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総裁記者会見要旨 2022年9月22日(木)
午後3時半から約65分

2022年9月26日
日本銀行

(問) 本日の金融政策決定会合の決定内容についてご説明をお願いします。

(答) 日本銀行は、本日の決定会合において、「新型コロナ対応金融支援特別オペ」を段階的に終了しつつ、幅広い資金繰りニーズに応える資金供給による対応に移行していくことを、全員一致で決定しました。

具体的には、コロナオペのうち、感染症対応にかかる中小企業等向けのプロパー融資分については、期限を半年間延長し、来年3月末に終了します。制度融資分については、バックファイナンス措置としての利用ニーズは明確に低下していますが、実務面の円滑な移行を確保するという観点から、直ちに終了するのではなく、本年12月末に終了します。いずれについても、期限までの間は、毎月1回、3か月物のオファーを行います。そのうえで、コロナオペの期限到来後も中小企業等の資金繰りを支えるとともに、感染症の影響だけでなく、例えば、原材料価格上昇に伴う運転資金需要などへの対応も含めた幅広い資金繰りニーズに応える観点から、幅広い担保を裏付けとして資金を供給している「共通担保資金供給オペ」について、金額に上限を設けずに実施することとしました。

わが国の金融環境をみますと、全体として緩和した状態にあります。感染症の影響は、中小企業等の一部になお残存していますが、これらの中小企業等の資金繰りも改善方向にあります。日本銀行としては、コロナオペのような急性の危機対応としての措置は、状況変化に応じて段階的に役割を後退させつつ、幅広い資金繰りニーズへの対応に軸足を移していくことで、企業等にとって緩和的な金融環境を引き続きしっかりと維持していく考えです。

加えて、本日の決定会合では、長短金利操作のもとでの金融市場調節方針について、指値オペの運用も含め、現状維持とすることを全員一致で決定しました。資産買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。

次に、経済・物価動向について説明します。わが国の景気の現状については、「資源価格上昇の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、総じてみれば緩やかに回復していますが、先進国を中心に減速の動きがみられます。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しています。企業収益は全体として高水準で推移しています。こうしたもとで、設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境は、一部で弱めの動きもみられますが、全体として緩やかに改善しています。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しています。先行きのわが国経済を展望しますと、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられます。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、2%台後半となっています。また、予想物価上昇率は上昇しています。先行きは、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めた後、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想されます。この間、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、基調的な物価上昇圧力は高まっていくと考えられます。

リスク要因をみますと、引き続き、内外の感染症の動向やその影響、今後のウクライナ情勢の展開、資源価格や海外の経済・物価動向など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問) 米国の利上げ観測から円安ドル高が進んでいます。この急速な円安が日本の物価や経済全般に与える影響をどうみていますでしょうか。また、総裁は従来円安が進むスピードについてマイナス面を指摘されていますが、24年ぶりにまで達したこの円安水準そのものについても、日本経済へどのような影響を与えているか、ご見解を伺えればと思います。

(答) 為替円安の経済への影響、これは企業と家計、企業の中でも業種や規模により異なります。グローバル企業には収益押上げ要因となる一方、非製造業や中小企業にはマイナスの影響が大きくなります。また、物価面では、既往の資源高と併せて、輸入物価の上昇とその価格転嫁を通じ、足元を中心に消費者物価を押し上げています。家計にとっては、賃金上昇につながるまでは、実質所得の減少などを通じて、個人消費を下押しする要因となります。経済全体として所得から支出への前向きの循環が強まっていくためには、円安によって収益の改善した企業が、設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることが必要です。また、現在の為替変動の背景として、市場では資源高に伴う需給要因に加えて、内外金利差に市場参加者の注目が集まっています。しかしながら、内外金利差拡大の背景には、米国のインフレ見通しの上振れがあり、また金融引締め自体は米国景気の下押しに働きます。こうした逆方向の要因も含めて様々な要因があるにもかかわらず、円安が進んできたことは一方的な動きであり、投機的な要因も影響しているのではないかと考えられます。こうした円安の進行は、企業の事業計画策定を困難にするなど、先行きの不確実性を高め、わが国経済にとってマイナスであると思います。望ましくないと考えています。日本銀行としては、政府とも緊密に連携しつつ、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視していく方針です。

(問) このほど発表された8月のCPIでは生鮮を除くコアで前年同月比2.8%、エネルギーも加えて除いたコアコアでも1.6%もの上昇率を示しています。また、本日の決定会合文書でも「基調的な物価上昇圧力は高まっていく」との表現があります。日銀として、現在の物価上昇への受止めや、今後の2%目標達成に向けた地合いについて認識が変化しているということなのでしょうか。見解をお願いします。

(答) ご指摘の通り、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は+2.8%となっています。先行きは、携帯電話通信料の下押し寄与が剥落することに加え、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、本年末にかけて上昇率を高める可能性が高いと考えています。その背景としては、主として国際商品市況や為替円安の影響によって輸入品価格が上昇していることが影響しています。年明け以降は、それらの押上げ寄与が減衰することで、物価上昇率のプラス幅は縮小していくと考えています。こうした海外からのコストプッシュ要因を除いた物価の基調的な動きをみますと、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、物価上昇圧力は高まっていくと考えられます。このように、基調的な物価が緩やかに上昇していくという点は、7月の展望レポートで述べた認識と変わっていません。ただ、先ほども申し上げた通り、年明け以降、コスト高の押上げ要因が一巡してくるため、来年度以降の消費者物価は、2%を下回る水準まで低下していくと予想しています。

(問) 今の質問に関連してですが、物価の現状と日銀のマンデートとの関係についてお尋ねします。先ほど来言及されている通り、8月のCPIは2.8%、今後3%に達するともみられています。総裁がかねておっしゃる通り、欧米のCPIに比べれば低いですが、日本のこれまでの物価の状況に鑑みると、家計の負担感というのは数字以上のものがあるかと思います。金融政策の違いを背景とした円安の加速が物価高騰に拍車をかけている中で、今の大規模な緩和路線が物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資するという日銀のマンデートと齟齬を生じさせていませんでしょうか。総裁のご見解をお聞かせください。

関連でもう一つ、総裁は、前回7月の会見で金利を引き上げるつもりは全くありませんとおっしゃいました。緩和を維持するという強い姿勢を示されたものと理解しますが、こうした発言が外国為替市場で円を売りやすい状況を作っているという指摘もあります。こちらも総裁のご見解をお聞かせください。

(答) 先ほど申し上げた通り、最近の急速な円安、それから既往の資源高、この両者が相まって輸入物価の上昇をもたらして、その価格転嫁を通じて消費者物価の押上げ要因となっているということはその通りです。そのうえで、やはりわが国経済は、コロナ禍からの回復途上にあります。第2四半期の成長率はかなり高かったですが、レベルとしてはコロナ感染症前の2019年のレベルにまだ達しておらず、まだ回復途上にあるということです。更には、ウクライナ情勢を背景とした資源高が、交易条件の悪化を通じて海外への所得流出につながって、景気の下押し圧力になってしまうということです。こうした状況を踏まえると、現在は経済を支えて、賃金の上昇を伴うかたちで2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することが必要であって、金融緩和を継続することが適当であると考えています。今回の金融政策決定会合における委員方の考え方も、全くその通りだったと思います。そうしたもとで、今申し上げた通り金融緩和を続けるということであり、冒頭申し上げた通り、必要があれば追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利についても、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移するということを想定しているということであり、金融緩和を当面続けるということには全く変わりありませんので、当面、金利を引き上げるというようなことはないと言ってよいと思います。これは先ほど来申し上げている通り、日本の経済・物価の動向を十分分析して、今後の展開も想定しつつ、最適の金融政策はどういうものかということを十分議論して、こういう金融緩和の継続という結論になったわけです。

(問) 二問お願いします。一問目なのですが、今回は金利のガイダンスを含めたフォワードガイダンスについても変更ありませんでした。今後、このガイダンスを修正するタイミング、あるいはその条件といったものはどのようにお考えなのかというのが一点目です。

二点目なのですが、マイナス金利についてです。ECBを始め主要中銀の多くは利上げをしていることにより、マイナス金利を脱しています。そうした中、日銀は景気を支えるために継続しているわけですが、このマイナス金利を続けることの根拠と、そのマイナス金利という政策の効果・副作用についての評価をお願いします。

(答) フォワードガイダンスにつきましては、先ほど来申し上げている通り、従来のフォワードガイダンスを維持しました。感染症の抑制と経済活動の両立が進んでいるわけですけれども、まだ依然として感染症の影響を受けていることは事実ですし、先行きにつきましても経済の下振れをもたらす要因として注意が必要です。従って、そういったことを踏まえたフォワードガイダンスを維持し、かつ、また金利についても先ほど申し上げたようなことを述べたわけです。将来、フォワードガイダンスを変更することがあり得るかというと、それはもちろん、その時々の金融政策としてあり得るとは思います。もっとも、当面、あくまでも経済の回復を支援し、2%の「物価安定の目標」を賃金の上昇とともに持続させるという観点から、今の時点でフォワードガイダンスを変更する必要はないと思います。変更する場合も、具体的にその時の経済・物価の状況を踏まえて行われることになると思います。当面、変更は必要とは考えておりません。

金利につきましては、-0.1%を日本銀行における金融機関の当座預金全体に付しているわけではなくて、政策金利残高に付しているだけであります。それによって、短期金利が-0.1%前後で安定するという効果があることは事実ですけれども、他方で、金融機関の財務に関する影響はできるだけ小さなものにするようにしていますし、現在、このマイナス金利、-0.1%のマイナス金利が何か大きな副作用というか問題を引き起こしているということはないと思います。いずれにせよ、これは金融政策全体というか金利政策の一環であり、かなり大きなマイナス金利を導入していた国もインフレ率が8%から10%というような状況になって、金利を引き上げていくという過程の中で、マイナス金利もなくなっているということです。経済・物価状況が違う国と比較して、あちらがマイナス金利がなくなったから、日本もマイナス金利をなくす必要があるということにはならないと思います。

(問) 米国では今回のFOMCで、景気の見通しを大幅に引き下げています。6月時点の1.7%から0.2%に引き下げたということなのですが、そのインフレ抑制のために、景気を冷やさざるを得ない状況になっています。日本にそうした影響というのは、どのくらい波及するとみていらっしゃるでしょうか。従来の日銀の景気見通しを引き下げる必要が出てきそうでしょうか。

あともう一つは、その一方で足元の国内の景気の状況というのはどうご覧になっているでしょうか。企業物価指数も過去最高を記録していまして、これは黒田総裁が重要視していらっしゃる賃金アップ、ここに回す余裕がなくなってくるということなのかもしれないのですが、その企業、それから家計への影響をどうご覧になっているか、教えてください。

(答) 他の国の金融政策について、何か具体的にコメントするのは僭越だと思いますが、FOMCが今回も含めて金利を引き上げているということ自体は、米国のインフレ率がきわめて高い水準にあり、そういった面からやはり金融引締めが必要ということで行われていることだと思います。その結果として、もちろん経済成長率が従来想定していたよりも米国において低下する可能性はあるわけですし、FOMC自体も2022年の経済見通しを引き下げています。そのことで日本経済とか世界経済にどのような影響が及ぶかということ、もちろんそれは日本を含む他の国の米国に対する輸出に影響が出るとか、あるいは米国の金利引き上げで他の国の金融市場に影響が出てくるとか、色々なことがあり得ると思います。現時点で日本経済にとって、経済見通しを引き下げなければならないという新たな、従来みていた以上に大きな影響が出てくるとは考えていません。

そのうえで、最初に申し上げた通り、わが国経済は最近時点では比較的順調に景気が回復しつつあります。ただ、レベルはまだコロナ感染症が広がる前のレベルに達していないので、当然のことながら需給ギャップもまだ残っており、やはり経済回復途上にあるということで、金融緩和を継続する必要があると思っています。そのうえでPPIがかなり上がっているのは、主として輸入物価の上昇によるものですが、他方で企業収益の状況は大企業の場合、最近の法人季報でも史上最高のレベルにあります。他方で中小企業とかサービス関係は、コストアップをまだ完全には価格転嫁できていないということで収益に若干のマイナスの影響が出ていることはその通りですが、全体としての企業収益のレベルは高水準にあります。この夏のボーナスもかなり高い水準だったようですし、賃上げを抑制せざるを得ないような状況になっているとは考えていません。むしろ、私どもとしては冬のボーナスもさることながら、来年の春闘がはっきりと賃金の上昇をもたらすのではないかと期待しているところです。

(問) 7月の会見の際にドル独歩高であるということをおっしゃられています。ただ、今比較してみると、相対的に円が下がっているような印象を受けます。今はドル独歩高なのか、それとも円だけ下がっているのかということをお伺いしたいです。

そして物価の番人、日本銀行黒田総裁にお伺いしたいのですけれども、やはり消費者に近いところで下押し圧力、かなり値上がりで苦しんでいる人も多いのですけれども、今の現状で打つ手があるとすればどういうことが考えられますでしょうか。

(答) ドルの独歩高であるということは、私が特に唱えているという話ではなく、諸外国でも言われている話です。というのは、わが国は金利を全然上げていませんし、政策金利は-0.1%で、10年物国債の金利はゼロ%程度ということですが、ユーロ圏あるいは英国、隣の国の韓国などは、相当政策金利を上げていますし、長期金利などは米国よりも高くなっている国が多いわけです。確かに、年初と比較して円が2割近く対ドルで減価していますが、ポンドも16%以上低下していますし、ユーロも13%くらい低下しています。英国の長期金利の上昇幅は、米国の長期金利よりもずっと高くなっていますが、ごく一部の資源国を除けば、世界の通貨は殆ど対ドルレートが下がっており、米国の人自身も、エコノミストも、一種のドルの独歩高であるということを認めているわけです。ただ、それはそういうことであるということだけで、それ以上の意味はありません。

もう一つの点は、私どももよく存じていますし、様々なデータを活用して、その影響をよく注視しているところです。従って、その点については同じ意見であると思います。他方で、金融政策として何をするかということになれば、これはマクロ的な経済・物価に対する対応策ですので、先ほど来申し上げている通り、コロナ禍からの回復途上にある経済を支える必要があり、更には資源価格の上昇によって、国内の所得が海外に流出して、景気を下押しするという状況ですので、やはり金融政策、マクロ政策としては、引き続き経済の回復を支援するということが必要であると思います。他方で、政府がガソリンや電力料金、小麦の価格等について、上昇を抑制するような財政措置をとっておられますし、それから低所得者に対する所得補助を強化するといったことは、まさに現在の物価上昇、特にエネルギー、食品の上昇が低所得者層を中心に大きな影響を与えているということに対する、まさにミクロ的な、適切な対応策であると思っています。

(問) 総裁は、先ほどからフォワードガイダンスと金利の利上げについて、当面は必要ないということをおっしゃっていますが、そうなると当面というのがどれくらいかということが市場の中で話題になるかと思います。前回の会見でも、冬のボーナスや春闘を挙げられていますけれども、当面というのは、3か月とかそういうことではなくて、結構長いスパンのことをおっしゃっていらっしゃるという理解でよろしいでしょうか。

(答) それはその通りです。というのは、前回の展望レポートでは、2022年度、23年度、24年度と物価見通しを示していますが、2023年度、2024年度の物価上昇率は、やはり1.5%くらい、1%台半ばというような見通しになっています。今年度の物価上昇率は、おそらく前回の展望レポートのときよりも高くなると思うのですが、基本的なメカニズムは同様であって、やはり来年度以降、物価上昇率が今年度よりも下がって、2%を割るということはほぼ確実だと思います。そういった面で、フォワードガイダンスというのはあくまでも、もちろん経済・物価情勢に対応したものですので、物価の情勢がそういうことであれば、フォワードガイダンスを変更しようというのは、それ自体としては、金利の見通しといい、マネタリーベースについてといい、フォワードガイダンスというのは、やはり当面、当面というのは、数か月の話ではなくて、2から3年の話というふうにお考えになって頂いた方がよいと思います。ただ、そうは言っても、その中で経済・物価情勢に合わせた微調整ということはあるかもしれません。ただ、基本的なフォワードガイダンスの変更というのは、やはりあくまでも経済・物価情勢の転換によって、金融緩和政策を修正していくというような時点で考えられることではないかと思っています。

(問) 市場の動き、特に国債市場の動きについて、総裁が今の時点でどのようにご覧になっているのか教えてください。というのも、10年物の取引が2日連続でなかったり、日銀のサーベイでも機能度が悪化しています。また、これは新しいことではないですけれども、指値オペにテイクアップというか、応札が入ってきたりしています。会合前に特にそういった動きが多くなっているのですけれども、こういった動きについて、総裁はどのようにご覧になっているでしょうか。

(答) ご指摘の通り、8月の債券市場サーベイをみますと、債券市場の機能度判断DIは、前回5月の調査との比較でマイナス幅が拡大しています。こうしたDIの変化は、海外金利の変動の高まりもあって、先物や超長期ゾーンを中心に債券市場におけるボラティリティが上昇していることなどが影響しているのではないかとみています。日本銀行としては、従来から国債市場の機能度に配慮して様々な手段を講じてきました。最近では、国債市場における流動性の低下や、現物市場と先物市場の間で裁定が働きにくい場面が生じたことへの対応として、チーペスト銘柄などにかかる国債補完供給の要件緩和なども実施してきています。債券市場の動向については、引き続き注意深くみていきたいと思っています。

(問) 神田財務官からは、いつでも介入のスタンバイができているというような発言もありました。それだけ円安に警戒しているものというふうにも受け止めました。そうであるならば、むしろ円安の原因である金融緩和を少し弱めるなど、そういった選択肢はないのでしょうか。

(答) 為替介入の話は、あくまでも財務大臣の所管であり、私から色々なコメントをすることは差し控えたいと思います。なお、為替変動の原因については様々な要因があるということはご承知の通りで、最近この内外金利差、特に日米の金利差が市場で非常に注目されて、それが影響していると言われているわけです。先ほど申し上げた通り、他の国で金利をかなり引き上げて長期金利が米国よりも高くなっている国も含めて、対ドルでかなり為替が下落しています。従って、今の為替動向を日米金利格差だけで説明したり、云々するということはいかがかと思います。また、そういうことをいえば米国が金利を上げたから悪いという話になってしまいます。私はそのようには思っていません。米国は物価上昇率が8%とか9%になったわけですので、中央銀行としては金利引き上げを含む金融の引締めをして、物価を2%の安定目標に近づけるということは当然であると考えています。

(問) もっとこの先150円台とか円安がどんどん進んでいった場合でも、それでも緩和を続けられるということでしょうか。

(答) 為替の先行きについて言うと大体失敗しますので、私は為替の先行きについて何とも申し上げかねます。

(問) 総裁の物価認識について改めてお尋ね致します。8月のジャクソンホール会合で、総裁は日本のインフレのほぼ全てが、商品価格の上昇によるものだと発言されたと報じられています。このことは、日銀が公表している輸入物価指数の足元の寄与度に照らせば、誤った表現ではないかと思います。その日本の交易条件の悪化に為替の要因が与える影響について、改めて総裁の見解を伺います。

(答) 私はジャクソンホール会合でそういった発言はしていません。それで、為替の動きと輸入物価の動きは、色々な状況で変動しているわけですが、最近時点ではドル建ての資源価格の上昇とほぼ同じくらいの影響を対ドルレートの下落が与えていることはその通りだと思います。ただ、数か月前は3分の1足らずだったわけですが、現時点では資源価格が下がり、石油も下がり、銅も下がり、小麦も下がっているということもあるとは思いますが、輸入物価に対して為替レートが影響しているということは事実であり、それを否定したことはありません。

(問) もう一点お願いします。今後の為替動向次第で、政府から日銀法4条に基づいて、その政策に協力の要請があった場合に、日銀として、その円安に対応する用意があるのかどうかの見解をお願いします。

(答) そういったことは予想もしていませんし、そんなことはないと思います。

(問) 物価に対する総裁の認識について、改めてお尋ねさせてください。市場では生鮮食品を除く消費者物価指数の伸び率が年内に3%以上になる可能性があるとの予想もあります。物価上昇が続くことに国民の懸念が強まっている中で、物価は安定していると言えるのでしょうか。

もう一点が、経済の好循環が実現できていない状況の中で、黒田総裁が任期中に、物価安定に対する使命を果たす観点から、金融政策を修正する可能性はあるのでしょうか。

(答) 現在の消費者物価の上昇は、2.8%と相当高くなっていますし、年内に更に上昇する可能性もありますが、先ほど来申し上げている通り、来年度以降はまた2%を割る水準まで落ちていくとみています。それはなぜかといえば、需給ギャップがなくなって更にプラスに転化し、賃金が上がっていくという中で物価が上がっていくというかたちになれば、持続的・安定的に2%を達成できるということになると思います。けれども、現時点では基本的に輸入物価の上昇が消費者物価の上昇に反映され、そしてその影響は来年度以降減衰していって2%を割るということで、いわゆる好循環、賃金が上がり物価も安定的に上がっていくというかたちには今はなっていません。このままでは来年もまだならない、再来年もなかなか難しいという状況ですので、現時点で金融政策として経済の回復を支援しています。交易条件悪化によって所得が海外に流出して景気の下押し圧力が加わっているわけですので、それにも対抗して金融緩和を続けています。それによって需給ギャップがプラスに転換し、賃金も上昇していく中で、安定的に2%の「物価安定の目標」は達成されるということを目指して金融政策を運営しています。これは日本銀行の物価安定のマンデートにも即していますし、少なくとも現時点の2.8%の物価上昇が好ましい状況にはみられないということです。金融緩和を続けて、賃金が上昇し物価も安定的に2%程度上昇するという状況を作り出すことが、日本銀行としての使命であると考えています。

(問) 賃金のことでお伺いしたいのですけれども、総裁は再三賃上げが重要だというお話をされているかと思います。最終的には賃金を決めるのは企業経営者だと思うのですけれども、状況をみて、今年度は結構コストプッシュがすさまじい中で、多くの企業が価格転嫁している状況で、物価も今年は相当上がっていくと思います。そうしますと来年企業がそれなりの賃上げをしなければならないというような環境ができるかと思うのですけれども、過去にも人手不足があったり、なかなか賃金が上がらなかった状況で、賃上げを巡る環境が過去と比べてどのように違って、それが企業経営者に更なる賃上げの圧力というか要請みたいなものが見受けられるのか、その辺の状況をお伺いしたいのですけれども、よろしくお願いします。

(答) 冒頭も申し上げた通り、賃金は経済活動全体の持ち直しを反映して緩やかに増加しているわけですけれども、特に所定内給与の前年比は緩やかな増加を続けているほか、先ほど申し上げたように、夏のボーナスは高水準の企業収益を反映して製造業を中心に対前年比ではっきりとした上昇を示しています。先行きについては、やはり賃金は緩やかな上昇を続けると予想していますけれども、何といっても全体としての需給ギャップがプラスに転化するという景気全体の改善ということが非常に重要です。その中でも、例えば旅行とか外食などにおけるペントアップ需要が顕在化して、対面型サービス部門に多い非正規雇用の賃金で徐々に上昇基調が明確になっていくとみています。また、輸出や生産、設備投資が供給制約の緩和に伴って回復する中で、製造業でも賃金が上昇すると見込んでいます。いずれにしても、基本的に労働需給が引き締まっていくもとで、来年度以降、労使間の賃金交渉において物価上昇率の高まりも勘案されるとみられることから、賃金の上昇率は高まっていくと予想しています。

なお、2010年代は実質GDP成長率は1%台前半ぐらいだったのですけれども、賃金・物価の上昇率は1%にも満たないという状況だったわけです。その背景には、一つには女性や高齢者を中心に500万人以上といわれる新規の労働者が出てきたわけです。それが成長を支えた面もありますし、他方で成長が実現し企業収益も伸びた割には、女性や高齢者はパートの人が多かったこともあったかもしれませんけれども、賃金の上昇率はあまり高まらなかったと。物価も1%未満で推移したと。ただ、ご承知のように、既に女性の就業率は米国を上回っています。それから、ベビーブーマーはもう75歳以上の後期高齢者に入っていきます。従って、2010年代のように大量の女性や高齢者の労働力が経済の拡大に沿って出てくるというよりも、労働力の移動、いわば生産性の低い企業・産業から生産性の高い企業・産業の方へ移っていく、その過程でまた賃金の上昇ということもあり得ると思っていますので、従来と少し賃金を巡る状況は変わってきていると認められます。もっとも、やはり何といっても全体の経済が成長して需給ギャップがプラスに転化していくという過程の中で、労働市場がタイトになり賃金が上昇するということが一番基本的なメカニズムだと思います。今のところ、そちらの方向に向かっていると思うのですけれども、経済については先ほど来申し上げているような色々な不確実性がありますし、リスクもありますので、その辺りは十分注意して政策の運営をする必要があると思っています。

(問) 声明文にあります、金融・為替市場の動向やわが国経済・物価への影響を十分注視という文言ですけれども、確か6月から明記されていると思うのですが、実際、為替の円安の影響、リスクというのはどのぐらい度合いが変わってきているのか、それからリスクというのは具体的にどういったものを想定されていて、どういったリスクが顕在化された場合に金融政策で対応するということになるのか、この辺のお考えをお聞かせ願えればと思います。

(答) 金融政策は為替レートをターゲットにしていませんので、あくまでも経済・物価、特に物価動向との関係で、為替や金融市場をよく注視しているということです。

(問) 日銀は来月に創立140年を迎えますけれども、節目でもありまして、歴代総裁の中でも長く務められている黒田総裁にお伺いしたいのですけれども、日本の中央銀行としての主な役割、もっと言いますと、その存在意義のようなところに、どのような考えを持たれているのでしょうか。創立に至った背景とかは伝え聞きますけれども、時代が移り変わる中で、社会の要請などによって、そういった意義みたいなものは変わり得るものなのか、それともある程度一貫したものを堅持というか守り続ける必要があるのか、そういった観点も含めて伺えればと思います。

(答) 中央銀行は色々な歴史があって、各国それぞれの社会経済情勢を反映した動きがあったわけですけれども、現時点では先進国の中央銀行というのは殆ど全て、物価の安定ということを最大の目標にしている、この点は日本銀行も含めて変わらないと思います。

(問) 8月のCPIについてお尋ねをします。先ほど来、2.8%の上昇であったというお話がありますが、もう一つ特徴として、サービスも上昇に転じたということがあると思うのです。これも含めて、展望レポート等で示されています日本銀行の展望、想定の範囲内ということになりますか。見解をお聞かせください。

(答) 現時点で、前の展望レポートでみていたよりも、2022年度の物価上昇率が高めに出てくるということは十分あると思っています。ただ、そのことは、先ほど来申し上げている通り、基本的にはエネルギーや食品、耐久財──特に家電製品などは輸入が多いのですけれども──の価格上昇が一番効いているということは事実だと思います。欧米と比べますと、やはりサービス関係の価格の上昇というのは、まだ鈍いということは言えると思います。

(問) 仮に、政府が為替安定のための円買い介入を実施した場合、相応の規模で実施されれば、円資金が市場から吸収され、それ自体は市場の金利上昇要因になり得ると思います。先ほど来総裁がおっしゃる通り、金融政策は為替相場ではなく、経済・物価情勢を踏まえて実施するということであれば、そういった金利上昇圧力を相殺するために、資金を吸収するなり、いわゆる不胎化のようなことをされるのか、その場合に介入にどのような効果が生じるのかを含めてご所見をお聞かせください。

(答) 介入の効果や介入の判断ということについては、財務省の権限と責任ですので、私から何か申し上げることはありませんが、ご案内の通りYCCをしている以上、ご指摘のようなことがあっても、現在の金融政策の中で自動的に、そういった円資金の引締まりというのは解消されてしまうと考えております。

(問) 日銀の国債買入れについてお伺いしたいと思います。日銀の長期国債の保有比率が49%超え、5割超えに迫っています。以前、2年前に総裁にこの話をお尋ねしたときに、金融政策でやっている限りは、仮に日銀の保有比率が6割、7割になろうと、財政ファイナンスではないというお話を以前されておられました。今、その連続指値オペを導入したことによって、より蓋然性が高まったというか、現実味を帯びてきたと思うのですけれど、現時点でも今でも、仮に6割、7割になったとしてもそれは財政ファイナンスではなく、金融政策上の問題であって問題ないということなのかどうかを、お伺いしたいと思います。それと、そもそもここまで増えてしまった国債保有を減らすおつもりがあるのか、将来ですね、減らすおつもりはあるのかということをお伺いしたいと思います。

(答) 前に申し上げた通り、日銀の国債買入れは、あくまでも2%の「物価安定の目標」を実現するという金融政策目的で実施しており、政府による財政資金の調達支援を目的としたものではありません。このため、財政ファイナンスでないということです。それは今でも変わりません。

(問) 今日、コロナオペの方については終息する方向を表明されたわけですけれども、急性の措置の代わりに、新たな緩和的な環境を維持するために資金供給制度を設ける、資金供給を行うわけですけれども、マイナス金利制度を導入して緩和的な環境があるうえに、更に現状でどうして追加措置として緩和的な環境を作らなくてはいけないのか。各国は資源高に直面しながらも金融引締めにいっている一方で真逆の動きのようにもみえるのですが、その辺、懸念とかご説明頂ければと思います。

(答) 欧米各国はご承知の通り8%から10%のインフレで、当然、金利の引き上げ等の金融引締めを行うというのが当然のことです。わが国の場合は、先ほど来申し上げている通り、足元で2%台後半ですけれども、来年度以降は2%を割る水準にまた戻ってしまうという状況です。従いまして、物価の状況が違うもとで金融政策が異なるというのは、ある意味で当然であると思っています。なお、コロナオペも、それから今回、金額に限度なく認めることにした「共通担保資金供給オペ」も、-0.1%のマイナス金利を付すことで短期金融市場の金利を引き下げることも、全体として資金の調達が容易になるようにはなっているわけです。他方で、先ほど来申し上げているように、コロナの状況で非常に資金繰り支援の必要性が出てきて、それに対応して特別のオペをやってきた、それはほぼ目的を達成し、今や終了してもよい状況になったので段階的に終了するわけです。もっとも、輸入原材料価格の上昇などによって、そのための資金繰り支援ニーズも出てきている状況ですので、コロナオペは段階的に終了していく一方で、そうした輸入原材料ファイナンスの資金繰り等も含めて幅広く対応できる仕組みを作ったということです。

(問) 安倍総理と共にアベノミクスで金融緩和を進めた結果、10年経つと円の価値は半減して、行き過ぎた円安で輸入物価高、国民生活は厳しくなってきました。これは明らかな失敗ではないかと思うのですが、その認識はあるのでしょうか。

(答) ありません。

(問) これだけ国民生活が苦しんでいるのに、全く責任を感じていないのかと。過去に古今東西、自国の通貨を半減させて評価されるケースというのはあるのでしょうか。

(答) 半減させていませんし、何回も申し上げますけれども2013年以降の金融緩和のもとで、政府の政策とも相まって、デフレでない状況を作り出し、かつ実質的な成長も1%台前半というレベルに到達し、雇用を非常に大きく拡大し、雇用者所得も伸びたということです。ただ、先ほど来申し上げている通り、賃金・物価は1%未満でとどまっていたということです。その中で様々な状況があったことは事実であり、2%をまだ安定的・持続的に達成できてないということは非常に残念ですが、ご指摘のような問題があるとは思っていません。

(問) 国民がこれだけ物価高に苦しんでいるのに全く責任を感じてないとは、アベノミクス、金融緩和を見直すつもりはないというお考えなのでしょうか。

(答) ご発言の趣旨は事実に基づいていない話ですので、何回も申し上げます。デフレでない状況を作り出し、成長と雇用を回復させたという面での実績はあったと思いますけれども、今の時点の物価上昇というのは相当部分が国際的な商品価格の上昇によっているわけで、わが国は2%台後半の上昇になっていますが、欧米をみれば8%から10%の物価上昇になっているわけです。そうした状況をよくお考え頂いて判断して頂きたいと思います。

(問) 先ほどの質問にもちょっとあったのですけれども、指値オペは今回の発表でも継続され、毎日やるということが載っているのですけれども、毎日にしたのは今年の6月にかなり0.25%を上回るような数字になったときに、緊急避難的というんですかね、なさったようなことだったと思うのですが、これをいまだ継続されている。今週はまた円安が進んでいるので毎日1兆円とか買い入れなければならない状況で、最高にだめな場合には必要なものなのかもしれないのですけれども、もうちょっと緩やかにしてもいいんじゃないかなと。もともと0.25%程度ということですので、そういうふうにはお考えにならないのか、継続される理由と含めて教えて頂けますか。

(答) 連続指値オペでどのくらいの買入れをしているかというのは、日々1兆円とかいうようなオーダーではないと思います。もう一つか二つ下のオーダーだと思います。ただ、このところ0.25%を上回りそうなときがあったので、その際もオファーしていますので、当然、指値オペの買入れがあったということです。このところまた10年物金利が下がっていますので、オファーしても買入れはないということになると思います。いずれにせよゼロ%程度という10年物国債の金利を安定的に実現する一方で、一定の変動を認めて、市場機能を過度に阻害しないようにするという一種のバランスを取ってやっているものであります。この幅を拡大してしまい金融緩和の効果が阻害されてしまっては政策目的が実現できないということになってしまいますので、そこは十分考えてこういった措置をとっているということはご理解頂きたいと思います。

以上