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総裁記者会見要旨 2022年3月18日(金)
午後3時半から約65分

2022年3月22日
日本銀行

(問)本日の決定会合の決定事項についてご説明をお願いします。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。また、長期国債以外の資産の買入れ方針に関しても、従来の方針を維持することを全員一致で決定しました。すなわち、ETFおよびJ-REITは、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する保有残高の増加ペースを上限に、必要に応じて買入れを行います。CP等、社債等については、今月末までは、合計で約20兆円の残高を上限として買入れを行いますが、来月以降は、昨年12月の決定内容通り、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行うこととし、買入れ残高を感染症拡大前の水準、すなわち、CP等は約2兆円、社債等は約3兆円へと徐々に戻していきます。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。ただし、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きがみられるほか、原油などの資源価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要です。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、基調としては増加を続けています。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境は、一部で改善の動きもみられますが、全体としてはなお弱めとなっています。個人消費は、感染症の再拡大によるサービス消費を中心とした下押し圧力の強まりから、持ち直しが一服しています。住宅投資は横ばい圏内の動きとなっています。金融環境については、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあります。先行きのわが国経済を展望すると、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、資源価格上昇の影響を受けつつも回復していくとみられます。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台半ばとなっています。また、予想物価上昇率は、緩やかに上昇しています。先行きについては、当面、エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想されます。この間、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調的な物価上昇圧力は高まっていくと考えられます。リスク要因としては、引き続き、変異株を含む感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要です。また、ウクライナ情勢が、国際金融資本市場や資源価格、海外経済の動向等を通じて、わが国の経済・物価に及ぼす影響についても、きわめて不確実性が高いと考えています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、引き続き、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」、国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)今回、公表文でもリスク要因として掲げられましたウクライナ情勢の緊迫化ですけれども、不確実性が高いということですが、世界経済や日本経済に与える影響、具体的にどういったリスクとして想定されているのか、お考えをお聞かせください。

(答)ロシアによるウクライナ侵攻と、それに伴う各国のロシアへの制裁等の動きは、様々な経路を通じて、世界の経済・物価動向に影響を及ぼすと考えられます。第一に、原油や天然ガス等のエネルギーや、小麦等の穀物、ニッケル等の金属を中心に、国際商品市況が大幅に上昇しています。第二に、ロシア関連の貿易取引の縮小や、サプライチェーンへの悪影響が予想されます。第三に、国際金融資本市場における不安定な動きや先行きの不確実性の高まりは、家計や企業のコンフィデンスの悪化をもたらす可能性があります。これらは、ロシアとの経済的な結びつきが強い欧州を中心に、世界経済の下押し要因になると予想されます。同時に、このところ高まっているグローバルなインフレ圧力が一段と増幅され得ると考えられます。

わが国経済への影響についてみますと、資源の大半を輸入に頼っているため、当面は、資源価格の上昇の影響が最も大きいと考えられます。すなわち、物価は、エネルギーや食料品等を中心に、当面はっきりと上昇すると予想されます。こうしたコストプッシュ型の物価上昇は、企業収益の悪化や家計の実質所得の減少を通じて、やや長い目で見た景気の下押し要因として作用するとみられます。貿易活動を通じたわが国経済への影響については、ロシアやウクライナとの貿易量は小さいため、直接的な影響は限定的とみられます。もっとも、海外経済への下押し圧力や、サプライチェーン障害などを通じて、わが国の企業の貿易・生産活動に、間接的な影響が及ぶ可能性はあります。マインド面への影響については、エネルギー・食料品といった必需品の価格上昇が、家計の支出意欲に悪影響を及ぼすことが考えられます。また、国際金融資本市場が一段と不安定な動きとなる場合には、企業の設備投資の先送りの動きにつながるなど、経済に影響を及ぼす可能性には注意が必要です。

いずれにせよ、ウクライナ情勢の帰趨を巡っては、きわめて不確実性が大きいと思います。日本銀行としては、この問題が、感染症からの回復途上にあるわが国経済に悪影響を及ぼさないか、内外の情勢を注視していくこととしています。

(問)先ほどウクライナ情勢に伴う物価のお話がありましたが、資源価格の高騰、また欧米との金利差もあって円安が進んでいます。今後、国内の物価の上昇が見込まれていて、2%を超えていく可能性というのも高まっています。現在、大規模な金融緩和を続けている日銀ですけれども、今後の金融政策のスタンスを改めてお聞かせください。

(答)先ほど申し上げた通り、先行きの消費者物価の前年比は、当面、原油や天然ガスの価格高騰を反映して、エネルギー価格が大幅に上昇し、食料品を中心に原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落することから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想しています。具体的には、4月以降、当分の間は、今後の原油価格の動向やそれに対する政府の対応などにもよりますが、石油製品の上昇を主因に、2%程度の伸びとなる可能性があります。エネルギー価格の上昇は、コスト増を通じた物価の押し上げ要因になる一方で、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、わが国経済に悪影響を与えるものでもあります。こうしたもとで、日本銀行は、持続的・安定的な物価上昇を目指して、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当であると考えています。もとより、日本銀行は、金融緩和による需要の増加を背景に、企業収益や雇用・賃金が上昇する中で、物価も基調として緩やかに上昇していく姿を目指しています。

(問)今の質問にもありましたが、円安の影響について改めてお伺いします。これまで総裁は全体ではプラスで、一方で最近は家計に対する物価の上昇が与える影響が大きくなっている可能性みたいなものを示唆されつつも、基本的には全体としてはプラスだというお考えを示されています。とはいえ、最近FRBの利上げも始まって、だいぶ金利差が開いて、円安が119円までいきましたというのもあって、割と急激な加速のようにみえます。あとは実効為替レートの方も50年ぶりの水準という中で、改めて円安というものに対して、総裁がどういうふうにお考えなのかをお聞かせください。

(答)為替相場の具体的な状況についてコメントすることは差し控えたいと思いますが、いつも申し上げているように、為替相場は経済や金融のファンダメンタルズを反映して、安定的に推移することがきわめて重要だと思っています。そのうえで、一般論として申し上げますと、為替レートの変動がわが国経済に及ぼす影響は、経済・貿易構造に応じて変化しているわけですが、円安が全体として経済・物価をともに押し上げ、わが国経済にプラスに作用しているという基本的な構図は、変わりないと考えています。ただし、円安の影響が、業種や企業規模、経済主体によって不均一であることには、十分な留意が必要です。その中で、円安は輸入物価の上昇要因となるわけで、輸入物価の上昇が、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、わが国経済の下押し要因となり得るわけです。ただし、最近の輸入物価の上昇については、ウクライナ情勢を受けた国際商品市況の急激な上昇があり、円安というよりも、ドル建てでみた原油などの資源価格上昇の影響の方が圧倒的に大きくなっているわけです。いずれにしても、原油や天然ガスの大部分を輸入に頼るだけに、これらの輸入価格の上昇が、わが国の経済・物価に及ぼす影響について、注意深くみていきたいと思っています。

(問)今の質問に関連することですけれども、今の日本の物価上昇、これは日銀からみて望ましい物価上昇、目指していた形での物価上昇なのでしょうか。おっしゃる通り、エネルギーそして食料価格というコストプッシュ型の物価上昇になっているところに、海外と日本の金利政策の違いによって円安が進むと、一層の輸入物価の押し上げということにつながります。こうした状況でも、日銀は動かなくてよいとみていらっしゃるのかどうか、ここをまず一点教えてください。

更に、今回、景気判断については、下方に修正をしていますけれども、物価は上がって景気は下がっていくという、いわばスタグフレーション的な状況というのを先行き警戒する必要が出てきているのかどうか、これについても教えて頂けますでしょうか。

(答)物価上昇は、足許、生鮮食品を除いたところで0.6%ですが、上昇要因としては、エネルギーや食料品の国際商品価格の上昇が非常に大きく効いているわけです。一方で、大規模な金融緩和のもとで、企業収益が大幅に拡大し、賃金も上がってきている中で、コロナのもとではあっても、基調的な物価上昇要因が少しずつ上がってきていたことは事実であり、それは非常に良いことです。他方で、先進国の中で資源輸出国というのは相応にありますが、そういう国と違って、わが国は資源輸入国ですので、最近の国際的な商品価格の上昇によるかなり急激な輸入物価の上昇は、交易条件の悪化などで経済にマイナスになるような、いわばコストプッシュ型の物価上昇であり、この点は好ましい物価上昇ではないと思っています。ただ、その要因の中で、円安が影響している部分はきわめて小さくて、基本的にウクライナ紛争が激化する前から国際商品価格が少しずつ上がってきていましたが、更にロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー価格や食料品価格などはかなり急激に上昇しているということで、円安による要因はわずかであり、基本的にはドル建ての国際商品市況の上昇によるものだと思っています。先ほど申し上げた通り、それによる物価上昇というのは好ましくないということですが、国際商品市況の上昇による影響は、輸入国としては避けがたいところがありますので、その状況は十分注視していく必要があると思います。先ほど申し上げたように、コロナからの回復の中で商品市況が上がってきたところへ、ロシアによるウクライナ侵攻で、急激に上がってきていることが影響している点は大きいと思いますし、それはもちろん日本にとって好ましくない輸入価格の上昇であると思っています。なお、為替が変動する場合に、従来から様々な分析で申し上げている通り、輸入価格の上昇もありますが、輸出価格の上昇もあります。輸出数量効果は、最近では非常に小さくなっていますが、他方で、わが国の企業が海外で生産をして、本社に送金される円建ての収益の金額は、円安によってむしろ拡大するわけです。ですから、私どもの分析で申し上げている通り、全体としては、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移している中で円安になることは、むしろ日本の経済・物価にとってプラスになるという基本的な構図は変わっていないと思います。

そこで、国際商品市況の急激な上昇や、その背後にあるロシアのウクライナ侵攻による貿易への影響が、スタグフレーション的なことをもたらす惧れがないかということですが、現時点で日米欧について、そうした惧れがあるとは思っていません。ご案内の通り、欧米の経済成長率は、最近でも依然として潜在成長率をかなり上回る状況が続くと予想される状況ですし、わが国の場合も、潜在成長率をかなり上回る成長が続くとみられていますので、スタグフレーションということにはならないと思います。他方で、確かにこういった商品価格の上昇は、特に日本のような資源輸入国にとっては好ましくないことですから、経済・物価への影響は、十分注視する必要があると思いますが、欧米も日本もスタグフレーションになるというふうには思っていません。

(問)同じような質問になってしまって恐縮ですが、先ほど輸入物価の上昇に円安が与える影響は今のところ小さいというお話でしたけれども、先ほど来お話にあるように、FRBもBOEも今年これから利上げしていくという中で、円安圧力というのは更に強まっていくと思われます。そうした中で、先ほど総裁がおっしゃられた円安の要因が輸入物価に与える影響が大きくなっていったときに、日銀として何らかの対応を検討する余地というのはあるのでしょうか。

(答)そもそも、そうなるとは思っていません。もちろん全然関係ないとは言いませんが、色々な実証研究でも、金利差と為替レートの関係は、相関関係がそんなにはっきりしているというわけではないことも明らかになっています。今の時点で欧米の中央銀行が金利を引き上げていくのは、それぞれの国の物価状況、インフレが米国の場合は8%近い、欧州の場合は6%近い――わが国の場合は1%未満というところですので――、そうしたところで金利を上げていく、緩和の程度を弱めていくというか正常化していくのは当然のことであり、それらの経済の成長をむしろ持続させる意味でも非常に重要だと思います。だからといって日本が金利を上げる必要は全くありませんし、そうしたもとで金利差が拡大したら直ちに円安になるということもないと思います。ご承知のように、少なくともこの10年といいますか、かなりの期間にわたって、日米欧の通貨間の為替はかつてのように大きな変動がなく、比較的、安定的に推移しているわけです。これはECBの元総裁のトリシェ氏やその他経済学者の方も言っておられますけれども、日米欧の中央銀行が2%の物価安定目標を掲げて金融政策を運営していることが、これら三極の通貨間の為替レートが、比較的、安定を維持している一つの要因ではないかとも言われています。いずれにしても、為替レートは経済や物価に影響を及ぼしますので、当然よくみていくつもりではありますが、ご懸念のような可能性が高いとか、それによって日本のインフレが非常に高まっていくとはみていません。

(問)二点お願いします。冒頭、所得と雇用について、改善は続いているけれども全体としては弱いというご評価をされていましたが、このところの春闘も含めて、総裁のご見解、評価を伺いたいと思います。

もう一点、金融政策は2%の安定的な達成までYCCを続けるとしています。4月以降は当分2%程度の伸びが想定されると冒頭おっしゃっていましたが、そういった中で長期金利をゼロ%に維持するということも続けるお考えでしょうか。

(答)まず経済全体の状況は、最初に申し上げた通り、「感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している」ということで、「弱めの動き」というのは、典型的には感染症、いわゆるオミクロン株が今年に入ってかなり拡大して公衆衛生措置もとられ、それが特にサービス消費に下押し圧力として効いて、足許消費が弱めだったということが、このところの経済の弱めの動きを示しています。他方で企業収益とか企業マインド、設備投資動向はかなりしっかりしています。そうした中で、まだ春闘は終わっていませんし、これから中小・中堅企業にどのように賃金上昇が波及していくかということをみていかなければなりませんが、これまでのところ製造業を中心に、大企業の春闘の賃上げは、久方ぶりにかなり高めになっています。これは経済が基調的に回復してくる中で企業収益も伸びたことも背景にあったのではないかと思います。まだ春闘全体の評価云々は時期尚早だと思いますが、これまでのところは比較的順調に賃上げが進んでいるようにみています。

それから、先ほど来申し上げている通り、欧米の場合と違って物価が足許0.6%程度で、4月以降2%程度になる可能性はあるわけですが、その大半が国際商品市況といいますか、エネルギーや食料品の輸入価格が上昇することによって起こっているような状況ですので、当然金融を引き締める必要もないし、適切でもないと思います。もちろん、よく言われていますように、エネルギーなどの輸入価格が上昇し、それが物価を押し上げて、そのもとで予想物価上昇率も上昇していく、あるいは賃金もどんどん上がっていく、そしてそれが更に物価の上昇をもたらすという二次的な波及があるということであれば、金融政策対応ということもあり得ますが、日本ではそういう状況に全くありません。欧米、特に米国の場合はご承知のように、景気回復がきわめて急速で労働市場がタイトになって賃金も相当上昇していますし、予想物価上昇率も上昇しているというもとで、もともと金利を引き上げるということを決めておられたようですが、今回のウクライナにおけるロシアの侵攻でエネルギー価格などがかなり急速に上がっていることを踏まえて、金利引き上げに踏み切られて、更に今後も段階的に引き上げていくということを示されています。それは大変合理的で当然だと思いますが、わが国の場合は先ほど来申し上げているように、仮に商品市況の上昇によって輸入物価が上がり、国内の物価も2%程度になったとしても、それはまさにコストプッシュ型ですので、当然のことながら長期的には企業収益の減少や家計の実質所得の減少ということを通じて、景気をむしろ後退させる方向となり、物価を押し上げる方向にはならないと思います。まだ4月の物価がどうなるか分かりませんが、2%程度になる可能性はあると思いますのでそう申し上げたわけですが、そのことは現在の金融政策を修正する必要性を全く意味していないと思います。

(問)先ほど総裁は、経済が基調的に回復してくる中で企業収益も伸びていると、これまでは順調であるというご認識を示されましたけれども、今回の公表文の中で、先行きに関して前向きな循環メカニズムという表現が触れられていないのですけれども、これは先行きを考えたときに、前向きな循環メカニズムというのが機能していくというには少し不確定要素があるというのが取った理由でしょうか。もしそれが先行きで前向きな循環メカニズムといえる状況からちょっと変調が来しているとするならば、それはどういった理由からかという点をお伺いしたいと思います。

(答)別に基調的な前向きの循環メカニズムが変化しているとは思っていません。今後の中長期的な経済・物価の見通しについては、4月の金融政策決定会合において展望レポートでお示しすることになると思いますが、先ほど来申し上げている通り、感染症の方はようやく落ち着きを取り戻し、政府もまん延防止等重点措置を予定通り終了するということですので、消費が弱めだったところは徐々に回復していくのではないかと思っています。企業収益は比較的順調に伸びていますし、海外経済も、今回のウクライナ情勢の影響を受けつつも、先進国も新興国も、経済成長は比較的高い率、潜在成長率を上回るような成長を続ける見込みです。輸出や生産等も先ほど申し上げたように回復基調が続くとみています。そのもとで企業部門でも収益を賃金等で還元する、あるいは設備投資を今後とも積極的に行っていくといったことが続いてくれるのではないかと考えています。先ほど来申し上げている通り、これまでのところ、今年の春闘は大変順調であるように思いますので、そういったことも含めて、全体として前向きのメカニズムは基本的に続いていると思います。もっとも、やはりウクライナ情勢がどのように展開していくかは実際のところなかなか見通しがたいところもありますので、そういったことには十分注意していく必要はあるとは思いますが、現時点で、前向きの循環メカニズムがもう損なわれてしまったということではないと思っています。

(問)異次元緩和がまもなく10年目に入りますが、形はどうであれ、物価目標2%が視野に入る中で、大規模緩和に対する総裁の所感を教えて頂きたいと思います。

それに加えて、これまでの会見でも何度か伺いましたが、コロナ禍が物価に与える影響について、例えば、感染拡大初期などと比べてデフレ的にみているのか、インフレ的にみているのかという観点で、世界的な議論や総裁ご自身の見方に変化があるのかを教えて頂ければと思います。

(答)2%の「物価安定の目標」は、あくまでも、金融が緩和された状態で経済が成長し、企業収益も拡大して賃金も上がっていく中で、物価が上がっていくことが重要です。足許、物価が上がっている要因の相当部分が、国際商品市況の上昇による輸入物価の上昇に起因するものであり、そうである限りは、仮に2%程度になったとしても、私どもの考えている2%の「物価安定の目標」が達成されたということではないと思います。日銀当座預金の一部に-0.1%の政策金利を適用し、10年物国債金利をゼロ%程度、±0.25%程度のところに保つという現在のイールドカーブ・コントロールは適切であり、今後とも粘り強く緩和を続けていく必要があると思います。

感染症の影響は、よく言われているように、需要と供給の両方に及ぶわけです。供給面で生産の停滞や供給制約でなかなか生産が拡大できないといった制約があるのと同時に、感染症が拡がって人々が外出を抑制する、あるいは公衆衛生上の措置がとられるということになると、特に消費需要が低迷することになります。需要と供給の低下が両方起こりますので、どちらからどのように展開していくかは、それぞれの経済構造にもよりますし、タイミングにもよると思います。比較的早く感染症に対する様々な公衆衛生上の措置を解除してきた欧米の状況をみると、かなり急速に需要が伸びています。ただ、その際に、特に米国の場合ですが、失業率は下がっているものの就業率がなかなか戻ってこないという形で労働市場がきわめてタイトになり、その結果、賃金も物価も上昇するということが起こっています。そういう意味では、タイミングによっても、それぞれの国の経済構造、労働市場の状況などによっても、違ってくると思います。わが国の場合は、これまで供給も需要も押し下げられていたわけですが、このところ、ようやくコロナ前のGDPに近くなっているということですので、供給の方は相当程度追い付いてきていると思いますし、生産も追い付いてきていると思いますが、特に今年に入ってからオミクロン株の影響でサービス消費が低迷したということがあったと思います。物価上昇率は、1月が0.2%、2月が0.6%になっていますが、上がったのは相当程度国際商品市況の上昇で輸入物価が上がったことを反映してきているとみています。

(問)先ほどお答えになった「そういったことは想定されていない」というお答えになるかもしれないのですが、円安について、今後円安が進んでいく、もしくは円安の日本経済に与える影響がマイナスで大きいとなった場合に、日銀が物価目標を達成していない状況の中で、それに対して何かできること、すべきことというのは、そもそもあるのでしょうか。

(答)ご承知のように、為替政策は為替介入や外貨準備の運用も含めて財務省の権限であり責任であり、日本銀行が為替を上下させるような政策を採る必要もないし権限もありませんので、今の点はむしろ財務省の方にお聞き頂いた方がよいと思います。ただ、もちろん、先ほど来申し上げている通り、為替の動きは経済・物価に影響しますので十分注視していますし、従来から色々な分析をお示ししているわけです。それを超えてものすごい円高になったらとか、ものすごい円安になったらということは、財務省にお聞き頂いた方がよいのではないかと思います。

(問)マーケットの中では根強く日銀が正常化に向かうのではないかという見方が一部にあるのですが、それというのは、やはりFEDとかECBをみていて、トランジトリーというのがあった後に、結局はタカ派的な方向に行ったことが背景にあるかと思います。もちろん、景気の強さとかそこは全く違うのですが、ただ二次的な波及効果は先ほど言及されましたけれども、今後日本なりに物価が高い、日本なりに賃金が、要するに7%、8%とはいわなくても、良いとなった場合に、そういった状況に追い込まれた場合に、日銀が政策変更を強いられるような可能性については今の時点でどのようにお考えでしょうか。

(答)それはちょっとなさそうですね。

(問)総裁は、先ほど、4月以降、物価が2%程度まで上昇してくるというふうにおっしゃいましたが、一方で、従来、供給制約による物価というのは一時的であるということもおっしゃられていたかと思います。現在もこうした認識に変わりがないのか、そのうえで、物価上昇が一時的であると引き続きご覧になる場合、その実現可能性・確率を今どのようにみていらっしゃるのか。過去、第一次、第二次オイルショックもありましたし、リーマンショック前も原油も上がっておりました。こうした歴史観も含めて、総裁のご見解をお伺いさせてください。

また、為替のところですが、おっしゃるように円安は総じてプラスで、確かに経常収支も黒字で海外進出している企業の収益も押し上げられると思うのですが、一方で、恒常的に食料品の値上げ等を通じて家計には皺寄せが寄りやすいかと思います。国民経済全体を考えたときに、家計という意味では円安の影響を受けない人は基本的にはいないかと思うのですが、円安がプラスという場合、そもそもこの円安のコストというものをどのように整理されてらっしゃるのかをお尋ねさせてください。最後に、まさに家計を構成するという意味では総裁ご自身もそのお一人かと思うのですが、実際に生活される中で、例えば身近に物価が上がってきたなですとか、このコストの上昇がちょっと心配だなですとか、是非想定答弁でないところで率直なご感想をお尋ねさせてください。

(答)先ほど来申し上げている通り、現在、エネルギー、食料品の国際的な価格上昇が、輸入物価の大幅な上昇を引き起こし、そしてそれが消費者物価に転嫁される部分もありますので、消費者物価の上昇率が4月以降、2%程度となる可能性もあると思っていますが、今申し上げたような状況からいって、その影響は長期に持続するものではないと思っています。国際商品市況の高騰による輸入物価の上昇は、エネルギーや食料品等を輸入に頼っている日本には基本的にプラスの面がなくてマイナスの面があり、企業収益や家計の実質所得等にマイナスの影響を与えることから、消費者物価の上昇が持続する可能性は低いと思います。ただ、消費者物価の対前月比上昇率についてはそういうことですが、普通は対前年同月比で比べます。いったん水準が上がったところから、国際商品市況が下がってくれば、それに応じて水準も下がることはあり得ますけれども、水準が下がらなければ、どんどん上がっていかなくても、対前年同月比の消費者物価にはある程度の期間、影響が残ると思います。前月との比較でどうかといわれたら、上昇していくというものではないと思いますが、消費者物価は普通、対前年同月比でみるので、それでみる限り、持続しないといっても、1か月ですぐ、ドンと元の水準に戻ってくれるかどうかというと、国際商品市況が下がってくれない限り、そういうことはなかなか起こらないと思います。いずれにせよ、効果は持続するものではないことは確かですので、特にわが国のような場合、持続的でないコストプッシュ型の物価上昇に対しては、二次効果・波及効果を容認するものではありませんが、消費者物価に反映されてくるものについては、基本的には一時的なものであって持続するものではないと思っています。歴史的な話は、学者の方が色々分析しておられますけれども、第一次石油ショック時になぜあんなに物価が上がったのかについては、有名な小宮隆太郎先生の論文がありまして、要するに、石油ショックが非常に大きな物価上昇率をもたらしたのではなくて、その前に過大な金融緩和をしていたからであるという分析になっています。他方で、第二次石油ショックの時は、そういったことは起こらなかったわけです。今回も、国際商品価格の上昇による持続的でない一時的な物価上昇に対しては、金融政策を引き締める必要もないし、むしろ日本経済がコロナから回復している途上なので、今後ともそれをサポートするような金融緩和を続けていくことが必要であると思っています。

為替については、先ほどお話しした通りです。経済全体としては、GDPや物価に対してプラスになるという構図は変わっていないと思いますが、企業規模や家計等に対する直接的な影響は必ずしもプラスでないということはその通りであり、そういったことにも十分注意していく必要があるとは思います。しかし、円安がすべて経済にマイナスになるというのは間違いだと思います。少なくとも現状において、そういったことは分析で示されている通りです。

(問)今、政府の方でガソリン価格の抑制策を実施しようという議論がありますが、物価面では上昇を抑えるように働くと思います。ただ、今、総裁がずっとおっしゃっているように、コストプッシュの上昇というのは経済を下押しすること、一時的になのかあれなんですが、そういうことを考えますと、こういった政府の政策対応は適切なのでしょうか。どのように評価されていますか。

(答)個人的には適切な政策だと思います。というのは、急激にかつ異常にガソリン価格などが上がるということは、家計や企業に対する影響を考慮すると、その影響を緩和することは適切な政策だと思います。それが経済全体にとって何かマイナスになるということはないと思います。他方でそれは、財政の支出を増やすことになりますので、財政状況との兼ね合いといいますか、財政状況への影響も勘案する必要はありますが、現時点でそういった措置をとることは、経済政策として適切だと思います。

(問)先ほどのコストプッシュ型インフレは持続しないという総裁のご説明ですが、確かに日本ではインフレ期待とか賃金がつられて上がるというセカンド・ラウンド・エフェクトは直ちに起きないと想定される一方で、商品市況の高騰という、もっぱら外的な要因が持続することでコストプッシュ型のインフレが想定以上に続くということも可能性として排除できないと思います。その点を踏まえたうえで、コストプッシュ型インフレは持続しないとおっしゃる根拠をもう少しお伺いできますでしょうか。

(答)コストプッシュ型インフレは持続しないというのは、国際商品市況が急激に上昇して、その結果、輸入物価が上がり消費者物価にも転嫁されて上がっても、それは基本的に持続しないということを申し上げています。国際商品市況、エネルギー価格や食料品がずっと上がり続けていけば、それは消費者物価も上がり続けるのではないかというのはその通りですが、今、国際商品市況についてそのように考える人は殆どいないと思います。ご承知のように、原油価格についても、皆さん、原油価格の先物カーブをみて経済予測などをされているようですが、原油価格のカーブもなだらかに下がっていくとみていますし、様々な商品市況についても、この勢いがどんどん続くとはみていないと思います。もちろん、そういうことがあれば、それが続く限りインフレも続くでしょうということは言えますが、そういうことはまずは想定されないですし、過去においてもそういうことはなかったわけです。原油価格なども急騰した後、急激に下がるということの方がむしろ多かったわけです。純粋な思考実験として、どんどん上がっていったらどうなるかは、それは消費者物価も上がっていくということになると思いますが、そういうことは普通想定されないですし、想定する必要も特に今はあるとは思いません。

(問)まず、コストプッシュでインフレが上がった場合、持続しないということであっても、物価は上昇しないという前提で人々が行動する適合的な期待形成に何か変化が生じる可能性はありますか。

また、ウクライナ情勢では、今のところ金融システムに大きなショックは起きていませんが、ロシアのデフォルトも意識され、日本の金融機関のエクスポージャーは少ないのですが、欧州の銀行はかなりエクスポージャーがあるところもあります。世界の金融システムに何か変調が起きるリスクは、どれくらいあるのかについてお願いします。

(答)インフレ期待に対する影響は、私どももよくみていますが、様々な指標をみても、これだけ上がると短期のインフレ期待は足許では上がっていますが、中長期の指標は全然上がっていないものが多くなっています。インフレ期待の形成がどのようになるかは、中央銀行の間では非常に関心の高い話題ですが、少なくとも、今日本について何か変化が起こっているようにはみえません。ただ、少しずつ、対消費者の価格を上げられないという感じは薄れ、価格転嫁に少しずつ前向きになっているという企業の声は聞かれますが、実際、ものすごい勢いで転嫁が進んでいるということでもありませんし、そもそも商品市況の動向が、先ほど来申し上げているように、どんどん上がっていくという見通しを採る人は、あまりいないように私はみています。

それから、ロシアのデフォルトや金融の混乱が、日米欧の金融システムに影響を与えるかどうかですが、これは欧米の中央銀行の方もそういう程度はきわめて低くなっているとおっしゃっています。特に2014年のクリミア半島侵攻のときから、日米欧とも金融機関はロシアに対するエクスポージャーを相当減らしてきています。それからロシア国債がデフォルトする可能性は、まだあるとは思いますが、何か日米欧の金融システムに相応の影響があるとは思っていません。もはや、ロシアの金融システムと日米欧の金融システムはきわめて縁が薄くなっています。よく報道に出ている欧州の某銀行などは何か影響が多いのではないかといわれ、ロシアから撤退するそうですが、少なくとも欧州の大国の金融当局は、影響はあまりないということをはっきりおっしゃっています。

(問)二つ質問させて頂きます。この9年間、世界経済と日本経済は良い時も悪い時もあったわけですけれども、その間日銀はこの尋常ではないレベルの大規模緩和を一貫して続けて、一度も正常化させようという方針を示したことはありませんけれども、今振り返ってそれで良かったのかどうかということをまずお伺いしたいと思います。

もう一点は、日銀は、今も量的緩和ということを一応掲げているわけですが、実際にはこの1年間で日銀の保有国債残高は10兆円ほど減っています。これはマーケットなどではステルステーパリングと言われているわけですけれども、先週から今週にかけて欧米の中央銀行が色々金融政策の変更を発表しているわけですが、量的引締めということで、事前に計画的に保有資産を減らすようなことを、非常に透明性をもって発表しているわけです。日銀のステルステーパリングのような運用というのは、国民に対しても、あるいは国会や政府に対しても、説明責任という点で問題がないのでしょうか。

(答)全くありません。おっしゃっていることは、イールドカーブ・コントロールの意味を全く理解しておられないわけでして、そういう議論は全く無意味だと思います。それから、これまで緩和を続けてきたこと自体は適切であり必要だったと思っています。

以上