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総裁記者会見 2023年6月16日(金)午後3時30分から約60分

2023年6月19日
日本銀行

(問)
本日の金融政策決定会合の内容についてご説明をお願い致します。

(答)
今日の決定会合ですけれども、長短金利操作、いわゆるYCCのもとでの金融市場調節方針について、長短金利操作の運用も含め、現状維持とすることを全員一致で決定しました。資産買入れ方針に関しましても、現状維持とすることを全員一致で決定しました。それから、経済・物価動向についてご説明します。わが国の景気の現状については、既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直しているというふうに判断しました。先行きは、今年度半ば頃にかけては、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかに回復していくとみています。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。ただし、成長ペースは次第に鈍化していく可能性が高いとみています。リスク要因をみますと、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向など、不確実性はきわめて高いと考えています。そのもとで、金融・為替市場の動向や、そのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があります。

物価ですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小していますが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足元は3%台半ばとなっています。先行きは、そうした価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくと予想しています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の価格・賃金設定行動などの変化を伴うかたちで、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、振れを伴いながらも、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみています。こうした物価の先行きを巡っては、企業の価格設定や賃金引き上げの影響を含め、きわめて不確実性が高い状況にあり、物価安定の目標の持続的・安定的な達成には、なお時間がかかるとみています。

日本銀行としては、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針です。

最後に、多角的レビューについてです。前回会合以降、関係部署で順次作業に取り掛かっているところですが、現在の状況を簡単にご紹介したいと思います。最初に分析テーマですが、レビューを進めるに当たり柔軟に考えていきたいと思っていますが、まずは過去25年間に実施してきた各種の非伝統的金融政策手段の効果について、それぞれの時点における経済・物価情勢との相互関係の中で理解するとともに、副作用を含めて金融市場や金融システムに及ぼした影響についても分析したいと思います。また、その背景として、1990年代以降の経済のグローバル化やわが国の少子高齢化といった様々な環境変化が、企業・家計の行動や賃金・物価形成メカニズムなどに及ぼした影響、およびその金融政策への含意などについても理解を深める予定です。次にレビューでは、多様な知見を取り入れつつ、客観性や透明性を高める観点から、行内での分析だけでなく、様々な取り組みを行う予定です。具体的には、既存の調査・サーベイ等を活用するほか、本支店でのヒアリング調査、金融経済懇談会での意見交換、更には公表物に関するパブリック・コメントの実施などを考えています。加えて、この先、学者や専門家などを招いたワークショップを開催する予定です。なお、レビューに関する情報については、来月中をめどに、日本銀行のウェブサイトの中に多角的レビュー専用のページを設け、そこに順次掲載していくことを考えています。

(問)
幹事社の質問は二問です。厚生労働省が発表した4月の毎月勤労統計調査によりますと、一人当たりの実質賃金は、前年同月比で3.0%の減少となりました。春闘の結果が一部反映されつつある中でも、マイナス幅については、前月から拡大する結果となっています。現時点で、賃上げの状況をどうみていらっしゃいますでしょうか。

二問目については、物価の動向についてです。日本銀行が発表した5月の企業物価指数の前年同月比上昇率は5.1%でした。上昇率は5か月連続で鈍化していますが、食料品などでは価格転嫁の動きが今なお継続しています。日銀は2023年度半ばにかけて、コアCPIの前年同月比上昇率が2%を下回るとみていますが、現時点で、物価動向の先行きをどうみていらっしゃるのか、変わりはないのか教えてください。

(答)
まず最初の賃金に関するご質問ですけれども、ご指摘の通り、実質賃金の前年比は足元マイナスで推移しています。これは言うまでもないですが、名目賃金が緩やかな増加を続けているわけですが、輸入物価の上昇を起点とした価格転嫁の影響から、消費者物価指数がそれを上回って上昇しているためでございます。先行きですが、賃金上昇率は昨年を大きく上回る見込みにある労使交渉の結果が、夏場にかけて実際の給与に反映されていくことに加え、経済活動が改善を続けるもと、労働需給の引き締まりや物価上昇を反映するかたちで、基調的に高まっていくと考えています。ただし、来年以降の賃上げの持続性など、先行きについての不確実性は、やはりきわめて高いと考えています。今後とも、企業収益や雇用情勢に関する様々なデータやヒアリング情報などを用いて、賃金動向を丁寧に見極めていきたいと思っております。

それから物価の見通しですけれども、これも申し上げるまでもないですが、昨年来の物価上昇の背景には、主として輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響がございます。これについては、国際商品市況はひと頃に比べて下落を始めています。輸入物価の前年比は足元でマイナスに転じています。そのもとで、コストプッシュの影響は徐々に減衰していき、今年度半ばにかけて物価上昇率のプラス幅は縮小していくとみています。この間、企業の価格・賃金設定行動には、変化の兆しもみられているというふうに思っておりまして、この点は注目しています。もっとも、先行きは、この企業の価格設定や賃金引き上げの影響を含め、不確実性がやはりきわめて高いと考えています。以上を総合して具体的にどの程度の見通しになるのかという点については、次回7月の展望レポートで数値的な見通しを出すことになりますので、そこに向けて丹念に精査していきたいというふうに考えております。

(問)
二点お伺いします。一点目は先ほどの物価に関する質問の追加なんですけれども、プラス幅を縮小していくといったときに、思っていたほど大きく縮小しないと。要は今の3%台半ばから下に行くにしても、2%を超えたままの状態になるというリスクシナリオ、この辺をどういうふうにみてらっしゃいますか。これが一点目です。

二点目は、総裁、粘り強く緩和を続ける考えを示されているわけですけれども、金融市場の方では、例えば7月にも日銀はその長短金利操作の見直しなど政策修正に動くのではないかといった見方、なお根強いです。市場のこうした政策修正に関する観測について、どういうふうにご覧になってますでしょうか。要は総裁が粘り強くと繰り返し発言なさってる意図が十分伝わっているというふうにお考えでしょうか。以上二点お願いします。

(答)
前者は物価の見通しに関してもう少し詳しくということかと思いますので、やや正直に申し上げますと、先ほど申し上げましたように、当面から少し先にかけての物価、インフレ率の見通しは当面下がっていく、どこかで反転してまた上がっていくという見通しを言っているわけです。それと比較してということですけれども、ここのところ出てきたデータをみますと、この下がっていくところの局面に今あるわけですが、下がり方が思っていたよりもやや遅いかなという感触は持っております。ただ、まだ下がっていく局面が始まったところにあるくらいの段階だと思っていますので、年度半ばにかけて更に下がっていく、その段階でやはり例えば4月の見通し対比上振れたままで推移するのか、キャッチアップというのも変ですけれども、今までやや上振れていた部分がなくなるかたちで急速に下がってくるのか、そこは不確実性が高いというふうに考えてございます。

それから、YCCの見直しについてですけれども、これはこれまで申し上げてきたことですが、やはり政策の効果と副作用についてきちんと比較衡量しつつ、私どもは政策を決めていきます。それに関するコミュニケーションということで申し上げれば、一つは、今申し上げたような物価・経済の見通しをなるべく丁寧にご説明していくということと、副作用周りでは、市場機能についてどういう認識を持っているかということも丁寧に申し上げていくということかなと思ってございます。

(問)
二問お尋ねします。一問目はちょっと今と同じような質問なんですが、市場とのコミュニケーションとYCCについてです。総裁、これまで金融政策の運営に当たっては、市場とのコミュニケーションが大事であると、市場との対応を重視する姿勢を示されています。一方で、YCCは事前に市場に修正を織り込ませることが難しい政策かと思います。お答え頂ける範囲で結構ですので、市場とのコミュニケーションとYCCについて、総裁のお考えをお聞かせください。

あと、二問目が円安です。足元で、再び円安傾向が強まっています。黒田前総裁は、かつて円安は日本経済全体としてはプラスであるとの評価をされています。総裁も同じようなお考えなのでしょうか。円安が日本経済に与える影響について、総裁の評価をお聞かせください。

(答)
まず、YCCについてでございますけれども、結局直前のご質問へのお答えと大差ない答えになってしまって恐縮でございますけれども、やはりわれわれの経済・物価・金融情勢の現状および先行きに関する見方、それを踏まえた政策運営の考え方について、丁寧に説明を行っていくということなのかなと思っております。その中に、副作用についての考え方も含まれるということだと思います。そのうえで、毎回の決定会合でどうするかということを都度決定していくわけですので、一つの決定会合から次の決定会合の間に、様々な新しいデータや情報が入ってきますので、それに基づいて、前回とは違った結果になるということも含めて、ある程度のサプライズが発生するということも、他の政策でもそうですけれども、やむを得ないのかなというふうに思ってございます。

為替レートについては、申し訳ありませんけれども、私どもは、為替の水準、変動理由、その評価について、具体的にコメントすることは差し控えてございます。理論的には円安が発生しますと、申し上げるまでもないですが、プラスの影響を受けるセクター、それからマイナスの影響を受けるセクター、様々でございますし、どういう時期の円安かによっても違ってくるとは思いますけれども、いずれにせよファンダメンタルズに沿って、為替レートが安定的に動いていくということが重要というふうに考えてございます。

(問)
2%目標についてお伺いしたいんですけれども、総裁、物価の不確実性が高まっていて、いろんなデータを見たいということをおっしゃっていますけれども、そういう中で、2%という具体的な数字を掲げることがですね、例えば導入時のような各国中銀がもう低インフレに苦しんでいた時期に比べて、却って意義が薄れていて、数字があることで却って、政策について緩和したりとかあるいは正常化をするときに、納得を得たりとか、説明をすることが困難になるような弊害が目立ってくる可能性はないでしょうか。お考えをお聞かせください。

(答)
必ずしもご質問の意図があれですけれども、2%という目標をおいていること自体は、説明を分かりやすくするのかなとは思いますけれども。

(問)
例えばですけど、今、足元2%の上昇率を超えていても、実態をみて、緩和を続けてらっしゃるんだと思うんですけれども、あるいはいつか正常化するときもやっぱり、例えば2%にどこかの時点で超えたからとかじゃなく、やはり実態をみて判断されるんだと思うんですけれども、そのときに2[%]という数字があると、それに達していないのに正常化するのはおかしいんじゃないかとか、あるいは達していないんだからもっと緩和した方がいいんじゃないかとかいろんな意見が出やすくなる、出やすくなって、それを例えば説明、説得したりとか、納得を得たりすることが難しくなる可能性はないでしょうかという話です。

(答)
そういうご趣旨ですと、今理解した限りでは、2%目標それ自体の問題というよりは、金融政策の考え方として、2%を目標にするといったときに、足元のはっきりみえている2%が、そのまま政策を決めるのではなくて、政策の効果に、よく言われるように、時間的なラグがあるということから、少し先行きの、かなり先行きのインフレ率がどうなるかとか、基調的なインフレ率がどうなるかということが重要になるんだと思います。それで、その後者の基調的なインフレ率が、現状では、足元みえている、例えば[ヘッドラインの]3.5%というインフレ率とかなりずれているために、説明が難しくなっているという問題かなと思います。この難しさは以前より十分認識しておりますので、努力して、そこのギャップのようなところを、なるべく、そのギャップそのものは埋まらないわけですが、理解頂けるようにしてきたつもりですが、今後も努力していきたいというふうに考えてございます。

(問)
総裁は、物価2%の持続的・安定的な実現が見通せる状況になれば、金融政策の正常化に着手する考えを示されておられます。この見通せる状況というのは、具体的に、どのようなイメージを持たれているのかご説明して頂ければと考えています。そのうえで、見通せる状況になる前の段階なのですが、例えばインフレ期待が上昇してですね、緩和度合いが強まるケースなど、そういったケースで、見通せるようになる前でも、緩和度合いの調整という意味での政策修正とかそういうことは選択肢として考えられるのかどうか、その点について総裁の考えをお願いします。

(答)
2%の持続的・安定的な達成が見通せるというのはどういうことか、あるいはどういう時点かというご質問だと思いますけれども、私どもが出している経済・物価見通しとの関連で、それに一番近いのは、やはりインフレ率の先行きの見通しということだと思うんですけれども、それは、やや難しい話になってしまいますが、先行きのインフレ率を予想しようとして考えた場合に、必ずここになるんだというふうにはっきり分かるものではなくて、2%くらいになるかもしれないし、1.5[%]かもしれないし2.5[%]かもしれないというふうに、かなり幅を持って予想せざるを得ない中で、取りあえず相対的に確率が一番高そうな数値のところを見通しとして入れているという作業をしてございます。その際に、その中心的な見通しないし確率が一番高いような見通しの確率が非常に高ければ、その見通しが、2[%]に到達して、その後もまだ2[%]で行きそうだというのが分かれば持続的・安定的に達成されたということだと思うんですけれども、仮にそれが2.2[%]であっても、その2.2[%]の見通しに付随する確率のようなものがかなり低くて、もっと他の見通し、特に下側の見通しもかなりの確度で出てくる可能性があるというようなときには、2.2[%]の中心見通しだけで政策が決まるというわけではないと思うんですね。というふうに、見通しの中心値だけでなくて、その不確実性とか、どれくらいその中心見通しに確信を持っているか、そういうことを含めて、という話だと思います。本来であれば、そういう分布もきちんと提示して、コミュニケーションをした方が分かりやすいという面はあるかと思いますが、そういう分布自体を自信を持って出せるかどうかという問題もあるように思いますので、現状は定性的な表現になってはいますが、そういう幅のある話だというふうにご理解頂ければと思います。

(問)
二点目のところなんですが、インフレが見通せる状況になる前でも、インフレ予想が高まったら政策調整ってことがあり得るのかということについてお願いします。

(答)
そこは今申し上げたように、統計的な言葉で言えばモードですか、確率が一番高いところ、そこをみるだけじゃなくて、ディストリビューションをみるという中で、総合的に持続的・安定的な物価見通しの達成を判断していきたいということですので、中心見通しだけで行動するわけではないということは言えるかと思います。

(問)
米国経済のことでお伺いしたいんですけども、FRBも市場参加者も、現状ではアメリカの経済の大きなリセッションというのをみてないと思うんですけども、足元インフレ率が下がってる中で、名目金利が上がってて実質金利が上がってるので、やはり経済の下押しが結構大きくなるかと思うんですけども、その点を日銀が政策判断というか政策修正するうえで、どのようなかたちっていうか、政策判断・修正においてのリスクとして、どのような感じで評価されるというかみていらっしゃるのか、ちょっとお伺いしたいんですけれども。

(答)
海外経済、特に米国経済動向は、非常に大事な判断の一つのポイントと常に考えて政策決定に至っています。特に、米国経済の今後の不況の可能性およびその日本への影響という点のご質問だと思うんですけれども、不況の可能性ということで申し上げれば、二つの可能性が少なくともあるかなと思います。それは一つは、これまでに既に約5%ですかね、Fedが利上げをしているわけですが、利上げの全ての経済に対するマイナスの影響が出尽くしたというわけではないと思いますので、それが今後、一部は予想されたかたちで、一部予想されないかたちで出てくる可能性がある。様々な表れ方があるでしょうが、そのうちのいくつかは不況という事態に対応する可能性があるということだと思います。もう一つは、現在、今回のFedの見通しの見直しにも表れていますが、経済とか物価の情勢が、暫く前の判断よりは少し強いという判断だと思います。これが今後も続いた場合に、先に行って、また一段の利上げが必要になる、それがこれまでの利上げの効果も相まってですが、経済に、少し更に先で強い下押し圧力になるというリスクもあるかなと思ってございます。いずれにせよ、そういう、米国経済に強い下押し圧力がかかったときに、当然のことながら、まず貿易・輸出動向等を通じて日本に影響が及びますし、更に、マーケットを通じて影響が及び、それが日本の企業・家計のコンフィデンスに影響を及ぼすというルートについても、注意してみてまいりたいと思っています。

(問)
一つが物価のことについてです。先ほど総裁も、先行きについてまだ不確実性があるというふうにおっしゃいましたが、2%目標の持続的・安定的な達成を実現できるかどうかの見極めというのには、やはりもう少し経済指標を集めるなど、見極めにはまだ時間がかかるとお考えでしょうか。

もう一つが、長期金利の操作のことなんですけれども、金利操作、長く続いており、金利が本来持ってる、発するメッセージなどそこら辺を押さえつけることによって、金利の機能がだいぶ生かされてないと思うんですが、もう少しこの長期にわたる金利操作ということを考えると、長期金利の操作にもう少し柔軟性を持たせる必要があるのかどうか、その点についてどうお考えでしょうか。

(答)
前半ですけれども、最初にちょっと申し上げたんですけれども、足元のこれまでの物価の動きをみる際に、企業の価格や賃金の設定行動に変化の兆しがみられ始めているということを申し上げました。これは、更に申し上げれば、例えば、価格といえば、これまではちょっと自分が上げようと思っても同業他社がどうせ上げないのではないか、ついてこないのではないかという懸念から、自分が上げるのも我慢してしまうというようなところだったのが、自分が上げても他社も上げるだろう、あるいは他社が上げてるから自分も上げられる。賃金でいえば、同じような状況だったのが、最近では、他社が上げてる中で自分が上げないと、労働者を雇うことができない、あるいは人が逃げていってしまうというようなことから、自分も賃金を引き上げるというふうに、賃金・物価の設定行動にある程度の変化がみられつつあるというようなことを、特にヒアリング情報等でかなりつかみ始めています。こうした動きは非常に重要なものと思っていまして、ただ、これはどの程度持続するのかというようなことについては、非常に不確実性が高いというふうに、先ほども申し上げましたが、考えています。この点、データや情報の更なる収集に加えて、私どもの中でも少し分析を深めて、長期的なもう少し続く動きなのかどうかということに関する認識を深めていきたいなというふうに思っているようなことが一つでございます。

それから、YCCが市場機能を弱めているという点について、修正の方向で考えているのか、あるいは考えるべきではないかと、そういうご質問だったと思いますけれども、取りあえず、そういうおそらく判断から、12月に10年国債の変動幅を拡大するという措置をとって、その結果、市場機能に関する様々な指標は、足元のサーベイの結果等を見ても、かなり改善をみているということだと思います。ただ、市場におけるインフレ期待等、あるいは海外金利の動向等、これが動いたときにこのままであるかどうかについては何とも言えないわけで、その点十分注意して、今後の動きを見守っていきたいというふうに考えています。

(問)
先ほどの質問とも関連するんですが、二点あるんですが、一点目は、海外情勢次第ではまた長期金利が上昇して、市場機能への強い悪影響が及ぶ可能性がありますが、その場合は、また更なる変動幅の拡大というのが選択肢になり得るのか。こうした動きは、利上げ的な効果で経済を冷やす可能性もあると思うんですけれども、そういったものを考慮に入れたうえでも、オプションになるのかというのが一点目です。

二点目なんですけれども、雇用・所得環境については、今回、日銀は判断を少し前進させましたが、一方で、海外について、アメリカだけでなく中国経済も思ったより元気がないというか、不確実性が非常に高くて、こうした内需の良い動きと外需の不確実性のバランスを考えた場合、来年の日本経済とか物価の先行き、とりわけ春闘とか賃金が好転していくのか、どう考えるか非常に重要と思うんですけれども、内外需のバランス、リスクのバランス、それが来年以降、日本の経済・物価にどう影響を及ぼすかについて、もう少し詳しくお願いします。

(答)
先ほどお話ししたことと前半はかなり重なりますけれども、足元YCCにまつわる副作用は、やや落ち着いているわけですけれども、これは国内でのインフレ期待上昇あるいは海外金利の上昇等が大きくありますと、また副作用が目立ってくるという可能性は当然否定できないわけで、そのときにどうするかということですけれども、今、前もってお答えはなかなかできないですけれども、繰り返しになりますが、その時点でのYCCを続けるということの効果がどれくらいで、まさにそのときの副作用がどれくらいか、これを比較しつつどうするかを決めるということになるのかなと思います。

それから、もう少し大きく経済の判断について、海外についてはリスク要因がそこそこ大きいようにみえる中で、今年から来年にかけての経済情勢の判断をどう考えているのかということですけれども、これも申し上げていると思いますが、私どもの中心的な見通しは、海外経済はこれまでの利上げ等の影響もあって、やや弱含んでいるものの、インフレ率が順調に低下していけば、その後、来年にかけて持ち直していくという見通しでございます。それをもとに国内経済の見通しも作っていますので、海外経済が、先ほどもちょっとご議論ありましたけれども、そういう中心的な見通しよりも悪い方向にずれた場合には、ある程度の下押し圧力が、当然、国内にも及ぶということは覚悟しないといけないと思いますし、それが物価見通しにも影響を与えるということには当然なると思います。

(問)
一点お伺いします。先ほど植田総裁、円安の日本経済への影響について理論的には良いセクターと悪いセクターがあるとお話しされました。悪いというところで言うとですね、大規模緩和の維持というところで足元また円安が進んでおりまして、これによって物価が高止まりする可能性もあるわけです。結果として家計に負担がいくというところだと思うんですけれども、そういった国民の負担について、植田総裁はどういった今、ご認識をお持ちでしょうか。

(答)
ヘッドラインのインフレ率でみれば、3.5[%]ということで、文字通り2%のインフレ目標と比べれば大きく上振れているわけで、これが国民の大きな負担になっているということは強く認識してございます。ただ、これの原因が何かと言えば、先ほど来申し上げていますように、海外発のコストプッシュ・インフレーションであるということです。難しいことでありますが、それは日本の金融政策で、直接どうこうするということはなかなかできないわけでございます。インフレ率を是が非でも下げたいということであれば、ものすごい金融引き締めをして金利を上げて、経済を冷やして下げていくということは考え得るわけですが、それはそのことによるマイナスの方が大きいというふうに、当たり前ですがとらえています。そのうえで、先ほど来申し上げていますように、海外発のインフレの部分については、海外発のというところが既に終了して、マイナスのインフレ率に輸入物価のところは転じていますので、最初の方で申し上げましたように、この部分のインフレ率は、引き上げの力はだんだん弱まっていくというふうにみているところでございます。

(問)
株価のことについてちょっとお伺いします。日経平均株価、今日も上昇してですね、3万3700円超えと33年ぶりの高値をまた更新しました。この急ピッチな上昇にバブルではないかという議論も出始めています。総裁、今の株高ですけれどもバブルであるとかですね、ないしその兆候があるというふうに考えていらっしゃいますでしょうか。これが一点。

それから同じく株高、この背景にですね、日銀の大規模な金融緩和というのはどの程度影響しているというふうに考えていらっしゃいますでしょうか。以上二点お願いします。

(答)
私の立場で、申し訳ないですけど、株価の動きや水準について具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。ただ抽象的に申し上げますと、株価は基本的には将来の経済や企業収益の見通しに基づいて形成されるものですので、おそらくわが国が今後比較的堅調な成長を続け、企業収益も高水準で推移すると予想されていることが、現在の株高の大きな原因ではないかなと思います。

もちろん理論的には、金融緩和で金利が低いという状態は株にとってはプラスの影響をもたらす要素です。ただ、ここのところはずっと動きとしては動いていないので、足元の株高の要因としては申し上げた経済や企業収益の見通しの方の変化の方が大きいかなというふうに思っております。

(問)
二点伺います。一点目がですね、コロナ禍が物価に与える影響について、少し振り返って頂きたいんですけれども、前総裁にもちょっと伺ったんですが、コロナ禍が物価に対してデフレ的だったのかインフレ的だったのかということとですね、今も含めてですけれども、その物価の変動が比較的激しい局面で、リアルタイムでみていくときに、慎重にみることが政策対応の遅れにつながるリスクというのはどの程度感じていらっしゃるかっていうことが、まず一点目です。

もう一点目が、日銀の22年度の決算についてなんですけれども、買い入れた国債は基本持ち切りで会計処理していると思うんですけれども、損益計算書の中で国債売却損が228億円計上されていまして、SLF、国債補完供給制度の利用に伴うということのようなんですけれども、その理由とか背景を具体的に教えて頂きたいのと、そういう会計処理が今後、取引って言うんですかね、常態化するのかというところを、その二点を伺えればと思います。

(答)
最初にコロナがデフレ・インフレに与えた影響というご質問ですけれども、これは世界的に、割とコロナあるいはコロナとともに起こった様々なことがどういうふうにインフレ率に影響を与えたかという点は、かなり共通なのかなと思ってございます。いろいろなエコノミスト等の分析も出てきていますけれども、これがおそらく様々な供給ショックとなって、一部需要と相互作用した面もありますけれども、世界的に物価に強い上昇圧力を及ぼした、それが日本にも及んできたというのが一つ言えることかなと思います。それから、ちょっと違ったご質問で、まだ基調的なインフレ率が低いという認識で慎重に対応することは、先に行って過大なインフレにつながってしまうということについてどう考えているのかというご質問だったと思いますけれども、そのリスクは、時々申し上げているように、ゼロではないというふうに思ってございます。ただ同時に、割と速やかに金融政策を正常化していった場合に、これがインフレ率を下げてしまって、目標に十分達する前にインフレ率が下がっていってしまうというリスクも当然あるかなと思います。それで、それぞれが起こった場合に、私どもがどういう対応ができるかということも考えないといけないと思います。インフレ率がややオーバーシュートしてしまった場合、オーバーシュート自体は望ましくないことですが、そのときに何ができるかということを一方で考え、それから目標達成せずにインフレ率が下がっていってしまった場合に、その前にいったん金利を上げたりしているのかもしれないですけれども、そのうえでどういう対応ができるのかということを比較衡量してみますと、アンダーシュートといいますか、目標達成せずに下がっていっちゃったときの方が対応が難しいのかなという判断を今のところは持ってございます。

後段のSLFに関する会計処理の件でございますが、実務的な部分は別途事務方からご説明させて頂ければと思いますが、よろしいでしょうか。

(問)
4月の金融政策決定会合において賃金の上昇を伴うかたちで2%の物価安定の目標を持続的に安定的に実現することを目指していく、という文言が加えられたかと思うんですけれども、そうなったときに、その賃金上昇率っていうのは年率3%の実現というのが一つポイントになるようなお話を内田副総裁などもされているかと思いますが、その年率3%の賃金上昇っていうものが慢性的に発生できる状況が実現されたときに、政策変更っていう判断材料になり得るのかどうか、植田総裁のお考えをお聞かせください。

(答)
賃金上昇を伴うかたちで、という文言を入れましたのは、いずれにせよ2%の物価目標が安定的・持続的に達成されるような状態では、賃金も上がっているはずだ、という点を確認させて頂いたということです。そのうえで何%ぐらいかということになりますと、インフレ率2%ですから、それプラス生産性上昇率分くらいは上がらないといけないということだと思うんですけれども、その後者の部分については、毎年毎年すごい変動する可能性もありますので、前もって何%ということはなかなか難しいと思います。それも含めまして、賃金の方について何か目標を持って、それが達成されたら政策を、というふうには考えておりませんで、あくまでも物価の方の目標に政策を紐付けているということでございます。

(問)
先ほど、足元で今年度の物価上昇率のプラス幅の縮小の下がり方が思っていたよりも遅いという指摘があったと思うんですけれども、この部分の具体的な背景を教えて頂きたいと思います。背景としては先ほどご指摘もあったんですけれども、企業の賃上げ・価格設定行動の変化というところが強く出てるってことが大きいんでしょうか。

(答)
具体的には食料品、日用品、それから一部サービスでは宿泊料、これらの値上がりがみていたところよりも少し率が高いということでございます。そういうことですので、これまでの、特に前者二つは、原材料・エネルギー等の価格上昇の転嫁の動きが思ってたよりも強いのかなというふうにみたりはしておりますけれども、もう少し分析をしてみたいというところでございます。

(問)
公表文の中、リスク要因の部分にも書き込まれているのですが、この金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があるということなんですが、最近の状況をみてみますと、相当な株高そしてマンション価格の高騰など資産価格の高まりというのが続いています。こうしたものが日本経済・物価に与える影響をどうご覧になっているでしょうか。

(答)
例えば、株価であれば、先ほどちょっと議論させて頂きましたけれども、根底に仮に日本経済の将来の見通しが改善している、あるいは企業収益の見通しが良くなっているということであるとしますと、将来のそういう姿を先取りして株が動いているということですので、因果関係ということを別にしても、将来、良いことが起こるという可能性はあるんだと思います。また、因果関係という意味では、株ないしその他資産価格の上昇が、一部消費あるいは設備投資にプラスの影響を与えるという可能性もあるかなと思います。ただし、もちろん行き過ぎますと、ある種の金融的不均衡につながって、将来どこかでマイナスの影響を及ぼすというリスクもあるわけですので、全部含めて注視してまいりたいとは思っています。

(問)
総裁は引き締めをするとですね、景気を冷やすということをご心配されてるようですけれども、今の日銀の金融政策の現状維持というのは、景気に中立的というよりも基本的には物価を上げるための政策、異次元緩和をずっと継続してるということだと思うんですよね。それをやっている足元で、今13か月連続で2%をはるかに上回る物価高が起きているということで言えばですね、物価の番人としてのこの職務というか、機能不全に陥ってるという見方もできるわけですけれども、その点がどうなのかということと、粘り強くと言う一方で金融政策は機動的な対応をするともおっしゃってるわけですけれども、もし先行きに不確実性があるんであれば、先行きに対応すればいいわけで、今、足元の金融情勢に物価情勢に機動的に対応するということはできないんでしょうか。

(答)
基本的に私どもはやはり政策を今日打つと影響が出るには少し時間がかかるという点をかなり重視してまして、従って今日打った政策は半年から1年半先とか、そういう先に影響が出てくるということだと思っていますので、そこの見通しがどうなっているかということをベースに足元の政策を考えたいと思います。その見通しがかなりはっきり変化するということであれば、足元がそんなに動いていなくても、そういう意味で機動的に政策を変更するということになると思います。現状は、繰り返しですけれども、13か月、2%を上回るのが続いてしまったわけですけれども、まだ先行き下がっていって、2%を切ってくるという可能性もあるというふうにみていますので、金融政策の正常化に動いていないわけです。そこの見通しが大きく変わるということであれば、それは政策の変更にはつながってくると思っております。

(問)
では、総裁お伺いします。総裁の5月19日の講演であります。その際に、図表13というところでフィリップス・カーブを示しておられます。その中で、現状のフィリップス・カーブはかなり下振れした状況にあるので、期待物価上昇率を高めることによってフィリップス・カーブを上方修正していくという意図、意思をお示しになったかと思います。そこでお伺いしたいんですが、フィリップス・カーブの変化というのは、今、日本銀行はどういう点を注目して計測しておられるのかということを、もしお示し頂ければ幸いです。

(答)
カーブ自体は、インフレ率とGDPギャップないし失業率のデータを散りばめてきまして、平面に、そこにフィットする線を引いて、今どこにあるかというのを見いだすという作業をするわけですけれども、潜在的にフィリップス・カーブが動いていますと、今、過去のデータに当てはめた線からは、ずれていくわけですね。そのリアルタイムでずれた点が出てきても、本当に線が動いたかどうかというのは、なかなか判定しがたいわけです。たくさんずれた点が出てくると初めて分かるという、線がシフトしたというのが分かるということだと思うんです。ですので、非常に難しい作業だと思います。ですから、図の上で線が動いたということは、後になってからでないと分からないので、それより前にリアルタイムでもっと様々な情報から線が動いた可能性があると、例えばインフレ予想が動いているのではないか、そのまた更に前段の作業として、先ほど申し上げたような企業の価格・賃金設定行動に変化があるのかどうかという辺りから詰めていくという手順にならざるを得ないというふうに思います。

(問)
先ほどの為替レートについてノーコメントというのは、まさに物価の番人としての役割放棄、職責を全うしないということになると思うんですが、円安傾向が強まって輸入物価高になって、国民生活が苦しくなろうとしている、こういう危機的状況を前にして、大規模金融緩和をなぜすぐに見直さないのか。黒田前総裁が大規模金融緩和をして、円安が進んで輸入物価高になったというのを逆戻りさせることが解決策だというのは明らかだと思うんですが、なぜそういう見直しをしないのか。黒田前総裁と言っていることが全然変わらないと思うんですが、新総裁としての決意と意気込み、その変えない理由を是非お伺いしたいと思います。

(答)
これは先ほどのお答えと重なってしまいますけれども、足元、確かに4月後半以降は円安になっているわけですが、それが日本経済にどういう影響を与えているかという点については、マイナスの影響だけでなくてプラスもあるかと思っています。そのうえで、政策を維持している理由は、これも先ほど来申し上げていますように、少し先のインフレ動向等を見通した場合に、まだ持続的・安定的に、2%には達していないというふうに考えているということでございます。

(問)
先ほど総裁、先行きの見通しは単に見通しの数値だけではなく、その蓋然性といいますか、確か4月24日の国会答弁、確度という言葉をお使いになっておられております。今後、日銀の市場との対話、その蓋然性なり確度を示していくということが非常に重要な意味を持っていくと思うんですが、見通しの数値自体は展望レポートの大勢見通しとかで分かるわけですが、その確度とか、蓋然性というものをどういうふうにみたらいいのか。例えば、展望レポートではその見通しの数値それぞれに下振れリスクの方が大きいとか上振れリスクの方が大きいという定性的な表現、その辺りをみていけばいいのか、逆に言うと、2%の持続的・安定的な実現のめどが立つということは、その下振れリスクの方が大きいという評価が消えたときは、少なくともそれが必要条件になるというふうに理解してよろしいんでしょうか。

(答)
見通しについての確度についてどういうコミュニケーションをしていくのかというご質問だと思いますが、おっしゃるように必ずしもそこにぴったりの情報を十分出せてないかと思いますが、一つはおっしゃるように上振れ・下振れリスクのところである程度出させて頂いているということだと思います。それから第二の柱の、様々なリスクを論じるところで、金融面のリスク等だけでなくて、経済・物価の上振れリスク・下振れリスクという部分があると思いますので、そこでこれまでも書き込んでいますし、これからはより丁寧に書き込むということは考えていきたいと思います。そのうえで様々なこういう記者会見その他の場で、その辺りが非常に重要になるという時期については特に念を入れて、ご説明させて頂ければなというふうに思ってございます。

(問)
先ほど会見の中で、物価がアンダーシュートすることへのリスクというのをお話しされていましたが、一方でオーバーシュートも好ましくないというお話をされていましたけれども、現状日銀はオーバーシュート・コミットメントをされているわけで、2%の安定的・持続的な達成がみえてきたときには、やはりそのオーバーシュート・コミットメントっていうのは手前の段階である程度修正しなければいけないという問題意識をお持ちという理解でよろしいでしょうか。

(答)
きわめて難しい問題を含んでまして、様々なフォワードガイダンスと呼ばれる手法を使ってございますけれども、フォワードガイダンスは前もって先行きの政策を緩和気味にずっと保つということを約束するものですので、物価がオーバーシュートした後も続けるということになりがちな部分がございます。そういう部分について今後どういう対応をしていくのかということはきちっと考えて、必要に応じて、コミュニケーションをさせて頂ければなというふうに思っています。

以上