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総裁記者会見 2023年4月28日(金)午後3時30分から約60分

2023年5月1日
日本銀行

(問)
植田総裁、本日の金融政策決定会合の内容についてご説明をお願いします。

併せて幹事社からの質問二問をお伝えさせて頂きます。一点目は展望レポートの関連です。物価見通しが今回も引き上げられ、2023年度は1.8%、24年度は2.0%、25年度は1.6%との見通しが示されました。物価の基調が変わってきており、2%の物価安定目標の持続的な達成にかなり近づいているという見方もできると思います。一方で、物価高は家計や企業の重荷ともなっております。こうした環境の中でも、物価押し上げに作用する大規模緩和を継続する必要性、これについて改めて詳しくご説明頂きたいと思います。

二点目は、物価の更なる上振れリスクについてです。今年の春闘では、事前予想を上回る賃上げの動きが相次ぎ、企業がコスト上昇を価格転嫁する動きも続いています。物価が目標とする2%を超えて想定より上振れしていくリスクについてどのように考えていらっしゃるか、政策対応が後手に回ってしまう恐れはないのか、お考えをお聞かせ頂けたらと思います。

(答)
それでは、まとめてお答えしたいと思います。ちょっと長くなりますが、まず、本日の決定会合ですけれども、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとでの金融市場調節方針について、長短金利操作の運用も含め、現状維持とすることを全員一致で決定致しました。資産買入れ方針に関しても、現状維持を全員一致で決定しました。また、先行きの金融政策運営に関する方針を整理・明確化したほか、過去25年間に実施してきた金融政策運営について、多角的なレビューを実施することを決定しました。

本日は、展望レポートを公表しましたので、最初に経済・物価の現状と先行きについてご説明します。まず、わが国の景気の現状については、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直している、と判断しました。先行きは、今年度半ば頃にかけては、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかに回復していくとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。ただし、見通し期間終盤にかけて、成長ペースは次第に鈍化していく可能性が高いとみています。リスク要因をみますと、海外の経済・物価・金融動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向など、不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国の経済・物価への影響を十分注意する必要があります。

物価についてですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の引き下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足元は3%程度になっています。先行きは、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくと予想しています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の価格・賃金設定行動などの変化を伴うかたちで、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、振れを伴いながらも、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。物価の先行きを巡るリスク要因としては、企業の価格・賃金設定行動や、今後の為替相場の変動、国際商品市況の動向などに注意が必要であると考えています。

以上のように、現在、内外の経済や金融市場を巡る不確実性はきわめて高い状況にあります。また、消費者物価の基調的な上昇率は、見通し期間終盤にかけて、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくとみられますが、それには時間がかかるとみられます。こうした経済・物価情勢のもとで金融政策運営を考えますと、引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きく、基調的なインフレ率の上昇を待つことのコストは大きくないというふうに判断しております。従って、金融政策運営の基本方針としては、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。具体的には、従来方針通り2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。また、感染症に紐づいた政策方針については、政府の取り扱いの変更や感染症によって内外経済・金融市場が影響を受けるリスクが低下したということを踏まえて、改めて整理致しました。感染症のリスクが低下したとはいえ、内外経済や金融市場を巡る不確実性はきわめて高い状況にあり、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくという姿勢は不変であることを強調しておきたいと思います。そのもとで、引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます。

最後に多角的なレビューについてです。わが国経済がデフレに陥った1990年代後半以降、25年間という長きにわたって物価の安定の実現が課題となってきました。その間、様々な金融緩和策が実施されてきました。こうした金融緩和策は、わが国の経済・物価・金融の幅広い分野と相互に関連し、影響を及ぼしてきています。そうした相互関係を念頭に置きつつ、この間の金融政策運営について、更に理解を深め、将来の政策運営にとって有益な知見を得るため、多角的なレビューを行うことにしました。幅広い観点からレビューを行うため、1年から1年半程度の時間をかけて実施し、最終的な結果を公表する予定です。長くなりましたが、以上です。

(問)
二問お伺いします。一点目は展望レポートにつきましてですけど、23年度の物価は上振れリスクの大きい1.8%、24年度については2.0%という見通しということで、2年間2%に近い見通しということが今回示されたんだと思いますけれども、2%の物価目標の達成というのは一段と近づいた、もしくは視野に入ってきたというようなお考えでしょうか。先ほど、拙速な引き締めで2%実現できないリスクが大きいとおっしゃいましたけれども、そのリスクというのは徐々に小さくなってきたというご認識でしょうか。これが一点目です。

二点目ですけれども、多角的なレビューですけれども、今後の金融政策について、どういう点を生かしていきたいとか、そういうお考えが今ございましたら、お伺いできればと思います。

(答)
一点目ですけれども、この委員方の見通しの表ではもう一つ明らかではないのですけれども、前々から繰り返し申し上げている通り、足元インフレ率はかなり高いところにございます。もう数か月そういう状態が続くかもしれませんが、その後は、はっきりと低下に転じて、今年度の後半には2%を下回るところにいくというふうに考えてございます。そのうえで、そこからもう一回上がってくるという見通しを多くの委員が置いてございます。ただ、下がっていくところまではある程度の確度でみえているのですが、下がっていった後、反転してまた上がってくるというところには、様々な前提が必要で、それが本当に今後満たされていくかどうかという点につきましては、先ほど申し上げたような点も含めて、不確実性が高いという判断を多くの方がお持ちかと思います。従って、ならしてみると2[%]に近い数字が、あるいは2[%]も入っていますが、続いているんだけれども、もう少し辛抱して粘り強く金融緩和を続けたいというのが正直な気持ちでございます。そのうえで、私はまだ第一回目の決定会合ですが、昨年度までの決定会合での議論の雰囲気を、これまでの議事要旨とか、あるいは今日、委員方から伺った話から類推しますと、だいぶ前にみていたよりは持続的・安定的な2%の物価達成の希望はそこそこ持てるような、見通せるようになっているという状態ではないですけれども、ある程度可能性は出てきているということも、複数の委員がおっしゃっていたように思います。

それからレビューにつきましては、抽象的な表現で申し訳ないのですけれども、何か特定のある将来の時点でこういう政策を打ちたい、あるいはこういうふうに政策を変更したいというようなことを念頭に置いてレビューをするというよりは、将来の政策運営、いろんな可能性を念頭に置いて、現時点で少し長めの時間をかけて過去を振り返っておこうということでございます。ですので、政策運営の全く役に立たないというわけではございませんが、どういう種類の政策運営につながるのかということは現時点では決まっておりません。

(問)
質問は、今お話のあったレビューについてです。二点あります。なかなかこれから具体的なことを決めていくという段階だとは思うのですが、実際にどのようなかたちで実施していくのか。例えば、日銀の内部のみで実施するのか、それとも外部からのヒアリングといったものも行うのか。また、個々の金融政策の効果ですとか、副作用といったものをみていくのか。具体的に何を実施していくのかを伺えたらと思います。

二点目は、このレビューを実施する必要性、目的ですね。なぜこの段階でレビューを実施すると発表されたのか、なぜ実施する必要があるのか、伺えますでしょうか。

(答)
レビューの実施方法ですけれども、もちろん内部の専門家といいますかスタッフによる分析は、一つの中心になると思っております。それに加えまして、今展望しているところでは、外部の有識者を招いた小さな研究会とか、あるいは外部の学者等に対する個別ヒアリング、更にはもうちょっと幅広い層の方々の意見を伺うということで、金融経済懇談会の場を利用してみたり、支店・事務所のネットワークを更に幅広く利用して、いろいろな方々との意見交換を行うということも含めたいとは思ってございます。もちろん特定の政策のということではないですが、この間に行った様々な政策の効果・副作用、これをなるべく幅広く点検していくという目的のものでございます。

二番目のご質問、必要性ということだったと思いますが、絶対必要というわけでは必ずしもないですが、特に目先の政策変更に結びつけて何かやるというわけではございませんので。ただ、非伝統的金融政策という言葉で言えば、それも25年間になってきている。先ほどのご質問でお答えしましたように、基調的インフレ率は徐々に上昇し始めていて、上昇を続けていて、安定的な2%の可能性も出てはきているという中で、それはうまくいったとき、あるいはうまくいかなかったとき、少しロングレンジの話になりますが、そういうところをにらんで用意をしておこうというタイミングかなというふうに思った次第でございます。

(問)
このレビューについて、私もお伺いします。レビューに1年から1年半程度の時間をかけるということですが、その間は政策変更をしないということになるんでしょうか。

またレビューの結果の出し方についてもお伺いしたいんですが、結果というのは1年から1年半後、まとめて出すかたちになるのか、もしくは段階的に結果が出た部分から出していって、それでその都度政策修正というのを考えることになるのか、その辺り詳しく教えて頂けますでしょうか。

(答)
先ほどもちょっと話しかけたのですが、このレビューを実施している1年から1年半の間、政策変更がないのかどうかというのが前半のご質問だと思いますけれども、それはそうではなくて、その時々に必要な政策変更、1年半の間であってもですね、それは毎回の[金融]政策決定会合で議論して必要があれば実行していくというスタンスです。例えば、現在は基調的なインフレ率が持続的・安定的に2[%]には達していないという判断ですが、これが1年半の間に変わる可能性はゼロではないわけで、そうすれば当然それに伴って政策変更はあり得るということになるかと思います。

それからレビューの結果の発表のタイミングのご質問だったと思いますが、これはもちろん最後には何かまとめたものを出したいと思いますが、途中でも少しずつまとまったものができて、それを外に問うことが有益であると考えられる場合には、随時発表していきたいと思います。ただし、それが申し上げたように政策変更と一個一個結びついているわけではないので、見方によっては何かアカデミックなことを言っているに過ぎないなというレポートというかたち、発表というかたちで出てくるという場合もあるかと思いますが、途中のタイミングでも随時発表させて頂くということに、おそらくなるかと思います。

(問)
二点ございます。一点はレビューについてなんですけれども、どんな組織でも人でも、なかなか自分のしたことを自ら検証するというのは、やはり厳しく検証するのは難しい面があると思うんですけれども、その辺の客観性とかをどうやって担保されようとお考えになっているのかというのと、あと日本の金融政策をみると、例えば財政ですとか、政府の政策との、連動しているというか、関連が強い部分もあると思うんですけれども、あくまで金融政策の面からだけ検証するというお考えなんでしょうか。

もう一つ、足元の金融政策なんですけれども、基本、現状維持ということだと理解したんですけれども、主に3月に起きた欧米の金融不安とかは、その現状維持という判断にある程度影響を与えたのでしょうか。

(答)
前半ですけれども、もちろん今日の決定会合でも、このレビューについての議論はいろんな角度から行われまして、その中でも、一部の委員からは、自画自賛にならないようにというコメントがありましたし、逆に、他の委員からは、あまり自虐的になってもいけないというコメントもございました。そういうことで、なるべく、難しいことでありますが、客観性を担保できるようなやり方で進められたらと思います。そのためにも、先ほど申し上げましたように、いろいろなかたちで外部の方のコメントや意見を聴取したり、あるいは、途中で出てきた結果をいろいろなかたちで世に問うということをして、それでまたブラッシュアップしていくということも続けていきたいと思います。その中で、金融政策以外の部分についてどういうふうに扱うのか、というご質問の部分もあったと思いますが、これも今日も議論になりましたが、金融政策が直面していた外の環境ですね、そこに他の政策も入ると思いますけれども、それが少なくともどういうものであったかということは明確にしつつ、進めたらいいのではないかというご意見がありました。

それから、今日の現状維持という決定について、3月以降の世界的な、特に3月に著しかったわけですが、金融不安の広がりがどう影響したか、しなかったか、というご質問だと思いますけれども、これについてはもちろん、そこを考慮したうえで政策決定が今日行われたということでございます。もう少し申し上げれば、言うまでもないかもしれませんが、3月の事態に対して、欧米の金融当局が非常に素早く対応したということと、それもあって、不安の広がりのもとが、割と個別行の問題であったという認識も広まったということで、市場関係は今、一応安定しているという状態にあるかと思います。それでも潜在的に、例えばアメリカ等では中堅銀行に対する不安は残っているかと思いますし、今後そういうことがどういうかたちで表れてくるかということについては、注意深く見守っていかないといけないという状態である点は、間違いないと思います。この点は、経済の先行きを巡る不確実性の高まりという点で織り込んだうえでの、今日の政策維持の決定になってございます。

(問)
二問お尋ねします。一問目はレビューについてです。このレビューは政策修正を目的とするものではないというお話でしたけれども、このレビューの問題意識についてお尋ねしたいんですけれども、過去25年間、金融緩和がやはりあまり効果を発揮してこなかったというような問題意識があるという理解でよろしいでしょうか。それがまず一点目です。

二点目は金融政策の運営についてです。物価の基調は先ほど来総裁からもご説明ある通り、緩和を始められた10年前とは状況が大きく異なっていると思います。総裁、今の緩和について非常に強力な金融緩和と再三おっしゃられています。副作用も大きいこの緩和ですね、引き締めとはいかないまでも、通常の緩和に戻していく道を探る必要はないんでしょうか。これが二点目です。

(答)
一点目ですけれども、過去25年間の金融緩和政策が効果を発揮してこなかったという認識からレビューなのかという観点だと思いますけれども、難しいところでありますけれども、私の考えでは効果はある程度出て、それぞれの時点で、政策あるいは時期によって濃淡の違いはあるにせよ、効果はあったと思っております。ただし、現時点での判断基準、例えば2%のインフレ目標を達成するというところまでインフレ率を持ち上げるという意味では、なかなか十分な成功を収めてこなかったというところかなと思います。

それから基調的なインフレ率が、私どもの主張では2[%]に届かない中でも少し上がってきているという中で、実行している政策に副作用があるだろう、これを考えて、もう少し正常化の方向を考えるべきではないか、あるいは考えているのかというご質問だと思いますけれども、基本的なお答えとしては最初に申し上げた通り、もう少し基調的なインフレ率が安心して2[%]というふうにいえるまでには時間がかかりそうである。ですので、現行の金融緩和を継続するというのが基本でございます。ただし、副作用もところどころに出ていることも認めざるを得ませんので、これに関しては注意深く分析を続けつつ、現在何かを考えているというわけではございませんが、政策の効果と副作用のバランスは間違えないように常に注意深く分析し、できる限り情報発信もしていきたいというふうに思っております。

(問)
今回、総裁就任後初の決定会合ということで、前総裁の政策を現状維持として引き継がれました。改めてですけれども、イールドカーブ・コントロールについて、日銀といいますか、中央銀行として明示されている長期金利の誘導目標ゼロ%程度と、許容変動幅が±0.5%程度だと思うんですけれども、その妥当性についてご説明頂ければと思います。

もう一点なんですけれども、この多角的レビューについてなんですが、総括的検証ですとか点検に比べると期間は長いんですけれども、このレビュー期間を1年ですとか1年半と、ある程度区切った理由について伺えればと思います。

(答)
YCCにどういう意味があるか、あるいは妥当かどうかというのが前半のご質問だと思いますけれども、短期金利がゼロないし若干マイナスになっているという中で、暫く前までは基調的インフレ率も非常に低いというわけですので、更なる金融緩和が必要であるという中で、考え出された政策であるということだと思います。名目の長期金利をある程度以上、上がらないようにするという政策でございます。これはご質問の中に含まれてないかもしれませんけれども、基調が弱い間はあんまり[緩和]効果が強くなくて、例えばインフレ率の基調が少し上がってきますと、インフレ期待も上がってきて、そうしますと名目金利を抑えていることが名目金利-インフレ期待の実質金利を下げるという効果を持ってきまして、経済の緩和効果は強まる。ただし、同時にそういう局面に至ると副作用も出てくるというような政策であるかと思います。ですので、昨年来そういう局面にあると思いますが、効果と副作用を、繰り返しになりますが、綿密に分析しつつ見守っていきたいというふうに思ってございます。

それから、多角的レビューのエンドが1年半後になっているのはなぜかというご質問だと思いますけれども、1年半と厳密に決めているわけではないですけれども、その前後を念頭にということであります。一つのお答えとしましては、私や新副総裁の任期5年でございますので、その任期中に、ある程度のレビューの結果を出して、それを残りの任期で、ある程度は役に立てたいという問題意識がございます。

(問)
物価見通しについて、一点お願いします。先ほど総裁は、今後物価の方が少し下がっていって、また上がっていくかどうか、そこの確度というところが担保できないってお話がありました。どうしても物価が上がってくる際には、賃上げといったものが重要になってくると思うのですけれども、そうなると例えば来年の春闘とかそういったものを重視して今後やっぱり考えなきゃいけない、ある程度の期間、見極めには時間が必要だとお考えでしょうか。

(答)
来年の春闘は、おっしゃったように非常に重要な要素かと思います。ただ、厳密にそこまで待たないと判断ができないかということでは必ずしもないと思います。例えば、来年の春闘のベースとして今年の物価動向が一つ影響するでしょうし、今年の企業収益も影響するというふうに考えられます。そういう来年の賃上げの程度につながるような今年のいろいろな経済変数の動きをみていく中で、これは大丈夫だというふうに思って、持続的に2%が達成されそうだという判断に至るケースも十分あり、可能性としてはあり得るというふうに考えてございます。

(問)
私も多角的なレビューについて二点ご質問をさせてください。一点目はレビューの対象期間の時期なんですけれども、25年間ということは、今23年度なので引き算すると1998年になるかと思うんですが、その時期は速水総裁の時代だったと思うんですが、速水総裁時代からのそのレビューをやるという認識で合っているのかというのが一点目です。

二点目は、だとすると植田総裁は98年、同じ時期に審議委員をされているかと思うんですが、例えば2000年に速水総裁下でのゼロ金利解除に反対票を植田さんは投じられているかと思うんですが、そういったこともそのレビューの対象になる、ひいてはそういった当時のレビューをすることによってどのように今後の金融政策の決定に生かしていかれるのか、そのお考えをお聞かせください。

(答)
25年とすると、最初の年が1998年になります。それでなぜそこかという点に関しては、大まかにはその辺から日本経済はデフレの状態に陥っていったということと、それもあって、その前からの政策の結果でもありますが、ゼロ金利にほぼ直面していたので、それ以上マイナス金利というオプションを当時はあまり真剣に考えていなかったので、その他の非伝統的金融政策を始めるようになった、非伝統的金融政策の開始のタイミングが大体その辺である、その後いろんなかたちでの非伝統的金融政策を実行してきたということで、非伝統的金融政策全体のレビューを行うのにちょうど適した25年間というスパンではないかなと考えた次第です。

その中で、例えば2000年8月だったと思いますが、金利引き上げが適切であったかないかというようなのも、もちろん面白い問題ではございますが、毎回毎回の決定会合の決定が適切であったかそうでないかという観点よりも、その当時使われていた政策手段、例えばその少し前は時間軸政策であったり、その少し後から量的緩和政策になったり、そういうものがこの25年間を振り返ってみるとどれくらいの効果を持ち、効果はもし期待されたほどではなかったとすると、どういう外的条件、あるいはやり方のまずさ、そういうことが影響したのかということを分析する。それは将来、仮にそういう状況にもう一回陥ったときに、必ず役に立つ知見になるのではないかなと思った次第です。

(問)
二点お伺いしたいんですけれども、先ほどからYCCの副作用と効果について注意深くみていかれるということですが、そのYCCについて、植田総裁、この間も、今イールドカーブがスムーズになってっていう発言をおっしゃっていて、やはりそこは副作用というのは世界的に金利上昇圧力が強くなったときに出やすいとは思うんですけど、そのYCCの副作用が顕現化してこない限り、はっきりしてこない限りは、特に前もって、そこについて手当てをする必要はないとお考えなのかどうか、それがまず一点です。

あと、植田総裁というのは、フォワードガイダンスを考え出された方として知られているわけですけれども、今回、その金利のガイダンスをなくすことによって、なぜそれがより良い判断なのか、金利のガイダンスを残すことによって、更に透明性が確保されるという見方もあるとは思うんですけれども、その点についてお考えをお願いします。

(答)
前半は、YCCの副作用についてのご質問ですが、おっしゃるように3月以降、海外金利の低下に伴う国内金利の基調がやや低下方向に行ったということが、副作用の軽減に役に立ったということは確かかと思います。そのほか、12月の変動幅の拡大とかSLFの柔軟な運用、こういうこともスムーズなイールドカーブの形成には役に立っているというふうに考えてございます。ただ、それでも、今日も会合でも指摘がありましたけれども、例えば国債市場の厚みのような指標をいろいろみていますと、まだ問題のあるところも残っているということですので、副作用が全くなくなったわけではもちろんないということは前提に、注意深く検討していきたいというふうに思ってございます。

それから、金利のガイダンス、今日取ってしまったところですけれども、これについては、そのパラグラフといいますか、パラグラフになってなかったかもしれませんが、コロナ感染症に紐付けたという書き方になっていて、最初に申し上げましたように、そこがそろそろ整理していい時期に来ているということで、全体を大まかにはカットさせて頂いたうえで、新たに、一番最初のところに、これまでのような金融緩和を粘り強く続けるという文言を入れまして、その中で読み込むというふうに整理させて頂いたというつもりでございます。

(問)
今日のフォワードガイダンスの修正のところで、賃金の上昇を伴うかたちでという文言が新しく入りましたが、その賃金も物価も安定的に上昇していく、その好循環の実現に向けて、総裁としては、ご自身ではどの程度、その達成の確度があるとお考えでしょうか。

(答)
これは冒頭よりいろいろなかたちで申し上げているところですが、まずその前に2%の物価安定の目標が持続的・安定的に達成されるためには、物価だけが上がっているということではだめで、物価だけでなくて、企業収益、雇用、賃金が増加する中で、物価も上がっていくという状態であることが必要であるというふうに思っています。そういうこともあって、賃金という表現が今回の文言の中に入ってきているということです。それに向けてどれくらいのところまで来ているのかというご質問だと思いますが、非常にざっくりと申し上げれば、昨年までかなりの物価上昇があって、今年の、縮めて言えば春闘ではある意味予想をかなり上回る賃金の上昇が、物価上昇もあった結果生まれてきている。ただそこで終わってしまうと持続的な物価安定につながらないというか、達成されたことにはならないので、今後、賃金が物価の上昇に跳ね、更にまた物価・賃金の上昇につながっていくという循環を、先ほどのどこかでご質問にもあった点ですが、確認できる状況になるのを待ちたいなということでございます。

(問)
二点あるんですけれども、総裁のおっしゃる物価の基調といった場合、もちろん様々な手法をみると思うんですけれども、そこがまだ2[%]に至らないという判断をされる場合の根拠というか、これはいろいろなものを全体としてみてまだ2[%]に行かないということなのか、少し具体的にご説明して頂ければと。その基調の定義というところをお願いします。

二点目について、フォワードガイダンスで金利のところ、現在またはそれを下回る水準を想定するというガイダンスは今回取り除いたんですが、金利のターゲットを修正してもなお、緩和的な金融環境を維持することは不可能ではないと思うんですけれども、例えば十分な量を出しているですとか、短期金利はしっかり0[%]に抑えていれば、10年金利ターゲットがなくても緩和的なのではないかといった説があるんですけれども、この金利のガイダンスがないというのは、すなわち金利を修正する余地が残されているのか、この金利のガイダンスと新しく整理したガイダンスの関係と、それが今後の金利の水準の判断に与える影響について、関係性をお願いします。

(答)
前半ですけれども、非常に単純なお答えがなくて申し訳ないんですけれども、例えばヘッドラインの消費者物価指数から、欧米でよくやられますように、全ての食品とエネルギーを除いてしまった部分の物価指数、これをみていれば基調的な物価が分かるということであれば、それ一本みていればある程度分かるということで、非常に分かりやすいんですけれども、現在は日本だけでなくて、欧米でもそういう操作をした後の物価指数についてもかなり一時的な部分があって、もうちょっといろいろ考えないと基調的なところが分からないなっていう点で、皆さん苦労されていると思います。ということで、これだけみれば大丈夫だという物価指数あるいは指標はなかなかないわけですが、一つの、どこかでこうした質問にお答えしたんですが、考え方としては、いずれにせよ半年先、1年先、2年先の物価見通しをわれわれが出すときには、一時的なところは少しずつ取っていって、長く続くところを取り出していくという操作をしますので、そこにかなりの程度基調的な物価見通しに関する判断は表れている。そこを判断する際に、私あるいは他の人も申し上げていますように、GDPギャップだとか賃金上昇率あるいはインフレ期待、こういうものの動向をみながら将来を予想していくという操作をするわけで、その結果として出てくる将来の見通しは、かなり基調的なものに近い。そのうえで最初の方にあったご質問とも関係してきますけれども、かなり2%にそれも近くなってきているんではないかということですが、そこは少し先のインフレ率見通しについては、自分たちで出しておいてこう言うのも恐縮ですけれども、まだちょっと自信の度合いが少し低いので、そこは割り引いてみたいというような判断も含めての、基調的なインフレ動向に対するわれわれの判断でございます。

それから、フォワードガイダンスで、金利の水準に関するものが明示的になくなったではないかと。そうすると金利を引き上げるということも、それが金融緩和的な状況にとどまるのであれば含まれるのかというご質問だと思いますけれども、現状では、今出てきました基調的なインフレ動向が、安定的に2%に達するという見通しが実現するまでは、長短金利のイールドカーブ・コントロールですね、これを続けるというコミットメントをしておりますので、その枠の中でできることをやっていくということになるかと思います。

(問)
一点、多角的レビューについてお伺いします。このレビューという名称が、なぜこのような名称になったかというところなんですけども、過去、総括的検証というのは、これは英訳されるとComprehensive Assessment、点検はAssessmentというふうになっておりますけども、これとはまた違ったことをやるということで今回レビューという名前にされたのか、そしてそのレビューという名前の由来というか、決め方というかを教えてください。

(答)
あまり深い意味はないと私は思っておりますが、ここまでのいろいろなやり取りの中で、検証するのか、点検をするのかというご質問をたくさん頂いて、いろいろお答えしてきたのですが、その多くが割と近い将来の政策変更に結びつくような点検・検証を念頭に置いたご質問だったように思います。そこと、ちょっと距離を置く意味でもレビューという名前に言い換えてみたという面がございます。

(問)
物価見通しと金融緩和政策に関連して伺いたいと思います。総裁の方は、現状について、2%台のインフレ基調が安定的に達成できるのはまだ自信が持てないというお立場である一方、その副作用に関しては現状でもなくなったわけではないという認識を示されています。その一方で、今回大規模な金融緩和については継続したわけですが、就任時の記者会見等で、ご自身であればこれほど強力なものっていうのは、実際採用できたかどうか自信はないというようなご発言もされていたと思うんですが、ある程度インフレが当時よりも良くなっている状況で、なぜこの緩和を続けるんでしょうか。

(答)
それはやや繰り返しになりますが、おっしゃるように基調的なインフレ率に関する私どもの判断は少しずつ上がってきています。ただ2%だというふうに安心して言えるところにはまだ到達していないという中で、現行の緩和姿勢を維持しているということでございます。

(問)
本当はもう一つ質問したかったんですが、質問を一つに絞れということですので、残念ながら一つに絞らせて頂きますが、初回の記者会見ですので、記者会見について、どういう姿勢で臨まれるのかということについてお尋ねしたいと思います。前任の黒田総裁は、まだ質問の手が、記者の手が上がっていても、会見を途中で打ち切ったり、あるいは特定の記者を指名しなかったりという運用もしばしばありました。それは明らかにこれまでの総裁と記者会見の運用が違ったわけですけれども、植田総裁は今回、黒田総裁時代とは違う会見の運用をされているように拝察していますが、どういう姿勢で会見に臨まれるのか、お考えをお聞かせください。

(答)
もちろん基本姿勢としては、なるべく丁寧に分かりやすくということでございます。特定のメディアの方、あるいは個人を排除してということは全く考えてございません。そのうえで、どこまで時間を引っ張るかということについては、皆さんの時間も私の時間もありますので、またご相談させて頂ければなと思いますが、今日は大まかに1時間をめどにということで始めさせて頂きました。

(問)
今日発表された東京都区部の消費者物価指数では、生鮮食品除くで3.5%上昇して、食料では8.9%というかなり歴史的な物価高となっています。日本銀行の生活意識に関するアンケート調査では1年前と比べて暮らし向きにゆとりがなくなってきたっていう回答が56%で、このうち9割を超える人が物価上昇を理由に挙げています。こうした物価高に大変だっていう人々の声について、総裁どういうふうに感じてらっしゃるのかっていうことをお聞かせください。

(答)
単純に賃金を物価で割り算して実質賃金にして、あるいはその変化を眺めてみても、実質賃金がなかなか伸びていないというか、足元では減少しているということで、その点は個人個人の方の苦しさということもありますし、それがあるゆえに、実質賃金が伸びていないゆえに消費の足を引っ張って、マクロの経済動向に対する見方についても影響を与えるということで、当然非常に関心を持ってみております。ただ申し上げましたように、CPIの今後は、少し上昇率が目にみえて下がっていくという中で、雇用もある程度増えれば、実質雇用者所得がプラスに転じるという可能性もあるかなという辺りも念頭に置いています。

(問)
展望レポートの物価見通しについてお尋ねをします。総裁、先ほど緩和を続ける理由として、見通し期間後半に確実に数字が上がってくるか確かめたい旨おっしゃいました。ところで、今回展望レポートで示された数字、コアをみますと、24年度で2.0[%]、25年度で1.6[%]、こういった数字がありますが、もし仮にこの数字が結果として実現をしたとして、この数字の水準ではまだ不足でしょうか。この水準感をお聞かせください。

(答)
水準感としては、決定会合で議論したわけではないので私個人の意見になりますが、25年[度]の1.6[%]はちょっと低いと思いますが、もちろん24年[度]の2.0[%]は目標の2%に達しているわけです。水準感としては、そういう感じですが、先ほど来申し上げているように、これが今の時点からみたという観点からいうと、どの程度の自信をもって言える数字なのか、それから24年[度]、25年[度]の時点に近いところからみた場合では、その後急に下がっていくということがないかどうかとか、そういう辺りも含めての判断になるかと思います。

(問)
レビューについて伺います。1年から1年半程度の時間をかけるとしていますが、経済情勢の変化などを考えると、ややそのスピード感に欠けるような印象を持つんですが、この期間の長さの妥当性についてどのようにお考えでしょうか。

(答)
それは確かに、近い将来の政策運営、政策変更について何か分析をするということですと、1年半もかけていたのでは間に合わないということだと思います。ただ、そこの点は今回のレビューの対象ではなくて、もう少し、5年以内くらいの中での、場合によっては、政策に役に立てるということではありますが、もう少し長期の政策運営に資するという観点からのレビューであるということと、もっと短期の政策変更の可能性に関連して必要な分析は、別のかたち、基本的には毎回の政策決定会合の議論の中で、行っていくというふうに考えてございます。

(問)
先ほど、レビューの質問に対して、長期の金融政策運営に資するというお話を、もうつい先ほどされたかと思います。まさに植田総裁、任期5年の中で、中長期的にみますと、やはり見据えるのは出口になってくるかなと思います。今回のレビューが、その出口に向かうに当たっての手法にどのような役に立つのか、総裁、どういったことを期待されているのか、もしあればよろしくお願いします。

(答)
1年から1年半というのは微妙な長さかなと思います。その間に出口、正常化と申し上げましょうか、を全くしないというか、正常化を始めるという可能性もゼロではないと思うんですよね。そういう場合には、このレビューは必ずしも時間的に間に合わないということだと思いますし、そもそも現時点で、そこを狙ってやり始めるというわけではないと思います。一方で、出口といいますか、正常化を始めるプロセスが、どんどんどんどん後ろずれしていくという可能性も、またゼロではないわけで、そうすると、それは2年後、3年後、4年後ということになっちゃう可能性も、残念ですがあり得る。そうすると、そういうところで、出口の始め方なのか、あるいは今も、微妙な言い方になりますが、長引く可能性が出てくる現在の金融緩和政策を、副作用を減じつつ、どういうふうにして継続していくのかという点は、当然考慮しなくてはいけない点になりますし、このレビューでも、そういう場合はできれば取り上げていきたいなというふうには考えてございます。

(問)
政策金利の想定の文言が外れた点についてちょっと再度お伺いしたいんですけれども、整理されたということで、この文言を見比べると、現在の2%の持続的・安定的実現までというような、あくまで金融緩和について状況に対しての反応、対応ということで、以前の政策金利についてそれを下回る水準で推移することを想定しているというのは状況に紐づかないわけですけれども、この文言を外すことでより柔軟性を確保した、状況に対しての柔軟性を確保したという理解でよろしいんでしょうか。

(答)
一応機動的にという文言もございますし、ある種、柔軟性を確保ということではありますけれども、物価安定に向けて粘り強い金融緩和を続けていくという基本姿勢と整合的な意味での機動性を考えているということでございます。

(問)
今回の大幅金融緩和の維持で、対ドルの相場が円安にすぐに動いたと。円安による物価高によって国民生活が更に苦しくなったということが明らかになったわけですが、結局、植田総裁は国民生活よりも権力の方を向いて迎合して金融政策を進めようとしているのかと疑わざるを得ないと。1年、1年半もかけてレビューをして、明らかな国民生活を圧迫している円安を招いているアベノミクス、異次元金融緩和をなぜ素早く見直さないのか、その理由をお聞かせください。

(答)
本日、確かに決定会合後、円安になったわけですが、一時的な為替レートの変動等についてはコメントを差し控えたいと思います。ただ、私どもの金融政策は先ほど来申し上げていますように、2%のインフレ率を持続的・安定的に達成するという目的のためにやっているわけでして、それが持続的・安定的に達成されるという状態の中では、物価が上がるだけではなくて、これもどこかで申し上げたと思いますが、雇用、企業収益、賃金も上がっていくという状態になるというふうに考えてございます。

以上