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総裁記者会見 2023年1月18日(水)午後3時半から65分

2023年1月19日
日本銀行

(問)
本日の政策決定会合の決定内容について、展望レポートの内容を含めてご説明をお願い致します。

(答)
本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、長短金利操作の運用も含め、現状維持とすることを全員一致で決定しました。資産買入れ方針に関しても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。また、貸出増加を支援するための資金供給の貸付実行期限を1年間延長すること、気候変動対応オペの対象先を拡大し、新たに系統会員金融機関を含めること、共通担保資金供給オペを拡充することも決定しました。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って経済・物価の現状と先行きについての見方を説明します。わが国の景気の現状については、「資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、回復ペースが鈍化しています。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しています。企業収益は全体として高水準で推移しており、業況感は横ばいとなっています。こうしたもとで、設備投資は緩やかに増加しています。雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善しています。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しています。金融環境については、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあります。わが国経済の先行きを展望しますと、見通し期間の中盤にかけては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えています。

次に、物価の現状ですが、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により3%台後半となっています。また、予想物価上昇率は上昇しています。物価の先行きについては、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、目先、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、高めの伸びとなったあと、そうした影響の減衰に加え、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想しています。その後、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果の反動もあって、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。

前回の見通しと比べますと、成長率については、2022年度と2023年度は、政府の経済対策が押し上げ方向に寄与するものの、海外経済の下振れなどからいくぶん下振れ、2024年度は経済対策の効果の反動によりいくぶん下振れています。物価については、2022年度と2023年度は、経済対策がエネルギー価格を押し下げる一方、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響などもあって概ね不変、2024年度は、経済対策による押し下げの反動からいくぶん上振れています。

リスク要因をみますと、引き続き海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があります。リスクバランスは、経済見通しについては、2022年度と2023年度は下振れリスクの方が大きいですが、2024年度は概ね上下にバランスしているとみています。物価見通しについては上振れリスクの方が大きいとみています。

日本銀行は2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続します。そのうえで、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。政策金利については、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定しています。

(問)
幹事社から二問お尋ねさせて頂きます。まず、物価の見通しの引き上げについてです。総裁がかねてからおっしゃっている2%の物価安定目標が、持続的・安定的に達成される状況にかなり近づいているように見受けられます。一方で、物価高は家計や企業に重くのしかかっています。改めて、こうした状況でも緩和を継続する必要性をご説明頂けますでしょうか。

次は、イールドカーブ・コントロールについてです。先月の金融政策決定会合で、長期金利の変動幅を拡大しました。長期金利は、その後、上限の0.5%を超え、イールドカーブの歪みも解消されておらず、YCCがうまく機能していないように見受けられます。異例の金融政策であるYCCの限界を指摘する声もあります。こうした金利の動きを総裁、どうとらえていらっしゃるのか、変動幅を更に拡大する必要はないのか、ご見解をお聞かせください。

(答)
まず第一番目の質問につきましては、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、足元では3%台後半となっていますけれども、来年度半ばにかけて2%を下回る水準までプラス幅を縮小していくと予想しています。消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善や、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率の高まりなどを背景に、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくと考えています。ただし、それにはなお時間がかかるとみておりまして、物価安定の目標を持続的・安定的に達成できる状況が見通せるようになったとは考えておりません。やや詳しく申し上げますと、今回の展望レポートにおける生鮮食品を除く消費者物価の見通しの中央値は、2023年度は1.6%、2024年度は1.8%となっています。前回の見通しと比べますと、2024年度がいくぶん上振れていますけれども、これは政府によるガソリン・電気・都市ガス代の負担緩和策による押し下げの反動によるものであります。この点、エネルギー価格の変動の直接的な影響を受けない、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価の見通しをみますと、2023年度は輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響からいくぶん上振れ、1%台後半となっていますけれども、2024年度は前回並みの1%台半ばであります。また、わが国経済はコロナ禍からの回復途上にあるうえ、海外の経済・物価情勢やウクライナ情勢、あるいは感染症の影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて大きい状況にあります。こうした経済・物価情勢を踏まえますと、現在は、経済をしっかりと支え、企業が賃上げできる環境を整えることが重要でありまして、日本銀行としては金融緩和を継続し、賃金の上昇を伴うかたちでの物価安定の目標の持続的・安定的な実現を目指していく考えであります。

二番目のご質問につきましては、日本銀行は10年物国債金利について、0.5%の利回りでの指値オペを毎営業日実施しておりまして、経済合理性の観点からは、0.5%を超える利回りでの取引が継続的に行われることはないと考えられます。日本銀行としましては、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが実現するよう、今回拡充した共通担保資金供給オペも活用しながら、機動的な市場調節運営を行っていく方針でありまして、長期金利の変動幅を更に拡大する必要があるとは考えておりません。

(問)
イールドカーブ・コントロールについてお伺いします。前回、長期金利の変動幅を拡大した目的が国債市場の機能改善だったわけですけども、その歪みは残っているにしても、機能改善、ある程度したのかどうかについての総裁の評価をお伺いしたいのと、今日、共通担保オペの拡充をされてますけれども、歪み自体今後どの程度の期間をかけて解消されていくとお考えでしょうか。これが一点目です。

二点目は、物価見通しの上方修正に関しまして、輸入物価の上昇を起点としてということですけれども、需要要因ですね、需要による物価の押し上げ要因というのはどの程度あるのか、ないのか、この点についてもお考えをお聞かせください。

(答)
まず、日本銀行は前回の金融政策決定会合におきまして、緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図る観点から、イールドカーブ・コントロールの運用の一部見直しを決定致しました。すなわち、長期金利の変動幅の拡大と同時に、国債買入れ額の大幅な増加や、必要に応じて各年限において買入れ額の更なる増額や指値オペを機動的に実施することなどを決定しました。加えて、今回の会合では共通担保オペの拡充も行いました。運用の見直しからさほど時間が経っておりませんので、これらの措置が市場機能に及ぼす影響を評価するには、なお時間を要すると思いますが、機動的な市場調節運営を続けることで、今後、市場機能は改善していくとみております。

物価の状況につきましては、先ほど申し上げた通りでありまして、実体経済面ではエネルギーなどの価格高騰に伴う家計・企業の負担を軽減するという総合経済対策の効果がある一方で、総合経済対策では経済を押し上げる効果も期待されております。いずれに致しましても、こういった政策の効果ということもありますし、先ほど来申し上げている通り、2022年度、2023年度、2024年度と、3年連続してわが国経済の潜在成長率を上回る成長が続いていくということでありますので、当然、需要面から賃金・物価を押し上げるという効果も徐々に働いていくと考えております。特に需給ギャップがまもなく解消しプラスになっていくという見通しでありますし、また経済活動の拡大によって人手不足がかなり顕著になっておりまして、春闘その他で賃金の上昇がもたらされようとしております。そうした意味で、単に輸入物価が上がったとのコストプッシュ要因だけではなくて、需要要因もあって、物価を押し上げる効果が出てきているとは思うのですけれども、一方で、その輸入物価による押し上げ効果というのが非常に大きくなっていて、それが順次減衰していくと、他方で需要の強さや人手不足の拡大といったことを通じて賃金・物価が緩やかに上昇していくという、両面が交差していますので、今回の見通しにあるようなかたちで、2023年度は生鮮食品除く消費者物価の上昇率が1.6%程度に低下するわけですけれども、2024年[度]は1.8%程度に上昇率が高まっていくという見通しになっております。

(問)
私もYCCについてご質問があります。昨年12月に運用を見直した際、YCCを起点とする金融緩和の持続性を高めるというご説明があったと思います。前回の政策修正から効果見極めにはまだ時間かかるということだとは思うんですが、イールドカーブの歪みがなかなか解消する見通しというのも、現状ではまだ見通しにくいと思います。加えて、日銀の国債保有割合が5割を超える中、足元で異例の購入ペースで更に膨らんでいる中で、YCCの持続性を疑う見方というのも増えてきた現状があると思います。総裁、YCCの持続性について、持続可能なものなのかどうか、お考えを教えて頂けますでしょうか。

(答)
先ほど申し上げた通り、緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図る観点から、イールドカーブ・コントロールの運用の一部見直しを決定したわけであります。これも先ほど申し上げたように国債買入れ額の大幅な増加、各年限において買入れ額の更なる増額や指値オペを機動的に実施する、あるいは今回の会合では共通担保オペの拡充も行いました。運用見直しからさほど時間が経っておりませんので、こうした歪みの是正とか、市場機能の改善ということがまだはっきりする事態にはなっておりませんけれども、これも先ほど申し上げたように、機動的な市場調節運営を行うことで、今後市場機能は改善していくと考えております。そうした意味で、YCCは十分持続可能であると考えております。また、それが改善するまでどのくらいかかるかということも議論になるわけですけれども、先ほど来申し上げたように12月にこうした見直しをしたばかりでありまして、長らく±0.25%の変動幅ということでイールドカーブ・コントロールの運営を行ってきたことを踏まえますと、新たな運営方針のもとでの市場の金利形成が定着していくには相応の時間を要するのではないかと考えております。しかし、機動的な市場調節運営によりまして、十分に市場の機能度は高まっていくと、YCCの持続可能性は十分担保されると考えております。

(問)
一点目は、本日拡充を決めました共通担保資金供給オペについてです。拡充の狙いとして、国債市場以外の、例えばスワップ市場などの金利低下を促す狙いもあるのでしょうか。また固定金利方式については、これまでの0%から、貸付けの都度利率を決定するとされましたが、これはマイナス金利の貸付けというものも排除しないということでよろしいのか、というのが一点目です。

二点目はちょっと重ねて長期金利の変動幅拡大について、恐縮なんですけども、市場機能改善を図るということを狙いにご説明されておりますが、市場に歪みが生じた背景には、物価上昇による金利上昇圧力の強まりというものがあると思います。その意味では、インフレ期待が高まるなど、こういったことを背景にした本質的な金利上昇、これについては長期金利操作、YCCというものには限界があるのではないかと思いますが、この点につきまして総裁、どのようにお考えでしょうか。

(答)
まず、今回のこの共通担保オペを拡充した趣旨というのは、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す手段として、より弾力的な資金供給を可能とするために、共通担保資金供給オペの拡充を決定したわけであります。このオペを利用した金融機関が、ご指摘のようなスワップその他、様々な裁定行動を行うことを通じて、現物市場以外の市場も含めてこういった働きかけが期待できますので、これによって現物国債の需給に直接的な影響を与えることなく、長めの金利の低下を促すことができると考えております。従いまして、共通担保オペは必要に応じて、様々な年限や方式を有効に組み合わせながら実施していく方針であります。先ほど申し上げたように、本日午後には期間2年のオペを貸付金利0%で実施しますし、来週23日には、期間5年のオペを金利入札方式で実施する旨を公表しております。従いまして、様々な弾力的な共通担保オペを行うことによって、市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促していきたいと考えております。

それから物価上昇の問題につきましては、まさにこの見通しでも申し上げた通り、足元で生鮮食品を除く消費者物価指数が3%に22年度達するという見込みでありますし、また、生鮮食品・エネルギーを除くものでは2.1%に達する見込みであります。ただ、先ほど申し上げた通り、生鮮食品を除く消費者物価指数は2023年度は1.6%、2024年度は1.8%という見込みでありまして、そういった見込みのもとでのYCCの継続ということでありまして、ご指摘のように、この2%に達する、あるいは2%の物価安定目標が持続的・安定的に達成できるという状況になっていませんので、ご指摘のような深刻な問題はないと思います。

なお、共通担保オペでも、もちろんマイナス金利は排除されておりませんが、いずれにせよこの拡充された範囲内で、適宜、機動的にやっていきたいと思っております。

(問)
今回、政策を据え置いたことで、長期金利、今日はいったん大きく低下をしている状況ですが、この先のことを考えますと、また0.5%という上限のところでですね、攻防が続いて、日銀が国債を購入し続けるという状況が続くことになるのではないでしょうか。そうなったときに、直近では1日に2兆円を超える購入というのをしている場合もありますが、特にそういう大量の購入になっても問題はないというご認識なんでしょうか。

あともう一点ですね、黒田総裁の在任中にこれまで10年間の金融政策について効果、それから副作用を含めて総合的にレビューをするというお考えはありますでしょうか。

(答)
10年物国債の金利をゼロ%程度に保つというYCCは継続十分可能であると考えておりますし、またそのもとで市場機能の改善を図るために±0.25%の変動幅を±0.5%に拡充したわけでありまして、そういう意味ではむしろYCCの持続可能性を高めていると考えております。もちろん常に金融政策につきましてはその効果と副作用について十分検証しつつ、適切な金融政策運営を行っていく必要があるということはその通りでありますけれども、現状の国債の買い入れが増えたと、マーケットの状況に応じて。イールドカーブ・コントロールはもともとそういうものですけれども、増えたこと自体は特に問題があるというふうに考えておりません。

2013年4月にいわゆる量的・質的金融緩和を導入して以降、現在のイールドカーブ・コントロールに至るまで、きわめて大幅な金融緩和政策を続けてきたわけであり、これによって1998年から2012年まで続いたデフレからは脱却して、デフレでない状況が作り出されたということは言えると思います。すなわち、物価上昇率のマイナスが継続し、経済成長はほとんどないというような状況、そしてベアもないというような状況は克服されて、[経済]成長率も戻りましたし、雇用は非常に大きく増加しましたし、賃金・ベアも戻ってきました。ただ、物価上昇率と賃金上昇率が十分に2%の物価安定の目標を安定的・持続的に達成できるような状況になっていないということは、残念に思っておりますけれども、金融政策の効果は十分にあったと考えております。

(問)
二問あるんですけれども、まず一問目が、今日の決定会合前の数日間をみていると、マーケットでは、例えば変動幅の拡大ですとか何かしらの修正を織り込んだ動きがあったと思うんですけれども、今回緩和を維持するという決定をしたことで、日銀としては緩和を継続するんだという意図は伝わったとお考えでしょうか。

もう一点が物価に関することなんですけれども、政府の経済対策とかもあるんですけれども、それを除いて、除く生鮮・エネルギーとかでみると、やっぱり年度毎に上昇率がだんだん少なくなっていると思うんですけれども、総裁としてはこの見通し通り行くのであれば、やっぱり相当の期間、現行の大規模緩和の枠組みは維持するべきだとお考えでしょうか。

(答)
前回の金融政策決定会合においても、公表文でも、それから記者会見でも申し上げた通り、大幅な金融緩和というものは維持すると、続けると。その中で、国債市場あるいは社債市場の機能不全というか、機能が低下しているというのを修正するということでありましたので、当然、日本銀行として金融政策の変更ではなくて、緩和的な金融政策を維持するということは申し上げてきましたし、今回もそれを申し上げているわけでありまして、そういう意味では、やや市場が金融政策の何か変更を期待して動いていたというものがあったとすれば、それは是正されたということだと思います。

物価につきましては、先ほど来申し上げているように、足元の輸入物価の高騰が消費者物価に転嫁されてきているという状況は、輸入物価の高騰自体がだんだん収まってきておりますので、そうした輸入物価の高騰が消費者物価を押し上げるという効果がだんだん減衰していくわけですが、一方で、潜在成長率を超える成長が続き、GDPギャップが改善し、人手不足が顕著になり、賃金も上昇していくという中で、緩やかに消費者物価は上昇していくと考えております。他方で、様々な要因が他に重なっていますので、この物価の、何て言うのでしょうか、動向を見極めるというのは容易なことではないと思いますけれども、この展望レポートでもかなり詳しく書いてありますように、基本的に先ほど申し上げたようなプロセスの中で、賃金・物価が緩やかに上昇していくというパスは、少しずつみえてきているというふうに考えておりますが、今の時点で、2%が安定的・持続的に達成できるということが見通せる状況にはありませんので、当然、金融緩和政策というのは今の時点では継続するというのが、この政策委員会の一致した意見でありました。

(問)
二点お尋ね致します。一点目は、先ほど別の会社の方も質問されていたんですけども、今国債の買入れ量が大変増えています。既に、日銀の国債の保有量は国債の半分を持っているわけなんですけども、これが今後も増え続けることも考えられます。こうした状況にリスクはないのでしょうか。

二点目は、今回は政策修正があるという観測が高まったことで、市場の動きが非常に激しくなりました。こういったことは過去にもあったわけなんですが、これからも決定会合の前に、決定会合が近づく度に、こうした市場の攻防が起きてくることが想定されるんですけども、こういった状況が健全なのかどうか。市場と考えが少し違っていたということもあるかもしれないんですけども、市場とどのように対話を進めていくのでしょうか。

(答)
国債の買入れ額につきましては、このイールドカーブ・コントロールのもとでいわば従属変数としてそういうふうになっているわけですけれども、現在のような国債保有量の増加が、何か特別なリスクがあるとは考えておりません。ただ、もちろん特定の銘柄について、需給が非常に逼迫するということになると問題ですので、そこは国債補完供給の要件緩和とか様々な措置を講じて、特定の銘柄について需給があまり逼迫することのないようなことも講じていますし、何て言うのでしょうか、大きな問題は生じてないと思います。他方で、今回共通担保オペを拡充した趣旨は、直接的に国債の需給に影響させることなく、長期金利をイールドカーブ全体が適正な形になるべく、長期金利を低位に安定させるという効果があるということは言えると思います。

それから毎回決定会合毎に云々というのは、何て言うのでしょうか、私どもにとって何か特別な問題があるとは考えておりません。当然われわれの金融政策については非常にオープンに申し上げていますし、年に4回展望レポートというかたちで、具体的に経済・物価の見通しも示し、そういうことを踏まえた金融政策というものをオープンに議論し、また申し上げていますので、そういう中でもちろん各国でも同じことが起こり得るわけですけれども、経済・市場が動くときに、その将来見通しについて、マーケットの人は色々な見方をされるということは、これはある意味で自然な話です。金融政策当局とマーケットが全く同じ考えでいないといけないということもないので、私どもとしては、別に必要なことは、常に金融政策についてオープンに議論して、その考え方・見通しを明らかにして、そういったことを踏まえて、毎回の金融政策決定会合で金融政策を決定していくということに尽きると思っております。

(問)
二点お願いします。まず一点目は経済・物価についてなんですけれども、新しい見通しをみると、経済の、特に2024年度の成長率の見通しの下方修正が比較的大きいように思います。また物価についても、より基調に近いと思われるコアコアについて、2024年度、それほど伸びないというかほぼ10月に見通していた通りということだと思うんですけれども、海外経済、今後減速していく中、成長率の見通しについて下方修正しているということは、やはり日本経済の成長についてある意味それほどまだ力強いものにならないんだとすれば、賃金の上昇にどういう影響を及ぼすのか、またそういった賃金の上昇についてのまだ確信が持てないというところが、多少コアコアの物価の見通しに反映されているのか、その経済と物価のリスクの関係性についてお願いしますというのが一点目です。

二点目は共通担保オペの拡充の趣旨についてはご説明でだいぶ理解できたんですけれども、そうなるとこれがやはりYCCの新しいツールとして組み込まれていくということなんでしょうか。もともとYCCの本筋というのは、国債買入れオペによって金利のイールドカーブの形成を促すことだったと思うんですけれども、そこに新しいものを加えるということは、やはりそれだけYCCの運営が難しくなっているということも言えると思うんですけれども、その辺り、このYCCにおける共通担保オペの位置付けについてお願いします。

(答)
まず第一点につきましては、海外経済が減速しているということは展望レポートでも申し上げている通りでありますし、IMF等の見通しでもそういうふうになっているわけですが、そのもとで、従来の見通しよりも成長率が若干下振れしているということはその通りでありますけれども、そのもとでも日本経済としては潜在成長率を上回る成長が2022年[度]、23年[度]、24年度と続くという見通しでありまして、これはおそらくG7の中でも成長率が高い方だと思います。その理由、原因としてはいろんなことがあると思いますけれども、コロナ禍からの回復のテンポが少し遅かったということもあるとは思うのですけれども、他方でやはり緩和的な金融環境が続いているということと、政府の経済政策による支援もあるということもあって、こういうことになっているのだと思います。そのもとで賃金の上昇率についても、これまでとやや異なり、かなり上昇のテンポが強まっていくとは思っているわけです。それは、現に経済界あるいは労働界からのこの春闘に向けた意見もありますし、昨年の夏冬のボーナスはきわめて好調だったわけですし、また企業の収益レベルも史上空前のレベルにあるということもあります。そして潜在成長率を上回る成長が続くもとでGDPギャップがどんどん改善していく、人手不足が更に顕在化する、ということもありますので、私どもとしては賃金の上昇が加速していくという考えには立っておりますけれども、それがどのくらいかというのはまだ、ある意味でいうと新しい現象ですので、つまり物価がこれだけ上がるというのも数十年ぶりの現象ですし、それから企業収益もまさに史上空前のレベルですし、いろんなことがありますので、完全に、何て言うんですか、絶対これだけ上がるとか、今の段階で言えるものではないと思いますけれども、私どもも賃金の上昇率は加速していくと考えております。

共通担保オペにつきましては、従来からこれは活用しておりましたし、特にYCC導入時(注)に広げましたし、今回更に拡充したということで、金融政策のツールとしてもともとあるものでありますし、先ほど申し上げたような意味で効果的だと思いますので、ツールを拡充したということはその通りなんですけれども、これが何か、YCCの限界を示しているというようなことではないと。むしろYCCをより有効にというか、イールドカーブを適正にするための一つのツールとして使えるということであります。

(問)
黒田総裁にお話を伺える貴重な機会なのでお伺いしたいんですけれども、これまでの10年の中で、前回12月そして今回の決定をどのように評価していらっしゃいますでしょうか。また、次の総裁にスムーズに渡したいとか、そういった思いとかありましたでしょうか。

(答)
先ほど来申し上げている通り、この10年間、経済・物価の状況を丹念に点検しつつ、政策委員会で金融政策を決定してまいりました。その効果は一定の効果があったと考えておりますけれども、依然として2%の物価安定目標を持続的・安定的に達成するに至ってないということは事実でありますので、今後とも引き続き、任期まではしっかりと、そういった考え方に沿って2%の物価安定目標の実現に向けて全力を挙げてまいりたいと思っております。後任の方とか何かを申し上げたり、後任の人のためにとかいうのは大変僭越ですので、そういった考え方はありません。

(問)
12月の会合以降、金利上昇して結構市場もボラタイルになっていて、銀行の含み損のお話とか出てるんですけども、その辺のところ、現状どういうふうにお考えかというのと、12月の日銀の決定によって、JGBの魅力が増したような声も聞くんですけども、その辺を黒田総裁どのようにお考えか、よろしくお願い致します。

(答)
先ほど来申し上げている通り、12月の決定は国債市場、債券市場一般の機能度を改善するために行ったわけでありまして、そういったことの効果というのはもう少し時間が経ってみないと分からないと思いますので、その辺りは十分注視してまいりたいと思っております。なお、金融機関の状況につきましては、ご承知の通り、海外金利の大幅な上昇の影響を受けて、わが国の金融機関の有価証券ポートフォリオは、外債や海外金利系投信を中心に評価損が拡大していることは事実です。また、前回会合以降、国債金利が10年物を中心に少し上昇しているわけですが、これが国内債の評価損益の悪化につながる可能性はあります。いずれにしても、先ほど申し上げたような海外金利の大幅な上昇の影響を受けて、評価損が拡大しているわけですが、金融機関全体として十分な自己資本を持っており、この有価証券関連収益の悪化が金融仲介機能や金融システムの安定に影響を及ぼすということは限定的なものとみておりまして、あまり心配してないのですけれども、ただ日本銀行としては金利動向、そのもとでの金融機関の有価証券投資やリスクの状況については、やはり丁寧にモニタリングしていきたいと考えております。

(問)
物価目標達成にはまだ時間がかかるというお話でしたが、一方でこの1年余りみても、展望レポートが公表されるたびに、見通しが上方修正されてきたことは事実だと思うんです。このことをどう受け止めていらっしゃるかお聞きしたいのですが、目標達成がいつになるかはともかく、かなり近づいてきているというご認識でしょうか。

(答)
展望レポートにつきまして、このところ上方修正してきたことはその通りであります。従って、今回も上方修正していますし、また今後につきましても上振れリスクの方が下振れリスクよりも大きいということも認めております。ただ、そのもとでも様々なデータからみるに、現在の見通しの中央値というのはこの表にお示ししているようなものであると考えております。それは先ほど来申し上げた様々な要因が重なっているわけですが、リスクとしては上振れリスクの方が大きいということは、この表にもありますように、委員方が認めているわけで、一応中央値としてみているところがこのようなものであるということであります。

(問)
恐縮ながら、ちょっと二点お尋ねさせてください。一点目は、国民生活に身近な住宅ローン金利に関する質問です。大手銀行の一部が、今年1月から適用している固定型10年の金利の水準は、日銀が大規模緩和を始める直前の2013年4月適用の金利と比べて高くなっていることもあり、国民にとっては日銀が強力な大規模緩和を続けるメリット、意義が分かりにくくなっています。改めて長短金利操作付き大規模緩和を続ける意義、必要性について教えてください。

二点目は、日銀が政策変更する際の考え方についてです。総裁、本日も2%の物価上昇目標を安定的・持続的に達成するまで大規模な緩和を続けるお考えを繰り返されました。日銀が物価目標の達成を見通せない中で、物価目標達成とは異なる理由でマイナス金利を解除することはあり得るのかあり得ないのか、総裁のお考えを教えてください。

(答)
第一点につきましては先ほど来申し上げている通りであり、消費者物価の上昇率が持続的・安定的に2%を達成されるというような状況になることを目標に、今、金融緩和を続けているということであります。なお、住宅ローン金利につきましては、確かに昨年の春先以降徐々に引き上げられてきたわけであり、また前回会合以降、一部の金融機関で国債金利の動向を踏まえて引き上げる動きもみられております。この間、住宅ローンの大半を占める変動金利型につきましては、適用金利に今変化は生じていないようであります。いずれにしても、住宅ローン金利の動向、あるいはその影響については今後も丹念に点検してまいりたいと思っております。

イールドカーブ・コントロールにつきましては、政策金利につきましてマイナス0.1%、そして10年物国債金利の目標をゼロ%程度として運営してきているわけです。このマイナス金利の問題につきましては、公表文の最後のところに、「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」ということに尽きるというふうに思います。

(問)
地域金融機関の経営基盤強化を狙った特別付利制度について伺います。地域金融機関ですと、結構大半といいますか付利対象先になっているんですけれども、金融機関の収益力強化ですとか、あと経営の効率化の状況を現状どうみられているかということと、加えてなんですが、22年度までの時限措置だと思うのですが、制度の延長というお考えが現状あるのか教えて頂ければと思います。

(答)
効果につきましては、一定の分析を公表しておりますけれども、それなりの効果があったというか、単に経費節約ということだけでなく、新たな収益源を拡大して、地域金融機関の稼ぐ力というか、それが高まっていると、それは当然、地域経済に対してプラスの効果を持つと考えております。いずれに致しましても、この制度につきましては、今後とも十分効果を見極めていきたいと考えております。今の時点で、その期限までの後どうするかということは、まだ決めておりません。

(問)
12月の決定会合で、市場の歪みを修正するために0.5%に変動幅を拡大したわけですが、今回共担オペの拡充によって金利低下を促すということにしたわけですが、これは12月の変動幅拡大によって金融市場における金利が上昇し、緩和効果を弱めかねないという懸念をお持ちになったということなんでしょうか。

(答)
そういうことよりもですね、ちなみに金融政策、あるいは金融政策の緩和効果につきましては、基本的には実質金利でみる必要があるわけですが、これは常に展望レポートなどでも示しておりますけれども、実質金利は実はずっと下がってきて、きわめてその金融緩和の効果というものは大きくなっているということであります。0.25%から0.5%に10年物金利の変動幅を拡大したことが、それがこういった実質金利が非常に大きく低下して金融による景気への効果がきわめて大きくなっているものに対して、何かその深刻なというか、相当の影響が出るというふうには全く考えておりません。従いまして、そういった心配で何かしたというよりも、債券市場の機能度を改善する観点から行ったわけですけれども、必ずしもその趣旨が十分反映されていない面があったものですから、そういった面で市場調節の手段・方法も拡充して、そういった市場機能改善の効果が十分出るようにイールドカーブの歪みを是正し、適切なイールドカーブの形成により役に立つようにしてきているということであります。すなわち、金融政策の緩和効果が弱まったので、それを強めなければならないという趣旨で、何か共通担保オペの拡充をしたということではありません。

(問)
前回12月の緩和修正で円高が進んで輸入物価高が小さくなるいい方向に進んだのに、今回の緩和継続でですね、再び円安が進んで輸入物価高が大きくなる悪い方向に進んだと。何で国民生活にプラスになる方向に更に舵を切らないのか。先月も同じ質問をしたんですが、来年度の物価上昇率2%以下の見通しとかですね、為替の影響にはコメントしないとおっしゃいましたが、更なる円安が進めば2%を超える事態も十分考えられますし、そもそも安倍さんと一緒に10年前にアベノミクス、異次元金融緩和を進めて行き過ぎた円安を招いたことからすればですね、為替の影響にコメントしないのはあり得ないと思うんですが、なぜ見直しを進めないんでしょうか。緩和見直しを進めないんでしょうか。安倍さんの背後霊でもついて安倍さんの評価が下がるようなことをしたくないのか、国民生活が二の次になっているんじゃないかという気すらするんですが、合理的な説得力あるご回答をお願いします。

(答)
質問の趣旨がよく分からないのですけれども、何度も申し上げている通り、金融緩和ということを通じて、経済成長、賃金も上昇し物価も緩やかに上昇していく、それが物価が安定的・持続的に上昇するというもので、そういうものが物価安定目標として掲げてあって、それを追求してきたわけであります。為替レートの上下につきましては、一貫してファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいということだけ申し上げて、レベルとか何かについて具体的なことは申し上げないというのは、中央銀行として全てそういうかたちになっております。為替政策は政府、日本の場合は財務省の権限と責任のもとにあるということであります。

(問)
先ほどの質疑で市場との対話について総裁は特別な問題はない、金融政策をオープンに議論して明らかにするとおっしゃっていました。ただ実際のところはですね、12月の会合でみると、それまで政策修正の可能性を感じさせない中での政策修正となって、非常に大きなサプライズを与えました。逆に今回は事前に政策修正の思惑が生まれた後に、結果としては現状維持で、マーケットは大きく反応しています。黒田総裁先ほどおっしゃったように、為替相場は安定的に推移するのが望ましいとおっしゃっていますけれども、逆にこの決定会合自体がですね、マーケットを不安定化させるイベントになってしまっているというのが現状かと思います。こういった点を踏まえて、黒田総裁は市場と真摯に対話できているとお考えでしょうか。今後の情報発信を巡ってもですね、反省したり改善すべき点は全くないという趣旨の先ほどのご回答だったということでよろしいでしょうか。

(答)
前から申し上げていると思いますけれども、金融政策につきましては、毎回の金融政策決定会合で経済・物価、金融情勢を議論して、次回の金融政策決定会合までの金融政策の運営について議論して決定するということになっております。従いまして、次回の決定会合で何をするかということを事前に市場に対して話すということは、どこの国の中央銀行もしておりません。われわれも含めて全ての中央銀行がやっていることは、経済・物価の見通しを示しつつ、そうしたもとで、どういう金融政策運営をするかという方向を示しているだけであります。これは、私どもとしては一貫して2%の物価安定目標を、持続的・安定的に達成できるようにすると、そのために金融緩和を続けると、そのための措置を毎回の金融政策決定会合で議論して決定してきているわけであります。またそのもとでも、これも従来から申し上げている通り、金融政策の効果と副作用について毎回検討して、特に市場機能の問題については適時適切な対応をとるということも申し上げてきているわけでありまして、そうした方向と違ったことを何かやったということではないと。ただ具体的に次の金融政策決定会合に何を決めるかということを市場に伝えるというようなことは、どこの中央銀行もやってないということだと思います。

(問)
長期金利はコントロールできないと言っていた日銀が、コントロールできるというふうに転換したのが7年前だったわけですが、その後も世界の中央銀行では長期金利はコントロールできないというのがコンセンサスです。最近の国債市場の混乱とかですね、総裁が昨年の9月に記者会見で政策修正の見通しについてミスリードされる発言をしたことを含めて、イールドカーブ・コントロールが非常に構造的な問題があるのではないかと思われます。イールドカーブについて、そのターゲットではなくてコントロールといったことに、日銀のおごりがあったのではないでしょうか。

(答)
全くそんなことは考えておりません。長期金利を全てコントロールするというようなことは述べてもおりません。また、長期金利に影響を及ぼすために諸外国も長期国債や民間の債券を直接購入して、金融緩和を続けていたわけでして、ご指摘のような議論は、大昔の商業手形の割引とかTBで金融政策を行う、あるいは公定歩合の操作だけで行うといった、かつてのビジネスモデルだったと思いますけれども、現在は、先進国のみならず途上国の中央銀行も含めて、長期債の購入であるとか民間債の購入であるとか、様々な手段を講じて金融緩和をし、あるいは最近であればインフレに対応して金融緩和の正常化を続けているということであります。ご指摘のようなことはどこの中央銀行も金融学者も言っておられないと思います。

(問)
日銀は2%物価安定目標の安定的な持続に必要な時点までイールドカーブ・コントロールを続けると約束していますが、このイールドカーブ・コントロールの意味として、これ10年物国債利回りに限らず、例えば5年とか2年に切り替えることもあり得る、つまり、それも含めてイールドカーブ・コントロールを続けると、そういう意味だと解釈してよろしいんでしょうか。

(答)
IMFは、10年債ではなくて、もう少し短い国債の金利をターゲットにする方が望ましいのではないかということを一時言われましたけれども、われわれとしてはやはり一番短期の政策金利と、それから最も代表的な長期金利である10年債の金利、この二つをターゲットにしてイールドカーブ全体を適切な形に維持するということが、最も適切ではないかと思っております。もちろん一切いかなる変更も検討しないということではないのですけれども、今のイールドカーブ・コントロールというものの考え方は、そういった考え方に基づいて行われていると思います。

  1. (注)会見では「マイナス金利導入時」と発言しましたが、正しくは「YCC導入時」です。本文に戻る

以上