当然それを支援していきます。実は、金融機関も、そうしたことを十分理解して、昨年度、金融機関の貸出が非常に増加し資金収益も増加して、その中で、貸倒引当金などをかなりフォーワードルッキングに積むといった様々な対応を既に行っています。また、それぞれの地域、それぞれの金融機関で、貸出先と長期的なバイアビリティについて議論し、資本性の資金に変えていくといった動きも、既に起きています。そういう意味で、ご指摘の点は、定性的にそうしたことはありますし、そういう必要もあって、既に資本性の資金を調達する動きも出てきていますが、そのことが、今の支援を打ち切るべきだということにもならないのであって、やはりこれは必要な資金繰り支援を半年間延長するということだと考えています。

また、FRBなどの欧米の中央銀行と日本銀行の金融政策については、コロナ禍の中では、資金繰り支援という形で非常に大規模な緩和を行い、その限りではよく似ていたわけです。しかし、日本の場合は、新型コロナウイルス感染症が拡がる前においても、物価上昇率が2%にはまだ達していない状況だったわけです。ですから、当然、感染症が収束した後も、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、金融緩和は当分続ける必要があると思います。そこが一つ違いますし、もう一つは、典型的には米国ですが、ワクチン接種が進んで、対面型サービス消費が急速に回復し、経済成長率も戻ってきて、戻るというだけでなく、実はコロナ前のGDPを超えたとみられておりトレンドに近づいてきているわけです。ですから、当然、感染症に対応した資金繰り支援などは順次縮小していくでしょうし、経済がそういう状況になっていく中で、コロナ前のように物価上昇率も2%に近くなってくれば、彼らの金融政策も調整されていくと思います。それが、2023年なのかどうかということでしょうけれども。ただそれが、日本の金融政策と違って何かおかしいことがあるかというと、おかしくはないと思います。金融政策が、それぞれの国の経済・金融・物価情勢に合わせた形で行われることによって、まさに米国の経済が順調に回復し、しかもインフレなき持続的成長を遂げてくれることは、世界経済にとっても日本にとっても大変好ましいことです。他方で、日本銀行としては、やはり2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、大規模な金融緩和を当分続けていく必要があることも変わりませんし、それが世界にとってマイナスになるとも思いません。経済状況が違う中で金融政策が違ってくるのは当然だと思いますし、それは好ましいことであって、何か問題があるとは思いません。ただ、一点だけ、先進国が仮に急速に金利を引き上げるなどすると、途上国、新興国から資金が流出し、金融経済上の困難を新興国に及ぼすのではないかということは、よく議論になります。今そういうことが起きているとは思いませんが、その点については、当然、先進国の中央銀行としては十分配慮して、特にコミュニケーションに十分に配慮して、運営していく必要があるということはその通りだと思います。

(問)ワクチンの接種も随分急速に進み始めて、輸出や生産も判断を、若干、前回の会合対比で今回前進させていると思います。そういうことを踏まえると、日本経済の年後半以降の回復のパスについては、総裁ご自身は、4月の展望レポート時点よりは楽観的になれるというようなご意見でいらっしゃるのでしょうか。

また、先ほど、アメリカのインフレに比べると、日本はまだインフレも弱い、経済の回復も脆弱ということなので、大規模な緩和を続ける必要があるとのことなのですが、一方で、前向きの循環というのが少しずつ働き始めているということも日銀は言っています。確認なのですが、そうは言っても、景気が回復し、好循環が回り始めても、2%の物価目標が達成されるまでは、長短金利操作目標も上げたりしないと、そういう理解でよろしいのでしょうか。

(答)金融政策は、あくまでも政策委員会の合議で決定されるものです。その前提として経済をどのようにみるかということも、色々と議論されたうえで、政策決定が行われますので、あくまでも私の個人的な感想といいますか見方であるということをご理解頂きたいと思いますが、正直に申し上げて、一方で、海外経済、特に中国や米国、それに最近は欧州も含めて、回復がかなり急速であって、それがわが国の輸出あるいは生産に、かなりはっきりとしたプラスの影響をもたらし、経済の先行きについて、前にみていたよりも、より積極的といいますか明るい展望を持ち得るという面があると思います。ただ、他方で、やはり本年二度目の緊急事態宣言が二回にわたって延長され、今回、全国で全てなくなるのではなく、例えば、沖縄は緊急事態宣言がそのまま続き、緊急事態宣言が終わるところでも、まん延防止等重点措置などがとられます。こうしたこともあり、対面型消費に下押し圧力がまだ続いている面があることも事実なので、一概に明るい面だけで、前よりも非常に展望が明るくなったとはまだ言えないと思います。しかし、私自身は、ワクチンの接種が従来みていたよりも相当早いペースで進んでいると思っています。これは、政府の公衆衛生措置だけでなく、人々がどの程度安心して外出したり、対面型サービス消費を享受するかということにも関係しますので、この調子でワクチン接種が進んでいくと、対面型サービス消費の回復が、前にみていたよりも早くなる可能性はあるというふうに思っています。要するに、一方で、IMFやOECD、世界銀行も全て世界経済の成長見通しを上方修正しているというプラスの面、他方で、緊急事態宣言が延びて、対面型サービスに下押し圧力が続いてきたというマイナスの面、しかし、それに対してはワクチンの接種がかなり急速に進んできているという明るい面、このようにいくつかあると思います。私自身としては、全体として前よりも明るい見通しに向かっているのではないかと思っています。

(問)ETFの買入れ維持を決めていらっしゃるのですが、それに関連して一点お伺いします。先日、東芝の株主総会を巡る報告書を受けまして、あと株主総会が本格的に近づいているということもあって、日本のコーポレートガバナンスのあり方に対して、注目が集まっています。日銀はETFの買入れを通して、実質的な日本株の最大の株主になっているわけですけれども、その議決権の行使のあり方についてです。運用会社を通じて議決権を行使しているのでいいじゃないかという意見もあるかもしれないですけれども、一方で、実質的に最大の株主がいわゆる物言わぬ株主であるということが、日本の資本市場のあり方にとって本当に良いのかという疑問もあるかと思うのですが、その辺りのお考えをお聞かせください。

(答)現在、日本銀行がETFを通じて保有しているのは、東京証券取引所一部の株式時価総額の7%程度ですので、トータルとして、それほど大きなものではないということが第一点です。同時に、そもそもETFのような金融商品は、諸外国にもたくさんありますが、それがコーポレートガバナンスを弱めているのではないかという議論はあまり聞かれないわけです。それは、当然のことながら、ETFについても、適切な議決権の行使がETFの保有者でない投資信託委託会社などにより行われているからで、こういう商品の普及は、米国などの方がよほど大きいとも思います。この二つの意味で、私は、日本銀行のETF保有が日本のコーポレートガバナンスにマイナスの影響を与えているというようには考えていません。

(問)気候変動の対策のところで改めてなのですけれども、なぜ今このタイミングでというところなのですが、一連のG7の会合であるとか、それを受けた政府の対応であるとかということを踏まえて、このタイミングでということなのか、その部分について改めましてお伺いしたいと思います。

(答)もちろんG7の議論や政府の対応も承知していますが、むしろ一番頭にあったのは、これまでBISその他を通じて、先進国の中央銀行と意見交換や情報交換をしていて、それぞれ様々な制約条件はあるものの、やはり中央銀行として何らかの対応をすべきではないかとの考えが拡がっていることです。その中で、日本銀行として、日本銀行の役割やそのための手段を考えたときにどのようなことが考えられるかを、かなり長く議論してきまして、その結果、このタイミングになったということです。G7のコミュニケや日本政府の云々とはタイミングとしてはあまり関係なく、基本的に諸外国の中央銀行と意見交換をしつつ、日本銀行として何ができるか、何をすべきかを議論し、そして本日の金融政策決定会合で、政策委員からも色々な意見が出て、それを踏まえてこうした決定がされたとご理解頂きたいと思います。

(問)一点目は、水曜日のFOMCを経て、今後アメリカの中央銀行FEDの方ではテーパリングが焦点になってくるかと思います。日銀の点検の中でも市場を通しての政策効果の大きさを測っています。今後、コミュニケーションをパウエル議長は再三会見の中でしっかりやっていくとおっしゃっていますが、もし、マーケットが混乱したり、円高になるような場合には、やはり以前にも増して、総裁としては対応していくということになるのでしょうか。

二点目が政井委員の今日の棄権についてです。委員ご自身で判断されたということで、議長の総裁からちょっとコメントは難しいかもしれませんが、何かご見解があればお願い致します。

(答)テーパリングの定義にもよりますが、FRBは既に、新型コロナウイルス感染症対応として様々な特別な措置をとってきたものを、順次終了しています。量的緩和についても、テーパリングというか、資産買入れについて順次減少させていくという議論になる可能性はあるとは思います。これは議論をすると言っておられるだけですので、どのようになるのかは分かりませんが、米国経済の急速な回復と、一時的とはいえ、かなり消費者物価も上昇している状況の中で、テーパリングといったことが米国で始まっていく可能性はあると思います。その場合、円高というよりも、むしろドル高の可能性の方が普通は言われます。景気が非常に良くて、しかもテーパリングを米国がしていく、日本はまだそこまで景気回復に至っていませんし、2%の「物価安定の目標」にはまだ遠く、金融緩和をずっと続けるわけですから、その中では、円高というよりもむしろドル高の可能性があると、マーケットの人は普通は言うと思います。いずれにせよ、最初に申し上げた通り、感染症の関係は、なかなか不確実性が大きく、感染症の影響を注視して、必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和の措置を講じます、と申し上げているわけです。「貸出促進付利制度」を導入しましたし、長短金利の更なる引き下げや、資産買入れの増額など、様々なことが可能だと思います。仮に、経済・物価・金融情勢に鑑みて必要があるということになれば、躊躇なくそういう追加的な緩和策を講ずるということに変わりはないと言ってよいと思います。

それから、政井委員の件につきましては、政井委員が棄権するという意思表示をされたので、私から何かコメントするということは特にはありませんが、政井委員自身は、民間企業の取締役候補者であることが明らかになっているので、金融政策に関する意思決定の中立性・公正性を明確にするために、自らのご意思として、議決権を行使しないことにされたと伺っています。それ以上、私から何か申し上げることはありません。

(問)ETFについてなのですけれども、最近、買入れ額ゼロが続いていますが、買いに動くにあたって株価の下落率であるとか水準感を今どういうふうに考えておられるのでしょうか。また、いつかETFを処分するということも議論になってくると思うのですが、例えば、個人に割安な価格で売却するとか、そういう出口に関する案は何か今考えているものがあるのかどうか、お聞かせ頂ければと思います。

(答)ETFにつきましては、金融政策全体の点検を行った際の金融政策決定会合でも申し上げた通り、マーケットが非常に不安定化したときに大規模に購入するのは、単位あたりでも効果が大きいということがはっきりしたわけです。そういうことを踏まえて、より効果を高めるという観点から、ETFの購入につきましては、より弾力的に行っているということに尽きます。

また、ETFの購入は今の金融緩和措置全体の一環ですので、これをやめるとか、保有しているETFを売却するといったことは、今は考えておりませんし、売却する場合のやり方といったことについても特段議論はしておりません。

(問)2%インフレ目標についてお伺いします。日銀が3月に実施した生活意識アンケート調査によると、物価が上がっていると考えている人は6割、1年後に物価が上がると考えている人は6割で、下がると考えている人は6%しかいません。まだワクチン接種も始まっていない段階ですが、国民の間にデフレマインドが粘着的にあるというアンケート調査結果には読み取れないわけです。こういう状況で2%を達成するまで金融緩和をやめない、当分続けるのだということが果たして民意にかなっているのかというように思うわけです。それでも2%目標にこだわる日銀の正当性というか、2%という物価というのは、日本でこの30年殆ど達成していないわけですが、その2%にこだわる日銀の正当性みたいなものについてどうお考えでしょうか。

(答)前々から同じようなご質問をされていますが、私どもは、2%の「物価安定の目標」を達成することは、統計の性格や政策の余地、更にはグローバルスタンダードになっていることも踏まえて必要だと思いますし、それに向けて必要な金融緩和措置を講じていくということに尽きると思います。それから、2%の物価上昇がずっと達成されてこなかったことは事実ですが、他方で、特に1998年から2013年までの間、デフレが続いたことは大きな問題であり、その中で、単にデフレというだけでなくて、成長も低下し、失業も増加し、就業率も下がっていました。それに対応して、2%の「物価安定の目標」を掲げて金融緩和を行うことによって、失業も減り、雇用も拡大し、またベースアップも復活し、経済も成長してきた中で、物価も徐々に上がってきていたということは、政策として適切であったと思いますし、国民もそれを受け入れておられると思っています。

以上