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総裁記者会見 2022年10月28日(金)午後3時半から約60分

2022年10月31日
日本銀行

(問)
本日の金融政策決定会合の決定内容について、ご説明をお願いします。

(答)
本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、指値オペの運用も含め、現状維持とすることを全員一致で決定しました。資産買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、経済・物価の現状と先行きについての見方を説明致します。

わが国の景気の現状については、資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直していると判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、総じてみれば緩やかに回復していますが、先進国を中心に減速の動きがみられます。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しています。企業収益は全体として高水準で推移しており、業況感は横ばいとなっています。こうしたもとで、設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しています。雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善しています。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しています。金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあります。わが国経済の先行きですが、見通し期間の中盤にかけては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えています。

次に、物価の現状ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%程度となっています。また、予想物価上昇率は上昇しています。物価の先行きについては、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めた後、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想しています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。

前回の見通しと比べますと、成長率については、夏場の感染拡大や海外経済の減速の影響から、2022年度を中心にいくぶん下振れています。物価については、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、2022年度を中心に上振れています。リスク要因をみますと、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。リスクバランスは、経済見通しについては、下振れリスクの方が大きいとみています。物価見通しについては、上振れリスクの方が大きいとみています。

日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。以上です。

(問)
幹事社からの質問は二点です。一問目は、現在の為替を巡る動きについてです。今月に入って、円相場は一時151円台を記録しました。その後は乱高下し、政府・日銀が覆面介入を実施したとの観測も浮上しています。現在の円相場を巡る動きをどのようにみていらっしゃいますでしょうか。

二点目ですが、物価を巡る状況についてです。総務省が発表した9月の消費者物価指数は、生鮮食品を除くコアで前年同月比3.0%の上昇となりました。現在の物価上昇をどのようにみていらっしゃるでしょうか。受け止めをお願いできますでしょうか。

(答)
まず、為替介入につきましては財務大臣の所管であり、その有無について、私からコメントすることは差し控えたいと思いますが、常に申し上げている通り、為替相場は、経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することがきわめて重要であります。その意味で最近の円安の進行は、急速かつ一方的なものであります。こうした円安の進行は、先行きの不確実性を高め、企業の事業計画策定を困難にするなど、わが国経済にとってマイナスであり、望ましくないと考えております。政府は、投機による過度な変動は容認しない、過度な変動に対しては適切な対応を取る、との方針を継続されているものと承知しておりまして、この方針に沿って、適切に判断しておられるものと考えております。

次に、物価についてですが、ご指摘の通り、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、直近9月の計数で+3.0%となっておりまして、その背景としては、主として、国際商品市況や為替円安の影響によって、輸入品価格が上昇していることが影響しております。年明け以降は、こうした海外からのコストプッシュ要因の押し上げ寄与が減衰していくため、消費者物価の前年比は、来年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくと考えております。今回の展望レポートにおける消費者物価の中心的な見通しでも、今年度は3%程度となるものの、来年度以降は1%台半ばとなると予想しております。日本銀行としては、賃金の上昇を伴うかたちで物価安定の目標を持続的・安定的に実現できるよう、金融政策運営を行っていく考えであります。

(問)
今年度の物価見通しについてなんですが、7月時点の2.3%から2.9%ということで、かなりジャンプアップをしています。最近の展望レポートで見てみますと、常にその物価見通しが、前の回の見通しよりも上振れるということが続いている状況ですが、これは、日銀が思っているよりも実際の物価上昇圧力というのが強いということなんでしょうか。これが一問目です。

そして二問目としては、その物価のリスク要因のところに、今回は賃金と物価が想定以上に上昇する可能性があるという表記があります。これは、来年の春闘で高い賃上げとなった場合に、2%に手が届くこともあり得るように見えるんですが、ただ来年度の物価見通しは1.6%ということになっています。こういう状況、その賃上げが進んでいった状況になっても、来年度2%というのは、なかなか難しいことなんでしょうか。以上、お願い致します。

(答)
ご指摘の通り、2022年度の物価見通しは、段階的に上方修正しておりまして、今回の展望レポートでは+2.9%という見通しになっております。こうした上振れの背景として、輸入物価の上昇や、その価格転嫁の広がりなどが挙げられております。もっとも年明け以降、こうしたコストプッシュ要因による押し上げ寄与は徐々に減衰していくため、年度ベースの消費者物価の前年比は、来年度以降2%を下回る水準になるというふうに考えております。こうした見通しを巡っては、企業の価格・賃金設定行動、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向など、上下双方向に様々な不確実性があるため、引き続き丹念に検討してまいりたいというふうに考えております。

次の賃金との関係ですが、賃金動向につきましては、ご承知の通り今年の夏のボーナスは、かなり良かったわけですね。これは大企業のみならず中小企業も含めて良かったわけですが、そういうことで確かに賃金は経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加しておりますし、先行きも経済活動や労働需給が改善していくもとで、労使間の賃金交渉において、物価上昇率の高まりも勘案されることを映じて賃上げ率も高まっていくというふうに予想しております。そのうえで賃金の動向につきましては、表面的な数字だけではなく、その背後にあるメカニズムを含めて物価安定の目標の持続的・安定的な達成につながっていくかということを評価してまいりたいというふうに考えておりまして、今申し上げているように、賃金が高まっていくと、賃上げ率が高まっていくと予想はしておりますけれども、現在のところ、そういうことも含めても、先ほど申し上げたように海外のコストプッシュ要因が減衰していくという中で、1%台半ばぐらいの、1.6%ぐらいの物価上昇率に、来年度あるいは再来年度もなるというふうにみているということであります。もちろん、先ほども申し上げたように、賃金や、それからそれを反映した物価の上昇率が、今考えられている以上に上昇していくということもあり得るとは思うんですけれども、今の時点の見込みでは、やはり来年度でも2%を安定的に達成できるような状況にはならないのではないかというふうにみているわけであります。

(問)
二問お願い致します。円安について、中央銀行総裁と市場とのコミュニケーションという観点からお尋ねします。円安の主因はFRBの大幅な利上げかと思いますが、財務省は投機的な動きへの懸念を強め、為替介入に踏み切りました。一方、市場では、総裁が金融緩和の維持を強調する発言が材料になり、円が売られているという指摘もあります。金融政策は為替レートをターゲットにするものではないということは理解しますが、こうした状況で、あえて緩和の維持を強調される意図をお聞かせ頂けますでしょうか。

もう一問は、日本経済の展望についてです。総裁が大規模な金融緩和を始められ9年半が経ちました。かねてから総裁が述べられている通り、緩和によりGDPを押し上げる効果はあったかと思いますが、コロナ前の2019年でもマイナス成長でした。物価が歴史的なペースで上がる一方、賃金はさほど上がらず、今の状況に不安を感じている人も少なくありません。本日の展望レポートでも、日銀が目標とする物価上昇は、見通し期間中の24年度でも達成しないとしていますが、今の大規模緩和を続けることで、いつになれば日本経済は力強さを取り戻すのでしょうか。総裁の展望をお聞かせください。

(答)
まず、先ほど来申し上げている通り、わが国経済はコロナ禍からの回復途上にあるうえ、海外の経済・物価情勢、あるいはウクライナ情勢、感染症の影響、その他不確実性がきわめて大きいもとで、消費者物価の先行きにつきましては、来年度以降は2%を下回る水準まで低下していくというふうに考えておりまして、現在は、経済をしっかりと支え、賃金の上昇を伴うかたちで、物価安定の目標を持続的・安定的に実現するために、金融緩和を継続することが適当であるというふうに考えております。為替変動の要因として、市場では資源高に伴う需給要因に加えまして、内外金利差に市場参加者の注目が集まり、それが影響していると指摘されていることは承知しております。もっとも、内外金利差の背景にあるインフレ率の違いや、利上げによる米国経済の減速などは、むしろドル安方向の要因でありまして、日米の金利差だけに着目して最近の為替動向を説明することは、一面的ではないかというふうに思っております。

それから2013年に始まった量的・質的金融緩和は、1998年から2012年まで15年続いたデフレを、デフレから脱却し、成長率も回復し、400万とも500万ともいわれる雇用も拡大したということで、金融緩和の効果はあったと思いますけれども、ご指摘の通り、2%の物価安定の目標には達していなかったわけであります。そうしたもとで、過去2年間のコロナ感染症による影響、これは日本だけでなく、どこの国も大きな影響を受けておりましたので、何か日本だけが大きな影響を受けたということはないというふうに思います。そうしたもとで、今、経済活動との両立が進んで、日本経済も回復途上にあるわけですので、やはりこれをしっかりと支えていくということが、経済にとってもプラスということだけでなく、賃上げを伴うかたちで物価安定目標が達成されるために必要であるというふうに考えております。時間はかかるかもしれませんが、こういったかたちで物価安定目標を達成することが必要であり、また可能であるというふうに考えております。

(問)
今次の円安と金融政策の関係についてお伺い致します。政府は、今日、経済対策を決定し、円安による物価高で不利益を被る家計や企業に対して、財政政策で対応する方針を示します。こうした政府の姿勢のもとで、為替がですね、ドル円が急速ではなくて、ファンダメンタルズに沿ったかたちで円安に向かうとすれば、金融政策の立場からは、円安進行というのが日本の粘着的なインフレ期待を上に持ち上げる、2%付近にアンカーさせる、円安がそういうチャンスになるというふうに、肯定的にとらえている、そういう側面はありますでしょうか。お願い致します。

(答)
まず、政府が経済対策・物価対策として、今日何か取りまとめるというふうには伺っておりますけれども、まだ具体的な内容は承知しておりません。ただ、伝えられたところによれば、おそらく電気、ガス等の補助金によって、物価の上昇率を押し下げるという効果があると同時に、経済成長率を押し上げるという効果を持つというふうに考えられますけれども、その内容はまだ承知しておりませんので、それについて何か申し上げることはできないわけであります。なお、この政府のそういった政策が、為替にどういう影響を及ぼすかということは、今の時点で何とも申し上げかねるのは、今申し上げたように経済や物価について成長率を押し上げ、物価を押し下げる効果があると思われますけれども、それがどのようなかたちでどの程度のものかというのは分かりませんし、為替に、一概にどちら方向に影響が出るかということも分からないと思います。なお、政府は従来からいっておられるように、一方的、急速な為替の変動というのは適切ではないというふうにおっしゃって、しかもそれに対しては適切な対応を取るというふうにおっしゃっていますので、今回の経済対策・物価対策と別に、為替については、このところ進んでいた、一方的な急速な円安に対する対応策というのは、きちっと考えてこられたというふうに思っております。そうした中で、その為替の円安が何か、特別にチャンスになるというようには私はあまり考えてはおりません。先ほど来申し上げているように、国際商品市況の高騰と円安が輸入物価を押し上げて、それが消費者物価に転嫁されてきて、消費者物価が上がっているということは事実でありますけれど、それ自体は先ほど来申し上げているように、賃上げを伴うかたちでの安定的・持続的な物価上昇ではありませんので、それが何か非常に大きなチャンスになるということは考えておりません。ただ、最近の経済界の方々や労働組合の方々の発言を聞いておりますと、来年の春闘において、現在の消費者物価の上昇を織り込んだかたちで賃上げの交渉が行われるというふうにいわれていますので、そういったことになれば、それが一定の影響を及ぼす可能性はあると思いますけれども、私自身は従来から申し上げている通り、やはり経済が力強く成長して、企業の収益が拡大し、そして賃上げ[率]が上昇し、物価が上がっていくという好循環というのが一番好ましいことであり、それを目指して、現在の金融政策を行っているということでございます。

(問)
二点伺います。一点目なんですけれども、今回の展望レポートにおける物価見通しをみますと、全ての年度と数字が上方修正されており、リスクバランスも見通し期間を通じて、上振れリスクの方が大きいという判断になっております。安定的な2%は展望できないということなんですが、これらを踏まえると日銀が目標とする持続的・安定的な物価2%目標の位置付けに、こちらに対しては近づいている、少なくとも、7月展望レポートに比べれば一歩前進した、そういう判断は可能だと思うんですけれども、この点についていかがでしょうか。

あともう一点はイールドカーブ・コントロール政策についてです。海外金利の上昇につれて、日本の長期金利も上昇しておりまして、0.25%に張り付く状態が続いております。こうしたYCCの硬直性が、為替相場の変動を増幅し、債券市場の機能低下につながっている面もあると思われます。YCC政策を6年続けても物価目標の実現が展望できていない中で、最近では効果よりも副作用の方が目立っている面もあると思いますが、総裁はこの点についてどのようにお考えでしょうか。ご所見をお願い致します。

(答)
今回の展望レポートで、2023年[度]、2024年度の物価見通しが、小幅ですけれども上方修正され、前回の1.4%、1.3%というものから、1.6%、1.6%というふうに上方修正されているということは、先ほど来申し上げているような、賃金の上昇を伴うかたちでの物価上昇の方に、少しウエイトがかかってきていると、他方で、輸入物価の上昇の影響は減衰しているということを示しておりますので、そういう意味では2%の物価安定目標を安定的・持続的に達成されるところに向けて近づいているということはいえると思いますけれど、まだ2%にはなっていないということであります。

それから二番目の点につきましては、このイールドカーブ・コントロール自体が何か円安を特にもたらすとか、そういうことはないと思っております。もちろん、イールドカーブ・コントロールのもとで、市場機能が阻害されるのではないかという議論はよく承知しておりまして、そういった意味で国債市場の機能度に配慮して様々な手段を講じてきておりまして、国債市場における流動[性]の低下、あるいは現物市場と先物市場との間で裁定が働きにくい場面が生じたことへの対応として、チーペスト銘柄等にかかる国債補完供給の要件緩和なども実施しておりまして、国債市場の機能度については引き続き十分配慮してまいりたいと思っております。

(問)
二点お願いします。世界経済の見通しについてはIMFも下方修正しており、来年はなかなか厳しい世界経済情勢になると思うんですが、これは当然日本の輸出・生産にも影響を及ぼしかねず、企業収益を通じて賃金にも影響を及ぼし得ると思うんですけれども、この海外経済の減速リスクが、日本の経済、賃上げの動きにどう影響を及ぼすのかについてのご見解を伺いたいのが一点目です。

あと二点目なんですが、日本の今の中立金利の水準というのはどのくらいとみてらっしゃるんでしょうか。お願いします。

(答)
まず、海外経済の減速がわが国経済に及ぼす影響というのは、確かにわが国の輸出や生産を下押しする要因になり得るというふうに考えております。もっとも、輸出や生産は、この供給制約の影響が和らぐもとで、高水準の受注残にも支えられて増加基調を続けるというふうにみておりまして、更にはインバウンド需要が水際対策の緩和等を背景に増加していくと。更には個人消費や設備投資といった国内需要も増加していくと予想されますので、わが国経済が海外経済の減速の影響を受けつつも、回復していくというふうに考えておりまして、そういったもとでの賃金・物価の動向というものを踏まえて、成長率とかあるいは物価上昇率についての見通しを示しているわけであります。

それからもう一つの中立金利がどのくらいかというのは、これはどこの国でも中立金利というのは色々な議論があるところですが、長らく、さっき申し上げたように、1998年から2012年までデフレが続き、成長はほとんどゼロだったわけですが、2013年以降、デフレではなくなって成長も回復し、雇用も増えてきた中で、潜在成長率がどのくらいかということにもよると思うんですね。一応その潜在成長率、現時点で1%くらいだというふうにみられていますけれども、政府は、新しいその経済のもとで2%程度の潜在成長率を目指すということですので、そういったことも含めて、中立金利というものは潜在成長率とも関連しますので、今の段階で一概に決めつけるということは難しいと思いますけれども、少なくとも今の金利は中立金利よりもはるかに低いところで、金融緩和の効果を経済全体に及ぼしているということはいえると思います。

(問)
日銀の総裁としてというよりも、主要中銀のトップとして伺います。ちょうど2年前のこの場でなんですけれども、コロナ禍が物価に与える影響に関してお聞きした際、当時のIMFの分析などを踏まえてデフレ的との見方がコンセンサスだということをおっしゃっていらっしゃいました。結果的には、インフレの波が世界を覆う現状となっていますが、なぜ見通しをここまで大きく見誤ってしまったのか。ちょっと発展的かもしれないんですけど、またその物価の安定というものを最大の目標としている、その主要中銀がこういった誤った見通しによる、ある意味強力な政策対応で、結果として物価の混乱を招いているのではないかという認識があるのか、これはそういった物価動向ですとか一連の政策対応について、深く検証していこうという機運が、中銀間ですとかで出ていたり高まっていたりという状況になっているのかというのを伺えればと思います。

(答)
まず、コロナ禍自体は、非常に消費を減退させて、経済も成長もマイナス成長になり、物価上昇率も低下したということではデフレ的だったと思うんですけれども、そのもとで主要中央銀行は、金融緩和を拡大して、そういったデフレ的な影響をできるだけ小さなものにするということで努力されて、それはそれでコロナ禍のもとでの非常に深刻な経済後退というもの、あるいは金融の混乱というものを防いだという意味では効果があったと思うんです。コロナが収束しつつある中で、この消費が回復してくるというスピードが非常に早かった、特に米国がそうですけれども、更にはウクライナ戦争とか何かでエネルギー価格や食料品の価格が供給面から高騰したとか、その他労働市場の関係とかいろんなことがあって、確かに欧米は8%から10%というインフレになっているんですが、これはコロナ禍のときに金融緩和をしたからこうなった、したからいけなかったという感じには考えられていないと思います。むしろ問題は、先ほど申し上げたように消費が非常に急速に回復してくる中で、例えば、特に米国の場合や何かは労働市場が非常にタイトになって、コロナ禍のときにレイオフした人たちが、労働市場に戻って来ないということでタイトになって、賃金が上昇するとか様々な要因が重なってインフレが8%から10%ということになったということであると思います。なお、日本はそういうふうになっていないわけでして、現在のインフレ率が3%程度で、しかも来年度以降1%台半ばぐらいのところに戻っていくということですので、欧米とは違うと思いますけれど、欧米の中央銀行の方々もコロナ禍のときに金融緩和をしたのがいけなかったというんではなくて、そこからの回復の過程でペントアップ・ディマンドが急速に出てきたとか、労働市場がきわめてタイトになったとか、サプライチェーンがすぐに戻らなかったとか、それからウクライナ戦争でエネルギー商品価格が上がったとか、様々なことがあってそういった状況になったということで、現在は8%、10%のインフレというのは到底許容されるものではありませんので、金利の急速かつ大幅な引き上げによって、このインフレをできるだけ早期に収束させようとしておられるというふうに思いました。

(問)
話題が少し変わりますが、日本銀行が将来のいつかの時点で金利を引き上げる場合に見込まれる、個人や企業の借入れ金利に与える影響に関連してお尋ねさせてください。個人の住宅ローン市場では、変動型のローンを選ぶ人が7、8割、残りが固定型を選んでいるようです。変動型を選ぶ人の割合が大きいのは、変動型の金利が固定型よりも低く、日本銀行が政策金利を上げることをそもそも、上げるとはそもそも想定していない人が多いからだとの指摘もあります。日銀が突然金利を上げると、想定外に利払い費が増えて、返済ができなくなる人が大量に出てしまう恐れもあります。これは中小企業の借入れも似たような影響があると思います。日本銀行が金融引締めを始めるに当たっては、適切な判断が求められるのはもちろんですが、先行きの金融政策について家計や企業が予見できるような情報発信も必要だと思いますが、総裁の考えを教えてください。

(答)
住宅ローン金利について、ご指摘のような、変動金利での借入れというのがかなり広がっているということは承知をしております。これは諸外国でもみられる現象でありまして、他方で聞くところによると、米国では固定金利の住宅ローンが多いそうです。ただ、その他の外国では、やはり変動金利のものが多いそうでして、現在欧米の中央銀行は皆、金利を急速に引き上げていますので、個人の住宅ローンの金利負担に対する影響というものを十分注視はしているというふうに思います。日本銀行の場合は先ほど申し上げたように、現時点の展望レポートでも、2023年[度]、2024年[度]でも物価上昇率が1%台半ばというか、そういう見通しでありますので、今すぐ金利引き上げとか出口というのが来るというふうには考えておりませんが、当然のことながら、2%が展望できるようになったときには、当然、出口の議論というものを政策委員会でして、それを適切に市場その他にコミュニケートしていくということは当然重要だと思います。そういった時点になった場合には、当然のことながら出口戦略というか、そういうことをできるだけ明確に市場にも国民にも示していくということになると思いますが、今のところ、まだそういった2%の物価安定目標が持続的・安定的に達成できるような状況にはまだ至ってないということであります。

(問)
賃金についてお尋ねします。連合が、来年の春闘で5%の賃上げを要求する方針を示しました。内訳でいいますと、ベースアップが3%、定期昇給が2%といったかたちになっています。今年の春闘を翻ってみますと、賃上げ率2%強で、ほとんどが定期昇給というものでありました。先日、5月ですかね、総裁、講演の中で、2%の物価安定目標を続けるうえで、労働生産性を加味すると、持続可能な名目賃金の上昇率というのは3%程度であるというお話をされていたかと思います。この3%という数字なんですが、ベアというふうにとらえたらよろしいんでしょうか。日銀が望ましいと考えていらっしゃる賃金のかたちというのは、どういったものなんでしょうか。

(答)
もちろん、定期昇給部分は個々の人にとっては賃金が上がりますけれども、総体としては変わらないわけですから、やはり基本的にはベアというものが重要な要素になるということはいえると思います。そういう意味で、ある意味で、図式的にいえば、1%程度の労働生産性の上昇率が見込めるもとでは、3%ぐらいの実質的な賃上げがないと、2%の物価安定目標を持続的・安定的に達成できないということはその通りなんですけれども、ご承知のように、正規・非正規の人とか、それからボーナスとか、様々な要素がありますので、連合がおっしゃっている5%、うちベアが3%というものが、即、2%の物価安定目標を賃上げとともに実現できるというふうに決めてしまうのは、そもそも春闘が来年どういうふうになるかまだ分かりませんし、何とも言えないんですけれど、基本的にそういったことはきわめて重要であり、何回も申し上げる通り、現在のような輸入物価の上昇によって、これが転嫁されていくということは必要なことであり、転嫁が進んでいるということは好ましいことではあるんですけれども、それによって持続的・安定的な物価の上昇が、2%の目標の達成ができるということにはならないと思いますので、あくまでもやはり、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に達成することが望ましいと。そういう意味で、賃金の上昇というのは、きわめて重要なファクターであり、そこは今後ともしっかり注視していきたいと。そもそも2%の物価安定の目標というのは、単に2%の数字が出ればいいということではなくて、あくまでも国民の生活が向上していくという中で実現していくべきものでありますので、そういう意味でも賃金の上昇というのは、今後とも、十分注目していきたいというふうに考えております。

(問)
各国の急速な利上げが海外経済の減速に与える影響に関してですけれども、ここに来て利上げ幅を縮小する国も出始めていると思います。先般のG20でも議論になったかと思いますけれども、各国の利上げペースが適切に調整されるということであれば、海外景気の減速であるとか、それが日本経済に与える影響、これは大きくならないと、限定的だというふうにお考えでしょうか。

もう一点ですけれども、物価に関してですけれども、来年度半ばにかけてプラス幅が縮小していくということですけれども、今回展望リポートで政策委員のリスクバランスですけれども、上振れリスクが大きいと考える委員の方が前回よりも増えたと思うんですけれども、物価上昇が想定以上に長引くリスクについてはどういうふうにお考えでしょうか。お願いします。

(答)
まず、前段のところは、これは先日ワシントンであったG20でも色々議論になったところでありますけれども、いくつかの中央銀行が、この最近、利上げ幅を少し縮小したというところが出てきていることは事実なんですけれど。それはおそらく、その中央銀行の方がおっしゃっている通り、十分もう既に上げてきたと、そして完全にその物価上昇率がもう下がってきたということまでいかなくても、その兆しがはっきり見えてきたということもあって、今後はその引き上げ幅を小さくするということでされたと思うんですけれども、ご案内の通り、米国、ECBはそういうふうにしておりません。まだ大幅な金利の引き上げを続けておられます。そういう意味で、具体的に相当なレベルまでもう既に来ている、あるいはその物価上昇率に、ピークアウトの兆しが見えてきたとか、その前段階として経済活動にかなりブレーキがかかっているとか、そういうところが利上げのテンポを緩めるというのは非常に合理的な話で、それによってオーバーキルが防止されるということは好ましいことですし、そういうことになれば、当然ですけれども、海外経済の減速というものも、減速はすると思いますけれども、オーバーキルのようなことに、あるいは深刻な不況になるということにはならないということだと思います。ただ、現時点ではまだどういうことになるかはっきりしませんので、リスクとして十分考えていく必要があるということだと思います。

それから物価について、委員方が上振れリスクがあるというふうに言われる方が多いというのは、個別に何か申し上げることはできませんけれども、リスクに勘案されているいろんな要素が、例えば、ウクライナの戦争の話とか、それから海外の物価上昇がなかなか収まらないとか、その他上振れリスクというものが、いくつか経済・物価について挙げられていますけれども、そういったことが経済のリスクとそれから物価固有のリスクと、こう両方書き分けてありますけれども、それをご覧になって分かるように、こういったリスクが顕現した場合に上振れの可能性があるということを考えて、上振れリスクがあるということを言われているということだと思います。

(問)
春先から円安が進んで、前回の会見の会合の際は、急速に会見中に進んだということで、先ほどYCCが円安の原因ではないとおっしゃいましたけれども、改めてなぜYCCが原因じゃないかというのをご教示頂けますでしょうか。

(答)
YCCは金融緩和のやり方でありまして、それが特に量的緩和と違って、特に円安に影響するとか、そういうことはないと思います。市場で言われているのも、基本的にはその量的[緩和]であれ、YCCであれ、何であれ、金利格差が為替に影響しているという議論であります。ただこれについては、先ほど申し上げたように、そもそも各国の米国との金利格差と各国の為替の状況とはきれいに相関していません。それから、日本にとっても、過去の日米金利差と対ドルレートの変動と、グラフを描いてみても、ほとんど関係がないということで、最近それが非常に広くいわれていることは事実なんですけれども、それが経済理論的に正しいのかどうかも分かりませんし、ましてやそのYCCと特に関係しているというふうには、誰も考えていないと思います。

(問)
物価の見通しについて、今回生鮮食品とエネルギーを除くコアコアの見通しが22年度1.8%になりまして、23、24年度も1%後半と2%に近づいています。この動きについて、日銀の物価安定目標の達成に近づいている動きとみているのでしょうか。また、前回の会見で総裁は、当面2、3年は政策修正しないという発言をされましたけれども、物価見通しの上方修正を受けて、その考え方に変化はあるのでしょうか。よろしくお願いします。

(答)
先ほど申し上げたように、2023年[度]、24年[度]と、前回の見通しよりも少し上方修正していっていることは、2%への道が少し近づいているということは事実ですけれども、依然として2%には2024年[度]でも達しないという見込みであります。

(問)
今ですね、国民の多くが望んでいない物価高が起きているわけですけれども、原因が何であれ、物価の番人であるはずの日銀がこの事態に無策というのは、本来の使命を放棄しているのではないかと。少なくとも、物価を上げるための政策というのは、この際停止すべきタイミングではないんでしょうか。

(答)
全くそのように考えておりません。

(問)
為替についてお尋ねしたいと思うんですが、先ほど総裁は、急速かつ一方的な円安は日本経済にマイナスだと、望ましくないという認識を示されました。一方で、かねて、円安には企業業績押し上げといったプラス要因もあるというご指摘もされてきたと思います。現在の為替の水準とか動きを踏まえて、今の為替は日本経済にとって、全体としてはプラスなのかマイナスなのか、どう評価されているか教えて頂けますでしょうか。

(答)
従来から申し上げている通り、円安の経済への影響というものにつきましては、マクロ経済モデルなどに基づいて、安定的な円安方向の動きであれば、経済全体としてプラスに作用すると申し上げてきましたが、同時に、その影響は業種、あるいは企業規模、経済主体によっても不均一であるということを申し上げてきました。そして先ほど申し上げた通り、最近の円安の進行は急速かつ一方的なもので望ましくないと、経済にプラスでないということを申し上げてきたわけであります。

(問)
賃金についての質問なんですが、今の代表的な賃金指標である毎月勤労統計によりますと、今年の1月以降、1%から2%で推移して、直近8月ですと前年比1.7%、比較的高い伸びが実現していて、意外にも賃金上昇の兆しがあるということも観察されているというエコノミストの分析もあるんですが、そういった中で、総裁は、先ほどから繰り返している賃金上昇を伴うかたちで物価安定目標を実現するまでは、今の金融緩和を続ける必要があるとご説明されていますが、それではこういった賃金上昇の兆しもみえる中で、具体的に賃金がどれくらい上昇して、どういった物価上昇のメカニズムになれば、日本銀行としても今の金融政策の修正・変更を本格的に検討することができるのか、総裁のお考えを聞かせてください。また、そういったタイミングが来るのは遅くとも大体いつぐらいになるのではと予想されているのか、総裁のお考えをお聞かせください。

(答)
何度も申し上げている通り、賃金の上昇を伴って2%の物価安定目標が持続的・安定的に達成されるということが私どもの目的でありますので、今のところ、2024年[度]でもそういう状況になるという見込みでないということでありますけれども、先ほど来申し上げている通り、従来よりも少し、23年[度]、24年[度]の物価上昇率も上昇してきているということは、そういうものにより近づいてきているということは事実ですけれども、まだ2024年[度]でもそれが見通せる状況にはないということであります。

(問)
総裁、先ほど債券市場の機能について注意深くみていくというご発言がありましたけれども、最近のそのイールドカーブの形状についてどういうふうにご覧になっているのか、何か必要なことはあるのかどうか、その点お願いします。

(答)
イールドカーブの形状については、従来から申し上げている通り、短期金利、それから10年物の国債の金利というものを、2つをターゲットにして、全体として適切なイールドカーブになるようにするということをしておりまして、そういう目標、目的は十分達成されているというふうに思っております。

(問)
イギリスでは歴史的なポンド安でトラス首相が辞任しましたが、通常、自国通貨を大幅下落させることは、政策の失敗、マイナス面が大きいと否定的にとらえられるのが普通だと思うんですが、日本では30年ぶりの円安になっても総裁は異次元金融緩和のメリットを強調されて、見直す考えはないというふうにおっしゃっていますが、総裁だけが世界的に通用しない非常識な物差しを使って政策を評価されているんじゃないでしょうか。古今東西、自国通貨を大幅に下落させて評価された中央銀行総裁、政治家というのはいらっしゃるんでしょうか。

(答)
私は今おっしゃったようなことを全く考えておりません。何度も申し上げておりますように、金融政策は為替を目的にしておりません。あくまでも物価安定の目標、これを賃金の上昇を伴うかたちで安定的・持続的に達成するということを目標にしているわけであります。為替について、その水準についてとやかく申し上げるつもりはありませんが、むしろ円高で非常に困ってきた歴史を日本は持っているわけでして、今のようなことを世界の中央銀行総裁が共有しているというふうに全く思いません。

以上