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総裁記者会見要旨 2022年4月28日(木)
午後3時半から約60分

2022年5月2日
日本銀行

(問)本日の決定会合の決定事項と展望レポートの内容についてご説明をお願いします。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行います。併せて、金利変動幅の上限をしっかり画する目的で従来より行っている連続指値オペについて、その運用を明確にしました。すなわち、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施することとしました。長期国債以外の資産の買入れ方針に関しては、現状維持とすることを全員一致で決定しました。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明します。

わが国の景気の現状については、「新型コロナウイルス感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、国・地域毎にばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しています。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、基調としては増加を続けています。企業収益は全体として改善していますが、業況感は、感染症や資源価格上昇の影響などから、このところ改善が一服しています。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境は、一部で改善の動きもみられますが、全体としてはなお弱めとなっています。個人消費は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が和らぐもとで、再び持ち直しつつあります。金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っていますが、全体として緩和した状態にあります。先行きについては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみています。その後は、資源高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まっていく中で、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けると考えています。

次に、物価の現状ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台後半となっています。また、予想物価上昇率は、短期を中心に上昇しています。先行きについては、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、携帯電話通信料下落の影響が剥落する2022年度には、エネルギー価格の大幅な上昇の影響により、いったん2%程度まで上昇率を高めますが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想しています。この間、変動の大きいエネルギーも除いた消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、食料品を中心とした原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくとみています。

2023年度までの見通しを前回の見通しと比べますと、成長率については、2021年度と2022年度が、感染症再拡大や資源価格の上昇、海外経済の減速の影響などから下振れていますが、2023年度はその反動もあって上振れています。物価については、エネルギー価格上昇の影響などから、2022年度が大幅に上振れています。リスク要因としては、引き続き、変異株を含む感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要です。また、今後のウクライナ情勢の展開や、そのもとでの資源価格や国際金融資本市場、海外経済の動向についても不確実性はきわめて高いと考えています。そのうえで、経済見通しのリスクバランスについては、当面は、感染症やウクライナ情勢の影響を主因に下振れリスクの方が大きくなっていますが、その後は概ね上下にバランスしているとみています。物価見通しについては、当面は、エネルギー価格を巡る不確実性などを反映して上振れリスクの方が大きくなっていますが、その後は概ね上下にバランスしているとみています。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)資源高や円安の影響で、4月以降の生鮮食品を除く消費者物価指数は2%程度の伸びが当面続くと見込まれていますけれども、こうした物価上昇はコストプッシュ型で、賃金とか期待インフレ率の伸びを伴わないとの見方が多いと思います。仮に、こうした形で2%を上回る物価上昇が続いても、金融緩和の修正であったり、いわゆる出口の議論を始めることにはならないのか、また、物価上昇は一時的と今までおっしゃっていましたが、そのご認識も含めてお聞かせください。

(答)今回の展望レポートにおける政策委員見通しの中央値をみますと、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料下落の影響が剥落する2022年度には、いったん2%程度まで上昇率を高めますが、その後は、1%強までプラス幅を縮小すると予想しています。このように2%程度の上昇率が持続しないのは、第一に、海外中銀や国際機関と同様、原油等の資源価格が見通し期間を通じて上昇を続けるとは想定しておらず、そのもとでガソリンや電気代等のエネルギー価格の物価押し上げ寄与は先行き減衰していくと見込んでいるためです。第二に、資源輸入国であるわが国にとっては、最近の資源価格の上昇は、海外への所得流出につながるため、経済にマイナスに作用し、ひいては基調的な物価上昇率に対しても下押し圧力をもたらすと考えられます。こうした物価見通しを踏まえますと、企業収益や賃金・雇用が増加する好循環の中で、2%の「物価安定の目標」を安定的に実現するまでには、なお時間を要すると思われます。従って、経済を下支えし、基調的な物価上昇率を引き上げていく観点から、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当だと考えています。

(問)本日も為替が1ドル130円を一時超えましたが、最近の円安は日米の金融政策の違いが一因となっていて、市場の一部には、いずれ日銀が円安を是正するために金融緩和の修正に動くのではないかという観測がいまだに根強くあります。もちろん、金融政策は為替を目的にしていないということは重々承知しているのですが、更にこの円安が進んでも金融政策を見直すお考えはないのかをお伺いしたいというのが一点目です。

また、最近の急速な変動の影響を踏まえて、今後更に円安が進んでも日本経済にとってプラスというお考えは変わりがないのかを教えてください。

(答)先ほどご説明しました通り、わが国の経済は、感染症からの回復途上にあるうえ、最近は、ウクライナ情勢に伴う資源価格上昇による下押し圧力も受けています。また、当面の物価上昇は、エネルギー価格の上昇が主因であり、持続性に乏しいと考えています。こうした経済・物価情勢を踏まえますと、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を目指す観点から、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、経済活動をしっかりと支えていく必要があると考えています。

為替については、いつも申し上げている通り、為替相場は、経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと考えています。この点、最近みられるような為替市場における短期間での過度な変動は、先行きの不確実性を高め、企業の事業計画の策定等を難しくする面もあります。日本銀行としては、為替相場の変動が経済・物価に与える影響を、十分注意してみていく所存です。

(問)中央銀行は、それぞれ自国の経済・物価に合わせた金融政策を運営しているかと思うのですが、日米欧で金融緩和が行われているときというのは、そんなに問題はなかったかと思います。けれども、現状のように、欧米で金利引き上げ、一方日銀は金融緩和を続けている中で、方向性が違う中での日銀の政策運営の難しさというか、緩和効果のプラス・マイナスが考えられると思うのですが、その辺をどのような感じでみていらっしゃるかをお伺いしたいと思います。

(答)いつも申し上げている通り、また質問をされた方も認めておられるように、各国の金融政策は、それぞれの国の経済・物価情勢に即応した政策をとっているわけです。ご承知の通り、米国では消費者物価上昇率が8.5%程度になり、欧州でも7.4%程度になっている一方、わが国の場合は足許0.8%ということです。そうした物価、あるいは経済は、欧米の場合、既にコロナ前の水準を回復していますが、残念ながらわが国経済はまだコロナ前の水準を回復しておらず、回復途上にあるということです。そうした状況を反映して、欧米の中央銀行は、金融の正常化というか、金利の引き上げをしようということになっているわけですが、わが国の場合は、経済・物価情勢からみてそういった状況にないわけであり、先ほどより申し上げている通り、引き続き粘り強く金融緩和を続けることによって、経済の回復を助ける、支援するということが最も重要であると考えています。そういう意味で、金融政策運営が特に困難になるということはないと思います。それぞれの金融政策は、それぞれの国の直面する経済・物価情勢に対してどのように対応するかということが重要なわけです。他の国と同じ金融政策を行っているから容易であるとか、違うと大変だ、ということはありません。

(問)今回、連続指値オペの運用の明確化というのが盛り込まれています。これは、日銀として金融緩和継続の姿勢を改めて明確にしたということなのかもしれませんが、先ほど為替が1ドル130円を超えました。実際にこういう文言を盛り込むことによって、円安容認と受け止められて円安を加速させる可能性があるというのも認識なさったうえでのことだと思うのですが、あえてこの文言を盛り込んだ理由というのを教えてください。

もう一点ですが、今、総裁としても円安のメリット・デメリットのバランスをご覧になっているところだと思います。以前、2015年6月、総裁自らが、更に円安に振れていくことはありそうにない、とおっしゃった時が1ドル125円前後でしたから、そこから比べても5円程度円安が進んでいる状況です。まだこの水準でも、日本経済にとってはメリットの方が大きいとみていらっしゃいますか。メリット・デメリットのバランスが変わっていくのは、どのくらいの水準、もしくはどういう状況だとみていらっしゃるのでしょうか。

(答)まず、今回指値オペについて明確化したというのは、指値オペ自体が何か変化するということではなく、あくまでも従来申し上げている「10年物国債金利がゼロ%程度」というイールドカーブ・コントロールの操作目標のもとで、金融市場調節を実施しており、昨年3月の点検でも、長期金利の変動幅は「上下に±0.25%程度」であることを明確化したわけです。日本銀行は、今後ともこうした金融市場調節方針を実現するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行っていきます。その際、海外要因等によって長期金利に上昇圧力がかかった場合でも、金利変動幅の上限をしっかり画する観点から、10年物国債金利について0.25%での指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除いて、毎営業日実施することにしたわけです。これは、金融資本市場の一部で、このオペ実施の有無から日本銀行の政策スタンスを推し量ろうとする動きもみられていたわけですけれども、そうした憶測を払拭して、日本銀行の従来からのスタンスを明確にすることが、市場の不安定性を減じることにつながると考えて行ったわけです。

為替相場の水準については、従来申し上げているように、色々なことを具体的に述べるのは差し控えており、あくまでも為替相場は、経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと考えています。そうした意味で、為替相場が短期間に過度に変動することになると、先行きの不確実性を高めて、企業の事業計画の策定等が難しくなる面がありますので、日本銀行としては、今申し上げたような考え方に沿って、為替相場の変動が経済・物価に与える影響を十分注意してみていきたいと思っています。なお、現状、全体として円安がプラスという評価を変えたわけではありませんが、過度に急激な変動は、今申し上げたように、不確実性の高まりを通じて、マイナスに作用することも考慮する必要があると考えています。

(問)二点お願いします。資源高の影響が減衰した後には、価格転嫁と賃上げによって基調的なインフレが加速するというのが展望レポートの基本的な見通しだと思うのですが、資源高の影響は交易条件の悪化を通じて、日本経済にとってはマイナスに作用しますし、ウクライナ情勢を受けて、IMF等も世界経済に下振れリスクが出ているとして見通しを下方修正しています。そうした中、日本経済には相当下振れリスクが今後高まるようにも思われるのですが、そうした中でも2023年度、2024年度に需給ギャップの改善に支えられて基調的にみたエネルギーを除く物価が1.3%、1.5%と高まっていくとされる根拠を教えて頂きたいというのが一点目です。

二点目ですが、そうした長期的には望ましい形での物価上昇で、中長期的な予想インフレも高まっていくというのが展望レポートの見通しだと思うのですけれども、2024年度、仮に今想定しているように、基調的にみて1.5%まで物価が上昇する姿になる頃には、今のようなコストプッシュのインフレではないので、今の緩和的な金融政策、イールドカーブ・コントロールの修正を議論する余地が生まれるのでしょうか。

(答)一点目については、コロナ感染症の完全な収束に至っておらず、その影響が続いているということで、消費などに下押しの圧力がまだ残っています。しかし、趨勢としては消費の動きも持ち直しつつあり、特にまん延防止等重点措置が解除されて以降、人の動きもだいぶ増えてきており、サービスに対する需要も高まってきています。それから設備投資は堅調な企業収益に支えられてしっかりしているということもあります。従って、経済が回復していくというシナリオ自身は変えていませんが、展望レポートでも示されている通り、2021年度と2022年度の実質GDPの成長率は下方修正しているわけです。他方で、その反動として2023年度の実質成長率は上方修正したということで、IMF等が世界経済について当面の成長率を下方修正したこととも平仄はとれていると思います。そうした意味で、今回の政策委員の大勢見通しは、そういったことも反映しつつ、基調としての回復は変わっていないという考え方に基づいて、見通しを示しています。もとより、当面、成長率について下振れリスクが残っていることは、この政策委員の見通しでも示されているところですので、ウクライナ情勢や感染症の動向、その他の状況についても十分注意していく必要があると考えています。なお、賃金についても、堅調な企業収益を反映して、これまでのところ春闘のベアも数年ぶりにかなり高い水準になっていますので、そうしたことが今後続いていけば、適切な物価上昇率になっていくと考えています。

二点目はそれに関連するわけですが、エネルギー価格は大きく変動していますので、それを除いたところでみた趨勢という意味では、今回お示しした生鮮食品・エネルギーを除いた消費者物価指数で、2022年度は+0.9%、2023年度が+1.2%、2024年度が+1.5%ということで、確かに基調としての消費者物価指数が緩やかに上昇していくという見通しであることは事実です。けれども、1.5%でも2%にはまだ届いていませんし、除く生鮮食品の物価上昇率で言いますと、2024年度でも1.1%という見通しであり、今のところ、こういう見通しの通りであれば、金融緩和の出口を早急に探るということにはなっていないと思います。そういう意味では、粘り強く金融緩和政策を続けていく必要があると考えています。

(問)二点お伺いします。一点目が連続指値オペの件ですけれども、総裁は、指値オペについて、強力な金利を抑える手法ということでおっしゃってきましたけれども、ラストリゾートという言葉も使ったことがあったかと思います。それを常態化させる今回の方針というのは、市場機能を阻害することにならないのか、もちろん金融政策は効果と副作用の衡量で決まるとは思うのですが、その辺りをどのように考えているのか、ご解説ください。

二点目ですけれども、過度な為替相場の変動というのは好ましくないというご説明を繰り返されていますが、結果として今日の決定内容が市場に急速な変化をもたらして、20年ぶりの130円台をつけているわけですが、この動き自体をどう評価されるか、ご見解をお聞かせください。

(答)まず、連続指値オペ、指値オペについて、今回のような明確化をしたのは、あくまでも連続指値オペをするかしないかということで、毎回市場に余計な憶測を招いて市場が変動することはあまり適切ではありませんので、私どもの基本的な考え方――当面ゼロ%程度といった場合には±0.25%の範囲内での変動ということで、それを超えた変動は指値オペも使って防止するという考え方――をより明確にしたということです。なお、市場の機能度云々という点は、変動は一定の範囲内であれば金融緩和の効果を損なわずに市場の機能度にプラスに作用するということではあるのですが、それを超えて金利が上昇してしまうと、ゼロ%程度の長期金利という状況を超えてしまって経済にプラスの影響を与えません。市場機能の維持と金利コントロールのバランスを取るという観点から、先ほど申し上げたように、昨年3月の点検で、長期金利の変動幅について上下±0.25%であることを示したわけであり、今回もそれに沿ったものであるということです。

それから日々の為替の変動については、あまりコメントするのは適当でないと思いますので、コメントを差し控えますが、先ほど申し上げた通り、今回の指値オペに関する明確化というのは、長期金利が0.25%に近づいた時に、指値オペをするのかしないのかといった市場の憶測を回避して、金融緩和政策をより明確にする意味で行ったことであり、これにより、連続指値オペないし指値オペをやるかやらないかでマーケットが動くことは避けられると考えています。

(問)今回の展望レポートでは、インフレ期待についても、短期を中心に上昇していると、そういうふうに判断を引き上げているわけですが、その起点がコストプッシュの物価上昇を受けてのものだと思います。コストプッシュの物価上昇であっても、インフレ期待の持続性はあるのかどうか、価格転嫁とか、賃金上昇、その辺を期待できるのかどうか、総裁のお考えをお願いします。

また、先ほど、指値オペの明確化について、市場の憶測を払拭して変動を抑制するためと、そのようにご説明されたのですが、むしろ、イールドカーブ・コントロールの厳格な運用自体が過度な円安とか変動を招いて、先行きの不確実性を高めているということは考えられないのか、その辺について総裁のお考えをお願いします。

(答)インフレ期待については、今回の展望レポートでも明らかにしているように、そして色々な指標をご覧になっても分かるように、明らかに短期のインフレ期待が上昇しています。これは、いわゆる適合的な期待形成ということで、足許、国際的な資源価格の上昇を反映して、ガソリンその他の価格が上昇していることを反映して、短期のインフレ期待が上昇しているということだと思います。そういう意味で、現状、確かにコストプッシュによる物価上昇を反映して、短期のインフレ期待が上昇しています。もっとも、先ほど来申し上げているように、資源価格が上がり続けるわけではなく、仮に高止まりしてもそれはこれまでのインフレ率を維持する要素になりませんし、実際の物価上昇率は、先行き、むしろ下がっていくとみているわけです。しかも、わが国の場合は資源輸入国ですので、資源価格の上昇が所得の流出につながり、むしろ経済・物価を下押しするという影響があります。そういう意味では、コストプッシュだけで物価が上昇している状況ですと、持続せずに物価上昇率は下がっていき、インフレ期待も下がってしまうことになると思います。ただ、今回の展望レポートでもお示しした通り、生鮮食品・エネルギーを除いた消費者物価指数の状況をみますと、まさにエネルギー価格の上昇、コストプッシュによる上昇の影響ではなく、基本的な経済の回復、デフレギャップが縮小からプラスに転化する、消費や設備投資が伸びていくという中で、基礎的な物価上昇率が緩やかに高まっていくことを示しています。こういう状況では、ある程度インフレ期待もプラスになると思います。ただ、それでも、生鮮食品を除いた消費者物価上昇率は、今年度の1.9%から来年度は1.1%に下がっていくという見通しですので、インフレ期待が十分高まっていくというほどではないと思います。短期のインフレ期待が今上昇しているのは、確かにコストプッシュによる物価上昇を受けてのものですが、それは持続しません。その後の物価やインフレ期待の上昇は、あくまでも景気が回復し需給ギャップが縮小してプラスに転じて、経済が順調に回るという好循環が続く中で起こり得るということです。そこに至るまで、まだかなり時間がかかるということは認めなければなりませんが、コストプッシュによるインフレで、インフレ期待が高まり、それが持続していくということにはならないと思います。

指値オペ自体がマーケットを大きく揺らしているということはないと思います。そもそも欧米の金融政策もありますし、ドル建ての資源価格の大幅な上昇等によって為替市場を含む市場が影響を受けるということは十分考えられます。そうした中で、日本銀行は、金融政策として、10年物国債金利をゼロ%程度に維持し、変動は±0.25%の範囲内であると明確にしています。それにもかかわらず、時折、憶測とともに色々なことが起こったので、指値オペを実施しましたし、毎回指値オペを実施するか否かについての憶測が生じないように、今回、日本銀行の考え方をきわめて明確にして、基本的に必要があれば毎日でも実施することをはっきりさせました。従って、指値オペ自体もそうですし、今回の決定もそれがマーケットを過度に変動させることにはならず、むしろ、より安定させると思います。マーケットが日銀の金融政策に関する憶測を巡って揺れ動くのは適切でなく、それを抑制するための措置ですので、そういったことはないと考えています。

(問)中銀とマーケットとの対話について伺います。足許、通常の金融政策の観点では、国内外でスタンスの違いが際立っていると思います。一方でコロナ危機対応は、日銀も含めて縮小とか終了方向に向かっていると思いますが、今後、国内外の金利差に加え、マネタリーベースの変化も目立つ局面に入り、マーケットの受け取られ方によっては、為替相場ですとか上下に変動し得ることも考えられると思います。特に日銀の金融政策が複雑性を増す中で、市場とのコミュニケーションの必要性や重要性について、日本の金融政策にあまり明るくない海外投資家の目線とかを含めて、現状の認識を伺えればと思います。

(答)いわゆる非伝統的な金融政策手段と言われているわけですが、日本銀行は、量的緩和、それから長期国債あるいはリスク資産の買入れ、その他の非伝統的と言われる金融政策手段を開発して、必要に応じて行ってきたわけです。ご承知のように、今や欧米の中央銀行も、特にリーマンショック以降、そういうことを行ってきましたし、コロナ感染症が拡大して以降は、流動性を市場に幅広く供給するというような色々な措置を講じてきましたので、複雑さという意味では、日米欧で現状そんなに変わらないと思います。そうした中で、欧米がコロナ感染症による景気の後退を克服し、今やコロナ以前の水準にGDPは戻っているもとで、むしろインフレがかなり加速している中で、様々な量的・質的な金融政策手段の調整を始め、更には政策金利を引き上げようとしていることは、欧米の経済・物価情勢への対応として適切なことだと思います。他方で、繰り返し申し上げている通り、わが国経済は、持ち直しているトレンドは変わりませんが、回復のテンポがやや遅く、まだコロナ感染症が拡がる前の水準を回復していません。それから物価も足許0.8%、4月以降でも2%程度、更にその先になるとまた1%強に戻ってしまうというような状況ですので、当然、金融緩和そのものは粘り強く続けていきます。もちろん、コロナ感染症の拡大によって、企業金融を特に大幅にサポートしないといけないという必要性は少なくなっていますので、いわゆる大企業向けはもう終息させて、一方で、中小企業はまだ資金繰りの厳しさが残っていますので、対応はまだ続けていきます。そういった意味でコロナ感染症のもとでの企業の資金繰りに対する特別のプログラムというものは、わが国でも縮小していますし、欧米でも縮小しています。ただ、経済を完全に持続的成長の軌道に戻し、そして消費者物価が安定的に2%に達するように進むには、まだかなり時間がかかるということです。金利であれ、マネタリーベースであれ、欧米と動きが異なるということは、それぞれの経済・物価情勢に応じた金融政策なのであり得ると思いますが、それ自体が何か特別な困難を引き起こすということはないと思います。というのは、常に困難なこととして、自分の国の経済・物価の状況について色々なトレードオフがあり、どういう金融政策が適切かは、常に考えて行っていかなければなりませんし、必要に応じて、それぞれの国に応じた政策の調整も行っているということだと思います。

(問)連続指値オペについてですけれども、先ほど憶測が生じて市場が不安定になることを減じる効果があるとお話がありましたけれども、このディレクティブに基づいて今後日々運用していくことで、日銀のスタンスへの認識が市場に定着すれば、却って0.25%付近で売りを仕掛けて、日銀の反応を試すような動きというのが減っていくことを、総裁は期待されているのでしょうか。併せて、その結果として、防衛ラインの0.25%で国債を買うとマネタリーベースが増えるということが結果的に減る、こういう効果があるということも見通しているのかを伺います。

(答)もちろん無用な憶測を呼んで金利が無用に変動する、金融資本市場が無用に動くということは防止できると思います。そういう意味では、そういうことを反映して、0.25%に向けてポジションを無理に拡大するといった動きがなくなる可能性はあると思います。いずれにせよ、日本銀行としては、±0.25%を超えて金利が上昇してしまうのは適切でないですし避けたいと考えています。そこで、それを安定的に防止するために、必要に応じて長期国債を買い入れるということもしていますし、マーケットが海外の長期金利その他を反映して動き出すときに、余計な思惑から過度に金利が動くことは防止したいということであり、国債の買入れを減らしたいとか、そういうことではありません。

(問)日銀法4条との関係で、今回の決定について伺いたいのですが、政府と連絡を密にして十分な意思疎通を図る、と定められています。岸田内閣は一昨日、物価高に対応した緊急経済対策を発表し、物価高および円安への対応に追われている状況です。一方で、今回、日銀の金融政策で結果的に更なる円安進行も厭わないような決定がなされたことで、一般国民からみて、政府と日銀が一体になって政策を運営しているのか、方向性が分かりづらいという意見があり得ると思うのですが、政府との連携について総裁はどうお考えでしょうか。

(答)そういった誤解は解かないといけないと思いますし、そんなことにはなっていないと思っています。そもそも、最近の物価情勢は、ウクライナ情勢を受けた世界的な資源価格の上昇が主因であり、資源輸入国であるわが国経済にとってはむしろ下押し要因になるといった点では、日本銀行と政府の間で基本的な認識の違いはないと思っています。こうした状況では、経済活動をしっかりと下支えすることが何よりも重要ですので、日本銀行としては、金融緩和を粘り強く続けることで、企業収益や賃金の増加を伴う好循環のもとでの2%の「物価安定の目標」の安定的な実現を目指していくということです。一方、政府は、3月上旬に「原油価格高騰に対する緊急対策」を実施し、一昨日も新たに、「コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」」を決定しています。これらの対策は、ガソリン補助金や低所得世帯への給付金等を通じて、エネルギー価格の上昇が国民生活や企業活動等に与える悪影響を緩和して、景気の下支えに貢献するものと理解しています。政府と日本銀行で認識が異なるとか、政策が異なるということはなく、むしろ相互補完的な政策だと考えています。

(問)日銀が再三にわたって金融緩和政策を維持する意思を強調しているにもかかわらず、総裁もおっしゃる通り、市場に政策修正を巡る憶測・観測が消えない背景として、長期金利操作に関する政策の変更というのはなかなか事前に市場に織り込ませる手法が使いにくい点があると指摘されます。短期金利操作や量的緩和と違って、長期金利を操作対象にする政策の場合、事前に政策修正に関する情報発信をすると、すぐに操作対象である長期金利が変動してしまう、上がってしまうという事情があるということですが、イールドカーブ・コントロールというのは、前もって円滑に市場と対話をしつつ政策修正に向けて準備していくという手法が果たして使える政策なのかどうか、その点についての総裁のお考えをお聞かせください。

(答)なかなか理論的に難しいご質問ですけれども、短期金利だけを政策手段として長期金利は一切タッチしないという政策は、短期金利を操作することによって、短期金利の将来の動きの期待が変わって長期金利が変わるということでしょうけれども、むしろそちらの方がマーケットがどうとらえたらいいのかというのは簡単ではありませんので、よりマーケットとのコミュニケーションがスムーズだとも言えないと思います。それから、欧米もわが国と同じように長期国債やリスク資産の買入れを行っていますが、明らかに長期金利をコントロールしようということで行っているわけで、その長期国債の買入れを減らしていくこともマーケットにどう取られるかというのは、そんなに簡単ではないと思います。従って、イールドカーブ・コントロールだと特にマーケットとのコミュニケーションが難しいとか、調整が困難になるということはありません。元々「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の前は、短期金利と長期国債等の買入れという欧米の中央銀行と同じようなことを行っていました。その中で、経済に最も適切なイールドカーブを実現するためには、直接的に長期金利の目標を定めて、それに必要なだけの長期国債の買入れを行うということにしたわけです。というのは、ご案内の通り、各経済主体の経済行動に影響するのはやはり金利であって、長期国債の買入れ額が幾らかということは報道されているので分かりますけれども、各経済主体の経済計算上はあくまでも金利が第一です。アベイラビリティももちろん影響しますが、そういう意味で、日本銀行としては短期金利操作と長期国債等の買入れを含む「量的・質的金融緩和」から「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に転換した、つまりイールドカーブに変えたということは、金融政策の効果をより明確にする、その効果の程度を中央銀行としてもよく理解し、それをマーケットにもよく理解してもらい、より効果的・持続的な形にしたということです。イールドカーブ・コントロール自体が調整が特に難しい、先ほども申し上げた短期金利操作と長期国債の買入れというかつて日本銀行が行っており、欧米の中央銀行が行っている仕組みと比べて、コミュニケーションがより難しいとか、あるいは政策の調整が難しいということはないと思います。難しいときは同じように難しいですし、市場とのコミュニケーションは引き続きどちらにしても努力していく必要があるということだと思います。

(問)先ほどの政府との関係の質問の関連でお伺いします。経済対策全体では補完的であるということは分かったのですが、為替に関して言うと、財務大臣は度々会見などで、時には悪い円安という言葉も使いながら円安の加速をけん制しています。今回の決定は少なくとも円高の方に振れるような内容ではなく、どちらかというと円安を促すような内容に結果的にはなっていると思いますが、これはある程度独立した組織が別の対象を目標に定めて行っている以上、しょうがないという認識でしょうか。

(答)今回の政策が従来の政策に比べてより円安を促すようなものとは思っていません。あくまでも日本銀行の金融緩和政策に関する色々な市場での思惑が金融資本市場を揺れ動かすのは避けたいということで行っています。また、為替についても、従来申し上げている通り、為替相場は経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいということであり、最近の為替市場でみられた急激な変動はマイナスに作用すると認識しており、こうした点は鈴木財務大臣と基本的に同じだと思っています。

以上