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総裁記者会見 2022年12月20日(火)午後3時半から約60分

2022年12月21日
日本銀行

(問)
本日の金融政策決定会合の内容について、ご説明をお願いします。

(答)
本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、現状維持とすることを全員一致で決定しました。そのうえで、緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り、より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していくため、イールドカーブ・コントロールの運用について一部見直すことを、併せて決定しました。本年春先以降、海外の金融資本市場のボラティリティが高まっており、わが国の市場もその影響を強く受けています。債券市場では、各年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定などの面で、市場機能が低下しています。国債金利は、社債や貸出等の金利の基準となるものですので、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす恐れがあります。本日の決定は、こうした情勢を踏まえたものです。具体的には、国債買入れ額を大幅に増やしつつ、長期金利の変動幅を、従来の±0.25%程度から±0.5%程度に拡大することとしました。また、10年物国債金利について、0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日実施致します。更に、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額の更なる増額や指値オペを実施します。また、資産買入れについては、前回の方針を継続することを決定しましたが、このうち、社債買入れについては、買入れ残高を調整する際、社債の発行環境に十分配慮して進めることとしました。今回の措置により、イールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、企業金融などを通じて、より円滑に波及していくと考えています。この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることで、物価安定の目標の実現を目指していく考えです。

次に、経済・物価情勢について説明します。わが国の景気の現状については、「資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、回復ペースが鈍化しています。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しています。企業収益は全体として高水準で推移しており、業況感は横ばいとなっています。こうしたもとで、設備投資は緩やかに増加しています。雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善しています。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しています。金融環境については、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っていますが、全体として緩和した状態にあります。先行きのわが国経済を展望しますと、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%台半ばとなっています。また、予想物価上昇率は上昇しています。先行きについては、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めた後、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想しています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。リスク要因をみますと、引き続き、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があります。

日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)
幹事社からの質問は二問です。まず一点目ですが、日本銀行と政府が2%の物価上昇目標を盛り込んだ共同声明を2013年1月に連名で発表し、黒田総裁が大規模な金融緩和策を始めてから来年で10年を迎えます。大規模緩和の効果と副作用について、総裁のご認識を改めて教えてください。また、日本銀行として、2%目標や政策運営に関する点検あるいは検証を実施するお考えがあるかどうかもお願いします。

(答)
2013年以降の大規模な金融緩和は、実質金利の押し下げを起点にして、貸出金利などの資金調達コストの低下や、株式市場等の金融資本市場の改善を通じて、緩和的な金融環境を実現してきております。この結果、失業率の低下など雇用情勢は改善し、デフレでない状況となりました。昨年3月の点検でも確認した通り、大規模な金融緩和が行われなかった場合と比べますと、この間の実質GDPは平均+0.9から1.3%程度、消費者物価の前年比は同じく+0.6から0.7%程度押し上げられていたとの試算結果を得ております。一方、長期にわたる金融緩和の副作用としては、主に金融機関収益を圧迫し、金融仲介機能に悪影響を与える可能性や、市場機能の低下が挙げられます。この点、現在、わが国では、金融機関は充実した資本基盤を備えており、金融仲介機能は円滑に発揮されていると判断しております。また、市場機能に配慮する観点からは、これまで様々な措置を講じてきていることに加え、本日、長短金利操作の運用を一部見直すこととしたところであります。日本銀行としては、政策の効果が明らかに副作用を上回っていると考えております。次に、2%の物価安定の目標や政策運営の枠組みに関する点検・検証についてのご質問でありますけれども、日本銀行は、イールドカーブ・コントロールのもとで、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指しております。現状では、その実現までになお時間を要する見通しであり、金融政策の枠組みや出口戦略等について具体的に論じるのは、時期尚早であると考えます。物価安定の目標の実現が近づいてくれば、出口に向けた戦略や方針などについて、金融政策決定会合で議論し、適切に情報発信していくことになるというふうに考えております。

(問)
二点目は、賃上げについてです。来年の春闘で、連合が求めるベア3%程度、もしくは定期昇給分を含めて5%程度の賃上げが実現した場合、日本銀行として出口に向けた議論が来年以降に可能になるとお考えになりますか。よろしくお願いします。

(答)
先行き、賃金は、経済活動や労働需給が改善していくもとで、物価上昇率の高まりも勘案することを映じて、上昇率を高めていくものと考えております。日本銀行は、企業収益や雇用・賃金が増加する中で、物価も緩やかに上昇するという好循環を目指しております。その意味で、ベアを含めた賃金の動向は重要でありますけれども、物価安定の目標が持続的・安定的に実現できるかどうかは、こうした単一の指標だけでなく、経済・物価情勢を、その背後にあるメカニズムや先行きの見通しも含めて点検のうえ、判断していくことになると思います。そうした結果、物価安定の目標の実現が近づいてくれば、出口に向けた戦略や方針について、金融政策決定会合で議論し、適切に情報発信していくことになるというふうに言えます。

(問)
お話のありましたYCCの運用見直しについてお尋ね致します。総裁は9月に大阪で開いた経済団体との懇談会後の記者会見で、YCCの変動許容幅の拡大は、金利の引き上げに当たるとのご認識を示されていました。他の日銀幹部の方も、過去に許容幅の拡大は事実上の利上げになり、日本経済にとって好ましくないとのご発言をされています。先ほどのお話では市場機能の改善に向けた措置とのことですが、今回の許容幅拡大は事実上の利上げには当たらないのでしょうか。また、今回の措置は、YCCの撤廃といった将来の出口戦略について何か影響はするのでしょうか。お考えを伺えますでしょうか。

(答)
まず今回の措置は、市場機能を改善することで、イールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、企業金融等を通じてより円滑に波及していくようにする趣旨で行うものでありまして、利上げではありません。今回の措置により、国債金利の変動幅が広がるものの、企業金融等を通じてイールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、より円滑に波及していくというふうに考えております。日本銀行としては、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることで、物価安定の目標の実現を目指していく考えであります。また、このイールドカーブ・コントロールの運用の一部の見直し、これはイールドカーブ・コントロールをやめるとか、あるいは出口というようなものでは全くありません。公表文でも示しておりますように、イールドカーブ・コントロールを起点とする金融緩和の効果が、企業金融などを通じてより円滑に波及していくようにする趣旨で行うものであって、出口政策とか出口戦略の一歩とか、そういうものでは全くありません。経済・物価情勢を踏まえますと、これも最初に申し上げた通り、現在は経済をしっかりと支えて、賃金の上昇を伴うかたちで物価安定の目標を持続的・安定的に実現するために、金融緩和を継続することが適当であるというのが、政策委員会の一致した考えであります。

(問)
長期金利の変動幅拡大について二点お願いします。一点目は、今回の公表文にも書いてある通り、春先以降の海外市場のボラが高まってという説明がございますけれども、国債市場のこういった機能低下は以前から生じていたんだと思いますけれども、なぜ今回このタイミングで変動幅の拡大を決められたのかというタイミングについてお聞かせください。

二点目は、海外市場のボラが高まって、機能低下が再び起きた場合に、この市場機能の改善に向けて変動幅っていうのは、どこまで拡大が可能だとお考えでしょうか。以前、去年の点検では、50bpsを超える変動幅生じた場合、設備投資への影響といったことが指摘されていたと思いますけれども、この点についてもお考えをお聞かせください。

(答)
この点は、特にロシアのウクライナ侵攻が始まって以降、非常にこの資源価格の高騰であるとか、各国のインフレの高進であるとか、そういう中で金融政策が大きく転換していったということなど、様々な要因から、春先からボラティリティが高まっていたことは事実ですけれども、それは一時的に収まったように見えたものの、最近また再びそれが強くなってきて、しかも冒頭も述べましたように、様々なイールドカーブ・コントロールのもとでの指値オペその他によって、10年物の国債の金利が0.25%に抑えられてきたわけですけれども、イールドカーブの形状がやや歪んだ形になって、それが将来、企業金融等にもマイナスの影響を与える恐れがあるということが認識されてきましたので、このタイミングでその是正を図り、市場機能の改善を図ったということであります。

将来云々ということについては、何か具体的なことは申し上げるつもりはありませんが、全体として、これはある程度希望ですけれども、世界的な金融資本市場のボラティリティも、少しずつ低下し、安定していくのではないかというふうに期待をしています。もちろんウクライナ戦争の状況も全く不確実ですし、更には欧米の金利引き上げによる経済あるいは金融資本市場の影響というものの不確実なものもありますし、また最近では中国におけるゼロコロナ政策の転換以降、コロナ感染症の動向が非常に分かりにくくなっている、不確実だということもありますので、楽観はできませんけれども、更なる拡大といったようなことは必要ないし、今のところ考えていないということであります。

(問)
今回のYCCの運用見直しが景気に与える影響についてお伺いしたいと思います。今日の段階で長期金利は上限の0.5の手前の0.4%台まで既に上昇しておりまして、この金利上昇で企業の借入金利ですとか、個人の固定型の住宅ローン等に影響が広がるとも予想されます。市場機能改善という目的があるにしても、そういう悪影響も懸念されると思いますが、この点について総裁どのようにお考えか教えて頂けますでしょうか。

(答)
まず第一に、短期の政策金利を-0.1%、10年物国債の金利目標をゼロ%程度というYCCの基本は全く変わっておりません。そういう意味で、経済に対する刺激効果というか、経済成長を促進し、経済の拡大を図っていくという効果に基本的な変更はありません。また、こうしたYCCの運用の一部の手直しによって、企業金融への波及がよりスムーズに安定的に起こるということで、景気にはむしろプラスではないかというふうに思われます。またいずれにせよ、これは公表文等で申し上げていることではありませんけれども、ご承知のように年初の頃は物価上昇率1%未満でしたか、その後ウクライナ戦争その他を経て国際的な商品市況が上昇し、また夏にかけて非常な円安が進んだということもあって、輸入物価が大幅に上昇し、消費者物価への転嫁ということで、足元、消費者物価の上昇率は3.6%まできています。それよりも何よりも、物価上昇期待というか、予想物価上昇率自体も上がってきております。ということは、名目金利が同じでも実質金利はどんどん下がっていまして、実は景気拡大効果というか、景気刺激効果がより強まってきているわけです。そうしたもとで、このイールドカーブの歪み、その10年のところを是正することが何かイールドカーブ・コントロール全体の効果を削ぐとかいうことは全くないというふうに考えています。

(問)
二点お願いします。今回、10年金利の周りの、このバンドというか、拡大したんですけども、一方で国債の買入れの増額も決めました。そうなるとやはり、歪みを是正するために他の年限の国債の買入れを増やしたりということで、むしろイールドカーブ全体へのコントロールを強めるということなのか、その買入れ増額の背景について教えて頂きたいのが一点目です。

また、今後、情勢次第だと思いますが、更に長期金利に上昇圧力がかかる場合には、またこの変動幅を拡大するという措置になるのか、あるいは景気の回復や日本のインフレ、賃金の上昇に伴う長期金利の上昇であれば、また違う措置ということもあり得るのか、その辺りについてお願いします。

(答)
今回の見直しは10年金利の変動幅を拡大するだけではなくて、国債買入れの大幅な増額、それから機動的な追加買入れおよび指値オペの実施ということによって、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すものでありまして、これらの措置によって、より円滑にイールドカーブが形成されれば、各年限間の金利の相対関係あるいは現物と先物の裁定などの面で、市場機能は改善するということが期待されます。

それから、YCCの長期の話については、先ほど来申し上げている通り、足元、物価上昇率は輸入物価の上昇を反映して上昇していますけれども、来年度に入りますと、それが減衰して、次第に物価上昇率は低下していくということで、2023年度全体でみますと2%にいかないという可能性が高いわけですので、そうしたもとでYCCないし現在の量的・質的金融緩和を見直すとか、そういうことは当面考えられないということだと思います。

(問)
私も変動幅の拡大についてお伺いしたいんですけれども、先ほどの質問でもありましたけれども、総裁や幹部は今まで変動幅の拡大について、緩和効果を損なうとか、あるいは事実上の利上げであると発言をされていて、ご説明分かる部分もあるんですけれども、それが突然円滑化のためで全体を強化すると言われても、やはり市場としては、やっぱり唐突感や驚きがあると思いますし、これ結局修正の一歩なんじゃないかとか、あるいはこれからもあるんじゃないかと考える人たちも中にはいると思うんですけれども、今までのコミュニケーションと、今後、もしそうではないというのであれば、どういうふうにそれを示すのかという、今までと今後のコミュニケーションのあり方について、マーケットとのコミュニケーションのあり方について、考えをお願いします。

(答)
それはですね、冒頭にも申し上げた通り、また公表文でも述べられている通り、イールドカーブの歪みを是正することによって企業金融に良くない影響が来ないように市場機能を改善することによって、金融緩和の効果がよりスムーズに企業金融を通じて経済全体に波及するということを考えて行ったわけであります。またそのタイミングについても、先ほど申し上げたように、春先から世界的な金融資本市場のボラティリティが高まっていたわけですけれども、それが一時低下したように見えたのに、またこのところ非常に高まってイールドカーブの歪みというのが非常に強くなってきているということを踏まえて、今回、イールドカーブ・コントロールの一部の手直しをしたということ。これはあくまでもイールドカーブ・コントロールがより良く安定的に機能するようにしたわけでありまして、何もいわゆる金利引き上げとか金融引締めとか、あるいはYCCの見直しとか、そういうことではなくて、むしろYCCがより良く機能するように市場機能の改善を図ったと、それは先ほど申し上げたようなタイミングをみて、まさに行ったということであります。

(問)
来年の世界経済についての様々な見通しというのをみてみますと、特に欧米の景気、かなり厳しい見方をしているところが多いと思います。こうした世界的な景気減速に備えるためにも、今回、日本銀行として大きな波が来たときのために、政策の余地を広げておこうというお考えもあるということなんでしょうか。

また、もう一点ですね、いったん、この上限金利というのを上げてしまいますと、マーケット、次のまた変動幅の拡大みたいなものを催促するようなかたちになりませんでしょうか。そして、YCCをやめるまで、これからマーケットのプレッシャーというのが続くのではないか、その可能性についての議論というのをなさったのかどうか、その辺りも教えて頂けますでしょうか。

(答)
まず、海外経済につきましては、確かに、供給制約の影響は和らいでいるわけですけれども、グローバルなインフレ圧力、各国中央銀行の利上げが続いているほか、先ほど申し上げたように、中国では感染症の再拡大に伴い、下押し圧力が強まっているということで、回復ペースが世界経済、海外経済としては鈍化しているということは事実だと思います。また、先行きにつきましても、ウクライナ情勢あるいは中国における感染再拡大の影響、その他様々なリスクが国や地域毎にばらつきを伴いつつ影響してくるということになりますので、不確実性が高いということはその通りでありますけれども、先ほど来申し上げている通り、非常に多くの受注残を輸出セクターは抱えていまして、供給制約が和らぐもとでその受注残をまさに消化していくというか実施していくということもありますので、世界経済の成長が減速しつつあるということは事実ですけれども、それが今のところ日本の輸出や生産に非常に大きく影響して、成長率が下方に修正されるというような状況ではないというふうに考えていると。これはご承知のように、IMFの成長見通しでも、日本の来年(注)の成長見通しというのはG7の中で一番高い見通しになっているわけですが、それは一つには、コロナからの回復が、時期が遅れているので、今回復しつつあるという面があるのはもちろんですけれども、他方で、緩和的な金融環境が続いているということもあると思いますので、世界経済の不透明性というのはありますし、リスクがあるというのは事実なのですけれども、そういうものを十分注視していく必要はあると思いますし、先ほど申し上げたように必要があれば躊躇なく金融緩和を拡大するということも十分可能です。十分、海外経済の動向、その日本の経済・物価への影響というのは注視していく必要があるということはその通りですけれども、今のところ、メインシナリオとしては、比較的潜在成長率を上回る成長が続き、そのもとで需給ギャップもマイナスからプラスになり、労働市場のタイトさもどんどん更に強くなり、賃金・物価へのプラスの影響が出てくると思っております。足元は確かに、今の輸入物価の上昇による影響がだんだん減衰していきますので、物価上昇率が来年度において下がっていくわけですけれども、その後、好循環の効果もあって、物価上昇率が緩やかに反転していくとは思うのですけれども、来年度自体としては、全体としては2%を下回る可能性が高いと、今のところはみています。具体的な見通しは来年1月の展望レポートにおいてお示しすることになると思っております。

今回のような変動幅の拡大措置が一回あると、また市場が催促するのではないかという議論ですけれども、そういう可能性がないとは言えませんが、他方で、それはあくまでも、いわば内外の物価とか金融資本市場の動向によるものでありまして、欧米の物価上昇率は、米国の場合は明確にピークアウトしていますし、欧州の場合はまだピークアウトしていませんけれども、それぞれの政府や中央銀行の見通しでは、来年において物価上昇率が下がっていくという見通しになっておりますので、そういう状況の中で、他国の中央銀行の金融政策についてコメントするのは差し控えますけれども、これまでのような調子でどんどんすごい勢いで金利が上がっていくとか、そういうことはちょっと考えにくいと思います。いずれにせよ、市場が何か催促するということはいつでもあるのですけれども、そういう客観的な情勢があるかと言われると、そういう情勢はあまり考えられないと思っております。

(問)
賃金動向でお伺いしたいんですけれども、先日、総裁、国会でも大企業だけではなくて、中小の正規のところを注目されているということでしたけれども、なかなか生産とか設備投資と違って、賃金動向に関しては把握するのが難しいと思うんですれども、その辺を今後どのようなデータを見て、どれぐらいのタイミングで判断できるのかというのを一点お伺いできればと思います。

もう一点、先日、日銀の役員の年収は0.4%で、行員の方は0.2%のベアだったんですけれども、日銀法の31条によると、社会一般の情勢に適合したものとすることが求められているといわれているんですけど、そうすると日銀でみて0.2%というのは現状の社会情勢一般的なものに合っているのか。それをもし民間企業がそれを受け止めるとすると、そう賃金引き上げなくてもいいんじゃないかという見方が出かねないかもしれませんけど、その辺をどのようにご覧になっているかお伺いしたいんですけども。よろしくお願いします。

(答)
まず賃金の動向については、もちろん様々な統計がありますので、そういうものも十分参考に致しますし、それから経団連にしても連合にしても、それぞれ、例えば春闘の決定状況をずっとフォローして発表していますし、それから夏のボーナスも良かったんですけれども、この冬のボーナスはかなり高い伸びになっていますし、そういうものも十分注視しておりますので、様々な統計データは十分把握して全体としての賃金の動向を見ていきたいと。ただ、賃金の伸び率だけで何か決まるわけではなくて、やはり需給ギャップとか予想物価上昇率とかそういったものも含めて物価に影響しますので、そういうものも見ながら、ただその場合に非常に重要な論点が賃金上昇率であるということはその通りだというふうに思います。

なお、日銀の職員・役員の給与・年俸につきましては、比較可能な金融機関や民間の賃金やボーナスの動向を踏まえてやっておりまして、特に何か先行して日銀が先に賃金・給与を上げていくということは制度の趣旨に合いませんので、あくまでも民間の給与・賞与の状況も反映したかたちでやっていくということですので、何か先行きを示すようなインディケーターではないということはご理解頂きたいと思います。

(問)
これまでのお話も踏まえてなんですけれども、総裁、前回会合の後に、少し安定的な物価目標の実現までに近づいているという趣旨のご発言をされました。もちろん、まだ安定的な2%が見えていないということであると思うんですけれども、前回会合からの色々な変化を踏まえたうえで、今その点についてどういうふうにご覧になっているのかというのが一点と、足元では、点検・検証について必要性がないということではあると思うんですけれども、ただ、安定的な2%がみえてきたときには、それは別に否定するものではないという理解でよろしいのかどうか、お願いします。

(答)
まず第一点ですけれども、年初に比べますと、具体的に企業収益が非常に引き続き高水準で続いていると。更にはボーナスがかなり高水準で夏冬と出てきたと。そして来年の春闘に向けて、労働側も使用者側も、足元の物価上昇も踏まえて賃金の交渉をするということを言っておられますので、そういうことを踏まえると少しずつそちらの方に向いていると。それから輸入物価の上昇の消費者物価への転嫁ですけれども、これも従来にないほど転嫁が進んでいると。そういうことで、賃金・物価に動意がみられるようになってきたというのは事実なのですね。ただ、今のところ、来年の1月の展望レポートで具体的に示すことになると思いますけれども、来年度、やはり今年度よりも物価上昇率は低下していくと。2%に達するというような状況ではまだないと。従って、賃金の上昇を伴って持続的・安定的に2%が実現できるという状況にまだなりそうにないと。ただ、物価についても、成長についても、上下双方向のリスクがありますので、その辺は十分注視して、随時政策をみていくということは必要だと思います。ただ、今のところ、このYCCにしても、大幅な金融緩和の政策にしても、それを直ちに見直すような状況にはなるようには思われないということであります。

(問)
二点伺わせてください。まず一つ目がこれから報道、ニュースするわけですけれども、改めてなぜこのタイミングで見直しなのか、できれば分かりやすくといいますか、例えば物価高だったり、困っている私たちの生活に何か良い影響が出るのか、あるいは庶民の生活に影響するということはあまりないのか、変わるとすればどう変わるのか。例えば住宅ローンの話もさっき出ましたけれども、預金だったり、インバウンド、そういう国内経済、生活に何かつながる変化というのはどういうことが考えられるのか、それが一点目です。

二点目は、今回の見直しは利上げではないという説明がありましたけれども、市場の人たちに聞くと、ほとんど誰も予想していなかったと。事実上の利上げだと受け止めているとの声も多く聞かれました。何か誤解させないといいますか、そう受け止められないような事前のコミュニケーションであったり、ほのめかすということはできなかったのでしょうか。あるいは何かそういったことを試みていらっしゃったんだったら、どういうものだったか教えてください。

(答)
何度も申し上げますけれども、このようなかたちで国債市場、債券市場の機能度を改善するということは、企業金融を通じて経済に対する金融緩和の効果をより安定的・持続的に発揮できるということですから、当然、経済の成長あるいは雇用の更なる改善、そして従来から申し上げているように、そういう中で賃上げがより行いやすくなっていくということは期待できると思います。いずれにせよ、このタイミングでというのは、先ほど来申し上げているように、春先から国際的な金融資本市場のボラティリティが非常に高まって、夏には非常に高いのが一時低下して安定しているようにみえたのに、またこのところ異様に国債市場に大きな影響が出てきて、そしてイールドカーブの歪みが直らないというか、更に厳しいものになってきたと。これは今後、企業金融を通じて経済にマイナスの影響を与える恐れがあるので、この際、市場機能を改善するために、こういった対応をしたということであります。

そういう意味で、金利の引き上げでないということは十分市場関係者にもお伝えしたいというふうに思っておりますが、市場関係者の人が考えていた、期待していたことと違うのが出てきたので、何か非常に裏切られたような気持ちがあるとかなんとかそういうようなことを言う方がおられますけれども、われわれはあくまでも金融資本市場の動向を踏まえて経済・物価をどのように安定させて、物価安定の目標をできるだけ早期に実現するかということで金融政策をやっています。金融資本市場の動向とか経済・物価の動向が変われば、それに応じたことをやるというのは当然であって、特にこの市場機能がやや大きく損なわれるような状況がこの秋以降出てきたので、それに適切に対応してYCCの効果がよりスムーズに企業金融を通じて経済にプラスの影響を及ぼすということを考えて行ったという決定だということを、今後とも市場関係者の方にも十分説明していきたいというふうに思っております。

(問)
二問お尋ねします。一つ目が同じような質問になってしまって恐縮なんですけれども、総裁、先ほど来、今回の措置についてプラスの効果を説明して頂いていますが、9月の大阪での記者会見では、0.25%の幅をより広くしたら、明らかに金融緩和の効果を阻害するとおっしゃっていました。今回の上限の引き上げで、何か懸念される経済へのマイナスの影響はないというようなご認識でよろしいんでしょうか。

もう一つは、今日の会見でも、総裁、物価目標の実現までに、なお時間を要する見通しであり、枠組み、金融政策の点検はですね、時期尚早であるとおっしゃっています。確かに、日銀の見通しでも2%の達成時期は示せていません。ただ、点検は、2%が見えたときではなくて、見通せない状況のときにこそすべきではないかという意見もあるかと思うんですけれども、総裁のご見解を教えて頂けますでしょうか。

(答)
まず後者については、まだ2%を見通せるようになっていないということですので、点検とか出口の検討というのは時期尚早であるということに尽きると思います。

それから、今回のYCCの運用の一部の見直しというのは、あくまでもこの市場機能の改善ということに焦点を当てたものでありまして、何か金融を引き締めようとか、そういうものでは全くないということは冒頭申し上げた通りであります。そうしたもとで、10年債の金利が、本日のマーケットで0.4%ぐらいまで、0.25%から0.4%ぐらいまで上昇しましたけれども、これがずっと続くかどうかも分かりませんし、それについてとやかく言うつもりはありませんが、国債の買入れも増額しますし、それから必要に応じて指値オペを10年物のみならず他の年限でも必要があればやるということにしておりますので、何かマイナスが出てくるということは、完全に防げるというふうに思っております。それから何よりも、春先から現在にかけての、いわゆる予想物価上昇率の上昇からいって、実質金利は春先よりも、また夏よりもずっと下がっていまして、金融緩和の効果というか力は、ものすごく増加しているということも背景としてあるということは言えます。ただ、あくまでもこれは市場機能の改善ということ、それによってYCCの効果がよりスムーズに、安定的に企業金融を通じて経済にプラスの影響を及ぼすということを狙ったものでありますので、金利を何か引き上げようとか、引き締めようとか、そういうような意図は全くないということは、重ねて申し上げられます。

(問)
今回の変動幅拡大の背景で、経済・物価の方も上向いているという評価をなされ、更に実質金利も低下して緩和効果は強まっているというお話をされていますが、それでもなお、緩和を続ける、金利水準は低いままで維持するというふうにおっしゃっているのはどうしてなのか。2%に向かって自律的に好循環に入りつつあるということであれば、多少の引締めに進んでもいいのではないかという考えもあると思うんですが、その辺どのようにお考えでしょうか。

(答)
そこは、従来から申し上げている通り、今回もそういうふうに申し上げているのですけれども、足元、確かに3%台半ばまできていますし、年末にかけて更に上昇する可能性があるわけですけれども、これはほとんど輸入物価の上昇を起点とする消費者物価への転嫁でありまして、その影響は来年に入るとだんだん減衰してきて、来年度全体としては2%に達しない可能性がきわめて高いと。そういう意味では、2%というものが、賃金の上昇に支えられて安定的に達成されるという状況にまだなっていないということが大きいわけでして、緩和を続けるということが金融政策としては正しいというふうに、政策委員会の一致した意見で、今回も現状維持ということを決めたわけであります。

(問)
総裁に伺います。政府・日銀の共同声明について改めて伺いますが、日銀として修正は必要かどうか、この辺のお考えをお聞かせください。

(答)
2013年以降、ご案内の通り、政府と日本銀行は共同声明に沿って、必要な政策を実施してきました。そうしたもとで、わが国の経済・物価は着実に改善し、デフレではない状態を実現したわけでありまして、現時点で共同声明を見直す必要があるとは考えておりません。

(問)
一点お伺いしたいと思います。今日の決定、どうしても金融引締めの方向に見えてしまうんですけれども、今、国民が、円安やそれに伴う物価上昇で生活に非常に大きな影響を受けている中で、これが景気にプラスになる、経済にプラスになるという部分がどうしてもちょっと理解がまだ追いついていないんですけれども、改めて分かりやすく教えて頂けないでしょうか。

(答)
冒頭申し上げた通り、また公表文でも申し上げている通り、国際的な金融資本市場のボラティリティの上昇が影響していたわけですけれども、それがいったん収まったようにみえた後も、またこの秋以降、非常にこのイールドカーブ・コントロールのもとにおける国債のイールドカーブの歪んだ形がなかなか是正されないと。そういうもとで、社債の発行などに、今のところ量的には十分発行されているようですけれども、例えば、10年の社債を避けるとか、色々な影響が出つつあると。これが歪んだ形が続くと、やはり国債の金利というのがどうしても社債とか銀行の貸出の基準になっていますので、基準がはっきりしないというか、マーケットに信用されないということになると、企業金融全体にとって非常にマイナスになりますので、そこはこの際、国債という金利の標準というか、基準になるところが歪んだ形になっているものを正して、より企業金融に緩和の効果がスムーズ、円滑に及ぶようにするということですので、景気には全くマイナスにはならないというふうに思いますし、引き締めるというつもりもありません。そういう意味で、適切なイールドカーブの形になるように、必要に応じて国債の買入れも増やしますし、10年債のところだけでなくて、必要に応じて他の年限のところでも指値オペを打つ可能性も指摘しているわけですし、また社債の買入れについてもより弾力的にゆっくり調整していくということにしたということであります。

(問)
日銀の国債保有比率が50%を超えました。以前、総裁は記者会見で、仮にこの国債保有比率が6割、7割になったとしても、財政ファイナンスではないというふうにお答えになりましたが、今もそのお考えは変わらないでしょうか。ここまで深入りしてしまった、国債ファイナンスにですね、深入りしてしまった日銀に出口はあるんでしょうか。

(答)
全く財政ファイナンスではありませんし、出口については、今、議論するのは時期尚早ですけれども、問題は全くないと思います。

(問)
今回のYCCの運用見直しの狙いは、声明文を見る限り、市場機能の改善という、もっぱらそういう狙いが書かれていますが、YCCには、その他も副作用も指摘されております。財政規律の低下、金融機関収益への悪影響、資産運用への負の作用あるいは為替相場の変動増幅、そういった市場機能それ以外の副作用についても、何らかの改善を意図したものなのか、あるいはそうではないのか。もしそれ以外に意図したものがあるとしたら、一体どういう要素もあったのか、その辺りをお聞かせください。

(答)
財政ファイナンスではありませんので、私どもの金融[政策]が、何か財政政策を歪めているというようなことは考えておりません。財政政策は、あくまでも政府・国会がお決めになることであるというふうに考えております。為替その他への影響というのは、あり得るかもしれませんが、そういうことではなくて、あくまでも国債・社債等の債券市場の機能度、これが色々なアンケート調査でも相当低下しているというデータが出ておりますし、われわれの検討でも国債のイールドカーブの歪みというものが、様々な影響を与えていると。先ほど来申し上げたように、長短国債金利のバランスであるとか、あるいは先物と現物の乖離であるとか、色々な問題が出ていますので、それを改善する、それによって企業金融に、スムーズにイールドカーブの低位に安定させている効果が波及していくということを狙ったものであるということであります。

(問)
日銀の金融政策に対する姿勢と手段について伺います。今の経済環境ですとか物価情勢を踏まえると、緩和姿勢を継続するというのは理解できる部分も一部あるのかもしれませんけれども、例えば、イールドカーブ・コントロールという金利上昇を人為的に抑え込む手段ですとか、公表文に示されている通りですとか今まで総裁もおっしゃっている通りですけれども、市場機能を大きく低下させたり、あとベンチマーク機能みたいなところは結構壊れかけているのに近い状態にもあると思うんですけれども、今回、市場機能の改善を図る措置を講じられましたが、そもそも今のこのYCCが、局面によってこういう対応を導入せざるを得なくなるということは事前に想定できなかったのか。あと、今回の措置で一層深まったのかもしれませんけれども、今のような非常に深く関与する政策手段から脱却しようというお考えは、今のところないのか伺えればと思います。

(答)
イールドカーブ・コントロールも量的・質的金融緩和も、当面の操作目標が違うだけで、実際のところは、ご承知のように長期金利を低位に持っていくということのためにやっていますので、その限りでマーケットの人と考えている金利とは違ってくるのは、量的・質的金融緩和であれ外国の量的緩和であれ、イールドカーブ・コントロールでも、皆同じなのです。別にこのイールドカーブ・コントロールが特に大きく市場機能を阻害するというものではないと思います。ただ、先ほど来申し上げているように、春先からの、ある意味で異常な金融資本市場のボラティリティの上昇が、わが国の国債市場にも影響を与え、それがいったん収まったかにみえたのに、また最近になって非常に強固な形でイールドカーブに影響を与え、それが先ほど来申し上げているような市場機能の低下ということをもたらしているために、これを是正しようということであります。

(問)
今回の見直しで、為替相場は円高に動いて、行き過ぎた円安が是正されて輸入物価高を緩和する、国民生活にはプラスになる効果を働かせたと思うんですが、こういうアベノミクス、異次元金融緩和の見直しと印象付ける政策を今後も次々と出していくお考えはないんでしょうか。

(答)
先行きの金融政策について、何か申し上げることは全くありません。あくまでもその時その時の経済・物価情勢を勘案して、政策委員会で議論すると。ただ、今のところ物価上昇率は高まっていますが、来年度には低下していって2%以下になる可能性が高いという状況では、金融政策を大きく変えるような、あるいは金融を引き締めるようなことは当面考えられないということに尽きると思います。為替への影響については、私から何か申し上げるのは避けたいと思います。

  1. (注)会見では「来年、再来年」と発言しましたが、正しくは「来年」です。本文に戻る

以上